慶應義塾

【特集:動物園を考える】座談会:問い直される動物園の役割

登場者プロフィール

  • 村田 浩一(むらた こういち)

    日本大学生物資源科学部教授よこはま動物園ズーラシア園長

    1975年宮崎大学農学部獣医学科卒業。神戸市立王子動物園勤務を経て、2004年より現職。2011年よりズーラシア園長。専門は動物園学、野生動物医学。博士(獣医学)。

    村田 浩一(むらた こういち)

    日本大学生物資源科学部教授よこはま動物園ズーラシア園長

    1975年宮崎大学農学部獣医学科卒業。神戸市立王子動物園勤務を経て、2004年より現職。2011年よりズーラシア園長。専門は動物園学、野生動物医学。博士(獣医学)。

  • 長谷川 眞理子(はせがわ まりこ)

    国立大学法人総合研究大学院大学学長

    1983年東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程修了。タンザニア野生動物局、早稲田大学教授等を経て、総合研究大学院大学教授。2017年4月より同学長。専門は行動生態学、自然人類学。博士(理学)。

    長谷川 眞理子(はせがわ まりこ)

    国立大学法人総合研究大学院大学学長

    1983年東京大学大学院理学系研究科人類学専攻博士課程修了。タンザニア野生動物局、早稲田大学教授等を経て、総合研究大学院大学教授。2017年4月より同学長。専門は行動生態学、自然人類学。博士(理学)。

  • 戸川 久美(とがわ くみ)

    認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金(JTEF)理事長

    動物作家戸川幸夫の次女。1997年トラ保護基金を設立、2009年現組織となり、絶滅に瀕するトラ、ゾウ、イリオモテヤマネコの現地の保全対策、違法取引防止、国内での普及活動に尽力する。

    戸川 久美(とがわ くみ)

    認定NPO法人トラ・ゾウ保護基金(JTEF)理事長

    動物作家戸川幸夫の次女。1997年トラ保護基金を設立、2009年現組織となり、絶滅に瀕するトラ、ゾウ、イリオモテヤマネコの現地の保全対策、違法取引防止、国内での普及活動に尽力する。

  • ヒサ クニヒコ

    その他 : 漫画家その他 : 絵本作家法学部 卒業

    塾員(昭41法)。『サファリへ行こう 東アフリカのサバンナ実践ガイド』などの著作もあり、野生動物・動物園に造詣が深い。公益財団東京動物園協会評議員、横浜市動物園友の会会長も務める。本誌に漫画を連載中。

    ヒサ クニヒコ

    その他 : 漫画家その他 : 絵本作家法学部 卒業

    塾員(昭41法)。『サファリへ行こう 東アフリカのサバンナ実践ガイド』などの著作もあり、野生動物・動物園に造詣が深い。公益財団東京動物園協会評議員、横浜市動物園友の会会長も務める。本誌に漫画を連載中。

  • 大沼  あゆみ(司会)(おおぬま あゆみ)

    経済学部 教授

    1983年東北大学経済学部卒業。88年同大学院経済学研究科博士課程後期単位取得退学。東京外国語大学助教授等を経て2003年より現職。専門は環境経済学。著書に『生物多様性保全の経済学』等。博士(経済学)。

    大沼  あゆみ(司会)(おおぬま あゆみ)

    経済学部 教授

    1983年東北大学経済学部卒業。88年同大学院経済学研究科博士課程後期単位取得退学。東京外国語大学助教授等を経て2003年より現職。専門は環境経済学。著書に『生物多様性保全の経済学』等。博士(経済学)。

2017/06/01

動物園の4つの役割

大沼

今日は、われわれにとって当たり前のように存在している動物園を考え直してみたいと思います。

私は経済学の立場から生物多様性について研究していますが、動物園という、生物多様性に最初に親しむ場の仕組みや問題点について考える、非常にいい機会だと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。

では最初に、横浜のズーラシアの園長をされている村田さんより、動物園の役割とはどういうものなのかということをお願いできますでしょうか。

村田

慶應大学はあまり動物と縁がないように思われますが、戦前は慶應義塾獣医畜産専門学校がありましたよね。それに、動物園との一番大きな関わりは福澤諭吉です。

福澤諭吉は幕末に遣欧使節の一員としてヨーロッパに行き、広い視野を持って、多方面のことを見ましたが、パリで博物館群の中の動物園も見られているようです。そして『西洋事情』で紹介するときに「生(いき)ながら禽獣魚虫を養う」施設に「動物園」という漢字を使った。

それが日本で初めて動物園という語が使われた例と言われているので、慶應義塾で「動物園」が生まれたと言ってもよい(笑)。

その後田中芳男という人が、幕末に万国博覧会の展示担当者としてパリへ出張した際に、福澤も見た博物館群の中の動物園を見てとても感激し、こういうヨーロッパ文化の社会教育施設を日本に持ち込まないと欧米列強に負けるのではないかという意識を持った。動物園のスタートはそのように社会教育を含めたものだったのですね。

動物園の役割は4つあると言われていて、1つは経済に関わることですが、「レクリエーション」です。それ以外に、「社会教育」、動物の「保全・保護」、そして「研究・調査」です。本来、動物園はzoology(動物学)というキチンとした学問上の教育があり研究がある。それを基盤として市民が憩えるレクリエーションが存在するという形なのです。

大久保利通が日本に動物園をつくるべく明治天皇に意見書を上げたときも、人々が楽しみながら、知らないうちに知識を身に付けるのが動物園だと書いている。

だから、スタート時点のほうが動物園の基本をしっかり押さえている。そこにもう一度立ち戻るべきではないかと思っています。

大沼

現在の日本では、その4つのどこに1番重点が置かれていますか。

村田

今は大沼さんのご専門の経済、レクリエーションですね(笑)。

大沼

集客ということですね。

ヒサ

動物園の施設はほとんどが公営で、地方自治体が経営していますよね。どうして地方自治体が動物園を持ち、税金でどこまでやるのかと言われると、入場料を取ってペイしなければという発想がどんどん出てくる。すると、小さな地方自治体だとこの4つの役割のうちの1つしかできない動物園がたくさん出てくるんです。

村田

経済的に成り立たないとつぶれていく。公立だけではなくて、私立の動物園もありますが、これまでにいくつか閉鎖されています。動物園の本来の役割が見失われているところもあるのではないかと思います。

また、動物園のトップの人たちというのは、特に公立の動物園はほとんど動物園のことを知らないで来る人が多いんです。

長谷川

官僚の人が来るんですか。

村田

公立であれば、所轄の建設局とか衛生局、経済局の人たちが来ますね。一般の人は、動物園長は動物の専門家だと思っていますが全然違うんです。動物相談の電話を管理職が本を見ながら答えていたりする。

私は神戸の王子動物園の獣医をしていたんですが、過去に市民が「王子動物園のペンギンはどこから来たんですか」と聞いたら、「裏口からです」って答えていたそうです(笑)。「ホッキョクグマは何を食べているんですか」と聞かれて、「ペンギンをバリバリ食べていますよ」という逸話もあります。

長谷川

北極にペンギンはいない(笑)。

村田

そういうレベルだったんですよ。

大沼

なるほど。そうすると、今は集客に力を入れる動きが強いということで、社会教育や研究とか種の保存というところには、あまり力を入れていないのでしょうか。

村田

いや、そうでもないですよ。世界的には種の保存・保全が中心になっていますし、動物福祉が非常に重要な柱になりつつあります。

もちろん、お客さんに来てもらわなければ動物園が成り立たないのは当然ですし、企業として、もしくは集客施設としてキチンとした経営母体を持たないと成り立たないということも世界的には認識されています。ただ、そのバランス感覚が非常に重要です。

「研究」の視点が疎かに

大沼

長谷川さんは野生動物の生態などを研究してこられていますが、動物園についてはどういう印象をお持ちですか。

長谷川

研究者としては、私は野生動物を対象にしていたのですが、野生動物を研究するにはアフリカやスリランカに行かないといけないから時間がかかるし、若いときでないとなかなかできない。ある程度年を取って忙しくなってから、動物園の動物を対象にした研究を学生がやるのを指導することは結構ありましたね。

そういう意味では間接的ですが、動物園の動物を対象とした動物行動学に関わってはいましたが、もっと研究の面で動物園側や動物園の経営の人に理解してほしいなと思いました。

日本は動物園の学芸員さん自身がPh.Dを持っている人がいないでしょう。研究者として動物園に雇われている人はほとんどいないですよね。

村田

いないですね。

長谷川

私たちの研究に関わりたいと思っても、有給休暇を取らないとやらせてくれないとか。研究に動物園側の人がまともに関わる仕組みができていないんですね。

村田

そうなんです。先ほど4本柱で「研究」と言いましたが、研究をメインとして認めている動物園はあまりないんですよ。公立の動物園は特に職務分担があって、技術職として研究という項目がないんです。

僕などは王子動物園のときに、当時の園長に「研究がしたければ大学に出て行け」と言われた。

大沼

博物館や美術館が学芸員の研究の場になっているということとは違うということですね。

村田

ただ、動物園というのは博物館法の中の位置づけとしては博物館相当施設なのです。それなのに実情はちょっと違う。

大沼

やはり美術品と違って、世話が忙しいといったことがあるんでしょうか。

ヒサ

基本的には忙しいでしょうね。人員を削減してギリギリのところでやろうとしているから。

村田

歴史的に研究の位置付けがもともとないのですね。

ヒサ

だって、飼育の人って昔は動物園では職人だったものね。

長谷川

動物園では野生でなかなか観察できない動物もいるので、研究をするときにどうするか、という目で動物園の設計をしたら、だいぶ変わると思うんですね。

村田

そうなんです。もったいないですよね。

教育の場としての動物園

大沼

戸川さんはこれまで野生生物の保護活動に関わってこられたのですが、そういう立場から動物園をどう見られていますか。

戸川

私たちはトラ・ゾウ保護基金という名称で活動しているのですが、トラとかゾウの個体を見るのではなくて、動物が生きていられる生息地を守るという活動なのですね。

日本では小さいお子さんがいらっしゃると動物園に行くけれど、大人になるとだんだん行かなくなる。また、動物に興味がある子どもも、中学生ぐらいになるとほかのことにもいろいろと興味が出てきて、動物園から遠ざかっていってしまう。でも、小さいときに動物に触れた体験は大人になっても残るのではないかと思うんです。

私たちは5年前から上野動物園とコラボレーションで、近くの小学校に声をかけて小学生を集め、「うえのトラ大使」という名称で活動をしています。トラのことを伝える小学生たちは、トラの牙や骨格がどうなっているのかとか、足はどれぐらい大きいのかを動物園で実際に見て、トラという動物を知ります。そして、「トラになってみよう」という私たちが考えたゲームを通して、一口にトラといっても野生のトラには定住個体、放浪個体、子育て中のメスなど色々なトラがいるトラの社会を知り、トラ生息地の生態系や、森で暮らしている人とトラとの軋轢、共存のための解決策などを3年かけて勉強するワークショップなんです。

大沼

教育の場として動物園を考えていらっしゃるのですね。

戸川

はい、種の保存法が改正され、動物園の役割は明確になる見通しです。野生動物が本当に少なくなってきているのでゆくゆくは本来の野生環境に戻すことを前提に繁殖、飼育するという役割です。しかし、動物園が哺乳動物を野生に戻すということは現実には非常に難しいので、その難しさや本来の生息地の現状を伝え考える場にすることが重要だと思います。

ヒサ

今、戸川さんがおっしゃったように、子どものときに受けた印象はやはり忘れないと思う。それが社会教育として一番正しい動物園の第一歩だと思います。

人間以外にもいろいろな動物がいて、動物園へ行くとその動物に接することができるわけです。これが実はインドにいたりアフリカにいる。そういうことを全部動物園に行くことによって感じることができる。

それを感じた子どもは、そのあと環境問題や命の大切さなどを考える際に、動物園での経験が基礎にあると、考え方が違ってくると思うんですね。そういう意味では、動物園に行ってもらえば、「教育」を大上段に振りかざさなくても、目の前にかわいい動物がいれば、「かわいい」と感じると思うのです。その「かわいい」と思う気持ちが、その動物が滅びてもいいのか、という自然保護の形につながっていくので、まずは窓口を広げて大勢の人に来てもらえる動物園になってもらいたいですね。

動物展示の変化

ヒサ

今、動物園は昔みたいに小さな暗い檻に1頭ずつ動物が入っているのではなく、生態展示に変わってきたり、その背景を見せようとしたりと、一生懸命努力している。でも、総体的に日本の動物園はこうあるべきだという基本的な考えはないので、各園、各飼育員の個々の現場でのいろいろな努力によって、少ない予算の中で一生懸命やろうとしているわけです。

大沼

個々の努力にかかっているわけですね。

ヒサ

本当は地方行政が動物園の役割を基礎から理解していればいいのです。ところが、やはり集客施設としか考えていない。

動物園の役割はこうだというポリシーをきちんと出して動物園を運営しようとしているのは上野動物園ぐらいですよね。ほかの動物園がそういうことを言うのは、文句を言われないためのほとんど後付けの説明なのです。皆が手探りでやっている。そして、その職員が異動になると、それきりで消えてしまうわけです。

例えばゾウなんかは人を認識する能力が非常に高い動物なので、飼育員とのマンツーマンの関係が結婚生活みたいに構築される必要があるにも拘らず、異動になってしまうこともある。だから、動物園というのはその存在が非常にもろいところに乗っかっているという感じがするのですね。

大沼

日本では旭山動物園が成功してからずいぶん生態展示が広がったと思うのですが、その効果はどういうところにありますか。

村田

旭山の場合は生態展示ではなく、行動展示と呼んでいます。今まで動物が動かずに寝ているような動物園が多かったのですが、動くところを見てもらう仕組みを展示施設につくったのです。

生態展示というのは別の系統から出てきたもので、動物たちが生きている自然を飼育環境として模倣してつくり、そこに動物を置いて自然な行動を促すということです。どちらも目標とするところは同じなのですが、生態展示はすごく経費がかかるので、旭山のやり方は普及し、注目されたのですね。

大沼

なるほど。昔は動物園と言うと、高いところから見下ろして行動を見て、裏に回ると寝室があってと、ほとんど同じだったのですが、今は動物園によって本当に違いますね。

ヒサ

動物が動けるようにしてあげるというのは、動物にとってもお客さんにとってもメリットがあるんですね。

ディズニーがフロリダにアニマルキングダムという大動物園をつくった。ディズニーが動物園をつくるというので、アメリカで保護団体が大反対運動をした。それに応えるために、ディズニーはアトラクションにしろ何にしろ、教育的な要素を山ほど入れることによって開かせてくれと言ったんです。

例えばアフリカのサバンナゾーンだと、ジープに乗って回れるようにして、アトラクションでいきなりジープに無線が入ってワーッと飛んで行くと密猟者を捕まえる。アジアのゾーンだと、熱帯雨林が燃えていて、そこに材木を運搬する車が崖から落っこちて、その間をトラが逃げ回っているみたいなアトラクションがある。「こんなひどいことが熱帯雨林で行われているよ」と、ありとあらゆるところで教育的な要素を入れて、初めてオープンできたんです。

お客さんの変化と動物福祉

大沼

集客という目的を追求すると、どうしても人気のある動物や珍しい動物を入れようということになってくるのではないかと思うのですが、どういう動物を展示するかという戦略はどのように決められるのでしょうか。

村田

動物園ごとに違いますね。横浜市は動物園を管轄する環境創造局に動物収集委員会という局長をトップにする委員会があって、そこで将来計画を立てるのです。しかし、いずれにしても、今は珍しい動物でお客さんを集めようという時代ではなくなってきています。

お客さんの数よりも質を重視する方向になってきています。最近は、動物に対する思いが、動物園関係者より熱いほどの来園者が多いし、しかもとても詳しい。動物の福祉のために「資産を全部提供してもいいです」という人もいます。40年ぐらい前まではあり得ないことでした。

実はこういうことは海外では当たり前で、チューリッヒの動物園なんかは遺産管理セクションというものがあるそうです。専門官がいて、大富豪の方を10年ぐらい追いかけてケアする。最終的に亡くなられたら、遺産が何十億と入る。そういった寄付金で成り立つのがヨーロッパ、アメリカの先進動物園なのですね。だから、そういう人たちの思いを実現しないと成り立たない。

大沼

強い思いを持った人たちの意見が反映される形ですね。

村田

そうですね。「珍しい動物を見たい」というのは数十年前の話で、今は「この子(個体)を見たい。この子を大切にしたい」という希望が強くなっています。ホッキョクグマのバリーバちゃんとか、ツヨシちゃんとか、個体に対する愛情がすごく強いんです。

そこでアニマルウェルフェア(動物福祉)というものが非常に重要になってくる。

大沼

思い入れが出てくれば、こんな劣悪な環境でいいのかと思いますね。

村田

動物園の役割は時代とともにすごく変わってくるんですよね。今はやはり動物を守るとか、保全で言えば、繁殖させ、将来的に再導入させることが大きな目的になっていて、飼育する以上は動物の幸せを保証すべきであるという考えが主流です。それは人間の責任だし、動物が生きる尊厳は認めなければいけない。

大沼

動物の調達はどういう形でされるのですか。

村田

今は、動物園で繁殖した動物がほとんどです。野生で捕獲することはかなり稀になってきています。あとは国内もしくは国外の動物園のネットワークの中で移動させて、遺伝的多様性を保ちながら飼育下で保存していくようになっています。

ヒサ

でも、お客さんはパンダが来たら、皆行くじゃない。だから、動物園側の意識と、お客さん側の意識はまだまだ一致していないよね。

村田

ただ、意識がかなり変わりつつありますよ。昔の来園者の考え方を動物園のトップクラスの人がまだ持っているということが結構問題かもしれませんね。

大沼

現在、日本の動物園に対しては、寄付はどれぐらいあるのでしょうか。

村田

寄付はあるのですが、公益財団法人の場合は巨額のお金を得られないシステムもあるのですね。なかなか公立の動物園で寄付を受け入れるシステムというのも難しくて市全体の雑収入になってしまう。

大沼

一般財源になるわけですね。

村田

そこから動物園に下りてくればいいのですが。京都市動物園で、ある女性が高額寄付して、それがゴリラ舎の建築費に補塡された例はあります。

人間中心からの脱却

大沼

最近は、例えば夜に動物を見せることもやられるようになってきましたね。

村田

夏場にやっていますが、動物のストレスの問題もあります。

動物の福祉とかエンリッチメントとか行動展示と言われているのは、ほとんど来園者が訪れる時間帯にやっているわけです。当然行動展示もお客さんが見ているときにやっている。

でも、動物たちが過ごす1日のうちの16時間は寝室なのです。しかし、その時間帯におけるエンリッチメントや福祉は、あまり考えられていなかったのです。動物の福祉と言いながら、本当に動物のためにはやっていなかったという反省点があります。

長谷川

哺乳類ってほとんど夜行性ですよね。昼行性で多いのが霊長類、サルでしょう。人間はサルだから、哺乳類全体の中では昼間動くマイナーな存在なんですけれど、自分たちに合わせて、95%の哺乳類を昼に見せようとしているわけですよね(笑)。

私は動物園に対して1つ思うのは、社会性のある動物を1匹ずつ飼うようなことですね。あれは、彼らにとってすごくかわいそうなことだと思います。誰か仲間が一緒にいるのが当たり前の状態の動物を、お金がかかるからとかいろいろな理由で1匹しか飼えない場面はたくさんあります。

村田

でも、動物園で社会性の再現をするのは難しいですね。かなり広大な面積が必要になりますし。

長谷川

相性もありますし、難しいですよね。

村田

人間の考えでペアにしたとしても、喧嘩をしてしまったり。

長谷川

あと、あんなに人に見られているというのはやはりストレスでしょう? ですので、「見えない、見えない」と怒るお客には「ちょっと、まあまあ」と制して、チラッとしか見えないような作りは双方にいいんじゃないですか。人間が動物について学ぶ意味でも。

村田

でも最近は、来園者から隠れ場所がないというクレームも寄せられるんですよ。そういうところを見ている人も出てきたので、動物園も対応すべきでしょう。

動物の尊厳を守るということだと思うのです。生き物の権利を守る、生き方、幸福を保障する。その後に、動物と人間との触れ合いを導入しないといけない。人間中心に考えていると、動物園は将来もたないのではないかと思います。

動物園は自然への扉とよく言われるのですが、本当にそういう役割を果たせるのかどうかが問題です。

大沼

「動物園に行ったから、次はアフリカのサバンナに行ってみたい」という人が出てくればいいわけですよね。

入場料が安すぎる?

大沼

欧米の動物園は割と入場料が高いですよね。日本でも白浜のアドベンチャーワールドなんかだとやはり高くて4000円ぐらいします。高くすることでむしろ本当の動物好きな人だけが来るわけですね。

価格を高く設定して、少数の人たちにサポートしてもらうというのも1つのやり方ではないかと思うのですが。

ヒサ

でも、やはり敷居を低くして、なるべく大勢の人に見てもらいたいというのが公立の動物園の役割としてはあるのではないかと思うんです。

村田

それは議論されていますよ。ただ、難しいのは博物館相当施設なので、高額な入園料は求められないんです。

大沼

ああ、なるほど。

村田

多くの公立動物園はスタート時点でそういう考え方が導入されているため、そういう歴史があるのですぐに変えるということは難しい。

大沼

そうすると、やはり低い入場料でより多くの人を集めるという方法がよいですか。

村田

なかなか難しいですよね。無料にして社会教育の役割を果たすのか、高額な入園料を取って質を高めていくのか。

長谷川

お金持ちから大量に寄付を取ってタダにするとか(笑)。

村田

でも、タダにすると、やはり質は落ちるかもしれません。

ヒサ

野毛山はタダですよ。横浜市民は、皆野毛山の経験があるんですよ。幼稚園のときにも小学校のときも行っている。大人になっても行きやすい場所で、ふらっと寄れる。

村田

エントリーとしてはいいですけれど、やはり将来的に不安はありますよね。

ヒサ

いや、不安は全部にある(笑)。例えば、横浜の金沢動物園は非常に希少な草食動物をいっぱい入れたけど、あんまり希少な動物を入れたものだから、それらが死んでしまったあと後継者がいないんですよ。希少すぎて、もう海外から入れられないし、繁殖もできなかった。結局がらんと空いてきてしまうんですよね。

研究ということから言えば、普段身近なフィールドで出会えないような動物たちを身近に観察できるということは重要でしょう? 動物園が研究施設になるとしたら、そういう希少な動物をコレクションすることも研究の対象になり得るわけですよね。

村田

動物を飼う限りは、やはり100パーセント生かすために研究は必要だし、子どもたちを育てる社会教育施設にすべきだと思います。

ヒサ

研究者がいなくて、研究の受け皿がなくて、その研究の記録が残されないという状態で希少な動物を飼っていてもしょうがないですよね。

村田

そうなんですよ。小さなときに感性を養って、大きくなってまた自然との触れ合いを大切にする、自然環境を守るような施設にしていく。そのためにはやはりサポートが必要なので、研究の充足も教育も必要です。

動物の福祉と鳥の展示

大沼

動物の福祉との関連でお聞きしたいのは、鳥の展示です。ケージの外に鳥がいると思ったら羽が切られている例もありますが、どういうふうに鳥の展示は工夫されているのですか。

村田

実はヨーロッパ、アメリカで大きな問題になりつつあります。昔は、「断翼」と言って、片翼を落として飛べないようにしていたり、「切羽」と言って、羽を切って飛べないようにしたりしていたのです。

今は福祉上、当然断翼は禁止されている。切羽も繁殖をするときにバランスを崩すので、うまく交尾できずに繁殖成功率が落ちるので、それもいいのかという議論がされています。オープンなスペースの中で鳥をたくさん飼うことは将来なくなる可能性があります。

長谷川

ビュンビュン鳥が飛んでいるシンガポールの動物園がありますよね。ああいうところは何もケージがないのですか。

村田

あれは意図的に自由に飛ばしています。マレーシアの動物園も遠くに飛んで行って、また戻ってきています。東南アジアは完全に放し飼いです。日本では外来生物法があるからできないですけれど。

長谷川

オーストラリアに行ったときに、キャンベラのオーストラリア国立大学のキャンパスに入ったら、オウムがバンバン飛んでいた。キングパロットとかパラキートとか赤や緑のものがバンバン飛んでいて、いったい何だと思ったら、これは自然の生息地なんだと分かって(笑)。

ヒサ

ズーラシアの鳥舎の中にはスズメがいっぱい入っているよね。

村田

入っていますね。キジ舎の餌は、放っておけばほとんど野鳥の餌になります。

動物園と文化的背景

大沼

動物との触れ合いはどういうことをしているのでしょうか。

村田

モルモットとかネズミを使った触れ合いはやっています。あとは餌やり体験です。

ヒサ

触れ合いは人気でしょう?

村田

人気ですが、本当にそれがいいのかどうかと言われると、難しいところがありますね。小さいときの体験は重要なんですが、それが動物にとって過酷なストレスになる可能性がある。

長谷川

アザラシのお鼻を触ろうとか、そういうのがありますよね。カワウソと握手とか。小さい筒みたいなところから向こうが顔を出してくるところに子どもがちょん、とかやる。すごく人気なんでしょう?

村田

人気なんですよ。

長谷川

あれ、感染とかも含めて怖いなと思う。

大沼

ハンブルグの動物園に行ったときに、子どもたちに膝をつかせて1列に並ばせて、その背中の上を小型のレッサーパンダか何かを走らせるんですよ。子どもたちは大喜びでしたが、日本ではたぶん無理でしょうね。

村田

今、触れ合いは難しいですね。近くで見るのは大丈夫なのですが、本当に触れるというのはどうなのかなという議論は出てきますね。

それと、日本ではあまり語られませんが、一番大きな問題は安楽死です。海外では高齢の動物とか病気の動物は、苦しみを与えないために動物園で安楽死をさせる。日本ではまだ公には議論されていませんが。

ヒサ

日本人は、病気になっても死ぬまで面倒をみようというメンタリティがあるから。日本は虫でも鳥でも全部命じゃないですか。でも、西洋はちょっと違いますね。ある意味モノだったりするし、殺すことを平気で考える。

大沼

そういう動物観の違いがあるわけですね。

村田

動物観とか文化というのが動物園の基盤になっていますから、今後、日本の文化が変われば動物園も変わっていくでしょう。

ヒサ

動物とどう接するかということが問われるでしょうね。例えば、海外でトラやゾウを保護しろと言いながら、一方日本でクマが人里に下りてきて人が怪我をしたら殺しましょうと言う。街に出てくれば害獣で、テレビで映せば、かわいい動物になったり、野生動物との付き合い方のルールがないわけですよ。普段から考える習慣がどこにもないんですよね。

所轄官庁もないでしょう?日本列島では何千年も動物と共存してきたけれど、イノシシはどれぐらい獲っていいのか、クマは何頭までいたらいいのかわからない。シカの数がどんどん増えてきたら、慌てて猟師を増やせとかオオカミを放せと言ってみたり、目茶目茶なわけです。そのなかで、今は動物園ぐらいしか動物のことを考えてくれる組織がないわけですよ。それで、問い合わせると、「ペンギンは裏口から入ったよ」では困る(笑)。

村田

ヒサさんが言われたように、動物園って動物だけを飼っているわけではなくて、文化的な背景と非常に密接に関わっているのです。

そこで、動物園を造語したと言われる福澤諭吉創立の慶應義塾大学に動物園に関する学科もしくは講座を設けてもらいたいと願っています。動物園のバックグラウンドを支えている日本の経済とか社会とか政治との関連を学問領域で有機的につなげていかないと、動物園の明るい将来はありません。単に動物を見せてお金を取るという時代ではないわけですから。

生息地とのつながり

大沼

これから人口減少で野生生物と人間との軋轢が地方ではますます増えてくると思うのです。対処のノウハウを蓄積してくれる機関の役割も動物園に担っていただかないといけない。

村田

動物園はそういう意味では非常に貴重な施設です。単なる動物学ではなくて、動物を取り巻く経済、社会、有機的な連関の中で学問体系として動物園学を構築し、それが支える動物園をつくりたいと思っています。

戸川

上野動物園にいるのはスマトラトラなのですが、スマトラ島は今、パームオイルを取るために熱帯雨林がほとんど伐採されてしまい、どんどんトラの棲み処がなくなって数が減っている。そこで、「トラ大使」のワークショップでは、現状を伝えてから、プランテーションの経営者、そこで働いている人、家畜をトラに殺された人、レンジャーなどの役になってロールプレイをし、最終的には子どもたちが考えた言葉で紙芝居にしているのです。

最初は「トラはどこにいるの?」と聞いたら「動物園」と言っていた子どもが、3年の間にいろいろ勉強して生息地の危機的な状況に対し自分たちに何ができるかまで考えるようになる。子どもの力って大きいと思います。

大沼

今、動物園では、生息地の現状とか密猟についても情報提供があるのでしょうか。社会と自然の統合的なイメージを持つような方向は入れられているのですか。

村田

例えばアメリカのブロンクス動物園のコンゴの森という展示や、ヨーロッパの動物園におけるマダカスカルの自然を模した展示は、開発との関連を前面に打ち出した大規模展示になっています。

日本でも、上野動物園もズーラシアも、動物展示の前には必ずそういう解説板があります。 なぜ動物園でその動物を飼わなくてはいけないのか、この動物が野外ではどのような状況に置かれているのかということを伝えることは常識になっています。

ヒサ

現地に行くとやはり経済の問題なんですよね。パームオイルは環境に優しいからとヒットしたわけです。でも現地では、熱帯雨林を全部焼いて、パームヤシのプランテーションをつくるわけでしょう。

ただ、現地では、自分たちだって電気が欲しい、学校が欲しい、病院が欲しい、豊かな生活を目指して何が悪いの?となる。マクロの目で見れば、環境破壊で悪いに決まっている。でも、彼の人生の中では豊かになりたいことは全然悪いことではない。そういう場面があちこちにあるわけです。

今ゾウの密猟が話題になっていますが、アフリカに行くと、いろいろな密猟があるわけです。ブッシュミートと言って、ガゼルとかを獲って食糧にするための貧乏な人がやっている密猟もあれば、象牙やサイの角を取って大量の金を稼ぎたいという密猟もある。

一方、レンジャーだってゾウがかわいいから守っているわけではなくて、ゾウがいなくなると観光資源がなくなって困るから、国の経済のために命をかけて鉄砲で戦うわけですよね。だから、いろいろなところで全部、経済に置き換えないと動物を守れない。

動物園の中でいくら一生懸命動物を増やしても、その動物たちを返す場所が破壊されていたら、返す場所がないわけです。返す場所がなくなる理由は、ほとんどがいわゆるグローバルな経済行為なんですよね。

大沼

動物園に行って、そこから、世界や社会や経済の仕組みにも関心を持ってくれないといけませんね。

村田

動物園から世界を変えることができればいいなと思っています。

長谷川

その意味で、この「トラ大使」というのはいいアイデアですよね。一人一人が動物の大使って、とてもよいと思います。

動物との付き合い方を学ぶ場

大沼

小説や漫画とかアニメでキャラクター化された動物というのを良く見るわけですが、われわれが抱いてしまう動物に対する先入観というものがありますよね。

ヒサ

バンビなんかで「きゃー、かわいい」なんてね。私は、例えば子ども向けに「オオカミとヤギさんが仲良くなりました」とかいうのは嫌いなんだよね(笑)。

サバンナに初めて行った人は、まずは動物がいっぱいいることにびっくりして「誰が餌をあげているんですか」なんて聞くわけです(笑)。皆、自給自足で生活しているんだけど、その現場を見ると、皆ショックを受ける。ライオンがイボイノシシを捕まえて、お腹を押さえて朝からバリバリ食べている。そのお腹の中から胎児が出てきて、それをまた口の中に入れてガブッとかみ砕く音が聞こえるわけです。

ハンティングの場面では、ある意味、草食動物のガゼルのほうに感情移入して見るわけです。ところが、ライオンが何回も狩りに失敗すると、今度は狩るほうにだんだん感情移入してきて、「あっ、やっと捕まった」と言ってほっとする。だから、感情移入というのはどちらにでもできるんです。

それは基本的に動物と向かい合った経験があまりないからです。そういう意味で動物園は動物と人間が向かい合うことを皆に考えさせる場になってほしいんだよね。

戸川

野生動物との付き合い方なんですが、知床のキタキツネは観光客が餌をあげるので、キツネの方も車が来ると寄ってくるようになってしまっていますよね。動物園では近くで見られますが、野生動物はある程度の距離を保つことが必要で、そうしないと共存は難しい。私たちは「暖かい無視」と言っているのですが、暖かく無視するという意味が、子どもたちに伝わると良いなと思うのです。

大沼

なるほど。長谷川さんはフィールドで動物に触れられているときはどんな関係を保っておられるのですか。

長谷川

つかず離れずですね。双眼鏡で観察するような距離です。アフリカでチンパンジーの研究をしていたときは、京都大学の先生たちがバナナとかで餌付けをしていたので、よく慣れているのは3メートルぐらいの距離までは来るのですが、そういうのは少なくて、ほとんどは10メートル以上離れて双眼鏡で観察するしかないんですね。

アフリカにいたときに私が1番怖かったのは、チンパンジーの集団をヒョウが後をつけている。それを私たちは地上で見ているわけですが、チンパンジーはサッと木に登って、木の上でヒョウに対して枝を投げつけたりして怒っているわけですよ。だけど、こっちは木に登るわけにいかないので、ちょっと後ろにヒョウがいるわけ。こんなに怖かったことはなかったですね。

あと、夜はライオンが野生のチンパンジーを食べに来たことがあった。何週間かたったら、チンパンジーの赤ちゃんが1匹いなくなっていて、ライオンのフンがドンと落ちていた中にチンパンジーの毛とか頭蓋骨が入っていて、ああ、これが食べられちゃったのかと。

2年間いて、森にライオンが1回だけ来たんです。肉食動物とわれわれの間に柵がないということがこんなに怖いことかと本当に思いました。

大沼

動物園では種間の違う同士でのストレスはないのですか。

村田

ズーラシアに新しくできたアフリカンサバンナの展示では、4種混合の展示をやっています。キリンとシマウマとエランドと肉食獣のチーターです。

初めはストレスみたいなものがあったのですが、ずっと続けていると、種間であいさつをしたり、心の探り合いをしたりしているような行動が見られて、すごく面白いです。

長谷川

それは面白いですね。

村田

遠慮しながらであったり、お互いに積極的に近づいたり。チーターは、一番弱い立場にあって自分より大きいものは襲えない。たまにシマウマにちょっかいを出すのだけど、シマウマが本気になれば、たぶんチーターは大けがを負います。そういう追っかけ合いを楽しんでいるような雰囲気に、今はなっています。

先ほど言われた社会性のない状況で単独で檻ごとに種を飼っているというのはかなりかわいそうなことですよね。そろそろ人間中心的な考えを変えないといけない。環境の中に生息している1種の動物として自分たち(=人間)を見ないと、我々の将来も危ない。動物園を、そういうことも学べる場にしたいですよね。

理想の動物園とは

ヒサ

例えば、村田さんが理想的な動物園をつくりたいと思ったら、どういうふうにしていきたいですか。

村田

日本で最初に動物園をつくろうとしたときの考え方ですね。学術、学問が基盤にあって教育普及がある。質の高いレクリエーションはそういう支えがないとできないはずです。やはり動物園学と呼ばれるような、社会や経済や政治も含めた中でちゃんと成立する動物園を目指したいと思っています。

大沼

ほかの皆様にもご自身が動物園をつくるのであればこういう動物園をつくりたい、という願望をお1人ずつお話しいただければと思うのですが。

戸川

子どもたちの教育の場になる動物園で、動物から社会が学べるところです。人間の社会、トラの社会、サルの社会などがそれぞれあり、人との軋轢も起きているという現状を知って考える教育ができるところですね。

長谷川

私は永久にできないかもしれませんが、動物が自分の意思でそこにいて、扉を開け閉めするのも自分の意思でできるような場所ってできないかなと思うのです。動物学者がそんなことを言ったらいけないか(笑)。

大沼

それをわれわれが待っているわけですね。いいですね。ヒサさんはいかがですか。

ヒサ

日本地図に「日本にはこういう動物が分布しています」と書いてあるわけです。シカがいたり、クマがいたり、タヌキがいたり。ところが、都会で暮らしている子どもたちはちょっとハイキングに行くぐらいでは動物に会うチャンスなんてないわけですよ。だから、動物園の役割はすごく大きいと思うのです。

世界中にいろいろな動物がいて、何千年、何万年と人間が一緒に生きてきたのに、トラやゾウが子孫を残すことをやめたら、もう2度と会えないわけです。その重大さを知るチャンスというのは動物園で動物に会うことだし、そこで飼育の人なりビジターセンターみたいなところできちんと動物の位置づけを知ることだと思いますね。

映像で残せるからいいじゃないかと言う人がいるのですが、映像の動物は死なないし赤ちゃんも生まない。でも、動物園では命のサイクルが見られるわけです。それも含めて動物園の役割はあるわけです。

地方公共団体がやっているということは、市民が共通でその動物を飼っているという意識でしょう。動物が死ぬと皆が花束を持っていったりするのは、市民たちが「今、この動物と一緒に暮らしているのだ」という感覚を持てるからです。

行政そのものが動物園の役割をもっと理解してくれて、そこでいい市民が育てば、行政が受益者になるわけですよ。環境に優しくて、命を大事にする子どもたちが大人になれば、ゴミは捨てない、いじめはしない、いい市民が育つわけですね。単なる娯楽や集客だけではなくて、そういう動物園であってほしい。

大沼

村田園長、慶應義塾の卒業生は経済界に非常に多いんですね。特に、こういう考えを持ってほしいということがありましたら。

村田

経済の力は非常に強いので経済と動物園をどうリンクさせていくのか。そういう仕組みづくりを企業などと一緒に考えていきたい。

例えば、企業ごとに何か展示を持つということも考えられるし、サポート的な面でもいいのですが、動物園に来ればその企業の方向性が見える、社会の役割が見えるという仕組みができればと思っています。

理想的には、社会全体が動物園みたいになれば、動物園は必要なくなるのではないかと思っています(笑)。僕なんかは、山の中にいて、野生動物が見られるような状況があれば幸せになれる。人間中心主義ではなくて、同じ生態系の中の1種の動物として暮らせるような社会を感じさせる動物園にしたいなと。

大沼

私の個人的な印象なのですが、学生に聞くと、デートのときは動物園より水族館に行くと言うのです。私が理想とするのは、付き合い始めたカップルが、「じゃあ、動物園に行こうか」と言えるような動物園です(笑)。

村田

でも、アンケート調査では、レストランとか、街の映画館よりも、「動物園に行こう」と誘ったときのほうが成功率は高いそうですよ。

大沼

それは存じませんでした。やはり同じ動物を見て共感するんでしょうか。

村田

動物園って何か安心感がありますよね。小さいときに行ったイメージもあるし。

戸川

デートのときに、動物を見ながら生息地の保全の役に立ちたくなる、そんなヒントが見つかるような動物園がいいですね。明るく未来が語れて。

大沼

そうですか。それでは学生に「最初のデートは動物園に行くとうまくいくらしいよ」って伝えます(笑)。

村田

まあ、そのときはズーラシアですよ(笑)。

大沼

話も尽きないですが、今日は本当に有り難うございました。

(2017年4月27日収録)

大沼

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。