慶應義塾

【特集:再生医療の未来】座談会: 動き始めた再生医療の時代

登場者プロフィール

  • 山中 伸弥(やまなか しんや)

    京都大学iPS細胞研究所所長・教授

    1993年大阪市立大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター教授等を経て2010年より現職。06年iPS細胞を発表し、12年ノーベル生理学・医学賞受賞。

    山中 伸弥(やまなか しんや)

    京都大学iPS細胞研究所所長・教授

    1993年大阪市立大学大学院医学研究科修了。博士(医学)。奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター教授等を経て2010年より現職。06年iPS細胞を発表し、12年ノーベル生理学・医学賞受賞。

  • 木村 徹(きむら とおる)

    大日本住友製薬株式会社取締役常務執行役員

    1984年大阪大学基礎工学部卒業。89年京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。同年住友化学工業入社。2009年大日本住友製薬株式会社ゲノム科学研究所長、15年同社執行役員。19年より現職。

    木村 徹(きむら とおる)

    大日本住友製薬株式会社取締役常務執行役員

    1984年大阪大学基礎工学部卒業。89年京都大学大学院理学研究科修了。理学博士。同年住友化学工業入社。2009年大日本住友製薬株式会社ゲノム科学研究所長、15年同社執行役員。19年より現職。

  • 永山 治(ながやま おさむ)

    その他 : 中外製薬株式会社代表取締役会長その他 : 評議員商学部 卒業

    塾員(1971商)。日本長期信用銀行を経て1978年中外製薬入社。85年取締役を経て92年代表取締役社長最高経営責任者(CEO)。2018年より現職。ソニー株式会社社外取締役 取締役会議長。

    永山 治(ながやま おさむ)

    その他 : 中外製薬株式会社代表取締役会長その他 : 評議員商学部 卒業

    塾員(1971商)。日本長期信用銀行を経て1978年中外製薬入社。85年取締役を経て92年代表取締役社長最高経営責任者(CEO)。2018年より現職。ソニー株式会社社外取締役 取締役会議長。

  • 岡野 栄之(おかの ひでゆき)

    医学研究科 委員長医学部 生理学教室教授

    塾員(1983医)。筑波大学教授、大阪大学教授等を経て2001年慶應義塾大学医学部生理学教室教授。医学博士。15年~17年同大学医学部長、17年より医学研究科委員長。専門は神経科学、幹細胞生物学、再生医学。

    岡野 栄之(おかの ひでゆき)

    医学研究科 委員長医学部 生理学教室教授

    塾員(1983医)。筑波大学教授、大阪大学教授等を経て2001年慶應義塾大学医学部生理学教室教授。医学博士。15年~17年同大学医学部長、17年より医学研究科委員長。専門は神経科学、幹細胞生物学、再生医学。

  • 中村 雅也(司会)(なかむら まさや)

    医学部 整形外科学教室教授

    塾員(1987医)。慶應義塾大学医学部専任講師、准教授等を経て2015年より現職。博士(医学)。慶應義塾大学医学部長補佐(産学連携・広報担当)。専門は脊椎脊髄外科・脊髄再生等。

    中村 雅也(司会)(なかむら まさや)

    医学部 整形外科学教室教授

    塾員(1987医)。慶應義塾大学医学部専任講師、准教授等を経て2015年より現職。博士(医学)。慶應義塾大学医学部長補佐(産学連携・広報担当)。専門は脊椎脊髄外科・脊髄再生等。

2019/06/05

画像:iPS細胞から誘導した神経前駆細胞を培養皿で分化誘導した後に免疫染色したもの(提供 中村雅也研究室)

再生医療研究の現状

中村

今日は「再生医療」をテーマに各先生方にお集まりいただきました。

本年の2月に慶應義塾大学病院が提出していた、「亜急性期脊髄損傷に対するiPS細胞由来神経前駆細胞を用いた再生医療」の臨床研究開始が了承されました。これは世界で初めてのiPS細胞(人工多能性細胞)を用いた脊髄損傷治療の臨床研究となります。

実際に患者に移植する再生医療に対しては大変期待が大きいわけですが、現在どのようなステージまで来ていて、今後どのようなことが可能となり、また課題は何か、ということなどをお話ししていきたいと思います。

最初に、各立場からの再生医療へのこれまでの取り組みに関して、ご紹介いただければと思います。まず山中さんのほうから、現在のiPS細胞研究所(CiRA)の再生医療用iPS細胞への取り組みについてお願いいたします。

山中

私たち京都大学iPS細胞研究所は、AMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の再生医療実現拠点ネットワークプログラムの1つであるiPS細胞研究中核拠点という枠組みで、いわば国のプロジェクトとしてiPS細胞の製造を行っています。私たちが担当しているのは、再生医療用のiPS細胞の供給です。これは自家移植(患者自身の細胞を使うこと)がベストなのは当然なのですが、現状では自家移植は時間とコストがかかり過ぎるので、健康な他人の細胞を予め保存しておき、供給をしています。

免疫拒絶を少しでも抑えるために、HLA(ヒト白血球型抗原:Human Leukocyte Antigen)ホモ接合体を持つドナーの方を日本赤十字社の協力を得て探し出し、iPS細胞をつくり保存しています。これまでに4種類のHLA型のiPS細胞を供給できる体制を整えています。この4種類で日本人の大体40%弱をカバーできるのです。

一方で、どんどん頻度の低いHLAタイプのものが残っていきますので、日本人の90%をカバーしようと思うと、100種類以上のiPS細胞が必要になり、大変な労力と時間、お金が必要になります。

この数年、ゲノム編集の技術が急速に進んできており、今までつくったHLAホモのiPS細胞に対してゲノム編集を用いることで、HLAの一部を改変することが比較的簡単にできるようになっています。

ですので、これまでのHLAホモの細胞を探し出す戦略に、ゲノム編集を加えることによって、より少ない数で大部分の日本人、さらには世界中の方に拒絶反応の比較的少ない細胞を供給できるよう、研究をしています。来年ぐらいにはHLAをゲノム編集した臨床用株を供給できるようにしていきたいと思っています。

中村

有り難うございます。続いて岡野さんお願いいたします。

岡野

私は基礎医学の生理学の教授ですが、本学の初代医学部長北里柴三郎博士は、基礎臨床一体ということを本学のモットーとしてきました。本当に社会実装できるところまで一緒に研究・開発をやろうと、整形外科の中村さんのチームと、先代の戸山芳昭先生のときから20年間にわたり、再生医療について共同研究をやってきました。基礎の研究成果が、なんとかヒトに応用できるところまできたところです。

私自身は、このようなトランスレーショナルリサーチ(橋渡し研究)として、脊髄再生に加え、神経の難病の研究に関しても、iPS細胞技術、あるいは幹細胞技術を使ってやっています。特にALS(筋萎縮性側索硬化症)については、いわゆるiPS細胞創薬で見出だされた薬で、今、実際に治験が行われていて順調に進んでいます。

私自身の基礎研究としては、神経発生という立場から、今まで治らなかった中枢神経系の疾患に対する革新的な治療法を開発していきたいと思っています。そのためには実際の臨床にすぐ行くのではなく、そのベースとなるような神経発生、そして幹細胞制御機構に関して非常に長い年月をかけて取り組んでいるところです。

中村

今、岡野さんからお話があったように、私たちは20年近く共同研究を続けてきました。基礎の研究者と臨床家がアイデアを出し合いながら共通の目的に向かって一歩ずつ前進してきました。また、大日本住友製薬さんとは、軸索伸展阻害因子に関する研究も行ってきました。臨床においては評価系の構築も重要ですから、MRIを用いた研究等もやってきました。そういった多くの研究成果の集大成によって、初めて再生医療ができるのではないかと思います。

製薬会社の再生医療への取り組み

中村

それでは、企業の立場から、永山さんいかがでしょうか。

永山

私の立場は、自分の会社からということ、それから、バイオ戦略有識者会議(内閣の統合イノベーション戦略推進会議の下に設置)が本年2月に発足し、私が座長を務めておりますので、その立場からというものがあります。

会社のほうですが、大日本住友さんは非常に大がかりに新しい再生医療に取り組んでおられます。私どもではバイオの製品を多く開発してきてはいますが、いわゆる再生医療という分野ではまだ何か大きなことはしてはいません。

基本的に製薬会社というのは、20世紀は低分子化合物で薬をつくって、主に代謝異常といったところで生活習慣病についての製薬が大きな市場を形成してきました。それが、20世紀の終わり頃から2000年以降、ゲノムの塩基配列の解読が進み、バイオの時代に入ると、抗体医薬などが市場では大きくなっています。低分子、高分子に加え、これからは中分子、あるいは核酸というモダリティ(治療手段)が注目されているわけです。

その次に来るのが、再生医療を使った治療です。当社はまだあまり深く入っていないのですが、今、広島のベンチャーと組んでいます。ここはMSC(ヒト間葉系幹細胞:Mesenchymal Stem Cell、幹細胞の1つ)を無血清で培養する技術を有しているので、gMSC1(注:膝軟骨再生細胞治療製品の開発番号)という形で健常人の滑膜細胞から採取したものを培養し、他家の軟骨製剤をつくるというプロジェクトが、フェーズ3に入っているという状況です。

中村

では、木村さんどうぞ。

木村

当社は、1980年代末のバブル期、研究費にも余裕がある時代だったのですが、神経系の創薬の中で、最も重要な課題に長期的な視点で挑もうということで、「中枢神経の再生」というテーマのプログラムを開始しました。

いろいろな方法がある中、低分子によって軸索(神経突起)の再生に取り組むうちに、実際に軸索を伸ばせそうな化合物が見つかってきた。そこで、その分野で非常に研究が進んでおられた岡野さんに「これが実際に脊髄損傷で効くかどうか確かめたいので協力してほしい」とお願いし、2000年から共同研究をさせていただいています。それから、中村さんも一緒に脊髄損傷で低分子を使った軸索再生に取り組みました。

そうした中、ヒトのES(胚性幹細胞)の技術、さらに山中さんのiPSが出てきて、細胞を使ったほうが再生医療をやりやすいのではないかと考えたわけです。

2012年度、私が事業戦略部長として中期経営計画策定に関係した際に、低分子の創薬がある意味行き詰まっている中、十数年後に2千億円の売り上げを目指した新しい事業として、細胞を使った再生医療に取り組む戦略を打ち出しました。ちょうどその頃に山中さんがノーベル賞を取られ、再生医療推進法ができ、再生医療推進の機運が盛り上がってきました。現在では、岡野さん、中村さんの他にも、理研(理化学研究所)の髙橋政代先生、あるいは山中さんの京大CiRAの髙橋淳先生のプログラム等、進行中の国のネットワーク拠点プログラムの多くを一緒にやらせていただいている状況です。

われわれは当初、中枢神経に絞っていたのですが、最近は少し自信もついてきて、末梢神経にも進出しようと、つい先日プレスリリースし、腎臓の再生医療にも取り組み始めました。

連携の必要性

中村

今、それぞれの立場からこれまでの再生医療への取り組みをお話しいただきました。それを踏まえて、現在の日本の再生医療の課題を討議できればと思います。

大きく分けて、基礎研究に関する課題、臨床応用、産業化に向けた課題、倫理面の課題と3つあるかと思いますが、まず、基礎研究という観点から山中さんいかがでしょうか。

山中

やはりゲノム編集に代表されるように、急速に科学が変化していますので、最先端の基礎研究の成果を、どうやって応用を目指した私たちのような取り組みにリアルタイムにつなげていくか、が非常に大きな課題だと感じています。

臨床の細胞製造ですから、GMP(Good Manufacturing Practice)ということで規格化し、方法を固めることも常に求められているのですが、同時に、技術そのものが日進月歩で変化している中で、ジレンマを感じながら進めているところです。

また、今までの低分子化合物のような場合、良い低分子があれば、あとは投与すれば仕事は終わりだった。しかし、再生医療の場合はいくら良い細胞をつくっても、手術として成熟していなければ絶対失敗します。

ですから、再生医療という一連の流れの中で、私たち基礎研究者、また製薬企業ができることは、実は限定されていると思います。そこで、外科医を中心とする臨床医の人たちと、いかに研究開発の早い段階からチームをつくって行うかが重要になります。

岡野さん、中村さんは理想的なチームだと思いますし、今、すでに臨床に入っている髙橋政代先生や髙橋淳先生も、研究者でありながら実は外科医でもあるので、チーム形成が当初から上手くいっています。

いかに良い連携のチームを形成するかということが、今までの薬の開発にはなかった再生医療の重要な側面かなと感じています。

木村

まさに連携は重要だと思っています。われわれのパーキンソン病のプログラムの場合は、先駆け審査制度に指定され、年に10回くらい、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)と相談しながら進めていますが、医師である髙橋淳先生と、われわれ製薬会社が一緒に当局と議論していくことが、再生医療の推進には非常に大きなことだと思っています。

もう1つ、会社同士の連携ということもあります。製薬会社は普通、自社あるいは同業者とだけで研究するのですが、今、我々は、日立さん、あるいは欧米の機械のベンチャーと同じラボの中で研究をしています。他業種、あるいは立場の違う人たちとの連携の重要さを日々実感します。

岡野

連携は本当に大事です。再生医療はまさに社会実装を目指した学際的研究の究極のようなものですし、これをさらに進化させるには、遺伝子治療やゲノム編集といった方法と、フュージョン(融合)して進めていくべきだと思います。実際にFDA(アメリカ食品医薬品局)ではCellular & Gene Therapy(細胞・遺伝子治療)という範疇で審査していますし、厚生科学審議会も、実はもう細胞治療と遺伝子治療を一緒に審査しているように、不可分の技術として進んでいくかと思います。

一方、非常に能力があるチームが力を結集してできたプロダクトは、地域医療に関わる市民病院でも投与できるぐらいまでに一般化していくことが今後必要だと思っています。そこはまだハードルが高い。社会構造、流通構造を変えるところにも及んでいきますので、いろいろな人と話していかなければいけないと思っています。

中村

冒頭に岡野さんから話があったように、慶應医学部では、基礎臨床一体が原点ですので、そういう意味ではプロジェクトの開始当初から、基礎と臨床とのチームづくりは非常にいい形で進んできたと思います。

再生医療の課題というのは、生きている生の細胞を使うゆえに、今までのシステムとは違った連携が必要になり、その結果、非常に多くのプロセスが必要になると思います。例えば、他家細胞であれば、再生医療製品をつくる際に、原材料はどこから入手するのか。それをどうやって輸送し、どこで製造加工するか。どこで評価するのかといった一連のプロセスが続くわけです。

その中で、日本は再生医療推進法で法的な整備を世界に先駆けてやり、研究シーズでもリードしてきましたが、実際に社会実装が目前となったときに、国民にとっての医療として普及していくためには何が必要となるのか。おそらく、これまでにはなかったような連携体制をとっていかないと、本当に普及する再生医療というものにならないのではないかと危惧しています。

例えばMSC1つ取ってみても、その原材料をどこからどうやって入手するのか、日本では今、非常に不安定な状況です。すでに臨床応用を開始している企業は海外から細胞を輸入しているとお聞きしました。しかし、システムが海外とは違うので、ボランティアにお金を払って細胞をいただくことは日本ではNGです。

CiRAに公的なiPS細胞をしっかりとつくっていただいているわけですが、他の細胞に関しては、そういったシステムがまだできていない。これから価格も下げ、国民に広く普及できる再生医療にするためには、細胞の原材料、加工、輸送といったところの仕組みづくりと多企業間の連携はますます重要になってきます。

必要となる国による整備

中村

だからこそ永山さんが座長をされているバイオ戦略会議等で、日本に何が足りないのか、それをどうやって解決していかなければいけないのかを議論しているわけですね。

永山

バイオ戦略会議では6月までに日本のバイオ戦略を打ち出すことになっていますが、再生医療の分野でこれから国レベルで取り組まなければいけないことは、やはり国際的な基準の共通化などです。承認制度についても、日本では再生医療関連法案の1つの再生医療等安全性確保法が、今年の11月で施行から5年になりますが、見直しが議論されている。こういった標準化をどんどん進めていかなければ、再生医療技術を社会的に使う道が閉ざされてしまう可能性もあります。アメリカ、ヨーロッパとも承認基準は少しずつ違うわけで、国際的な基準化がやはり必要だと思っています。

それから、山中さんからもあった質の高いiPS細胞をつくるということも課題です。再生医療というのは、細胞を用いた治療が主ですが、細胞は分裂や分化の過程で遺伝子を含め状態が変化します。そのような細胞やそこから分化させた組織をつくるというところが、今までの有機化学合成を中心とした医薬品創製とはまた違う面です。これからは、今までの医薬品産業だけではなく、細胞をきちんとつくれるような会社やCMO(医薬品製造受託機関)といったものや、ベンチャーの形成も必要だと見ています。

木村

具体的にどのようなことが必要になるでしょうか。

永山

新しいテクノロジー、サイエンスが出てきたときに、やはり米国などと比べると、日本は「エコシステム」というものが、きちんと描けていない。

例えば、自動車産業は、日本では有力な会社が出てきて、世界で競争力を発揮してきた。これは国の税金で道路をつくり、車が快適に走れるようになったので自動車産業が繁栄したわけですが、この道路の部分は民間の努力だけではできないわけです。同様に再生医療でも、許認可などは、やはりシステムとして国が整備していかないと、国際競争力にはつながらないと思っています。

アメリカなどでは商務省は年間7000万ドルくらいかけて120ほどの企業、大学や研究機関等のコンソーシアムで共通化できるような製造技術や培養技術というものへの投資をしている。ですから、日本も「道路」を描き出すことによって、国にやってもらうべき点をこの機会にはっきりさせたいと思っています。

また、許認可のところもできるだけ標準化をしたい。薬ではICH(医薬品規制調和国際会議)という、国際的な会議体を長くやっていますが、この中に再生医療は入っていません。ですから、再生医療についての規制調和会議をつくり、最終的には、グローバルに共通なものをつくっていかないといけない。その都度、国によって規制や基準が違うとなると大変なのです。

木村

その通りですね。

ベンチャーをどう育てるのか

永山

それから、オープンイノベーションの中で、日本はやはり圧倒的に生物、生命科学系のベンチャーの数とそこへの投資がまだ足りないのです。IT産業では、優秀な若い人たちがITのスタートアップに入るというカルチャーができつつあるようですが、生命科学のほうではなかなかそうはいかない。それを支援するお金と、新しいものにチャレンジできるカルチャーをつくっていかなければと思います。

大日本住友さんは大変積極的に再生医療分野をやられていますが、細胞の培養といったバイオ技術を有する企業でないと、この分野への参入は難しい状況です。また、投下せねばならない資本も大きくなるため、ベンチャーをインキュベートし、アカデミアとベンチャー、ベンチャーと企業という分業・協業体制を実現していく必要があります。

岡野

エコシステムは、京都のCiRAの周辺、また神戸(理化学研究所)、あるいは関東だと川崎殿町(慶應殿町タウンキャンパス)や日本橋(一般社団法人再生医療イノベーションフォーラム:FIRM)など、いろいろなところで今、つくろうとしています。ボストンやシリコンバレーの単なる真似ではなく、日本の風土に合った形のエコシステムをつくるということが始まりつつありますので、ぜひ温かい目で見ていただければと思います。

FIRMという再生医療に関する会社の連合は、元富士フイルムの戸田雄三さんが会長をなさっていますが、この間、日本再生医療学会と一緒にディスカッションし、どうやって国を挙げてやっていくかを話しました。やはり、それぞれの会社同士が一番重要なノウハウについてシェアできるところと、できないところをどう見極めていくかが課題のようです。皆、総論には賛成なので、ディスカッションを続けていい形にしていきたいと思います。

慶應の話をしますと、私が学部長をしていたとき、「慶應のベンチャーを100社つくろう」と言って、皆に驚かれたのですが、もう13社になり、慶應医学部出身、医学部発ベンチャーの連合組織みたいなものもでき始めました。まだまだ弱いですけれど、われわれ教員だけでは絶対に社会実装できませんので、研究者から出てきた発明や医療を支え、なんとか世の中で使えるような形にしていくという組織は、これからつくっていかなければいけないと思っています。

中村

再生医療を扱うベンチャーは、かなり難しい面があると思います。例えば再生医療製品を何か形にしようと思ったら、CPC(細胞調製施設)も必要だし、原材料の入手や、製品の品質管理などにかなりのリソースが必要になってきます。

僕は再生医療における今後の社会実装を考えたときに、若い研究者が持っているシーズをインキュベーションするようなプラットフォームができ、そこに来れば、そんなに大きな設備投資をしなくてもチャンスが与えられることが重要だと思っています。

そのように、産官学が連携するエコシステムを将来的につくれるようなコンソーシアムを形成して、若い人たちをそこに呼び込みながら、育てていくという形が今後、日本の再生医療を世界に発信していくための重要な1つのカギとなると思います。

永山

薬の世界では、アメリカだけでも数千、世界全体では5千ぐらいのベンチャーがあると言われています。FDAで承認を取る薬は、世界で画期的ということになっていますが、昨年、62個承認されたのが、今までのレコードなのです。でも、製薬企業各社と数千あるベンチャーの中からそのぐらいの数しか出てこないということは、逆に言うと相当母数が多くないと新薬は出てこないことになります。

確かに日本も最近、ずいぶんベンチャーが出てきました。ただ、プラットフォームとしてはまだまだ弱い。アメリカではNIH(アメリカ国立衛生研究所)は毎年約10億ドルの資金をスタートアップ会社に流しています。その中にはお金だけではなくて、経営指導とか会計、法律の知識といったことも含めたメンター制度を持っていて国が推進している。CRO(Contract Research Organization、医薬品開発受託機関)なども、国と直結しているものがあって、それをベンチャーが使えるようになっている。そういうエコシステムがやはり大事だと思うのです。

薬価をめぐる議論

中村

臨床応用について、産学連携やベンチャーという話が出てきました。日本が世界に先んじて、いろいろなシーズが走っていて臨床に向かっている中で、再生医療製品の標準化や製品の評価基準というものを、世界に向けて発信し、世界標準を日本がつくっていく形でないといけないと思います。そのあたり山中さんはいかがですか。

山中

日本は、2017年に医薬品条件付早期承認制度ができました。アメリカ等から批判もされているのですが、これは非常に大きなチャンスだと思うのです。

低分子の時代は、日本の製薬企業も世界のトップだったのですが、90年代末のバイオの時代から、なかなか画期的な薬が出なくなってしまった。アメリカはお金の集まり方も半端ではないので、いろいろな薬ができてくるのですが、どうしてもアメリカ型の投資に基づく開発だと非常に高額になってしまい、薬価も向こうの企業の言い値に近い状態です。CAR-T細胞療法は5000万円ぐらいです。

だから、アクテムラ(日本で開発された最初の国産生物学的製剤)がまさにそうですが、日本で最初に公開されれば、べらぼうに高くはない薬価が付けられる。日本で最初に薬価が付いたというのはすごいことだと思います。アメリカで薬価が付いてしまうと、日本ではその価格に引きずられてしまう。

だから僕がiPSでこだわっているのは、なんとしても日本で最初に承認を受けて、日本で薬価を取りたいということです。そうやってアメリカに持っていけば、例えば日本が100万円で提供しているものを、いくらなんでも1000万円にはできないと思いますから。

私は毎月アメリカに行っていますが、アメリカ型の開発が当たり前で、「5000万円なんて当然だ、そのうちだんだん安くなるよ」という感じなのですが、その間に、5000万円が払えなくて亡くなる人を山ほど見ています。

日本の場合、保険と高額医療制度で多くの患者さんがアクセスできると思いますが、国家財政が間違いなくもたなくなりますから、そのあたりはぜひ考えていきたい。

中村

これは重要なテーマですね。再生医療製品は、おそらく相当高い薬価が付くだろうと思われるので、厚生労働省の中で費用対効果の議論がこれから活発になってくると思います。

これはアカデミアの立場と、企業側の立場では、当然違ってくると思うのですが、一臨床医としては、近い将来、再生医療が、ごく一部の人しか受けられない特別な医療であってはいけないと思っています。病気になった人、けがをした人が皆、受けられる治療であってほしい。そういった医療として普及するためには、いろいろなブレークスルーが必要ですね。

木村

いいものを安くして、普通の病院でも再生医療ができ、多くの患者さんが利用できることが理想だ、ということには皆さん誰も異存ないのですが、実際にそこまでの技術を仕上げていくためには、投資が回収されて、再投資できるというサイクルが動いていくことが、エコシステムとして必要になります。

それを動かす燃料として、お金というものが動いているわけです。個別の会社の損得は別にして、議論の中で「再生医療を社会に普及させるためにはどのようにお金を動かすのか」という観点が抜けていると危惧しています。広くあまねく安いものを提供できるようになる過程で何が必要なのか。間もなくいくつかの製品が承認される時期に差しかかり、薬価の議論が、起こりつつありますが、仮に、非常に安い値段を付けてしまったら、製薬会社はどこも研究開発をしなくなります。

当社は、社会のニーズがある限り、事業性のある薬価が設定されるはずだ、ということで投資をしているのですが、多くの会社は、資金回収の目途が立たないので、投資をする判断ができない。

再生医療製品を広く普及するためには、技術的、あるいはシステム上の課題はまだ山積していて、それぞれを解決するのに時間、ヒト・モノ・カネが必要で、それを供給するためのシステムをどうするかという観点の議論がぜひ必要です。

再生医療と医療財政

永山

私が薬価議論の中で懸念を持っているのは、高額医療と、単価の高い薬を混同して議論しているところです。

タフツ大学で、FDAをはじめとした世界の機関から、2000年〜2010年の間に承認を得た新薬を106個抽出して、その期間にそれをつくるのに関与した企業がどのくらい研究開発費を使ったかと計算したら、1つの薬に付き、平均25億5800万ドルという数字が出たのです。

なぜそんなに高いかというと、失敗した薬の費用が入っているからです。失敗を減らせればよいのですが、研究というのはやってみないと分からないという側面があります。この25億5800万ドルのうち、約11億が臨床開発以前のもので、残りの約15億ドルが臨床開発費です。

したがって、これからはやはり、AIなどを使って臨床開発をどう合理的に行ってコストを減らすことができるのかが重要になるでしょう。前臨床研究ももう少し安くできる工夫は必要だと思います。

今の薬価議論というのは、単価の高いところが攻撃されやすいのですが、これは非常に単純な話で、会社が使ったお金をカバーできないと、誰もやらなくなるわけです。ですから、単価が高いことと高額医療だということは少し違うと思うのですが、できるだけ安くした方がいい、というのは事実です。

岡野

再生医療については、現在の法制度が適用されてから、まだ誰も価格を付けていないので。結局どうしたらいいのか、となりますね。

木村

そうですね、髙橋政代先生の網膜再生の1例目の臨床研究、あれは自家ですけれど、1億〜2億円ということをおっしゃっていますね。

岡野

あとはテルモさんの、条件・期限付き承認された、筋芽細胞シート(ハートシート:1476万円)ですね。これにあわせれば良いのではないかという乱暴な意見も出ていますね。

永山

間葉系幹細胞はもう値段が付いているでしょう。ニプロさんの「ステミラック」とか。

中村

そうですね。でもやはり、一番大事なのは、その製品がどのくらい効いたかということ。そして国の医療財政上から考えると、その疾患の特異性、要するに患者がどのくらいいるのか、どのくらい厳しい病気なのかということだと思います。

例えば整形領域でいうと、腰痛に対しての再生医療というのはやはりハードルが高くなりますね。患者数が2000万人以上いますし、「ほかにも薬があるじゃないか」と言われると、なかなか進みにくい。

だから、一つ一つの再生医療製品のコストを安易に安くすればいいわけではなく、その治療効果がどのくらいあって、それによってどのくらいの人たちが恩恵を受けるのか、といった医療財政的な観点が持ち込まれないと、今でも破綻しつつある医療財政が、さらに厳しくなるのではないかと思うのです。

プレシジョン・メディシンの時代

中村

日本の再生医療の今後の世界に向けた戦略を考えていきたいと思います。再生医療製品の原料である細胞ストックの構築、製造加工、品質評価、移送、保管などのバリューチェーンの拡大、また、近未来にあるべき再生医療の姿とは何かというあたりに話を進めていければと思うのですが。

永山

山中さんに伺いたいのですが、細胞バンクは、地域ごとに製造の設備があって、バンクがあるということが望ましいのでしょうけれど、均一性という意味では、大きなところで1カ所でまとめてつくったほうがいいようにも思うのです。この点についてはどう考えておられますか。

山中

ストックの場合は、種類も非常に少ないですので、あちこちでつくるよりは数カ所でつくるのがよいと思います。日本国内でしたら24時間以内の輸送というのはどこでも可能ですから。iPSは原料に過ぎないので、重要なのはやはり最終の分化細胞をどうするかです。

今、網膜の細胞はもう凍結保存できるのです。そうすると、凍結状態での輸送も可能です。それで、現場で融解して移植する。ストックであれば、そういう形で対応できると思っています。

ただ、他家移植は理想の姿ではなくて、近未来には自家移植で必要な細胞をご本人からつくることを目指したいです。その場合は、やはり各場所でということになってきますね。

再生医療に限らず、医療全体が、今まではマスプロダクトで1種類の薬を大量につくり、何十万、何百万人という患者さんにそれを投与してきましたが、これからはやはり、同じ病気の方でも、「この人にはこの薬、この人にはこういう医療」といった、個々の対応が求められていくと思います。

今までは数少ない薬を大量生産して、それを効率よく供給するところが勝ってきたと思うのですが、これからはやはり、多種多様のものを、オンサイト(現場)で必要なときに少量生産する。これは再生医療だけでなくて、すべてがそうだと思います。おそらく昔のブロックバスターで、1つの薬でビルが1個建つというような成功例というのは、もう難しいのではないかと思うのです。

同じアルツハイマーであっても、もう何十種類の薬を使い分ける時代なのだと思います。

中村

まさにプレシジョン・メディシン(精密医療)、パーソナライズド・メディシン(個別化医療)ということですね。

ただ、そうなったときに、おそらく、ビジネスの観点からすると、いろいろな課題、とりわけコストがかかりますよね。ですから、そこに行くためには、基礎医学的なブレークスルーがまだまだ必要でしょう。

岡野

基礎研究の立場から言うと、長年、やりようがなかったロングスタンディング・クエスチョンが、iPS細胞技術や幹細胞技術を使って、研究できるようになってきました。

例えば、ヒトの初期発生や進化、さらには人類遺伝学の知見から、アフリカ人と日本人で薬の効き方はどう違うか、ということがゲノムの配列上、どこでそうなるかが分かってきました。その知見は、この人のこのパターンの病気にはこの薬が効く、ということにつながっていくと思います。ゲノム情報とともにiPS細胞、さらに様々な臓器の細胞をつくる技術というのは、革命的なパワーになっていくと思います。ですので、それを踏まえたビジネスを考えていくことが重要かと思います。

それから、実際にiPS細胞を使った再生医療というのは、当然、他家のほうがビジネスをやりやすいのですが、倫理の問題はさておき、iPS細胞はいろいろな人からつくれるのです。HLAの多様性に対しては、今、山中さんが取り組んでおられるiPS細胞ストックというものもできており、もっと技術が発達すると、iPS細胞の本来の強みである自家移植が、比較的コストをかけずにできるようになる。そうすると、また世界が変わっていくと思っています。

そこを視野に入れたリプログラミング技術やエピジェネティクス研究には、基礎研究として取り組んでいく必要があると思っています。

中村

iPS細胞の質をさらに高めるという観点からいくと、多くのiPS細胞を樹立して、そこから絞り込み、分化誘導後にさらに絞り込むという、非常に多くのお金と時間と労力をかけているプロセスがもっとシンプルになるわけですよね。

数株を樹立すれば高品質なiPS細胞ができて、そこから分化誘導して高品質な製品ができる。すると当然、価格設定が抑えられることになり、やはり製品としてもより普及すると考えられます。

そのあたりの研究で世界を牽引することが、日本が国際競争力をさらに高めていくのに大事な戦略になるのではないかと思います。

再生医療の未来の姿

中村

今の話を踏まえて、未来のあるべき再生医療の姿についていかがでしょうか。

山中

骨折の治療には、手術で自分の腰から骨を取ってきて移植をするわけです。再生医療というのは、言ってみればそれと同じことを目指しているわけで、やはり一番いいのは、自家で、オンサイトで細胞を用意して移植することです。免疫抑制を気にする必要はありませんし、第三者の感染症も気にしなくていいわけです。最後は自家移植に行きつくのではないかと思います。

自家移植というのは、2014年に髙橋政代さんが実際に患者さんにやっているわけですから、今でもやろうと思ったらできるのです。ただ、お金と時間がかかるだけです。

今できるもののお金と時間を短縮することは、日本企業の一番得意とするところだと思いますから、やろうと思えば絶対にできると思います。ですから、僕たちは細胞のストックをすることで、自家はもう要らないのだ、というブレーキになるメッセージを出してしまってはいけないと思っています。

さらに、その先にあるのは、生物としての人間が本来持っている再生力だと思います。人間は指を切断すると、再び生えてくることはありませんが、他の動物では生えてくるものもいるわけです。なぜ人間を含む哺乳類はその力を持っていないのか。アメリカの国防総省は、ヤモリ等を使って、それを真剣に研究しているらしいです。戦場で負傷し、脚を切断された方が、ヤモリのように生えてきたら、こんなにいいことはないわけですからね。

しかし残念ながら、そうした再生能力は、人間にはありません。僕の考えでは、そういった高い再生能力は、おそらく寿命が伸びるとガンにつながってしまうので、ガンにならないためのトレードオフでなくなったのではないかと想像しています。でも、きっとブレークスルーで、そういう時代も100年後ぐらいに来るのではないかと夢見ています(笑)。

岡野

2000年頃、神戸にCDB(理化学研究所多細胞システム形成研究センター)ができたときのキックオフのパーティーで、所長の竹市雅俊さんが、「CDBの目指すところは、今、私が手を切ったら、すぐに生えてくることです」とおっしゃっていました。

プラナリアやイモリの研究により、なぜそういった生物は再生できるかということが、だいぶ分かってきたのですね。これは細胞治療だけではなく遺伝子治療、さらにゲノム編集と、組み合わせれば夢物語ではないかもしれない。

中村

僕が考えていた未来の姿から、だいぶ先まで行ってしまいました(笑)。山中さんから「マイiPS細胞」という言葉が出るのではないかと待っていたのですが。

山中

いやいや、人間の指が再生する話はあくまで妄想です。研究はどんどん進んでいくだろうと(笑)。

「マイiPS」と医療インバウンド

木村

まさに近未来では、患者さん一人一人の細胞からつくる「マイiPS」がプレシジョン・メディシンの究極の姿だと思っています。先週、われわれは究極的には個別化の再生医療、自家の再生医療の普及化を目指しますと打ち出したのですが、それは、割と早く実現できるのではと思っています。

もう1つ、製薬会社から見た課題というのは、クロスボーダー(国境間取引)の問題です。再生医療ではレギュレーション(規制)が国によって違います。低分子などの通常の医薬品はICHで統一されていて、国境の向こうでも製品や試験データが通用しますが、再生医療製品ではその保証がない。国際的なレギュレーションをどうやって統一していくか。大きな課題です。

私の1つの理想は、自家による再生医療が日本でできるようになり、海外の患者さんがパスポートを持って日本に来て、再生医療を受けて帰っていくことです。そうすればレギュレーションのシステムは1つでいい。

患者さんが動くという発想であればクロスボーダーの課題は一気になくなるのです。再生医療の対象は慢性期の疾患が多く、患者さんは動くことができますよね。

中村

そうですね。安倍総理もおっしゃっていますが、医療インバウンドとして日本の強みをしっかりと打ち出し、外貨をいかに日本に呼び込むかという観点から、その考えには大賛成です。そのためにも、再生医療製品をつくるというプラットフォームが必要で、医療として実施するコアな部分を、日本が世界に打ち出せることができれば、と思うのです。

岡野

脊髄再生では、亜急性期の場合は1カ月以内に勝負をしなければいけないので他家移植になりますが、慢性期は時間的余裕もあるし、非常に多くの患者さんがいらっしゃる。そうすると、やはりiPS細胞ストックで頻度別につくっていき、その次に「マイiPS」として、慢性期の脊髄損傷の治療法を考えていかなければいけないと思っています。

木村

そうすると、会社としても対象となる患者さんが飛躍的に増えるので事業性が大幅に向上します。1億人を対象にした投資と、70億人を対象にするのでは全然違いますので。

中村

その構想を実現させるために、ここ数年で成功例を増やし、再生医療を加速することが必要ですね。これからの臨床研究の結果が国民、そして世界にどこまでアピールできるか。日本の再生医療の一番大きな分岐点に、差しかかっているのではないかと感じています。

永山

医療インバウンドについては、先日もバイオ戦略有識者会議の議論で取り上げられました。再生医療に限らず、日本の医療水準は高い。この医療インバウンドは非常に大事で、将来、再生医療で日本が先行すると、それが1つの目玉になると思います。

再生医療は、ついこの間までSFのような話だったのが、かなり現実的な話になってきている。すると、やはり社会制度、医療保険や、いろいろな倫理の問題、それから規制の共通化などの課題をクリアする必要がある。

バイオの国家戦略会議というのは、2002年、2008年に続き今年で3回目なのです。1、2回目にはほとんど何も起きなかった。1つには産業側にプレーヤーがあまり出てこなかった。バイオが対象にしている食べ物にしても、医療にしても、既存の代替物があるわけで、リスクを取って取り組む会社が少なかったのです。しかし、いよいよ中国が、再生医療の分野でも出てくる可能性があります。ヨーロッパもバイオエコノミーというスローガンで動き出しています。アメリカは1980年代からバイオ戦略を練って覇権を握ろうとしています。

日本はどうしても戦略を描くときに、形を整えることに目がいって、実現させる部分が抜けてしまいます。今度は、そういったことを避けようと、かなり具体的に作戦を練っているところです。

幹細胞の創薬利用

永山

後は、幹細胞(ステムセル)の創薬利用も重要ですね。是非、幹細胞を使って薬を開発することによって、ヒト予測、毒性や効果をみるのに有力な武器として進めていただければと思います。

山中

Clinical Trials in a Dish(CTiD)と言っていますが、人間ではなくて、プレートの上で、肝毒性などを予測するというやり方があるのです。これは臨床研究にかかる莫大なお金を低減することにつながると思います。

例えばこんな話があります。ある製薬企業が新しい糖尿病薬を開発して有望視されていました。しかし、クリニカルトライアルのフェーズ3で、アメリカで何千人に1人か2人、肝障害が出てしまい、開発は中止されたのです。でも、その薬は、1000人中999人にはものすごく効いて、肝障害が出る人さえ予め見つけられたら、画期的な薬になった可能性があります。

1000人に投与して、そのうちの100人にものすごく効果がある薬は、その100人だけを選んで投与すればものすごくいい薬ですが、今は平均化してしまうので、開発の最後の段階で終わってしまい、莫大な投資が無駄になってしまう。それが、ステムセルを使って誰に効くのかを予測できれば、画期的なことだと思います。

岡野

そうですね。先日、ある複雑なポリジェネティクスで不整脈な家系があり、その家系の兄弟から1人ずつiPS細胞をつくり、イン・ビトロ(試験管内)で評価して、治療したという例を論文で読みました。これは、やはりiPS細胞技術がなかったら絶対にできなかったことですね。

山中

再生医療目的ではなく各病院でiPSをつくり、「あなたにはこの薬を使いましょう」と処方していくわけです。認知症なども、今は同じ薬を皆に投与するので、効く人と効かない人が出てきますが、個々に「あなたはこの薬が効く可能性が高いです」と予想できれば、ずいぶんと助かります。

中村

本当に今日は活発な議論で、今後の日本の再生医療のあるべき姿が少し見えたような気がしました。有り難うございました。

(2019年4月25日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。