執筆者プロフィール

宮木 由貴子(みやき ゆきこ)
その他 : 株式会社第一生命経済研究所調査研究本部ライフデザイン研究部主席研究員塾員

宮木 由貴子(みやき ゆきこ)
その他 : 株式会社第一生命経済研究所調査研究本部ライフデザイン研究部主席研究員塾員
2019/08/05
本稿では、サステナブルな消費について考えるにあたり、消費者の意識や態度の変化について、ライフデザインにおける価値観の変容から概観する。
消費者における「豊かさ」モデルの変容
「持つこと」が豊かさの象徴ともいえた時代は、「皆が持っているモノ」を持った上で、さらに自分が何を持っているかが重要だった。また、「皆が持っているモノ」の中でどの程度のクオリティのモノを持っているかも重視された。つい30年ほど前は、テレビや洗濯機、冷蔵庫(これらは1950年代に三種の神器といわれた)、自動車、食器洗浄機、空気清浄機など、生活をより便利にする高価なモノが多い家が「豊か」であると、多くの人が思っていた。また、例えばテレビであれば大型で画質の良いモデル、洗濯機であれば全自動や乾燥機能もついた高機能のモデル、自動車であれば高級車といった、さらなる高額商品がある家が「豊か」だとされた。豊かさは「幸せ」であり、その典型的なモデルがステレオタイプとして社会で共有されていた時代だった。
この、モノを持つ「幸せ」モデルは現在、形をなくしつつある。今日、モノをなるべく持たずに暮らすライフスタイルが注目されているように、自分に必要なモノだけで暮らすことを「豊か」であると考える消費者が増えている。若い世代を中心に、従来の「当たり前消費」(持ってしかるべきとされたモノ)から「こだわり消費」へのシフトがみられているのだ。例えば、新聞が毎日配達され、テレビでニュースやドラマをみて、洗濯機で洗濯をする日常は「当たり前」ではなくなった。新聞をとらず(ニュースは紙面ではなくネットでみる)、テレビも持たず(スマートフォンやタブレットを用いて画像配信サービスでみたいものだけみる)、洗濯はコインランドリーでする。そんな生活も普通となり、もはや「当たり前なライフスタイル」は存在しなくなった。
ライフデザイン1.0時代 ──大量消費時代における一元的価値観
それでは、消費者の意識はどのようなライフデザイン上の価値観変化に影響を受けてきたのだろうか。
ライフスタイルの同質性が高く、画一的だった「ライフデザイン1.0」時代(図)は、結婚して子どもを持つことが当たり前という価値観と、年功序列・終身雇用といった日本的雇用慣行の下、働く父親と専業主婦の母親、2人の子どもという「典型的家族」モデルが存在し、そこでの幸せ像が社会で共有されていた。
右肩上がりの経済成長の中、次から次へと欲しいモノがあり、それを片端から入手していくことに喜びを感じる消費者が少なくなかった。一方で、地球環境から「享受する」ことを前提とした大量生産・大量消費のライフスタイルは、「公害」「生態系の変化」などの環境面への影響を及ぼし、徐々に問題も発生するようになった。こうした負の側面は社会課題として注目され、特に子どもたちに「教育」という形で情報共有された。当時の子どもたちは、石油依存の社会に近い将来限界が来るなど、地球のリソースに限りがあることを強く意識付けられた世代でもある。
ライフデザイン2.0時代 ──価値観転換とつながり再考
(1)価値観転換
これに続く「ライフデザイン2.0」の時代は、バブル経済崩壊後の「失われた20年」が大半を占める。特に、バブル経済崩壊の余波を受け、バブル時代に就職した数歳年上の先輩とは雲泥の違いを体験したのが、団塊ジュニア世代(現在40代後半)である。当社の調査によれば、この世代はライフデザインにおいて「何かと損をすることが多い(多かった)と思う」とする割合が非常に多く、親世代の団塊世代を「逃げ切り世代」として冷めた目でみている(団塊ジュニア世代の消費意識については『人生100年時代のライフデザイン 団塊ジュニア世代から読み解く日本の未来』(宮木ほか著、2017)に詳しい)。正社員としての就職ができずに非正規職員やフリーターの道を選ばざるをえなかった人も多い。経済的要因に加え、結婚・出産に対する価値観の変容も手伝って、人口ボリュームの大きさの割に結婚・出産に至る割合が多くなかったことから、「第3次ベビーブームを起こせなかった」世代ともいわれる。
団塊ジュニア世代が10代の頃にみていた消費社会と、実際に社会に出てからみた姿とのギャップはあまりに大きく、思うように「できない」ことが多かった。しかし、この世代以降を中心に、「ケチ」(生活防衛=受動的)は「エコ」(環境保護=能動的)に転換され、「買えない環境」(受動的)は「買わない選択」(能動的)とされるようになっていった。
さらに、「買う」ことに明確な理由を求め、「皆が持っているから」ではなく、「自分にとって必要だから」購入するというスタイルが生まれた。自分のライフスタイルにおいて必要がないと思えば、車もテレビも新聞も購入しなくなった。
こうした変化を背景に、必要なときに必要な分だけを効率的に使う「レンタル」「シェアリング」などが普及した。また、情報通信技術の発達も手伝って、消費者同士が自らの持ち物を売買する〝C to C〟(個人間取引)市場も形成されていった。団塊世代あたりでは、レンタルやシェアリング、中古品利用について、「貧乏臭い」「他人が使ったモノには抵抗感がある」という人も少なくないようだが、若い世代を中心に、「モノを人と共有する」「人の使ったモノを使う」「利用権を購入する」という概念は定着しつつある。月ごと・年ごとなどの料金を支払い、契約期間中は自由に利用する「サブスクリプション」もその1つである。
(2)つながりの再考
さらにこの時代は、当初、志向が「個」「パーソナル」にシフトし、「個人」「個性」「個別」「個室」「個食(孤食)」など、とかく「個」が強調された。この背景には、核家族化や共働きの増加、多忙化による行動の個別化、少子化による個室保有の増加などがあり、音楽メディアや通信メディアのパーソナル化もそれらを助長した。都市部を中心に近所づきあいなども減少し、隣人の顔を知らないなど、人間関係の希薄化が指摘されていた。
しかし、1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに、地域のつながりや互助の重要性が再確認され、ボランティア活動が急成長するなど、「人とのつながり」「社会のつながり」が見直されるようになった。さらに2011年の東日本大震災後は、ボランティア活動のさらなる活性化に加え、「支援消費」「応援消費」という形での、消費による支援活動が定着した。「エシカル消費」というワードも急速に使われるようになる。
その後の度重なる災害のたびに、こうした活動はさらなるつながりを形成し、人々が「個」に閉じていく傾向から、「つながり」を求めて開いていく動きが活性化してきた。個別化を助長してきたパーソナルメディアは、SNSを中心とするネットワークの維持形成ツールとして効力を発揮し、ソーシャルキャピタルの形成において重要な役割を担うようになった。
(3)世界規模でのビジョン共有
こうした動きを世界規模で後押しし、グローバルなビジョンでの共有を進めたのが、2015年9月の国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された国際目標、いわゆるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)である。SDGsとは、世界の課題解決に向けて169のターゲットを意識し、17のゴールを目指すものである。消費の側面としては、日々の消費を支えるバリューチェーンが世界とつながっており、個人の消費行動が世界や未来の良し悪しを方向付ける力を持っていることを一人ひとりが自覚することが目指される。個人の力は極めて小さいものではあるが、世界の社会課題を消費者個人が「自分ごと」化し、同時多発的に行動を起こす・改善することで、大きな動きとなることが期待されている。
ライフデザイン3.0時代 ──〝勝ち組競争〟から〝価値組み共創〟へ
ライフデザイン1.0時代が「享受する」時代である一方で、環境への危機感や大量消費への疑問が形成された時代。ライフデザイン2.0時代が制約の大きい経済環境や社会課題の増幅による外発的動機により、今あるリソースを効率的に循環させることで持続性を担保しようとした時代。
そうだとすれば、ライフデザイン3.0時代はSDGsで共有されるビジョンに沿い、「こんな未来を描きたい」という内発的動機による主体的行動が求められる時代である。ありたい未来を描き、そのために今何をしなければならないのかをバックキャストすることで、自発的行動・主体的関与のマインドセットをしていく時代となることが期待される。実際に、世界各地でこうした動きが活発になっている。
市場やリソースを奪い合う社会、いわゆる「勝ち組競争」に限界があることは、もはや周知の事実である。勝ち(Win)を得た者が組をつくる(Classify)競争(Competition)ではなく、価値(Value)を持ち寄ってそれらを組み合わせる(Connect)ような共創(Co-Creation)を目指す「価値組み共創」が、ライフデザイン3.0時代の豊かさを形成すると言えよう。個々のリソースを組み合わせて新たな価値や市場を創ることで、奪い合う社会構造から、持続的かつ成長の期待できる社会を創造するのである。
安心・安全な消費社会は誰もが望むものである。しかしそれは空から降ってくるものではなく、自らの積極的な関与によって形成されるものである。自分の行動によって発生しうる影響や可能性を想像し、ありたい未来のビジョンを共有して「つながる」ことで、持続的な未来を共に創造する。一人でも多くの消費者がこのことを自覚することで、サステナブルな消費社会は実現に向かうと考える。
〈参考文献〉
*『人生100年時代のライフデザイン 団塊ジュニア世代から読み解く日本の未来』(宮木由貴子・的場康子・水野映子・北村安樹子、2017、東洋経済新報社)
*「ワタシから始めるオープンイノベーション:価値デザイン社会実現に資する実質的なオープンイノベーションの実施に関するタスクフォース報告書」(内閣府知的財産戦略本部、2019)
〈注〉
*図表は、2019年10月に東洋経済新報社より発行予定の『人生100年時代の幸せ戦略』(宮木由貴子、的場康子、稲垣円)に掲載予定の図表より作成した。ライフデザイン3.0の詳細については、本書に詳しいので、ご覧いただけたら幸いである。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。