慶應義塾

【特集:日本人の「休み方」】座談会: 「休み方」が変われば「働き方」が変わる

登場者プロフィール

  • 梶木 繁之(かじき しげゆき)

    株式会社産業保健コンサルティングアルク代表取締役

    1997年産業医科大学医学部卒業。医師。博士(医学)。労働衛生コンサルタント。新日鐵㈱君津製鐵所産業医等を経て2017年より現職。産業医科大学産業保健経営学非常勤講師。専門は産業医学、健康経営など。

    梶木 繁之(かじき しげゆき)

    株式会社産業保健コンサルティングアルク代表取締役

    1997年産業医科大学医学部卒業。医師。博士(医学)。労働衛生コンサルタント。新日鐵㈱君津製鐵所産業医等を経て2017年より現職。産業医科大学産業保健経営学非常勤講師。専門は産業医学、健康経営など。

  • 加藤 晋也(かとう しんや)

    その他 : 株式会社デンソー人事部長商学部 卒業

    塾員(1994商)。大学卒業後、日本電装(現デンソー)入社。東京支店にて市販営業担当後、デンソー労働組合に出向。2009年からアメリカ現地法人に出向。人事部人材育成室長を経て2018年より現職。

    加藤 晋也(かとう しんや)

    その他 : 株式会社デンソー人事部長商学部 卒業

    塾員(1994商)。大学卒業後、日本電装(現デンソー)入社。東京支店にて市販営業担当後、デンソー労働組合に出向。2009年からアメリカ現地法人に出向。人事部人材育成室長を経て2018年より現職。

  • 石原 直子(いしはら なおこ)

    その他 : リクルートワークス研究所人事研究センター長法学部 卒業

    塾員(1996法)。2001年よりリクルートワークス研究所に参画し、人材マネジメント領域の研究に従事。15年機関誌Works編集長。17年より現職。女性リーダー育成、働き方改革等を専門とする。

    石原 直子(いしはら なおこ)

    その他 : リクルートワークス研究所人事研究センター長法学部 卒業

    塾員(1996法)。2001年よりリクルートワークス研究所に参画し、人材マネジメント領域の研究に従事。15年機関誌Works編集長。17年より現職。女性リーダー育成、働き方改革等を専門とする。

  • 島津 明人(しまず あきひと)

    総合政策学部 教授

    早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(文学)。東京大学大学院医学系研究科准教授、北里大学人間科学教育センター教授等を経て本年4月より現職。専門は臨床心理学、精神保健学。公認心理師、臨床心理士。

    島津 明人(しまず あきひと)

    総合政策学部 教授

    早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士後期課程修了。博士(文学)。東京大学大学院医学系研究科准教授、北里大学人間科学教育センター教授等を経て本年4月より現職。専門は臨床心理学、精神保健学。公認心理師、臨床心理士。

  • 山本 勲(やまもと いさむ)

    商学部 教授

    塾員(1993商、95商修)。2003年ブラウン大学経済学部大学院博士課程修了。経済学博士。1995年日本銀行入行。日本銀行金融研究所企画役等を経て07年より現職。専門は応用ミクロ経済学、労働経済学。

    山本 勲(やまもと いさむ)

    商学部 教授

    塾員(1993商、95商修)。2003年ブラウン大学経済学部大学院博士課程修了。経済学博士。1995年日本銀行入行。日本銀行金融研究所企画役等を経て07年より現職。専門は応用ミクロ経済学、労働経済学。

2019/04/05

「休み方」から「働き方」を考える

山本

今日は「日本人の休み方」について皆さまと考えていきたいと思います。今年のゴールデンウィークは、暦上、10連休になる方も多いようですし、またこの4月から「働き方改革関連法」も施行されるタイミングでもあり、「休み方」を通して「働き方」も考えていければと思います。

まず、それぞれの方から簡単にどんなお仕事をされているか、それから、ご自身の好きな休みの取り方、休みの過ごし方を一言お願いできればと思います。

まず、私から申し上げますと、私は労働経済学を専門にしており、主に働き方について、データを使っていろいろな検証をしております。休み方については直接的な研究はそれほどしていませんが、普段は働くほうから人の行動を見ているので、その裏にある休み方という視点から日本人の特性を議論できることを楽しみにしております。

私の理想とする休み方はメリハリのある休み方でしょうか。仕事の忙しい時期とそうでない時期の差がかなり激しく、忙しい時期は、それこそ徹夜に近い形で仕事をしているので、休むときには何もしないで1週間ぐらい休みたいと常々思っています。

石原

私は、リクルートワークス研究所で人事や人材マネジメント、企業における人的資源管理というテーマで研究を重ねてきました。

2014年ぐらいから、政府が「働き方改革」を言い始めるよりも少し早く、長時間労働の改善に向けての研究に取り組んできました。その前に女性の活躍の研究をしており、なぜ女性が働き続けられないか、なぜ女性が企業の中で昇進できないのか、ということの裏には、「長時間労働を厭わない」という暗黙のルールがあることに気づいたのですね。

ここ数年、働き方改革の議論が盛んですが、山本さんがメリハリとおっしゃったように、日本の多くのワーキングパーソンがメリハリをつけて働くということに、まだ慣れていないのが現実なのかなと思っています。

私が好きな休み方ですが、子どもがまだ小学生で、野球をやっているため、私も土日すべてをグラウンドで過ごしているんです。そこで、息子と同じ日に休んでも辛いだけだと最近分かってきて(笑)、私だけが休める日があるというのが一番いい。これが、今の私の「休み」に対する要望です。

島津

私は、実は学部を卒業した後、テレビ局で営業をやっていて、そこで目茶苦茶に働きました。10時〜6時の仕事でした。これは朝10時に出勤して、翌朝6時に帰ってくるということです(笑)。この生活はあまり良くないのではと思い、もう一度大学に入り直して、それから働く人たちのストレスの問題やメンタルヘルスの研究をずっと続けています。

職場のメンタルヘルス、産業保健を中心に研究してきましたが、いい働き方をするためには、やはりいい休み方をしなければいけない、ということに気付き始め、最近は、働き方だけではなく、オフ・ジョブ・エクスペリエンス、つまり仕事以外の経験も少し研究しています。例えば、余暇をどのように過ごすか、気分転換はどうすればいいか、ワーク・ライフ・バランスをどうすればいいか、また「リカバリー」と言いますが、疲労回復をどのようにするかといったことです。

2005年に、オランダに在外研究に行ったのですが、彼らの労働生産性は大変高いのに、大体夕方6時ぐらいにはさっさと帰って、夜、テレビでサッカーを見ながらビールを飲んで過ごしている。さらに、7、8月はバケーションで誰も大学にいない。そういった人たちを目の当たりにして、彼らはなぜそんなにパフォーマンスが高いのだろうと考えるようになりました。

自分の休み方で言えば、オランダ留学中に1人目の子どもが生まれ、その3年後に2人目の子どもが生まれました。このときは東大の医学部に所属していたのですが、2週間だけ育児休暇を取ってみました。一応、医学部の教員の中で第1号でした。

梶木

産業保健コンサルティングアルクの梶木です。私は新日鐵で産業医としてのキャリアを始め、その後、長く大学で教員をしていましたが、一昨年より企業の産業医と産業保健活動の支援を行う会社を設立し、中小企業から大企業を顧客として働いています。

最も長いキャリアである大学時代は、産業医向けの研修会を土日や夜に行っていたこともあり、休みが削られることがありました。ただ、会社を作ってからは、自分のペースで仕事を選択できるので、休みも自分で工夫しながら取っています。

今の仕事の仕方は「ジョブ型」ですが、以前はどちらかというと「メンバーシップ型」で仕事をしていました。ジョブ型になったことで家族との時間も増えましたし、私自身も最近は趣味や体力作りのための時間を取ることもできるようになってきました。

好きな休み方は、年に数回、家族との旅行やゆったりとした時間を確保しつつ、平日の睡眠を十分に確保できるライフスタイルが理想です。

加藤

私は、デンソーという自動車部品メーカーで、人事労務関係を中心にキャリアを積んできました。今、働き方改革が盛んですが、自動車業界も「C A S E(Connectivity, Autonomous,Sharing, Electrification)」という言葉で象徴されるように大きく変化をしています。人が車を持たない、買わない、乗らない、という社会になって車が売れないときに、自動車部品メーカーはどうやって生き残っていくかが問われています。

さらに、長らく続いたガソリン、ディーゼルという内燃機関から電気自動車や水素社会になったときに、要らなくなる部品が山ほどある。産業構造が大きく変わっていく中で、当然われわれも働き方を変えていかなければいけないのです。

時代が大きく変わる中、やはり日本型の人事制度の構造的な問題があります。今の人事制度を、どのように大きく変えていくことができるか。現在、アプローチを変えていこうと思っているところです。

自分の休み方についてですが、子どもが3人いますが、だいぶ手がかからなくなってきましたので、最近は1人で休むのが好きです。一番いいのは、平日に午後休を取って、自分の好きなラーメンを食べに行ったり、自分だけの時間を半日どう過ごすかと考えるのが大好きなんですね(笑)。

「メンバーシップ型」の功罪

山本

これまで日本人は休み下手とよく言われてきましたが、それはどうしてなのかを考えていきたいと思います。早速「日本型人事制度」について加藤さんが触れられましたね。

加藤

人事的な観点から言うと、先ほど梶木さんのお話にあったメンバーシップ型とジョブ型という区分けでは、日本の企業は、やはりメンバーシップ型なんですね。つまり、職務領域が限定されていない。自分の仕事をやるのは当たり前で、その上で、どれだけプラスアルファをやるかというところも評価の対象になってきた。

すると、自分の仕事が終わっても帰ることができなくなる。チームワークで仕事しているという文化があり、これはプラス面もあると思いますが、ここに長時間労働が常態化する要因が埋め込まれていると思います。

人事制度も、日本は職能資格制度がベースで、役割を果たすことに加え、積み上げた能力をどれだけ発揮しているかを評価することが制度の根幹になっていますので、構造的にやはり長く働くことが求められてしまう。そういう制度的、社会的な背景があると思っています。

山本

いわゆる日本的な雇用慣行を持っている会社というのは、休みが取りにくい、長時間労働になりやすい人事制度があるのではということですね。

梶木

働く人の側から言えば、休みに何をするのかというポリシーがない人が多いということもあります。産業医として長時間労働者へ面談をする際に、「お休みに何をしていますか」と聞くと、「土日は平日の疲れをリカバリーするためにずっと寝ています」みたいな答えが多い。趣味がないので、結果的に時間の使い方が分からないのでは、と思うことがあります。

もう1つ、「休む」ということのかなり大きな部分は睡眠ですが、睡眠に対しての認識が、皆さん低いんですね。良い睡眠が取れた次の日は、頭がすっきりしていて、仕事のパフォーマンスも上がるはずなのですが、睡眠の重要性について子どもの頃から教育されていない。勉強も、睡眠時間を削ってやるという話になりがちです。それが、ひいては休むことに対する意識の低さにも表れていると思います。

島津

そもそも、休むとは何だろうかということですね。あなたの勤務日は月〜金で土日は休みですと。しかし、そうは言っても、研究者だったら、アイデアが浮かんだらメモをするし、文献を読み込むことなどは休日にやっている。これは休みなのかそうではないのか、非常に区別をつけづらいとも言える。

それからもう1つ、体が休んでいるのか、心が休んでいるのかということもある。体は、確かに会社に出勤していなくても、心は仕事のことをあれこれ考えている。こういった状態は休んだことになるのだろうか。何をもって「休む」というのだろうかという本質的な問題があると思うのです。

山本

確かにそうですね。

島津

また、日本人は自己というものの見方が、欧米などと比べてちょっと違うという指摘もあります。日本の場合、相互協調的な自己、つまり、「自分」というものが、相手との関わりの中で定義されている。例えば「島津家の長男」というような形で表されるわけです。その相互協調的な自己というのは、まさに日本の文化の場合、運命共同体的なメンバーシップの仕事の仕方というところにもつながってくるのではないかと思います。

ただ、加藤さんが言われたように、メンバーシップ型の仕事も悪くないところもあるんです。心理学の分類ではパフォーマンスの見方としては2つあります。1つはインロール・パフォーマンスと言って、自分の決められた仕事をどのくらいきちんとやるか。

もう1つは、アウトロールまたはエキストラロール・パフォーマンスと言い、これは職務記述書にはないけれど、自発的にどう仕事をしていくかということです。自分の仕事が決められ過ぎていると、同僚への手助け行動なんかもしないし、野球で言うと、ポテンヒットが多くなってしまう。それも困りますよね。

そのへんの塩梅をどうするか。日本では「情けは人のためならず」と言いますが、相手を助けると、結局いつかは自分に返ってくるという文化も日本は持っている。そのあたりをどう折り合いをつけていくかが課題かなと思っています。

同調圧力の強い日本企業

山本

非常に示唆に富んだご指摘ですね。相互協調型の自己というのは、メンバーシップ型とか、あいまいな職務とかにも関係してきていると。

石原

私が今、40半ばですが、その上の世代と、今の20代ぐらいの世代は、感覚がだいぶ違うのではと思います。いわゆるオールド・ジェネレーションの人たちはやはり休み下手です。

人材マネジメントの観点から言うと、メンバーシップ型であり、相互協調型だったのだと思うんですが、基本的に自律をあまり求められないので、他者と違うことをすることに関して自信がない。これが、日本のビジネスパーソンの特徴だと思うんです。

これは、子どもの頃からの教育もそうです。自分の子どもを見ていても、道徳の授業でも正解を導き出さないといけないという教え方なんですね。「どっちの考え方にも言い分があるね」で終わらないんですよ。

正しい考え方、つまり皆が賛成してくれる考え方が求められていて、そうではない人は基本的に社会の中では損をするということが、脈々と教え込まれている。「人と違っていい」という考え方が支持されることが本当に少ないんですよね。

私も、一企業のマネジャーとして、若い人が、「仕事が終わったので、今日帰ります」と言ったら、ちょっとムカッとするんですよ(笑)。私と同じくらいやってほしいとか、私が満足いくまでやってもらいたいと、言いたくなる気持ちが私の中にもある。

梶木

昭和的なんですね。

石原

そうなんです(笑)。私は初職が銀行なので、最初のワークルールが伝統的日本企業のものなんですが、リクルートもやはり同じで、同調圧力がすごくあると思うんです。

そういった中では、「私、7月に2週間休みを取るので」と、ほとんどの人が言えない。休みと仕事のバリューが、明らかに仕事のほうに偏り過ぎている。これが、私の世代よりも上の標準的なビジネスパーソンの価値観だと思うんですね。

しかし、若い人はだいぶ違ってきています。自分と他者が違ってもいい、人が働いているときに自分が休んでもいい、という考え方は日本型雇用の中で通用しない、という価値観は、何とかすべき時期にきていると思います。

山本

個々人が多様な発想をしてイノベーションを生んでいくことが求められる時代には、今までの価値観はなかなかそぐわなくなってきているのでしょうね。

以前、私は、日本でバリバリ働いている人がヨーロッパに転勤した際、労働時間が短くなるのか、という研究をしました。すると、現地採用で同じ仕事をしている人と比べると、やはり日本人のほうが長くあいまいな仕事をたくさんやってしまうようでした。しかし、それでも労働時間は日本にいた時よりも確実に短くなっていました。

ところが、そうした人たちも日本に帰ってくると、また長くなってしまう(笑)。結局、それは周りの影響を受けやすい、やはり相互協調というか、マジョリティーの働き方に染まってしまうということでしょう。ひとりだけで多く休もうとしても、すごくコストとストレスがかかってしまう社会が日本だということです。

それが、有給休暇の取り方にも密接に関わっていて、有給休暇消化率を国別で比較すると、日本は圧倒的に低いですよね。ヨーロッパの半分以下という統計もあります。一方で法定休日、祝日が多いんです。そこでカバーしているようなところもあると思います。

石原

同調圧力の中で休みを増やしているんですね。

山本

そういう意味では、意図したのかどうかは分かりませんが、日本人の休みを増やす上では、有効な策だったのかもしれません。

大量生産時代の働き方

加藤

ビジネスの観点で言うと、これまでの働き方というのは大量生産、大量消費の時代に最適化されたビジネスモデルだったと思うんですね。作業を徹底的に標準化し、誰がやっても同じようにできるようにする。すると同調圧力が働きやすいわけです。標準化をし、効率化を進める中で、皆が同じように考え、同じ作業ができる人をたくさん育成してきました。

しかし、これから、おそらく全く違う社会が来るんです。大量生産、大量消費の時代から、よりオーダーメイドの時代、またはシェアリングでいいような社会に変わってくるときに、今のままの考え方だとビジネスをやっていけなくなると思うんですよね。

石原

イノベーションは多様な人たちの力でということですよね。

加藤

そうですね。これを日本でやっていく上で、一番障害だなと思うのは、誤解を恐れずに言うと、雇用調整が難しいということですね。今、事業が大きく変わり、足りないエンジニアをキャリア採用などでどんどん採用している。でも、技術が陳腐化したとしても雇用は守らなくてはならない。

一方、海外の競合他社は必要なときに必要な人材をサッと集めて、逆に陳腐化した技術の部門の人員は解雇する。これから日本はこういうところと競争していかなければいけないのですが、圧倒的に不利ですよね。たぶんビジネスの現場では、このようなことで皆、悩んでいるんだろうと思います。

さらに、日本企業は雇用調整が難しいので、仕事の量に対して人員は少なくしている。景気の循環は残業時間の多寡で調整するという仕組みになっているんですね。

山本

いわゆる「残業の糊代(のりしろ)説」というものですね。

石原

雇用を保障しなければならないという圧力の中で、正規社員の数はできれば絞りたいという傾向は、1990年代ぐらいから顕著で、特に2000年から2010年ぐらいまで、非正規社員の比率がグーっと上がっていくんですね。そして、バッファーの部分は、残業と非正規の方にお願いしようということになっていきました。

一方、無期で雇用を保障されている人は、無理して長時間働くことも当然、という無言の圧力を受ける。そうすると、派遣の方にお願いできない仕事は正社員が引き取ることになり、様々な仕事が降りかかり、1日の4割ぐらい、本来の業務ではない仕事をしているような状態の中で、パフォーマンスを上げろと言われる。そうすると、休めないですよね。

長期休暇を増やすには

山本

日本で取りにくいと言われる長期休暇についてはいかがでしょうか。

島津

同僚がヨーロッパにいるのですが、例えばオランダだと、彼らはだいたい7月初めからパーッと自分の国からいなくなってしまう。それで、最初の2週間は徹底的に遊ぶようなんです。

その後は自分のために結構時間を使っています。自己啓発のためとか、春学期中にできなかったデータ解析や論文執筆とか、新しいアイデアを練ったりして戦略を立て、9月からの新しいスクールイヤーやビジネスイヤーに備えているようです。

1カ月から1カ月半ぐらいそういう休みがあると、フェーズを上手く自分で区切り、戦略的に使えるんだと思います。最初の2週間は、まったくメールを見ないんですよね。2週間後からときどき見るという感じなんです。

山本

日本人のお盆休みのような1週間程度の休暇では、最初は遊んで、次はちょっと自由な発想で仕事に備えてといったことは、たぶんできないですよね。日本の問題としては、やはり休暇が短いということがありますね。

島津

今、「ポジティブ・オフ」という名称で政府でも議論が始まっていますが、日本人に合わせた長期休暇のあり方も考えていかなければいけませんね。海外の場合はゾーン制で、州とか地域によって休暇をずらし、そのことによって交通の混雑などを回避していく。学校や会社をどのように休みにするのかですね。同じ会社でも、地域によって休む日が違うのはどうだといった議論もあるので、そこの調整はしなければいけないでしょうね。

石原

休日や長期の休暇中であっても、「つながってしまっている」ということも昨今の問題としてありますね。フランスでは「つながらない権利」と言われ、労働法の改正もありました。例えば1週間の休暇があると、私も仕事のパソコンを持って出かけてしまうんですよね。そして、メールで連絡が来ると、すぐに返事をしてしまう。

そのように、最近は「つながらない」ということがなくなってきているということが、また、正社員の人々にすごく負荷がかかる状況を後押ししているのかもしれないですね。

昨年夏に、アメリカのワーク・ファミリー・リサーチャーズ・ネットワークという、ワーク・ライフ・バランスなどの問題についての研究会に行ったときに、「バウンダリー・マネジメント」という言葉を聞きました。「つながって」いるので、家で仕事もでき、休み方がフレキシブルになっている一方、家にいる時間と仕事の時間のバウンダリー(境界)はあいまいになって、休んでいるのか休んでいないのかが分からなくなっている。

以前は仕事の時間については会社がマネジメントをしていたわけです。残業はしても、一歩オフィスを出てしまえば仕事の時間は終わりだったのが、今、バウンダリー・マネジメントは個人の責任になってしまっているのですね。

睡眠の重要性

山本

医学的に見ると、健康にとっては長期に休むのと、小まめに休むのではどちらがいいのでしょうか。

梶木

それは職種や働き方にもよると思います。現場で交代勤務をしている方と日勤の方とでは1週間から1カ月の過ごし方も異なります。

長めの休暇というのは確かに大事なんですが、人間は毎日寝ます。そこをショート・レストと見るならば、いずれの働き方にも小まめな休みが重要となります。加えて、日勤でより創造性を求められる職種になると、一定期間の長期の休みがリフレッシュや新しい発想を呼び起こすためにもより重要になるのではないでしょうか。

ただ、やはり原則は、毎日の睡眠が重要です。企業研修でもよくお話しするのですが、仕事の生産性やミスの発生と睡眠時間の関係を調べた論文があり、1日3時間しか寝ない人と1日9時間寝ている人を1週間比べると、仕事のミスの割合が15倍ほどになってしまいます。

石原

完全に有意な差があるわけですね。

梶木

そうです。だから毎日、そういう睡眠負債をなるべくためないようにしながら、時折少し長いスパンの休暇を取る、ということが大事なのだと思います。

また休みをアクティブに過ごす方もおられますよね。休みに遊んでいるときも体力は使いますので、そのあとの休養・睡眠もしっかり確保する必要があります。また別の研究ですが週に5日間、1日30分程度の軽いウォーキングをすると、寝入りが良くなり、夜中に目が覚めにくくなることが知られています。

ですから理想的には、定期的に軽く体を動かしながら心身ともにリフレッシュしつつ、睡眠の質を上げ、頭がしっかり回るように休息を取るのがすごくいいと思います。

石原

私の知人に、長らく米系投資銀行に勤めた後、最近になって国際機関に転職した方がいるのですが、彼女は昨年夏に、初めて1カ月の長期休暇を取ってみたそうです。

長期で休むことは当初は大変怖くて、「私がいないオフィスは回っているんだろうか」と、最初の1週間は気になって仕方がなかったそうです。でも、次の1週間になると、慣れてきて仕事のことを考えない時間が徐々に増えてきた。それで、最後の1週間は心から解放されて、「本当にリフレッシュするというのはこういうことか」と思いながら、日本に帰ってきたそうです。

もちろん、日々リカバリーしていく必要があると思いますが、このように、長期休暇でたまったものをデトックスするみたいなリカバリーも大事なのでしょうね。

どうやって「リカバリー」するか

島津

リカバリーというのは、基本的には仕事をしてヒートアップした心身をいかにクールダウンさせるかということですが、大きく分けて、外的なリカバリーと内的なリカバリーというものがあるんです。

外的なリカバリーというのは、仕事以外の時間をどのように過ごして、クールダウンさせるかということで、内的なリカバリーというのは、仕事時間の中で、どう小まめに疲労回復していくかということなんです。

外的リカバリーの研究では、2週間の夏休みの前後でストレスの指標の変化を見ると、休暇直後にガクンとストレスが下がるんです。しかし、悲しいかな、休みが終わった3日後からストレスが上がり始め、3週間後には元の値に戻ってしまう。

1回下がったストレスの状態を上げないで維持していくためには、3週間に1回、2週間の休みを取り続けなければならないことになります(笑)。それはなかなか難しい。もう少し短いタームで、週末をどう過ごすかとか、1日の仕事が終わったら、どうやって疲労を回復するのというところに研究が移っています。

さらにちょっとしたブレイク、例えば昼休みの過ごし方が健康やパフォーマンスに与える影響を調べる研究がトレンドになっています。

加藤

短期、長期の休み方の両方が必要だと思いますが、寿命が延びて人が働く期間が長くなることに加え、技術革新のスピードが速いので、従来1つ2つの専門性で良かったところがそうはいかず、勉強し続けないといけない。そうなると、例えばサバティカル休暇みたいな時期が必要になるのではないかと思うのです。

だから、趣味がなく、休んでもやることがないようなことを言う人には、「ある程度勉強してください」と言って長期的な変化に備えてもらう。

自分の実感としては、ショート・レストもやはりすごく大事です。毎日の睡眠、毎日の食事、毎日のお酒の飲み方、そして運動というのは、累積すると結構効いてきます。最高の状態で仕事をするにはどうしたらいいのかと考えると、毎日あるいは週単位でよいサイクルを回していくことが長く働き続けるに一番いいのではないか。1カ月休んでも、そのあと元に戻っていたら、あまり効果がないと思います。

個人的には1年前から週2回か3回のヨガを始めたんですが、これはすごく効果がありますね。

梶木

何にいいですか。

加藤

先ほどあった、「常につながっている」という状態から、1時間は完全に遮断されます。そして、体が柔らかくなることで心身も柔らかくなる感じがするんです。メンタル不調の人は体がたいていガチガチですよね。なので、自分の心身をリセットするという意味でヨガはいいと思います。

「休ませ方」を考える

山本

皆さんの話をお聞きしていて、やはり、それぞれの人が自分なりの休み方を意識することが大事なのだろうと思いました。

おそらく、休み方に対しての意識があまりないところが、日本人の一番の問題なのでしょう。長期で休むことについての意識も、それから短期でリフレッシュしてリカバリーし、睡眠負債を削っていく感覚もあまりない。

加えて、長期休暇が取りにくい1つの理由に、先ほどあったように長期休暇を取ると、職場が回らないというような心配を持ってしまう。これはやはり、チームとしての仕事の役割があいまいで、メンバーシップ型で仕事をしていることによるのでしょう。ヨーロッパの人たちが1カ月近く休みを取れるということは、その間、誰かがいなくて当然という環境ができているということでしょう。

今まで出てきたような問題点をどう変えていったらいいのか、何が必要なのかを、皆さんにお伺いしたいと思います。

梶木

まず働き方そのものをどうデザインするかを決める必要があると思うんです。メンバーシップ型でいくのか、ジョブ型でいくのか、そのハイブリッドでいくのかです。メンバーシップ型が色濃い組織の場合、強制的に休みを取らせるような環境を整えることが一番なのかなと私は思います。

ただ、冒頭でも言いましたが、じゃあ休んで何するのか。そこから先は、現状は本人に任せられているので、休み方についても、会社の人事か福利厚生が多少面倒を見ていく形も必要かもしれません。例えば、適切な休み方の講座を開くとか、趣味の持ち方とか、休日の過ごし方に関するリテラシーを高めるということです。

一方、ジョブ型であれば、自分で技術を磨き続けなくてはいけないので、休むということも、ただ単に休むのではなく、サバティカル休暇のような、自分の技術を高めるために、休みを使うというリテラシーが必要ですね。

なので、一様に社員にどういう休み方をしてくださいというのではなくて、働き方や職種に応じて、そこはやはりオーダーメイドでアレンジするべきだろうと思っています。

加藤

そうですね。私は長い目で見れば、日本の社会は必ず変わっていくと思うんです。弊社では、新卒採用の女性比率を事務系で40%、技術系で15%にすることを対外的にコミットしています。これを何十年か続ければ、確実に労務構成が変わります。そうすると、働き方も自ずと変わってくると思います。

例えば弊社では今、共働きは全体では4割を切る程度ですが、20代だけ見れば7割ぐらいです。そうすると、給料が2人分あれば別に無理して昇格しなくてもいい、という価値観の人も出てくるかもしれません。子育ても、当然2人でするものになっていくでしょう。

それをどれだけ人事制度など企業の後押しによって加速させるか。私はそれをしないとグローバル競争に勝てないと思っていますので、人事という立場で、この昭和の時代に埋め込まれた様々な構造的な要因を、1つひとつ取り外していくことを考えています。

山本

梶木さんが言われたような、まずは強制的に休みを取らせるというアプローチも人事としては考えられているのですか。

加藤

おそらく、何か1つをやれば済むのではなく、あの手この手をやり続けるという発想が必要なんだろうと思いますね。

山本

休み方についての研修などもされているんですか。

加藤

やりますね。ただ、睡眠に関する講演会をやると、「寝なくていい方法はありませんか」という質問があって社員は講師に叱られています(笑)。

経営側の意識改革が必要

加藤

日々の睡眠については、勤務から勤務までの間を一定時間空ける勤務間インターバル制度を、政府でも今、推進していますよね。

石原

でも、インターバルは8時間という話がありましたが、11時間にしないと駄目ではないかと思うんです。

加藤

そうなんです。全然足りないですよね。

山本

ヨーロッパは11時間ですからね。睡眠に対する講習会を企業がやるということは、経営サイドが企業側のメリットにもなるということを理解してくれているということですね。

加藤

そうですね。現在の会社経営の意思決定をしている人のほとんどが50代、60代の日本人男性で、この人たちに理解してもらうのは相当大変です。大きな企業ほど大変だと思います。成功体験の塊みたいなところですから(笑)。

また、仕組みとして大事なのは、給料の払い方ですよね。今、多くの企業が仕事に対して給与を払っていませんので。

石原

存在に対して払っていますね(笑)。

加藤

これを変えないといけないと思うんですが、変えることができた企業は、経営危機があった会社だけなんです。どの企業も、仕事や役割に対してお金を払わないといけないと分かってはいるんですが、いろいろな理由で変えられないんですよね。

梶木

4月施行の働き方改革関連法で「同一労働同一賃金」が入りますね。あれは、1つの大きなきっかけになるとは思うんです。

山本

この4月の法改正は、いろいろな意味でのきっかけにはなると思います。有給休暇5日の義務付けもありますし、「企業が休みを取らせる」という考え方の転換が、原動力になって、加速していけばよいと思います。

石原

そうですね。私も目標数値を設定することが、日本のビジネスパーソンを動かすには、すごく効果があると思うのです。

2016年の女性活躍推進法が施行されたときも、採用に占める女性の比率や女性の管理職の人数を目標として数字に落として発表した瞬間に本気度が変わりました。

これは明らかにビジネスパーソンの習性です。「達成できませんでした」と公表されてしまったら、相当恥ずかしいので皆、頑張る。この強制力は上手に使えばいいと思うんですね。

SCSKという会社では、有休20日全員完全取得というのを目標にして、ほとんど達成しています。話を聞くと、20日間の休みを取るために、年度初めにすべて計画を立てるのだそうです。計画を立てることでマネジャーが誰に仕事を振るかということが決められるんですね。すると、どんなことにどれだけ時間がかかるのかというマネジャーの感度が上がる。これは素晴らしいことだと思っています。

そこまでいけば、長期の休暇や男性の育児休業取得などもできるようになっていくと思います。

山本

ある人がいなくなると、マネジメントしにくいということも、あらかじめ分かっていれば対応ができる、そして、それをやることがマネジャーの大きな仕事になってくるということですね。

確かに数値目標は日本人に向いていそうですね。政府の取り組みとしても、「休み方改革」を1つのスローガンにして、数値目標を法律に入れていけば、だいぶ意識が変わる気がしますね。

石原

休みの実態を調べてちゃんと公表しなさい、休みに関する改革案を出しなさいというだけの法律でいいと思うんです。睡眠についても、睡眠の質について、企業は配慮義務がありますと明記すれば、あっという間に変わるのではないか。

女性活躍推進法に対して行動目標をオープンにしている会社が、もう1万2千社になっています。施行時点では3千社でした。同じことが、休み方についてもできる気がします。

「休む」メリットを考える

梶木

行政に言われると、思考は停止するものの、企業や社員は休むこと自体に同意しますよね。強制力を若干使って、計画的に休みを取るための何らかの方策を国が主導してくれると、メンバーシップ型の日本の企業でも、かなりやれるのではないかなと思いますね。そういう背景も考慮して、日本には国民の休日が多いのかもしれません。

あとは休むメリットですね。「休むと、個人も会社もこんないいことがあるぞ」ということを伝えられるか。3週間休んだ場合の、理想的な休み方やその期間中の睡眠時間とか、休み明けの仕事の1日の満足度などのデータをしっかり分析して上手く活用すれば、啓発できるのではないかと思います。

島津

心理学の行動変容というところから考えていくと、ある意味「休む」ということも1つの行動だと思います。休めと言われたから休むというのは、外発的な動機付けですが、やはりそれを維持するためには、内発的な動機付け、つまり「休んだらこんなにいいことがある」ということに変えていく必要があると思うんですね。

最初は無関心から始まり、それから、「休んでよかったな」と思うようにする。さらに、「もっと休みたい」という3段階ぐらいのフェーズに分かれるかと思うんですが、無関心期は、休むことのメリットより、デメリットのほうを多く感じているんですね。

石原

「放っておいてくれ」と思っているんでしょうね。

島津

そうなんです。だから、「休みはいいことなんだ」というメリットをいかに強調するか。同時に、デメリットは少ない、というメッセージをいかに伝えるかということが大事なんです。

石原

私は企業で管理職を対象にした講演で、休みが今より増えたら何をしたいかと聞くと、壮年のマネジャーの男性は、最初は「健康維持のためにウォーキングやランニングをやりたい」とか、「スポーツジムに通いたい」「自己啓発に使いたい」というようなことばかり言います。

私が、「会社のためではなく、自分が好きなことをすればいいのではないですか」と言うと、昔やっていた趣味、例えば、「最近全く乗れてないのでバイクに乗りたいです」とか、「ギターを習いたい」とか、「本をじっくり読みたい」といったことが出てきます。

このように、少しのことで休みになったらやりたいことのイメージが湧いて来るわけですから、無関心から、やや関心に寄せるぐらいのことはできるかなと思うんですよね。

持続可能な経営のために「休む」

山本

まず、個人が変わっていくということですよね。一方で、成功体験で固まっている経営層は、まだ「休みを増やすと、利益が下がってしまうのではないか」と、思っている人が大半ではないかと思うんです。

休みを取れるような会社にしてマネジメントのやり方が変われば、それがきっかけで、働き方もよくなっていくはずです。そうすると、おそらく企業にとってもメリットが出てくる。そのあたりは検証も必要ですが、企業の中で休み方が上手くなると、長期的に見れば業績もよくなるという考え方は生まれてきているでしょうか。

加藤

そうですね。やはり現在は、持続可能な経営をしないといけないので、無理な働き方はさせられません。ビジネスの世界には長期戦と短期戦、両方ありますが、人の寿命がこれだけ延びている中、個人としては長期戦がより重要になります。経営の考え方も変わってくるはずだと思いますが、企業はまだ昭和の部分も多いんですよ。

石原

そう思います。ただ、やはり若いIT系のエンジニアなど、いわゆる労働市場でものすごく需要が増えていて、どんどん転職できるような人たちは、つまらない会社、休みの取れない会社にいたくないんです。休みが多く、自由な働き方を認めてくれる会社に移ってしまうわけですよ。

だから、優秀な従業員を維持するのに、昔と同じ価値観で働いてもらいたいというのはもう無理だと思うのですね。

加藤

私も経営層には、「今の働き方だとグローバルな優秀人材は来ませんよ」と言います。これが一番効きます。社員に対しては、また別の言い方をしなければいけない。「働き方改革は楽しいこともあるよ」と(笑)。

島津

僕の研究テーマの1つに「ワーク・エンゲイジメント」というものがあります。仕事に熱意を持って、いきいきと働いている状態のことを言うのですが、それは職場の要因だけではなく、プライベートの要因でも規定されます。その1つにスピルオーバーという、プライベートが充実していると仕事にいい影響が流出するという理論があるんですよ。

何が流出するのかというと、価値観とか、行動、感情といったものなんですね。オフにダイビングでリフレッシュしたら、その気分が仕事に持ち越されて、新鮮な気持ちでまた仕事ができる、というようなことです。オフの時間の使い方は、それで断絶しているわけではなくて、溢れていくんですね。

この逆もあるわけです。オフが充実していないと、その悪影響が仕事のほうにも流れ込んできて、ストレスを抱えたまま仕事に向かわなければいけなくなる。当然、パフォーマンスが落ちるし、健康にもよくない。

だから企業にとっても、オフの時間の過ごし方が大切で、仕事にも影響し得るということを意識し、人事の仕事の領域として考えるべきだと思うのです。

「睡眠」から1日を考える

山本

産業医のほうから、「休み方が大事ですよ」といった視点で企業に訴えかけることはあるんですか。

梶木

そうですね。一番よく話すのは睡眠の時間や質と、労災の発生率の関係ですね。人間は動物なので、1日のうち3分の1は眠ることが必要なんです。そうすると、睡眠の質を高めることが、昼間のパフォーマンスにものすごくつながってきます。

例えば、肩こりや腰痛がある人は、メンタル不調を訴えることも多く、腰痛を治すような運動をすると、メンタル不調も一緒に良くなって睡眠の質が上がり、仕事のパフォーマンスが向上することもあります。

1日の仕事の疲れをリセットして、次の日の英気を養うために、ストレッチをしたり、軽いエクササイズをやると睡眠の質が上がるんです。すると、翌日また元気になって会社に出てこられるんですね。

山本

経営者の方の受け止め方はいかがですか?

梶木

インパクトがあるのは、睡眠3時間のパターンを1週間続けていくと睡眠負債が積み上がっていくというグラフを示したときですね。土日に休息をしても負債は下がり切らず、ずっと溜ったままなんですね。

スタンフォード大学睡眠・生体リズム研究所所長の西野精治先生は、「1日の始まりは、起きたときからではなくて、寝るときから考えてください」と言っています。すると、5時間しか寝ていない日と、8時間寝ている日というのは、その後の昼間の時間の質が変わってくるわけです。「就寝を1日のスタートと考えると、生活の見方がとても変わりますよ」とお話すると、経営者の方も「目から鱗でした」と言っていただけます。

皆が休める社会に

石原

最後に「ワーキングマザー」のことに触れたいと思います。企業に勤める母親たちの休めていない状態は、もうひどいことになっています。いくら女性がたくさん企業に入ってきても、男性が家事をやらないままだと、育児も家事も女性がやるので、当然男性ほど会社で働けなくなり、その割合が増えると全体の労働時間が短くなってしまう。でも、男性も家事を担えばよいわけです。

あるいは、家事負担をどれだけお金で解決できるか。ロボット掃除機を始め、電化製品への投資は、どこでもだいぶ始めているかなと思うのですが、家事のアウトソーシングもできるか、というところもあります。

休むことに対してリテラシーを高め、睡眠や休みが少ないことが、自分の生産性なり、健康に対するリスクを高めていることをきちんと知って、土日に家事を全部やらなくて済むようにならないといけないと思うんです。

家に帰ってソファーに座ってテレビを見る余裕は、たぶんほとんどのワーキングマザーにはありません。彼女たちは、確実に男性より休めていない。そこも含めて、リカバリーのために、きちんと休めているかどうかを調査したほうがいいと思っています。

山本

なるほど、そうですね。今まで、政策・施策でも研究でも、働き方に注目するさまざまなアプローチを取ってきたと思います。それもあって、最近ようやく働き方が変わろうとはしていますが、アプローチはだいぶ出尽くした感があります。ところが、見方を変えて、休み方からアプローチしていくと、まだまだできることはたくさんありそうだということが、今日の座談会で分かり、非常に大きな収穫だったと思います。

上手い休み方ができる人は、おそらくとても優秀な人ですね。そのように見方が変わってくれば、それが広がっていくと思います。また、休ませ方が上手い企業が良い企業だという評価が得られるようにもなると思います。

休み方を通して考えていくことで、石原さんが言われたワーキングマザーの問題や介護の問題、または障害者雇用やダイバーシティーの問題なども、多くの課題を解決する糸口が見つかるのではないかと思います。そう捉えると、休み方改革を通じて、いいことが起きそうだなと、ワクワクしてきました。

今日は有り難うございました。

(2019年2月15日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。