慶應義塾

【特集:人口減少社会のモビリティ】座談会:新しいモビリティは地方を救うか

登場者プロフィール

  • 安永 修章(やすなが のぶあき)

    ROOTS Mobility Japan代表

    早稲田大学大学院修士課程修了(経営学)。2009年米国シンクタンク、日米研究インスティテュートでマネージャー兼リサーチャーとして勤務。17年Uber Japan株式会社に政府渉外・公共政策部長として入社。事業戦略部長等を経る。その後、ROOTS Mobility Japanを立ち上げる。

    安永 修章(やすなが のぶあき)

    ROOTS Mobility Japan代表

    早稲田大学大学院修士課程修了(経営学)。2009年米国シンクタンク、日米研究インスティテュートでマネージャー兼リサーチャーとして勤務。17年Uber Japan株式会社に政府渉外・公共政策部長として入社。事業戦略部長等を経る。その後、ROOTS Mobility Japanを立ち上げる。

  • 西村 秀和(にしむら ひでかず)

    システムデザイン・マネジメント研究科 委員長

    塾員(1985理工、90理工博)。工学博士。千葉大学工学部助教授等を経て、2007年慶應義塾大学先導研究センター教授、08年よりシステムデザイン・マネジメント研究科教授。19年より同研究科委員長。専門はシステムズエンジニアリング。自動車の自動運転システムを研究。

    西村 秀和(にしむら ひでかず)

    システムデザイン・マネジメント研究科 委員長

    塾員(1985理工、90理工博)。工学博士。千葉大学工学部助教授等を経て、2007年慶應義塾大学先導研究センター教授、08年よりシステムデザイン・マネジメント研究科教授。19年より同研究科委員長。専門はシステムズエンジニアリング。自動車の自動運転システムを研究。

  • 重野 寛(しげの ひろし)

    理工学部 情報工学科教授

    塾員(1990理工、97理工博)。博士(工学)。専門は情報ネットワーク。2000年慶應義塾大学理工学部専任講師。12年より現職。慶應義塾大学モビリティカルチャー研究センター長。ICTの観点から次世代モビリティを研究。

    重野 寛(しげの ひろし)

    理工学部 情報工学科教授

    塾員(1990理工、97理工博)。博士(工学)。専門は情報ネットワーク。2000年慶應義塾大学理工学部専任講師。12年より現職。慶應義塾大学モビリティカルチャー研究センター長。ICTの観点から次世代モビリティを研究。

  • 田邉 勝巳(司会)(たなべ かつみ)

    商学部 教授

    塾員(1995商、2003商博)。博士(商学)。運輸政策研究所研究員等を経て2007年慶應義塾大学商学部専任講師。14年より現職。専門は交通経済学、公益事業論。著書に『交通経済のエッセンス』等。

    田邉 勝巳(司会)(たなべ かつみ)

    商学部 教授

    塾員(1995商、2003商博)。博士(商学)。運輸政策研究所研究員等を経て2007年慶應義塾大学商学部専任講師。14年より現職。専門は交通経済学、公益事業論。著書に『交通経済のエッセンス』等。

2020/07/06

地方の交通の現状

田邉

「人口減少社会のモビリティ」をテーマに座談会をしていきたいと思います。今日は、主に地方部のことを念頭に議論していきたいと思いますが、はじめに私のほうから、現在の状況を簡単に概観しておきます。

日本では地方においては、基本的にモビリティというのは自動車で、自動車がなければ長距離の移動はできません。自動車を利用できない人のために、バスや鉄道などの公共交通があるわけですが、基本的に公共交通はある程度の数の人が同じ車両に乗ることで採算が取れる、つまり一定程度の人口密度が必要な交通です。

日本は独特なのですが、公共交通は民間企業が主体となって営利的サービスを提供しています。バスも民間企業が多く、一定の乗車密度がなければ営利的にサービス提供はできません。

歴史的な経緯を申しますと、2000年ごろに需給調整規制の廃止という規制緩和の大きな転換点がありました。これにより、新規参入が容易になり、多様な運賃を設定することが可能になり、市場に任せてバスサービスを提供するという形が顕著になりました。

そのため、民間の会社が赤字路線から撤退することが予想されたので、国が特別交付税措置で都道府県や市町村の経費の80%を補助する非常に手厚いセーフティネットが用意されました。現在、700億円ぐらいが全国で支払われていますが、増加傾向にあります。8割補助なので、2割は地方自治体が負担しますが、それでも資金面で苦しい一部地方では、路線を維持することが困難になってきているという現状があります。

それを踏まえて、誰が移動の問題を抱えているのか。基本的には学生と75歳以上で自動車がない、あるいは免許を返納した後期高齢者の通院、通学や買い物の足です。

「どこまで公共交通を維持するべきなのか」は、基本的には地域で考えてくださいというスタンスになっています。2000年以降、例えば福祉有償運送と言われる、NPOがお金をとって自動車を運行するものや、一部はUberが実験をしたりしていましたが、根本的な解決には至っていない。それがここのところ自動運転やMaaS(Mobility as a Service)など新しい技術がいろいろ出てきたところで、どう利用すれば地域交通の足を維持できるようになるのかを、今日は皆様と議論できればと考えています。

まずは皆様のモビリティとのかかわりを簡単にご紹介いただければと思います。

西村

私はもともと機械工学科出身で、制御をやってきましたが、2008年からシステムデザイン・マネジメント研究科に来て、現在はシステムズエンジニアリングの見地から自動運転について研究しています。

地域にとって安全というものをしっかりと提供しなければ、自動運転車は受け入れてもらえないだろうと思い、2014年、15年ぐらいに、IPA(情報処理推進機構)から予算をいただいて研究したり、それ以降も自動車会社さんと、少し広めの観点からのお話をさせていただいています。

いわゆるシェアリングや、誰かが所有しているというものではない車が、もし自動運転になったら上手く地域に活用できるのかなと思っています。しかし、地域経済が衰退していく中で成立させることは相当難しいところがあるとも思っています。

重野

私はコンピュータ・ネットワークが専門で、もともと無線データ通信の応用というところで、自動車をネットワーク化することが研究テーマの1つの大きな柱で、高度道路交通システム(ITS)という分野を以前より研究してきました。

ご存知の通り、今年は5G元年ということになっていて、コネクテッド・ビークルがキーワードになり、車のネットワーク化も盛んになってきました。現在はモビリティカルチャー研究センターという研究組織を新川崎につくり、自動運転社会をにらんだ、技術に関する研究を推進しています。

地方では、生活密着型のMaaSが、非常に大きな期待を持たれています。後ほど議論になると思いますが、地域の事情に合わせて、単一のやり方ではなく様々な方法でのトライアルがあります。

人口減少が明らかになり、経済も、今後急速に右肩上がりになることは考えにくい中、モビリティの分野は日本社会全体を下支えしていく上では非常に重要なテーマで、何とかしなければいけないという認識でいます。

安永

私は、もともとUberにおりまして、政府渉外という部門を担当していました。そこはロビイングの部署で、東京都や地方の自治体や、国交省、経産省という省庁ともやり取りをしながら、Uberの事業の展開を考えてきました。

昨年Uberを退職し、今はモビリティの関連企業のコンサルティングや、事業戦略を一緒につくったり、ロビイングを一緒に行うような会社を立ち上げました。地方の公共交通の維持や発展に向けて何ができるか、技術を使って解決できないかと、いろいろやっているところです。

Uberでは、特に、過疎地域で、ライドシェアの実証実験をやってきました。公共交通空白地有償運送制度を活用しながらやっている京都の京丹後市、そもそもそういった制度を使わなくても無料でできるような北海道の中頓別町のようなところです。

しかし、実はUberジャパンのモビリティ事業自体が今かなり危機的な状況にあります。もちろんタクシーの反対などもあるのですが、先週ニュースにもなったのですが、Uber本体が3000人以上の従業員の削減を行い、日本もモビリティのチームを含め多くの従業員が解雇の対象になってしまいました。そこで、今お話しした京丹後市や中頓別町のライドシェアの運行が今後どうなっていくのか心配しています。

このあたりにいわゆるプライベート企業が公共交通を担う難しさもあると思っています。

高齢者のモビリティをどうするか

田邉

地方は、人口減少かつ、高齢化も進展していますが、地域住民にとって最低限の移動は必要です。民間企業がそのサービスを提供できない「市場の喪失」時にどうするのか。

昔であれば、例えば家族や近所の人が車に相乗りして病院まで運んでいくような形で支えあってきたわけですが、それもできないのであれば、どのようにすればいいでしょうか。高齢者のモビリティの問題については、西村さんはどのように思われていますか。

西村

やはり高齢者が運転していて起きる事故というのは結構ありますので、当初、高齢者向けの自動運転の車はニーズがあると思っていました。

しかし、自動運転のレベル3とかレベル4というのは、まだドライバーがある程度責任を持って運転しなければいけないことになっているわけです(レベル5が完全自動運転)。完全にドライバーレスの車になってしまえばいいのですが、高齢者自身が、ある程度自動運転の車にサポートされるようなものですと、結局、高齢者はそれに慣れなくて難しい面があるのです。

そのため、研究を進めてきてから私はネガティブになりました。Googleは、「自動車の中でいちばん信用のできない部品は人間である」みたいなことを言っているのですが、正しいなと。完全ドライバーレスにしてしまえば、高齢者のモビリティの安全という面からは技術的には解決される。ただ、そのレベル5に行くにはちょっと時間がかかる話なのです。

田邉

重野さんは、実験等をやられて、現場の状況からいかがでしょうか。

重野

以前より、現在マイクロモビリティと呼ばれる1人乗り、2人乗りの小さな自動車をまず提供しようという話がありました。マイクロモビリティを使えば公道を走るだけではなくて、ドア・トゥ・ドアの移動もできる。そもそも高齢者の方は、バスがなくなったら困るだけではなくて、例えば家の門から病院のどこそこまで行くドア・トゥ・ドアの移動が必要であり、そこをサポートする必要があるわけです。

重要なのは、地域だと、いろいろなコミュニティの活動などがあるわけです。例えば公民館に集まったり、病院に行く場合もたまたま知り合いの人に会うようなところが、広い意味で健康に寄与しているところがある。ですので、モビリティとコミュニティをどうつなげるのかというところは、地域社会のモビリティを考える際の1つのカギです。

テクニカルな移動の問題に加えて、高齢者の方の活動をどのようにサポートするかという視点も必要になるのかなと思います。

田邉

非常に重要なご指摘です。実際には移動して何かをするということが重要で、それによって、必要な移動というものが変わってくるということかと思います。外出が少なくなると、鬱的になったり病気がちになって医療費が増えてしまう可能性もあるので、モビリティだけの問題ではないということですね。

安永

事業者の立場から意見を言えば、大きなポイントとしては、やはり担い手が不足していると思います。そもそも事業としては日本だとなかなか難しいという問題があります。テクノロジー以前にやはり日本の規制や法制度というのが、実は新規参入ができない最大の障壁かと思っています。

また、高齢者のモビリティ問題は地方が注目されるのですが、案外都市部であっても、同じように問題が出てきています。例えば東京都心でも、赤坂や白金台のような住宅街で、駅から遠くて、バスもほとんどないところで、移動できない高齢者の方がかなり増えてきている。実際、港区もライドシェアのようなやり方で高齢者、モビリティ弱者に対する対応を考えていたのですが、法制度やタクシー業界の反対などでできなくなり、結局タクシー券などの対処療法のような形しかできませんでした。

地方だと、Uberのような形で、支え合い交通や、NPOのような事業者が支えているのですが、やはり事業として、これ一本でやっていくのはまだかなり難しい。実はいろいろなベンチャーはいるのです。notteco(のってこ)という企業や、シェアショーファーという愛知のベンチャー、自動運転にも取り組んでいるスキームヴァージというベンチャーなどが模索はしているのですが、なかなかビジネスとしては難しいようです。

困っている中で、最近トヨタとソフトバンク連合のモネ・テクノロジーズが入ってきました。もちろん最終的な目的は自動運転だと思うのですが、今は高齢者向けのモビリティ対策で、いろいろな地方の自治体と連携をして、乗り合いバスの事業を委託しています。

もちろんトヨタを含めて皆さん自動運転も視野に入れているのですが、おっしゃったように実際にドライバーレスでの社会実装は、特に日本においてはかなり先だと思うのです。

本当は官民で協力をして新しいルールをつくっていくべきなのですが、なかなかそこもうまく進んでいないというのが実情です。公道での実証実験に関してもかなり厳しい規制がかかることもあります。

公的支援とタテ割り行政の壁

田邉

日本は「白タク」は道路運送法で禁止されていて、例外的に一部サービスが認められています。市町村が、コミュニティバス等であっても何か新しいサービスを提供しようとすると、地元のバス会社、タクシー会社が民業圧迫と強く反対するようなこともあります。ある程度複数の交通モードがあるような地域ですと、どうしても利害関係の対立が起こってしまう。

また、ご指摘があったとおり、地方だけではなく都心部も交通弱者のモビリティの問題がある、というのはそのとおりだと思います。

一方、現時点では、公的支援としては基本的にはバスや鉄道に対してはスキームがあって、かなり大きいお金で補助している。それ以外では実証実験で、プロジェクトごとに支援をする。あとは場合によっては特区のような形で規制緩和をする支援の可能性くらいです。

西村

公的支援をするにしても、おそらくその自治体が持っている税収を使うのですから、やはり何かを生み出さなければいけないと思っています。モビリティを提供した以上、それによって経済が活性化されて税収が増えるというようなことです。

これは非常に短絡的な経済の話ですが、例えば、高齢者の方々にそういったサービスを提供すると、その高齢者の方々の医療費がかからなくなったり、社会保障の費用が減るのだということでそのサービスの提供に公的支援をしていただくのがよいと思うのです。

あまりその関係性を見ないままに特区のようなことで特別に認めて、そこにまた研究費用をどこかからもってきてつけるようなことを個々にやっているように私には思えるのです。もう少し大きく全体を捉えた上での考え方が出てこないと、この問題は解決に導かれないのではないかと思っています。

田邉

公的支援の前提としてなぜ支援をしなければいけないのか、ということですね。これは「誰を支援するべきか」というような議論にも非常に関連してきますね。

重野

新しいモビリティにおいては、誰を支援して、誰にお金をつけるのかというところは非常に難しく曖昧になっているのではないかと思います。バス会社があればバス会社、鉄道会社だったら鉄道事業者にというようなことがあると思いますが、必ずしもそういう境界線があるわけではない。

それから、今までの議論の枠組みでは立ち行かないので、それを壊して、より新しい形を探すような試みが、地方などではあるかと思うのです。例えば健康増進というところでコストが下がり、その分のお金をモビリティの充実に回すというロジックは、交通と健康という2つの分野にまたがっていますが、日本ではそういう分野横断的なものへの支援が非常に難しい。

私はITSをやってきたのですが、例えば通信についてはお金がつく、自動運転についてはお金がつく。しかし全体としての交通のサービスと言った瞬間にタテ割りの壁のようになってしまいます。

おそらく安永さんなどはご経験されていると思いますが、ものすごく細かく多岐にわたる規制がありますね。

安永

そうですね。すごく単純化したお話をさせていただきますと、例えばいろいろな自治体や国がやっている公的支援というのは対症療法になってしまっている。それこそ地域の循環バスの支援をするから年間2000万円つけるとかで、ビジネスモデルの改革に向けてという話にはなかなかならない。

特区をつくってやる理由を考えると、まさに政治が絡んでいるのです。タクシーやバスには既存の業界団体が多くありますので、そこを全部調整して、その上で国として新しく何かをやるというのは、ほぼ不可能な状況です。だから、誰からも反対が来ないタクシーチケットなど各々の支援になる。

逆に例えば乗り合い交通や自動運転やマイクロモビリティなどで新しいモビリティや規制の枠組みをつくろうという話になると、既存の業界団体から相当反対を食らって、政治家の先生が怒られて、省庁の役人の方々が政治家の先生に怒られる。だから、総論ではやりたくても、各論では誰が責任を持つんだとなって誰もやりたがらない。

こういった公的支援の難しさのようなものがあるので、結局特区でやったり、バラバラに網の目をくぐるような小さな支援しかできないのかなと思っています。

田邉

確かに国の役割としてはもう少しグランドデザインのようなものをつくって、市区町村レベルでは困難な新しい技術を支援する政策が必要なのかなと思うのですが、どうしても新しい技術・サービスに対してネガティブな反応をしがちになる。それは既得権益者が多いといった側面もあるのだとは思います。

ライドシェアは根付くのか

田邉

今日は皆さん、新しい技術や枠組みにたずさわっている方にお集まりいただいているので、ライドシェア、自動運転、MaaSと、それぞれの可能性について議論していきたいと思います。

まずライドシェアについて安永さんいかがでしょうか。

安永

ライドシェアは日本と海外で大きな違いがあります。海外だと地方自治体などの行政とライドシェアの企業が手を組んで、地方のモビリティやラストワンマイルをつくっています。特にアメリカやヨーロッパでは、今までのようにライドシェアのプライベート企業が単体で担うのではなく、自治体がライドシェアの企業と手を組んで、例えば地下鉄の駅と住宅街の間をつなぐライドシェアを提供したり、かなり柔軟な取り組みが始まっています。

これはライドシェアというものが社会のインフラとして定着し始めているからだと思います。コロナ後は、おそらくそういった協力関係がますます増えていくのではないでしょうか。

一方、日本はどうかと言うと、まったくそういう話すらできない状況になっている。先ほどお話しした通り、京丹後市や中頓別町など、いろいろな地方でライドシェアの実験が行われていますが、今後はやはりUberのようなやり方は難しいようなのです。

そのような中、例えば兵庫県の養父(やぶ)市では、NPOが「やぶくる」という自動車での新しい地域輸送サービスを行っています。これは地元のタクシー会社3社が中核のメンバーになってつくったNPOなのです。

こういった今までの公共交通の担い手だったタクシー業界をどう巻き込んでいくかが、実は日本においてのライドシェアの可能性というところでは重要かと思います。今までの交通の担い手だったタクシーやバス会社を活用する。これは、それこそMaaSのような話になると思うんですが、そういう形でライドシェアの良さを日本なりに取り込んでいけるかという検討が必要になってくると思っています。

田邉

アメリカやヨーロッパでは、自治体は実際にお金を出しているということなのでしょうか。

安永

アメリカでは、地方の自治体が今までバスなどの運営を担ってきたのですが、税収も下がってきて公共交通を維持するのはかなり大変です。それに対して新しいソリューションを、公共入札のような形で募集をして呼び込んでいるのです。

UberやLyft、ニューヨークのViaといった会社が入札ビジネスにどんどん入っています。地方自治体単独で、乗り合いバスやオンデマンドバス、コミュニティバスのようなものを運営するよりも、費用を抑えて、かつ住民からすると利便性が高まるような形になっています。自治体、住民、事業者という3つのプレイヤーがそれぞれウィンウィンとなるような形を模索しているのです。

西村

今のお話は非常に素晴らしいなと思いました。行政が上手く、ライドシェアというものをラストワンマイルのサービスとしてきちんと提供することで、そこの地域が良くなり、しかも住民がそれにきちんと参加しているわけですね。コミュニティとして非常に素晴らしい姿で、それこそがやるべきことだと思うのです。

一方、日本の場合、兵庫県のタクシー会社さんがやっていることも、非常に良いと思うのです。たぶんそのタクシー会社の社長さんたちは、その地域で力を持っておられる方で、日本の場合はそういう地域に密着した会社が長く存在していると思うのですね。そういう地域にはUberが来て、「はい、どいてください」、というのではなくて、今のような形で新しい事業を上手く取り入れて住民へのサービスが良くなるのであれば、それは1つの手なのではないかと思いました。

重野

私も特に米国などに行くと、ライドシェアが、もう1つの交通モードとなっているなと実感として非常に感じます。これは日本とはまったく違う感じです。

昨年12月にロサンゼルスに出張しましたが、ロサンゼルス空港はすでに空港から出て、市内へ移動するための交通の結節点になるような駐車場がUber、Lyft対応になっていました。LAX-it(エルエーイグジット)というらしいのですが、配車アプリ専用乗り場があるんですね。

つまり空港にライドシェアで迎えに来てもらうという交通モードになっている。それに合わせて、例えば公共の機関なども乗り合わせの場所を変えるような変化が起こっているわけです。それは、既存の交通事業者を圧迫するところもあるのかもしれませんが、社会としてライドシェアを前提とした方向に変化しているのだと思います。

日本の場合、ある新しい交通手段によって既存の交通事業者等が割を食うことは、なかなか受け入れられない感じがありますので、おっしゃるとおり、既存の事業者を巻き込みながら変わっていく必要があるのかなと思います。

これはたぶん交通の世界だけではなく、日本社会全体が、デジタルによってもたらされた新しい産業にどうやってシフトしていくのかということだと思うのです。今まさに「デジタルトランスフォーメーション」と言われていますが、現在の業態からどうやって次のステップに進んでいくかだと思います。その時に、社会とどうやってつながっていくのか、他のサービスにどうやって乗り入れて利益を確保し、雇用を確保するのか。

先ほどの話のように地元のタクシー会社を上手く巻き込めれば、雇用を確保して交通コストを下げつつ、地域の活性化にもつながる。それを総合的に考え、必要な規制改革をするということが重要だと思います。

ライドシェアの課題

田邉

皆さん、ライドシェアには好意的ですね。あえてネガティブなことを言います。

例えば地域では、バス会社であれば長年経営しているので、急にサービスをやめることはないだろう、という安心感がある。しかし例えばUberだと、運転手がそこにたまたまいないと、乗りたい時に乗れなくなってしまうのではないか。また、言ってしまえば白タクなので、ドライバーが信用できるのかという安全性の問題がある。

さらに、技術的に高齢者はスマホが使いこなせないのではないかという話も聞かれます。そういった懸念も聞くのですが、安永さんいかがでしょうか。

安永

ネガティブな面という意味だと、最近、アメリカのレンタカー会社大手のHertzが民事再生になっています。これはコロナの影響ももちろんあるのですが、それ以前からLyftやUberのようなライドシェアの企業にかなりのお客様を奪われていたということも大きいと思います。

ただ、米国の企業というのは新陳代謝を繰り返していますので、どんどん新しい企業が出てきて、古い企業は退場していく。その中で、完全に退場するのではなくて、新しい企業との融合で、別の新しいビジネスをやったり、MaaSのような形で新しいビジネスをつくっていくことがあるわけです。

しかし、日本で同じように新陳代謝のため、どんどん古い企業をつぶしましょうというのはなかなか難しい話だとは思います。

ドライバーの数や安全性などの問題点で言えば、企業によっていろいろな考え方があるのですが、UberもLyftも、まずドライバーの数を、必ず需要と供給に応じて、地域ごとにアルゴリズムで、この人数以上は必要だという数字を持っているのです。そして必ずその数字を超えるように、いろいろなやり方でドライバーを確保し、できるだけ公共交通に近づけている。乗りたい時にアプリを開くと、遅くても5分以内で来るドライバーの数を各地域で供給できるよう調整しています。

安全面でも、UberもLyftも、SOSボタンを装備し、そのボタンを押すと地元の警察に連絡が行って、ドライバーが誰で、車がどこを走っているかがわかるようになっています。

また、スマホを使えない人の問題は、アメリカでもあるようです。そういった人に対しては、スマホのアプリだけではなくて電話対応を入れたり、ショートメールで配車ができるようにしたり、現金で対応できるようにするなどの努力をしているようです。

自動運転の可能性

田邉

次に自動運転について詳しくお話を伺えたらと思います。地方部での移動は、相当な高齢者でも車で移動していて、痛ましい事故が起きていることも最近報道されているとおりです。

自動運転の見通しについてはいかがでしょうか。

西村

先ほども申し上げたとおり、現状は自動運転と言ってもドライバーレスではないので、高齢者に自動運転の車を提供しても、実は事故が増えてしまうのではないかと私は思っています。

ただ、おそらく10年もあれば結構技術的には進展していると思います。このあたりは5GやICTの技術力も関係してくると思いますが、相当なレベルに行っている可能性はあるので、高齢者にも安全を提供できるようになるでしょう。

とは言え、「最悪の場合を考える」ということが、安全を考える上では大事です。例えばマイクロモビリティの場合でも、それが走るエリアには大型の車は入れないとか、万が一にも事故が起きた場合でも、乗っている人がダメージを受けないことを前提にして交通の整備をしなければいけません。自動運転の車そのものの技術だけではなくて、やはり全体の環境を安全な状況にするというケアもしないと、コミュニティではうまく行かないと思うのです。

重野

自動運転に関しては、今各国とも急速に技術開発、研究開発を進めています。日本では総合科学技術・イノベーション会議が主導する内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を中心に推進されています。

見通しを申し上げますと、2025年を目途に高速道路でのレベル4の自動運転の実現を目指しています。運転条件が「高速道路であれば自動運転できます。ただし、緊急事態は人間が対応しなければいけません」というものです。

完全手放しで自動車にお任せ、というのがレベル5なのですが、これも例えば限定領域を狭めれば技術的に対応できる範囲は広がるわけです。しかし、2025年に高速道路でレベル4という話であっても、一般道はどうなるのか、何とも言えません。

だからいわゆる限定解除の、どこでも自動運転で対応します、というレベル5の実現は、個人的には2035年か、それ以降になるのではないかと思うのです。技術を推進する立場としては、「すぐにでもできますよ」と申し上げたいところですが、高齢者が1人で乗って、「あとは車にお任せで大丈夫」となるには、思ったよりも時間がかかると思っています。

もう1つ、コストの問題があります。オーナーカーを自動運転対応にするというのは、なかなかハードルが高いです。もちろんお金持ちの方はお買い上げいただければいいのですが、地方で日々の足として使いたいので、今持っている軽自動車を自動運転対応にしたいというレベルで考えると、やはり時間がかかると思います。

このように、日本の車が全部自動運転になるには相当時間がかかるので、おそらく、自動運転車と普通に運転する車が混在する状態が続きます。それが実は自動運転車を運用するのに一番難しい環境なのです。そうすると、やはり工夫が必要です。

例えば専用の軌道をつくるといった環境まで考えて、初めて地方の交通に自動運転を入れることができるのではないかと思います。ここ数年のオーダーで考えると、普及のスピードというのは技術開発とそういった環境の両方を見ながら考えていく必要があるかなと思います。

田邉

20年後は完全にドライバーレスになるということでしょうか。

重野

技術的にはなると思います。あとは受け入れる側、社会がどう思うかですね。

インフラ側との協働

田邉

条件を限定すれば、現状の技術でもある程度実行可能ということなら、例えば地方であれば、一般道で地域の集落の中心から病院、スーパーまでの往復を自動運転車でやるようなことは、それほど難しくないのでしょうか。

重野

具体的な場所を見て検討しないと何とも言えないのですが、一般的には、条件をいろいろとつけていけばいくほど、実現しやすくなります。例えば人や自転車の飛び出しがないようにできるのであれば、それだけでもずいぶん話は変わると思います。

不測の事態にどう対応するのかというのが自動運転の課題なので、コントロールされた状況になればなるほどやりやすくなるのです。

田邉

なるほど。インフラ側がある程度モビリティ側を支援する、ある程度の協働といったようなものがやはり必要だということですかね。

重野

技術的には、インフラ側と運転側で何ができるかというのはずっと議論があるのですが、これまではあまり進んでいませんでした。ただ、基本的には自動運転の研究が進む中で、やはりインフラ側からの支援も必要だよね、という話にはなってきています。

西村

昔からあるITSの技術も使ってという話も出てきていますね。例えば最近では、信号機が青なのか赤なのかを、カメラで識別するだけではなくて、インフラ側から情報を流して車両側に渡すといった補助を取り入れ始めている。

AIを積むことでカメラ画像でいろいろなことがわかるようになってきたので、例えば狭いところから人が飛び出してくるということを、即時に自動車側に伝えて、その情報によってきちんとブレーキングしてくれるといったことはすでにやれますよね。

重野

そうですね。そういったインフラ側のことも含めて、私ども技術にかかわる人間としては、「自動運転はできます」という立場にしておきたいと思います。

普及の話に戻りますが、オーナーカーよりも、業務用の車両のほうが先かもしれません。今コロナ禍で、海外でも物流の輸送の自動運転の議論が始まっています。自動運転車のコストを回収できる可能性は業務車両のほうが高いでしょうから。

西村

業務用トラックの運転手もやはり高齢化が進んでいると言われていますので、そういうところでの安全をまず確保できたら、非常に良いことなのではないかと思います。

田邉

そうなんですよね。人手不足で、トラックもバスも運転手が集まらないので、そのあたりの問題も解決できるかなと期待しております。

MaaSとは?

田邉

次にMaaSですね。一般の方はまだ「MaaSとは何なんだ」と思っている方も多いと思います。

安永

MaaSの定義が確定しているかと言うと、そうでもなくて、ライドシェアをMaaSだと思っている人もいますし、いろいろな方が、いろいろなMaaSを言っています。

今、業界の中だと、「利用者が多様なモビリティサービスに対して、1つのサービスとしてアクセスができて、自由に選択できるものをMaaSと呼ぼう」と定義しています。具体的には仮想空間の中に電車、バス、タクシー、自転車、電動キックボートなどいろいろなモビリティの選択肢を並べて、利用者がアクセスできるサービスをMaaSと呼ぼう、ということです。

今までと何が違うかと言うと、今までは別々に動いていたモビリティが、例えば1つのアプリなりウェブサイトなりに仮想的に統合されている。それが、いわゆるMaaSアプリなどのMaaSのサービスです。

しかし、これまた日本と海外ではかなり違った捉え方、展開をしています。

例えば海外だとラストワンマイルにライドシェアや電動キックボードがあり、新しいモビリティの手段が、社会の中でインフラ化がかなり進んでいる。しかし、日本ではMaaSと言っても、ライドシェアもなかったり、とパーツが欠けていくわけですね。そうすると従来どおり電車とバスのつながりがあるだけで、結局、病院までのラストワンマイルを行くことができないといった問題が生じます。

田邉

なるほど、そこが決定的に違うわけですね。

安永

そういう中、日本だと今、私鉄の小田急さんや東急さん、京急さんなどが頑張ってMaaS事業を行っています。鉄道というのは1回インフラができてしまうと、柔軟性を持たないモビリティで、今まではそこが弱点でした。しかし、新しいテクノロジーを用いて、自社のサービスの中に、例えばオンデマンドバスだったり、シェア自転車などマイクロモビリティも含めて、柔軟に一貫して利用者に提供できるようなサービスとしてMaaSを捉えています。

ですので、今までインフラを持っていた鉄道会社が中心になって、そこに例えばタクシー会社や自転車といったところが乗っていくという形が日本のMaaSなのかなと思います。もちろんそれだけではないと思いますが、日本の場合、地域の住民に対するサービスを結構大手私鉄はやっていますので、その地域に対するサービスの提供という意味でMaaSを通して進めていくのだろうと思っています。

田邉

重要なのは、どういう交通モードがパッケージされているかということですよね。おっしゃられたように、例えばライドシェアがないと、鉄道で駅まで行っても、従来型の鉄道、バス、タクシーしかないMaaSになってしまう。小田急さん等が頑張っているというのは、追加的な収入を求めているというところもあったりするのでしょう。

しかし、地域交通の維持という点からすると、日本の現状は少し違うのかなと私自身は思っています。

地域にとってプラスになるサービス

西村

MaaSはモビリティが、地域にとってプラスになるようなサービスを提供しているもの、と私は受け取っています。単にアプリだけだと、今でも「駅探」などがありますが、それだけではなく、地域の人がこういうことをしたいと思った時に、その際の移動はこれが最適ですよと示すようなものが、本来のMaaSなのかなと思っています。

そういう意味で、その地域でモビリティ以外のサービスを提供しているような別の仕組みとの組み合わせもしっかりやらなければいけない。例えば何かを買いに行きたい時に、「こうやって行くとここにあるんですよ。何時に着くとそこに詳しい人がいます」といった説明をしてくれるなら、「じゃあそこに行こう」となりますよね。

そういった購入の楽しみを地域に提供しているというサービスが経済効果を生むわけですから、しっかりとしたサービスを是非つくりあげるべきだと思っています。

田邉

移動以外のサービスも含めた方法ということですね。観光なども絡んでくると、より経済効果を生み出すのかなと思います。

重野

私はたぶんドア・トゥ・ドアの移動を1度メールか何かでリクエストすると、全部つながった形で提供してくれるのが、1つのMaaSのメリットかなと思います。

ビジネス的には、どうやって利益を得て回していくかということが重要ですし、地域の交通もそういう側面があるわけですよね。おそらくMaaSのスタートは、それこそプラットフォームで、こういうものがそろってくると、その先にいろいろな可能性があるということで注目されているのかなと思います。つまり直近は移動の問題ですが、その先にはもっと違うものがあるということです。

MaaSでは人の移動や行動がデータ化できるので、複数の地域交通が分析でき、それを最適化できて整理されていく中で可能性も広がるのだと思います。特に地方の交通の問題に対しては、都市交通計画とMaaSを、自治体と民間の事業者、それからサービス利用者の三者が、ある意味データなどを持ち寄って進めていくことも期待できるのではないかと思うのです。

田邉

そうですね。データが取れるようになるというのは、分析屋からすると非常においしい話です。逆に、今、日本は諸外国に比べてデータが利用できないので、オープンデータ化することによって、もっといろいろな可能性が生まれてくるのであれば、間接的にそういうローカルな地域での移動の支援にかなり寄与するのではないかと思います。

コロナ後のモビリティのかたち

田邉

これから期待できる新しいモビリティのモードについてはいかがでしょうか。

重野

2つあります。1つは最近MaaSの文脈でもよく出てくるのですが、高齢者だけではなく、車いすで移動される方に非常に良いサービスの提供を考えている方がいらっしゃいます。例えば、ある航空会社の社員の方が、飛行機も含めて、車いすの方により良い移動を提供しようという試みをされています。これまであまり交通とかかわれなかった方へのサービス提供という意味で、非常に素晴らしい取り組みではないかと思います。

もう1つ、このコロナ禍の中で移動事業が激減している。ご存じのとおり、3月はインバウンドが99.9%減。新幹線の乗車率などもとんでもない数字になっていると思うのです。

そうすると、われわれは「バーチャルな移動」と言っていたのですが、コロナの中で「移動しなくて済む移動」ということが浮かび上がってきました。モビリティの概念はコロナ後に、おそらく捉え方が少し変わってくると思います。

ポジティブ、ネガティブ両方あると思います。このように移動が規制されている中だから、移動をとても価値があるものに感じられる部分もあると思いますし、逆に今までの移動は不要でした、みたいなこともあるかと思います。

この「移動なき移動」のような概念も、リアルなものとして捉えられるようになったのかなと思っています。

田邉

最後のご指摘は重要なポイントで、バーチャルで仕事やコミュニケーションができることがわかると、例えば都心に住む必要がなくなるかもしれない。コロナ後は人の住み方にも変化が出てくるかもしれませんね。

結局、交通というのは何かをするためにあるので、モビリティの新しい変化から、今後社会はこのように変化するのではないか、こう変化するべきだというようなところで何かありましたらお願い致します。

西村

その交通を使っているコミュニティが持続可能で、経済的にもきちんと成り立っているという姿を維持することがとても大事だと思っています。そうでなければモビリティを整える意味がないと思うのです。

そういう観点から社会を変えていかなければいけない。今まで公共交通については補助金で一生懸命維持してきたわけですが、もっと民間の力も上手く使いつつ、地域住民が本当にそういうモビリティが必要だよね、ということが理解できる形で進めなければいけないと思います。

コミュニティを良くしていくことと、モビリティを良くしていくことが両輪で、新しいモビリティの変化もコミュニティ全体を良くしていくことが目的だということを、皆できちんと共有できていれば、良い社会に向かっていくのではないかと思います。

バーチャルモビリティも含めて活用していけばいいのです。ちょっとお腹が痛くてという時、遠隔医療で済むのであればわざわざ移動しなくてもいいですからね。どうしてもあそこに行ってあの人に会いたいという際に、モビリティを使います、というように使い分けることが大事で、そういうことがいろいろな技術を使えば徐々にできるようになってきています。

重野

日本全体で財政が弱くなっていますし、人口が減っていますし、基本的には厳しくなると思うのです。

ただ、厳しくなるからいろいろなものを小さくシュリンクして、というマイナスの思考ではなくて、今日いくつか出たように、これまでと違った試みや組み合わせを考えることで、意外と豊かになれるのではないかとも思うんですね。

明らかなのは、このまま今の延長線上で取り組んでいても、おそらく上手くいかない。そうであれば、皆で工夫して、新しいムーブメントにして、こういうふうに変わっていきましょうよ、とやっていくことだと思うのです。それに予算をつけるべきで、そのために規制を考え直すべきです。

私は技術側の人間なので最後に技術のことを申し上げると、いろいろな面で技術は足りなくてもどんどん進歩しますので、最初はダメでもカバーできるようになっていきます。ですから楽観的に社会の仕組みも含めていろいろなことへのトライを応援する必要があるのではないかと思っています。

安永

私も最近よく「コロナ後のモビリティってどうなるんですか?」と聞かれます。皆さんご承知のように、おそらく人の移動は減っていくと同時に、物の移動は逆に増えていくのではないかと思うのです。

人の移動を考えると、よりパーソナルな移動や、プライベート空間の移動に移っていくのではないのかと思っています。具体的にはシェア自転車や電動キックボードなどです。アメリカだと自家用車の利用がまた増えてきている。そういった意味からも、コロナ後の自動運転というのは重要になってくるのかなと思っています。

おっしゃったように、東京にいる必要はないのではないかという考えも生まれてきています。とは言っても、通勤のためだけに移動しているわけではないので、地方に行っても、買い物や病院に行くというラストワンマイルの移動需要は必ず残ります。結局、コロナ後もそこの部分の課題をどう解決していくかというところが重要になってくるのかと思います。

一方、今日の『日本経済新聞』にもありましたが、タクシーも今年の9月ぐらいまでの時限的な措置ですが、国交省が規制を緩和して、フードデリバリーサービスをやれるようになるということです。そのように必要に迫られて変わろうとしている部分もあります。

ある意味コロナというのは、悪い面、良い面どちらであっても、社会変化として、地方での移動に対しての影響も出てくると思いますので、そのあたりをどう見ていくかが重要になってくると思っています。

田邉

有り難うございます。ご高名な商学部の名誉教授の中条潮先生が、「飛行機はなぜ飛ぶのか?」とよく言っていました。技術的な答えを求めているのではなくて、中条先生が言われるのは、需要があるから飛んでいる。お客さんがいるから飛んでいるということです。

需要がないところに無理やり交通サービスを当てはめるのはよくないと思うので、ある程度のダウンサイジングや見極めは必要です。残ったところを地域のコミュニティの力で、新しい技術を応用して支え合うということが、地方には必要になってきた。

そこに新しい技術というのが、昔よりもいろいろな面で使えるようになってきたことが今日の話で分かりましたので、ある意味では明るい未来というのはありうるのかなと思いました。長い間、有り難うございました。

(2020年5月25日、オンラインにより収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。