慶應義塾

【特集:日本の宇宙戦略を問う】座談会: ❝人類のフロンティア❞をどう切り開いていくか

登場者プロフィール

  • 髙田 修三(たかだ しゅうぞう)

    内閣府宇宙開発戦略推進事務局長

    東京大学経済学部卒業。1986年通商産業省入省。2013年大臣官房審議官(製造産業局担当)にて航空宇宙産業、防衛装備品等を担当。15年貿易経済協力局貿易管理部長等を経て、16年より現職。

    髙田 修三(たかだ しゅうぞう)

    内閣府宇宙開発戦略推進事務局長

    東京大学経済学部卒業。1986年通商産業省入省。2013年大臣官房審議官(製造産業局担当)にて航空宇宙産業、防衛装備品等を担当。15年貿易経済協力局貿易管理部長等を経て、16年より現職。

  • 石田 真康(いしだ まさやす)

    A.T.カーニー株式会社プリンシパル

    東京大学工学部卒業。宇宙業界についての経営コンサルティングに従事。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人 SPACETIDE の代表理事。内閣府宇宙政策委員会宇宙民生利用部会委員。

    石田 真康(いしだ まさやす)

    A.T.カーニー株式会社プリンシパル

    東京大学工学部卒業。宇宙業界についての経営コンサルティングに従事。日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンスを主催する一般社団法人 SPACETIDE の代表理事。内閣府宇宙政策委員会宇宙民生利用部会委員。

  • 河井 克行(かわい かつゆき)

    その他 : 自由民主党衆議院議員その他 : 自由民主党総裁外交特別補佐法学部 卒業

    塾員(1985政)。松下政経塾、広島県議会議員を経て、96年衆議院議員選挙初当選、当選7回。外務大臣政務官、党国防部会長、法務副大臣、衆議院外務委員長等歴任し、15年内閣総理大臣補佐官。17年より現職。

    河井 克行(かわい かつゆき)

    その他 : 自由民主党衆議院議員その他 : 自由民主党総裁外交特別補佐法学部 卒業

    塾員(1985政)。松下政経塾、広島県議会議員を経て、96年衆議院議員選挙初当選、当選7回。外務大臣政務官、党国防部会長、法務副大臣、衆議院外務委員長等歴任し、15年内閣総理大臣補佐官。17年より現職。

  • 神武 直彦(こうたけ なおひこ)

    システムデザイン・マネジメント研究科 教授

    塾員(1998理工修、2005政・メ博)。宇宙開発事業団、宇宙航空研究開発機構、欧州宇宙機関でH ‒ ⅡAロケットや様々な人工衛星の研究開発に従事。09年より慶應義塾へ。18年より現職。専門は宇宙システム等。

    神武 直彦(こうたけ なおひこ)

    システムデザイン・マネジメント研究科 教授

    塾員(1998理工修、2005政・メ博)。宇宙開発事業団、宇宙航空研究開発機構、欧州宇宙機関でH ‒ ⅡAロケットや様々な人工衛星の研究開発に従事。09年より慶應義塾へ。18年より現職。専門は宇宙システム等。

  • 青木 節子(あおき せつこ)

    法務研究科(法科大学院) 教授

    塾員(1983法、85法修)。1990年カナダ・マッギル大学法学部附属航空・宇宙法研究所博士課程修了。D.C.L.(法学博士)。慶應義塾大学総合政策学部教授を経て現職。内閣府宇宙政策委員会委員。

    青木 節子(あおき せつこ)

    法務研究科(法科大学院) 教授

    塾員(1983法、85法修)。1990年カナダ・マッギル大学法学部附属航空・宇宙法研究所博士課程修了。D.C.L.(法学博士)。慶應義塾大学総合政策学部教授を経て現職。内閣府宇宙政策委員会委員。

2019/03/05

「宇宙基本法」制定の頃

青木

2015年の第3次宇宙基本計画以来、2017年のリモセン法(衛星リモートセンシング記録の適正な取扱いの確保に関する法律)施行、2018年の宇宙活動法(人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律)全面施行と動き出し、民間企業によるビジネス展開が期待される条件が整ってきています。また同時に日本、及び世界の安全保障環境が激変し、宇宙空間を利用した安全保障協力の必要性が高まっています。本日はこのような状況を踏まえ、これからの日本の宇宙戦略を問う座談会としたいと思います。

「宇宙は安全と富をつくり出す場、人類のフロンティア」という観点から、日本を含め多くの国が国家戦略の中に宇宙を位置付けるようになってきたと思います。

現在宇宙は、活動国の増加、また大企業だけではなく中小企業や大学なども含む活動主体の増加により宇宙ゴミ(スペースデブリ)が増え、また周波数は逼迫するなど、混雑した空間になっています。宇宙には陸・海・空のような交通ルールがない状態で、広大な宇宙空間とはいえ、貴重な軌道は限られており、空や海と同じく運航ルールの必要性が認識されています。

また、宇宙は軍事利用から始まった場で、現在も大国の軍事競争の場であることは変わりません。では、何が変わったかと言うと、宇宙技術のデュアルユース性にもとづき、民間が運用する衛星が広く軍事利用されているという点です。一方、軍事利用から始まった技術が民間にスピンオフし、それが新しい産業を生み出している状況もあります。

宇宙は安全保障、軍事、ビジネス、探査などが相互に密接に関連し合い、将来の動向に期待が持たれると同時に、軍事利用や汚染の不安などが抱かれています。そのような中、日本はどのような宇宙開発・利用を目指すことで、国の安全・安心、国民生活の福利向上と世界への貢献が果たせるのでしょうか。

現在の日本の宇宙開発・利用は、2008年の宇宙基本法制定から始まったと言ってよいかと思います。宇宙基本法は議員立法として制定されましたが、同法の制定に尽力された河井さんから当時の状況を振り返っていただけますでしょうか。

河井

2005年2月にH-ⅡAロケット7号機の打ち上げが成功しました。その前の6号機が打ち上げに失敗しており、それから1年3カ月ぶりのことでした。当時私は第2次小泉改造内閣の外務大臣政務官を務めており、ギニア出張から帰国したその足で種子島に直行。久しぶりに成功したロケット打ち上げの姿を見ました。

青木さんにも共著者になっていただいた『国家としての宇宙戦略論』(2006年)の中で、その打ち上げの様子を見ながら、私は「あー、日本の宇宙開発の少年期が終わったんだ」と感想を抱いたことを書きました。

2008年に成立した「宇宙基本法」の草案を作るように自民党から指示され、私なりに日本の宇宙開発に取り組むべき「5つの原則」を考え出しました。1つ目の原則は外交に資する。2つ目は安全保障への活用。3つ目は産業化。4つ目が国民に夢と刺激を提供する。5つ目は少し浮世離れしているようですが、種としての人類の進化に貢献する、という「5原則」です。

「外交に資する」を考えついた背景は、当時、日本の外交政策をつくる上で、宇宙開発や科学技術からの視点がほとんどなかったことへの疑問です。それで、私は、外務大臣政務官の任期中に携わった政府開発援助(ODA)中期計画改定に、日本が持っている先端的な科学技術の力を活用するという項目を追加しました。具体的には人工衛星の打ち上げをODAの対象にするということです。

また、1993年以降、文部科学省とJAXAが主催して、「アジア太平洋地域宇宙機関会議(APRSAF)」が開催されていますが、それに対抗するかのように、2005年、中国が主導する「アジア太平洋宇宙協力機構(APSCO)」の署名式が北京で行われました。中国は、外交戦略の中で科学技術の援助を明確に位置付け、「科強富国」を国策として、科学技術の振興を国政の最重要課題に据え、国のあらゆる資源を集中的に投入してきています。

翻ってわが国はどうかというと、当時は宇宙の開発と利用を研究開発の文脈でのみ捉えていた。研究者や技術者がこつこつ研究し、製造現場の工員が職人技を発揮してものづくりを行う。そうやって、アメリカ、ロシア、ヨーロッパに引けを取らない、世界最高水準の成果を上げてきたのですが、企業や職場の個別利益を超越した、国家としての戦略、日本全体の国益という大目標がなかったのです。

青木

それで外交を目標としたと。

河井

ええそうです。2つ目は安全保障への貢献です。98年8月に北朝鮮からテポドンミサイルが飛んできました。当時私は衆議院議員1回生でしたが、いわゆる国防族と言われる先輩議員たちは、実績のあるアメリカ製の衛星を買うべきだという意見でした。でも私は、情報収集衛星というのは、いつでもどこでも完全かつ無制限に日本の国益を第一義に利用できなければならない。日本国の安全のために税金で購入する衛星が外国製では、納税者に説明ができないと訴えました。

そして初当選同期の仲間と、”国産の情報収集衛星を国産のロケットで打ち上げよう”キャンペーンを張ったんです。自民党衆参の国会議員を回って賛同の署名を集め、それを携えて首相官邸に行き、官房長官だった野中広務先生らに直接手渡しました。最終的には、政治判断で国産情報収集衛星を国産ロケットで打ち上げることが決まりました。

情報収集衛星は現在6機が稼働していますが、当時私は、将来は16機体制まで増強するべきだと主張していたことを覚えています。見たいときにいつでも、見たいところをどこでも、見ることができるように日本が「目」を進化させることで、同盟国からの機密情報も得られやすくなるのです。政務官の部屋に「宇宙開発と利用のあり方に関する検討会」を省庁横断で設けたのですが、防衛庁(当時)に声をかけたら、「うちの役所は宇宙を担当する部署は置かれていないので出せません」と言われた。当時はそんな空気でした。

3番目の、産業化ということでは、当時はGXロケットと準天頂衛星システムに対して注目が集まっていました。

さて、2000年10月、フロリダで若田光一さんが乗った、スペースシャトル・ディスカバリーの打ち上げを視察する機会がありました。本当に美しい打ち上げで、雲1つない美しい夕焼けに吸い込まれる姿を見て大変感激しました。日本とは規模と迫力が全然違う打ち上げでした。そして、アメリカではロケットの打ち上げがある種の娯楽や国民をまとめる手段になっていることをディスカバー(発見)しました。

4番目は、宇宙開発・利用を通じて新しい形の国威発揚というか、国民に夢と刺激を提供することが重要だと感じました。

そこで、有人宇宙飛行を日本が実現するために、種子島に加えてもう1つ大規模な打ち上げ基地、宇宙港を日本が整備し、米国やオーストラリアやアジアの国々にも入ってきてもらおうと提案しました。

最後に、人類は進化の過程で、いつかは宇宙空間に進出する宿命を背負っているんだと私は考えています。太古、魚類や両生類が陸へ進出したように、今、私たちの世代は、宇宙へ人類が雄飛をする足がかりの時代なんです。そのために日本が積極的な役割を果たすべきだと考えました。以上のように、「5原則」を提唱したのです。

「宇宙基本法」の中には、今はもう実現した、内閣府に宇宙政策担当特命大臣を設置することなども盛り込みました。

宇宙ビジネスの潮流

青木

当時の希望に溢れた雰囲気を思い出しました。

準天頂衛星「みちびき」は、今は4機体制で、昨年11月にサービスが開始されました。髙田さん、宇宙開発利用を担当する官僚トップとしてのお立場から、現在の宇宙開発利用の状況、また今後のビジネス利用の動きなどをどのようにご覧になっていらっしゃいますか。

髙田

昨年12月に防衛大綱が改定され、宇宙、サイバー領域等について、日本が備えを始めましたが、宇宙基本法ができて10年たって、ようやくそういう位置付けができるようになったのですね。諸外国ではむしろそういった領域を防衛に使うことは当たり前でしたが、ようやく日本も変わってきました。

実用を踏まえた宇宙開発を行うということで言えば、2006年に準天頂衛星試験機の「みちびき」初号機の開発が始まり、2018年に4機体制が整いサービス開始になりました。みちびきは実用衛星なので、国民生活に役立てていかなければいけません。また、みちびきは測位信号ですから、国際的な用途もあり得るので、インドやEUとも協力していこうという話もあります。

2005年のロケット打ち上げ再開までが少年期だとすれば、まさに宇宙基本法制定からはようやく青年期・壮年期に入ってきているのでしょう。ここで頑張らないと、他国との差が開いてしまうかもしれないので、しっかり取り組まなければと思っています。

青木

そのような中で、民間の宇宙ビジネス領域で多岐にわたるお仕事をなさっている石田さん、今、何に注目し、どのような活動をなさっているのでしょうか。

石田

やはり2008年に宇宙基本法ができ、安全保障と産業振興と科学技術という三本柱の中で動いてきた流れもあり、日本の宇宙ビジネスは、ここ5年ぐらいで急速に盛り上がってきたと感じています。この熱気が具体的な事業を多数生んで、産業として発展していけるかが挑戦だと思っています。

他方で世界に目を向けると、宇宙ビジネスの象徴と言えるアメリカのイーロン・マスクのスペースXは創業が2002年です。ジェフ・ベゾスがつくったブルーオリジンは創業が2000年です。ベゾスは1999年に、アマゾンのCEOとして『タイム』誌のパーソン・オブ・ザ・イヤーになった。IT長者として世の中に出た翌年、彼は宇宙ビジネスをやるための企業を創業しています。日本の時間軸とアメリカの時間軸には10年以上の差があり、その2つを並べると示唆深いです。

宇宙産業の商業化自体は80年代から欧州中心に進んでいましたが、現在の流れを生んだのは2000年以降のアメリカだと思います。アメリカでは、アポロ計画の後の国際宇宙ステーション計画とスペースシャトル計画に対して、NASAは人類を月まで到達させたのに、なぜ地球近傍に戻ってきたのかという忸怩たる思いを募らせていた方々がいて、それが今の宇宙起業家になっています。

スペースシャトル退役後に、自国による宇宙輸送手段の確立という課題を政府が抱え、他方、民間から宇宙輸送をやりたいという起業家精神溢れる方が出現、彼らはITバブルが生んだ資金力と新たなデジタル技術を持ち込んできました。成功例と言われるのが、スペースXが担っている国際宇宙ステーションへの物資輸送サービスです。

2000年代初頭に新しくできた宇宙関連企業のほとんどはロケット系、輸送系でしたが、宇宙への輸送手段の革新が見え始めたことにより、その後に小型衛星のビジネス、それから衛星のデータ利用のビジネス、最近の宇宙旅行や軌道上でのいろいろな実験やサービスと、宇宙ビジネスが広がりつつあります。

私自身は、こうした転換期にある宇宙産業において新たな宇宙ビジネスの発展と拡大に貢献したいと思っています。経営コンサルタントとして関連企業の課題解決や政府の政策検討を支援し、また宇宙ビジネス全体の認知度拡大や振興を目的に、日本初の民間宇宙ビジネスカンファレンス「SPACETIDE」を2015年に立ち上げるなど業界横断的活動をしています。

宇宙利用の拡大へ

青木

大学はなかなか輸送系からというのは難しいと思いますが、先週(1月18日)は慶應の超小型衛星もイプシロンにより打ち上げられました。あれは慶應としては初めてのことですね(口絵参照)。

神武さんは研究・教育という立場から宇宙利用に携わっていらして、現状をどのように考えられますか。

神武

先ほど河井さんがお話しされたH-ⅡA6号機の前にも、1999年にH-Ⅱロケット8号機で大きな打ち上げ失敗をしています。その時、私はロケット開発担当者だったので、そのロケットのエンジン捜索のための深海調査に加わりました。その頃、つまり20年前になりますが、今のJAXA、当時の宇宙開発事業団では、「宇宙開発はロケットを打ち上げられてなんぼ」の世界でした。とにかくロケットをしっかり打ち上げようという時代です。

当時は、宇宙開発事業団が科学技術庁所管の法人で、宇宙科学研究所が文部省所管の研究所でした。産業化というキーワードはほとんどなく、研究開発に関する議論が中心で「ビジネス」などと言うのが憚られる時代でした。

その後、東京大学の中須賀真一先生を中心とするチームが2003年に超小型衛星を世界で初めて打ち上げることに成功したわけですが、そのときも、研究・教育の一環での実験衛星でした。今はいろいろと変わってきています。

日本の宇宙開発は、現在では内閣府が全体を統括しています。JAXAと防衛省の間でも人や情報の交換が当たり前の時代になり、安全保障や防災にも普通に衛星が使われています。また、人工衛星やロケットが高機能化しつつもコモディティ化してきているので、大学が果たせる役割も広がり、すでにいろいろな大学で人工衛星を打ち上げていて、衛星をつくることがそれほど特別ではない時代になっています。

これからすべきことは、それを使っていかに産業を起こすか、社会を豊かにするかを考え、実行することです。IoT社会で重要な役割を果たす人工衛星が、グローバルなセンサーとしての役割を果たすようになってきました。この20年間で宇宙開発の位置付けが変わってきたという気がしています。

青木

髙田さんは産業化というところでも様々な旗振り役を果たされていると思いますが、現在の産業化の状況はどのような感じでしょうか。

髙田

「宇宙産業ビジョン2030」という2年程前にまとめられた答申があるのですが、現在のわが国の宇宙機器産業と宇宙利用産業の規模は約1.2兆円ぐらいですが、2030年代早期には倍増を目指すとされています。

その中には、例えば外国の衛星の打ち上げサービスを獲得していこうじゃないか、外国の通信衛星市場にも日本が入っていこうじゃないか、あるいは、通信、衛星放送だけではなく、リモートセンシングや測位分野を使った宇宙利用などをもっと広げていこうじゃないか、というものもあります。

さらに宇宙の利用は、これからビッグデータやAIを用いて社会活動とより一層密接になっていくと言われています。日本の宇宙分野の実力は国際的にも信頼性が高いですから、それをさらに伸ばしていきたいと思います。

「State of the Satellite Industry Report 2018」の統計で見ますと、世界の宇宙産業市場の規模感は約26兆円です。日本と違い、地上設備や打ち上げサービスや衛星製造産業なども含むので単純に比較できませんが、GDP比から見れば、日本はもっと取れる部分があるのではないかと思います。

宇宙機器産業は現在約3500億円くらいですが、官需の部分の比率が高いのです。去年の政府の宇宙予算が約3000億円強で、ロケットを打ち上げるとか、衛星を開発する部分が多いので、どれだけ純粋な民需を伸ばしていけるかが大事だと捉えています。

日本の宇宙産業の可能性

青木

世界的には一企業が射場も持ち、小型ロケットもつくるという例もありますね。例えばアメリカのロケット・ラボ社はニュージーランドのマヒア半島に自社の射場を保有し、72時間に1回打ち上げをする許可をニュージーランド政府から得ている。

ビジネスとしては、自らがロケットや衛星をつくり運用するだけではなく、軌道を利用する様々な活動のビジネスプランを提唱し、周波数や活動許可の取得に向けて法的援助も行うという宇宙事業サービスなども増えているように感じます。

今、2024年以降の国際宇宙ステーションの商業化、民営化の話もありますし、小型の宇宙ステーション、オーロラステーションをつくり宇宙旅行者を滞在させるということを考えているアメリカの企業もあります。ビジネスとして日本が希望の持てる分野はありますか。

石田

宇宙ビジネスは6つのセグメントがあると捉えています。1つがいわゆる打ち上げ。そして衛星をつくるビジネス。それを地上で利活用するようなビジネス。軌道上でいろいろなものをつくったり、科学実験をするサービス。宇宙旅行や滞在など人に関わるビジネス。最後に深宇宙探査や開発です。僕は日本はそのすべてに可能性があると思っています。

日本で新たな宇宙ビジネスを始めようとしている企業は約30社です。アメリカには1000社ぐらい、中国にも80〜100社あると言われています。背景にある産業規模の違いもあり、アメリカや中国と比較すると少ないですが、それぞれのセグメントで世界的に見てもユニークな企業が多いのが日本の大きな特徴ではないかと思います。

ものづくりでは小型系のものは様々な分野で強いです。世界最小のローバー(探査車)をつくったのも日本企業ですし、超小型衛星や小型ロケットをつくる日本企業も存在しています。日本のものづくり企業を支えているのは、いわゆる下町工場の方々の巧みな技術であることが多く、他産業で培われた技術力や基盤が日本の強みです。

また、実は、過去10年間で新たな宇宙ビジネスに投資した投資家の数は、1位がアメリカで2位は日本なのです。特に過去4、5年で投資した企業は日本で70社ぐらいありますが、最も数が多いのは宇宙と関係ない企業による投資です。例えばエアライン、商社、エレクトロニクスメーカー、自動車メーカーなど一部上場企業でこれまでは宇宙に携わってこなかった企業です。

しかも、そういった企業は、地上の産業で使われている要素技術、生産技術、オペレーションのノウハウ、サービスなどを持っていて、投資するだけではなく、そういった資産を宇宙分野に投入することで、いろいろな新しいサービスを生む可能性があります。これは、他の国にはない大きな特徴で、これから日本の宇宙産業が非常に強くなる可能性があるのではないかと思います。

青木

日本の新興宇宙企業は、結構資金面で恵まれている部分もありますね。例えば、ispace社などを見ていても、夢や可能性に投資しようとする投資者が多いです。

河井

私が宇宙基本法の草案を書いたのが2006年ですが、1996年の衆議院初当選からの10年間は、宇宙関係の人は皆、おじさんだったんです。今は石田さんもそうですが、若い人が本当に増えて、話を聞いていて楽しくてしょうがない。それまでは伝統的な重厚長大の大企業の人たちが多かった。いわば「オールド・スペース」です(笑)。

今、私が意識的に交流を持とうとしているのは、いわゆる「ニュー・スペース」の人たちです。それも1人、あるいは数人で立ち上げる宇宙ベンチャーです。欧米の教育機関を卒業していて、語学もできるし、大変優秀で有能な人が宇宙分野に入ってきてくれています。HAKUTOもそうですし、サブオービタル(準軌道)を使って、アメリカとアジアを結ぶ、日本で宇宙港をつくろうという動きもありますね。

その人たちは優秀だから、別に宇宙の仕事をしなくてもいいにも拘らず、また、宇宙の新しい仕事に挑む危険性があるにも拘らず、どんどんこの分野に入ってきてくれています。

強いて分類すれば、石田さんがおっしゃったのは3番目のカテゴリー「アザー・スペース」でしょうか。日本を代表するような大企業が異業種から入っています。今、「オールド・スペース」と「ニュー・スペース」と「アザー・スペース」がお互いに協力し合いながら、新しい日本の宇宙産業文化をつくりつつあるのではないかと期待しています。

多様な人材育成の必要性

青木

そういう中、やはり人材育成は大事ですね。

神武

私が所属している大学院は10年前に開設したシステムデザイン・マネジメント(SDM)研究科ですが、宇宙業界から多くの方が入学され、修了生が就職していて、例えばH3ロケットのプロマネや気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)のプロマネはSDM研究科で博士号を取得された方です。

最近の流れでおもしろいのは、アザー・スペースの方が宇宙業界に参入したい、と入学されることです。宇宙に関する知識は少ないけれど、自分たちが考えてきたものがどう宇宙業界にフィットするかを考えられています。10年前と違い、今は自分たちでつくった人工衛星をロケットで打ち上げるとか、宇宙データを使って何かやるということが、大学でもすぐにできるのです。

宇宙技術の良いところは、人工衛星は国境を越えて活用できるので、日本で上手くいったことは比較的すぐに海外展開できるところです。そこで、私の研究室では、東南アジア各国の政府や企業と共に農業や都市開発、金融に関するサービスの研究開発や事業化を進めています。10以上のプロジェクトが進行していて、様々な国籍の学生と月に2回程度海外出張しています。

人が育たなければ産業が育たず、産業が育たなければ人も育たないので、仕組みを強化し、人材育成と産業創出を両輪でダイナミックに進めようと思っています。

青木

神武さんの研究室の修了生でスペースデブリ除去をやっていらした方や、自衛官の方で宇宙状況把握(SSA)の民生利用と安全保障利用の最適解を追求していらっしゃる方がいますね。

神武

前者は日本の宇宙ステーションのロボットアームの母と呼ばれることもある大塚聡子さんで、日本電気で宇宙ロボットの利活用を研究されています。大塚さんはスペースデブリ除去のために、技術だけでなく、国際ルールやビジネスの考え方を取り入れた研究をし、博士号を授与されました。

後者は防衛省航空自衛隊の大谷康雄さんですが、大谷さんはこれから日本が本格的に運用する予定のSSAについて、限られたリソースの中で、デュアルユースを適切に行うためのシステムデザインの研究をしており、近々、博士号を授与される予定です。

アザー・スペースの方と共に、ニュー・スペース、オールド・スペースも成長しつつ、三者ともに元気になっていくという相互補完的な関係を促すことも含めて、研究・教育はとても重要だと思います。

安全保障の場としての宇宙

青木

宇宙は安全保障から始まっており、安全保障上非常に重要な場所ですが、日米同盟の深化が進む中で、安全保障の場としての宇宙は今、どのように進んでいるのでしょうか。

河井

国際政治においては、古来、陸を制する者が世界を制すると言われていました。その後、海を制する者が世界を制する、さらに、空を制する者が世界を制すると言われ、そして今は、宇宙空間とサイバー空間を制する者が世界を制する、となってきました。この戦略を忠実に進めようとしているのが中国だと私は考えます。

私は第2次安倍政権が発足して6年間で、33回ワシントンD.C.へ通っているのですが、ここ1、2年はアメリカにおいて、中国に対する脅威認識が党派を超えて非常に強くなっているのを肌身で実感しています。

私はスティーブン・バノン前大統領首席戦略官と親しく会っていますが、先々週D.C.で会ったときも、中国に対しては極めて厳しい見方をしていました。これまでは財務省で為替、商務省で知的財産が、中国との交渉課題でしたが、新たに〝最強の役所”国防総省が中国を最優先事項に挙げたことを強調していました。マティス氏辞任後の国防長官代行シャナハン氏が登庁した初日に、「国防総省には3つの優先事項がある。それは、第1に中国、第2に中国、第3に中国だ」と言明した話が、その日のうちにワシントンD.C.を駆け巡ったと紹介してくれました。

米国防情報局(DIA)が1月15日に公表した最新の報告書によると、宇宙分野で中国が、「2014年に衛星攻撃ミサイルシステムのテストを行い、今は衛星攻撃用レーザーを研究開発している可能性もある」と危機感を顕わにしています。そして、今後中国が開発を目指している分野を8つ例示していますが、そのうちの2つが宇宙関連、極超音速ミサイルと宇宙システムです。

トランプ政権は、昨年6月、宇宙軍の創設を国防総省に指示しました。もともと国防総省や空軍は、宇宙軍創設はお金がかかるということで反対だったのですが、私の友人である共和党マイク・ロジャース下院軍事委員会戦略軍小委員長らが中心になって宇宙軍をつくるべきだとトランプ大統領やペンス副大統領に働きかけ、ホワイトハウスの決断で宇宙軍をつくることになりました。

ひょっとしたら米中が「新しい冷戦」構造に入ったのではないかという指摘がなされる中、宇宙が主戦場の1つになりつつあります。当然、日米同盟は日本の安全保障の基軸ですので、日本としても米国と協調してしっかりと対処していかなければいけない。その流れの中で、いろいろな安全保障の新しい取り組みを進めていくことが、日本の平和と独立を守る道だと考えます。

青木

そのような流れの中で、昨年初めて日本はシュリーバー演習に参加しましたね。

髙田

シュリーバーとはアメリカの宇宙部隊の礎を築いた人の名前ですが、この演習は、シュリーバーウォーゲームと言い、日本語ではシュリーバー多国間机上演習と紹介しています。これはまさに机上演習で、18年ぐらい前からファイブ・アイズと言われる、アメリカ、イギリス、カナダ、ニュージーランド、オーストラリアで、年1度演習を行っていました。ある種のシナリオエクササイズですね。3年前にドイツとフランスを招き、昨年は日本の関係者が招かれて初めて参加しました。シナリオでは、それぞれが役割をあてがわれて擬似的な演習をしています。

シュリーバーウォーゲームはまさに安全保障関係者の集まりですが、去年で5回目を迎えたのが日米包括宇宙対話(宇宙に関する包括的日米対話)です。U.S.-Japan Comprehensive Dialogue on Spaceとコンプリヘンシブ(包括的)という言葉が付いていますが、その意味は科学技術、安全保障、産業利用などが宇宙では一体的に密接につながってくるからです。日米の宇宙に関わる様々な部局が一堂に会し、アジェンダごとに入れ替わりながら、科学技術から安全保障までを議論し、お互いの状況を意見交換しています。連携の可能性が非常に見えてくるような対話です。

他に、包括的な枠組みを持っているのはフランスです。フランスも非常に宇宙に力を入れている国で、2年前、宇宙状況把握についての協力をより進めていきたいとフランス側から言われ、文科省、防衛省と一緒に連携強化していこうという方向で取り組んでいます。

首脳外交、あるいは外務省や防衛省、文科省など、いろいろなチャネルで宇宙分野の協力が話題に出ます。今、宇宙を取り巻く状況が変わってきている中で、多面的に宇宙を捉えて、国を挙げて対話しようという意気込みの表れがこうした包括的対話だと思います。

河井

アメリカでもう1つ大事なことは「国家宇宙会議(NSpC)」が2017年6月に復活したことです。レーガン政権の下で1988年に設置されましたが、93年から事実上休止状態でした。それが、議長にペンス副大統領、事務局長に日系のスコット・ペース博士の組み合わせで再興しました。

昨年10月にペンス副大統領が出席して初会合が開かれました。副大統領はスピーチで、ロシアや中国は衛星攻撃技術の完備を目指していることに危機感を表し、米国が再び宇宙分野でリーダーシップを取らなければいけないと強調しました。

具体的に日米間でどういう安全保障分野の国際協力を行っているかというと、1つは宇宙状況把握(SSA)、もう1つが海洋状況把握(MDA)です。宇宙状況把握とは、地上から宇宙ゴミや人工衛星の状況を監視することを言います。これについては、米国の戦略軍がJAXAや気象庁など日本の衛星運用機関に対して、詳細な情報を迅速に提供する。一方で、JAXAから米国戦略軍に対して、宇宙ゴミなどの情報を提供し、今後は防衛省が自前のレーダーを開発して提供することになっています。

もう1つの海洋状況把握(MDA)は、海上の船舶などの状況について、航空機、高層気球、人工衛星など多角的な「目」で見ていくわけですが、これはまだ総合調整と指揮命令をどこがやるかがはっきり見えていないんですね。

民間から見た安全保障領域

青木

宇宙は安全保障と安全の境目が曖昧な部分もありますから、そこがまた宇宙交通管制(STM)の必要性につながっていくと思います。コンファース(CONFERS)という新しい民間の方々の集まりの中では、どのようにSTMが考えられているのでしょうか。

石田

コンファースはアメリカのDARPA(アメリカ国防高等研究計画局)が主催しているワーキンググループのようなものですが、いわゆる軌道上サービスが対象になっています。軌道上サービスは、日本ではデブリ除去の話が脚光を浴びつつありますが、世界的にはデブリ除去のみならず、軌道上でいろいろな実験をしたり、いろいろなものを製造したり、静止軌道上での燃料の補給など多種多様なサービスの集合体として議論されています。

これまでDARPAがリードしてきた各種技術開発、国際宇宙ステーションの場で培われてきた技術の産業化、STMに関する議論の高まり、メガコンステレーション(巨大通信衛星網)計画の動きなど、様々な観点から将来的な軌道上サービスの議論が起きていると捉えています。

DARPAや民間企業が実際にルールや法をつくる機能を有しているわけではありません。ただそうしたルール形成に向けてお互いにベストプラクティスを持ち寄り、実際に世の中に利用できる技術としてどこまでできるのかを見極めながら、技術と運用の基準を検討する。そうした産業をつくるための第1弾の活動を行っているのがコンファースだと理解しています。

青木

産業側からは安全保障機関の役割がどう見えているのでしょうか。

石田

3つぐらいあるかと思います。1つは先端的な技術開発の目的を設定できるのが大きいと思います。例えば、DARPAが10年ぐらい前に、自動運転のアーバンチャレンジが行われ、スタンフォード大学とカーネギーメロン大学が優勝しました。そのスタンフォードのメンバーが全員、現在のGoogleの自動運転カーのチームになっている。カーネギーメロンのチームは、アストロボティックという宇宙ベンチャーになって、着陸船の自動制御にそのロジックをどう使うかということにチャレンジしています。

安全保障機関というのは自らがオペレーションをたくさん担っており、1つ先の時代の問いを立てていく機能は、民間から期待する1つの役割になっていると思います。

2つ目は、やはり宇宙空間においては安全保障機関のプレゼンスが非常に大きいので、そういったマーケットをつくるためのルールづくりや規制環境などをつくっていくために、当然、対話の相手として必要になってくる。

最後は、アメリカの宇宙予算は全部合わせて4兆円ぐらいあって、NASAより国防総省の予算のほうが大きいのが実態です。実際アメリカでは小さい宇宙ベンチャーですら、国防総省向けの売り上げを持っているのが実態です。民間企業から見た場合、需要の大きいお客さまという役割も果たしているのだと思います。

青木

政府に対して民間の活動を妨げない法規制のあり方を提案していくということですね。研究者の立場からはどうですか。

神武

最近、宇宙業界の取り組みと安全保障の取り組みが近くなってきていますが、日本では教育・研究機関が安全保障に直接的に関わって研究するということはまだ簡単ではなく、慎重に考え、議論する必要があると思います。例えばDARPAのチャレンジのようなものを防衛省が行った場合、大学側が喜んでチャレンジできるかというと、そこはまだ難しいところです。

石田さんがお話しされたように、安全保障は先端的な技術を培う場でもありますので、その仕組みと国民に対する透明性、技術がどこにどう使われるのかを明らかにしていくことが大事です。安全保障に必要な技術と宇宙技術は切っても切れない関係ですから、そこをしっかりやることが、新しい技術を生み出す場所にもなる気がします。

一方、例えばイーロン・マスクが始めたHyperloopという次世代交通システムのチャレンジに、われわれの大学院の学生がチームを組んで大会に出て、アジアの大学で唯一最終ステージに勝ち残り、イーロン・マスクと握手して帰ってきました。日本でコンペティションのようなものを掲げて、世界中の人たちがチャレンジするような魅力的なミッションを提示できると、それも面白いのではないかという気がします。

宇宙探査の可能性

青木

宇宙探査については、日本はもちろん2024年までは国際宇宙ステーションの運用に関わっていますし、それ以外の有人・無人の様々な探査の計画もあるかと思います。この先、どのように進んでいくのでしょうか。

髙田

宇宙探査の中で事業規模的にも分けて考えたほうがいいのは、1つは国際宇宙ステーションです。これはやはり多額の費用がかかっていますし、今、まさにここに宇宙飛行士が行っています。

もう1つは、米国が掲げている「ゲートウェイ構想(月軌道プラットフォーム‐ゲートウェイ(LOP-G))」です。これは、昨年の3月に国際宇宙探査フォーラム(ISEF2)が東京で開かれた頃からアメリカが提案し始めたものです。これは地球の軌道ではなく月の軌道上にモジュールをつくっていく、国際宇宙ステーションの6分の1ぐらいのものをイメージしているわけですが、これを国際協力でやっていこうということです。

そして、米国はその延長線上で、再び「アメリカ人宇宙飛行士を月に」と考えています。国際協力している日本人も月に着陸する可能性があるかもしれません。アメリカはそれに当たってのモジュールを2026年に完成させたいと考えており、多国間で協議中です。

河井

このトランプ政権の「ゲートウェイ構想」、そしてその先に広がる火星への有人宇宙飛行はぜひ日本も積極的に関わって実現したいですね。

まず国際宇宙ステーションの後の枠組みをどうするかという課題があります。現状では日、米、ロシア、ヨーロッパ宇宙機関、カナダでやっているわけですが、それに、インドやオーストラリアなどの有志連合にもぜひ加わってもらいたい。でも、何と言ってもアメリカが世界最大の宇宙大国ですから、彼らが責任感と義務感を持って主導してもらわないと物事は進んでいかないでしょう。日本はそれを促す重要な役割を担っています。

日本では、「ゲートウェイ構想」のことを「月近傍有人拠点」と言っていますが、日本企業の得意分野の1つが水です。もう1つは輸送、それとローバーですかね。「オールド」、「ニュー」、「アザー」を全部含めて、日本の民間企業の参画推進が私は絶対に重要だろうと考えています。そして将来的には、ぜひ日本人の宇宙飛行士が月に着陸する。そしていつの日か、火星に行く宇宙飛行士の胸に、日の丸が輝いていることが私の夢です。

先だって中国が、米国も到達したことがない月の裏側に初めて着陸しました。実際にどういう活動を行ったのか分かりませんが、明らかに彼らは長期的な計画の中で月の探査、深宇宙の探査に取り組んでいますから、日本もしっかり行っていくべきだと思いますね。

しかし、有人活動をするにはリスクはもちろん、お金がかかる。年間予算が3千億円では十分ではないですね。宇宙関係の人と話していていつも言われるのが、国の宇宙予算をもっと増やしてほしいということです。

仮に年間1兆円ぐらい宇宙関係の国家予算を用意するとして、その財源をどこに求めるかです。特定財源を含めて、もっと思い切って国の資源を宇宙開発と利用に投じるべきだと私は考えています。

民間による宇宙探査

石田

僕は探査には3つあるように思います。1つは科学探査です。これはどちらかというと国が中心となって進めていくものだと思います。

もう1つは国のプレゼンスやそれに関連する安全保障なども含めた探査的な活動です。それこそ中国がなぜこのタイミングで月の裏側へ行くのか。それは、まさに国威発揚であったり、プレゼンスであったり、ひょっとしたら月に眠る資源に対する権益などを含めてなのかもしれません。これも国が主導でやることだと思います。

3つ目として民間主体で始まっているのは、もはや探査という言葉ではなく、多くの人が宇宙へ行く時代をつくり、人類の文明を宇宙に広げましょうという活動かと思います。そういう方々の興味は「多くの人が宇宙に行ける時代をつくりたい」ということが根源にあると思います。

その理由は純粋に行きたいという探究心もあると思いますし、地球環境問題として人類のエネルギー消費量がどんどん増えていく中で、宇宙に出ていくことによって、地球環境をよりよくする、人類の持続可能性を高めるという課題解決型の考えもあります。

最大の挑戦は輸送系です。2019年の宇宙イベントで1番大きなマイルストーンは、スペースXとボーイングが宇宙飛行士を宇宙ステーションに運べるかどうかだと思います。これは民間企業がサブオービタルを超えて、オービタルまで人を運んでいけるのかどうかの大きな実証だと思います。輸送系以外にも、人々が宇宙空間で暮らすための拠点やインフラづくり、衣食住などの環境づくり、各種ロボット技術などが求められますし、日本が世界に貢献できることは多々あると思います。

神武

宇宙予算を1兆円にしようという話はそう簡単にはいかないわけですが、そうするためには国民が共感を得るムーブメントをつくることが重要です。ロケットを一生懸命つくった先に何があるか、宇宙ステーションで何をしているのか、というところに共感を得られないと、なかなかそういうムーブメントは起きないと思います。

ロケット技術がある程度確立され、選択肢も増えてきた中で、宇宙に行ってからどうするかという部分にもっと投資して、行った先の価値をつくっていくことも重要でしょう。

そして、そこを日本がやれる準備が整っているというような、ゴールを示し、関係する方々から理解を得て、投資を促すアプローチもある気がします。

新しい世代による宇宙産業創出を

青木

宇宙は様々な問題があると言いながらも、話していて夢があって楽しいですよね。

石田

これからの宇宙産業は新しく参入される方はもちろん、今までこの産業をリードしてきた方にとっても可能性のある産業だと思います。

アメリカはNASA、安全保障、新たなビリオネアという結集軸があり、そこに皆が集まる、ある種分かりやすいコミュニティーだと思いますが、日本の場合、政府も民間も、大手企業も中小企業も、アザー・スペースのような方々もいたり、すごく多様性があるような気がします。

これはヨーロッパにもアメリカにも中国にもない形なので、これからつくっていく楽しさはすごくありますよね。そして、それができた先には世界中のどこにもない、日本ならではの新しい宇宙産業コミュニティーができると思うのです。

青木

面白がって何かをやるという、日本が得意なところですよね。

髙田

2008年の宇宙基本法に沿い、宇宙基本計画をつくる中で文部科学省、経済産業省、総務省などの役所が何をやっているかが互いに見えるようになりました。その中での連携では、例えば文部科学省の衛星に防衛省の試験センサーを搭載するようなことをやっていこうとか、予算の制約の中で、より効率的な利用という方向に進んできました。

今後はさらに、政府や関係企業ばかりでなく、若い人、あるいは今まで宇宙に関係なかった人も含めて、日本全体としての総力をこのフロンティアである宇宙に結集し、どう日本の強みを伸ばしていくかが、すごく大事なのではないかと思います。まさに今、いろいろな方が入ってきて、それが力になっています。

石田

日本の宇宙起業家の方は、1979年前後生まれが多いのです。ガンダムが1979年生まれらしい(笑)。とにかく40歳前後の起業家の方がなぜか日本の宇宙業界にすごく多い。

青木

人工流れ星のエール(ALE)の方もその世代でしたね。

石田

そうなのです。僕は自動車産業や機械・電機産業などいろいろな産業のコンサルティングをやってきましたが、これらの産業は雇用という意味でも、税収という意味でも、日本のプレゼンスという意味でも、日本を支えてきた産業です。2世代、3世代前の方々が戦後の復興の中でつくってきた産業を世代を超えて継承して、維持していているわけです。

しかし、私自身はどこかで自分の世代だからこその産業をつくりたいという思いがあります。宇宙というのはこれまでの市場構造や業界構造が大きく変わる転換点にあるとも言えます。上手く行けば今の時代だからこそできる新しい産業になるかもしれない。

宇宙産業は宇宙安全保障や科学や産業などいろいろな顔を持っているがゆえに、雇用だけではなく、経済や社会への貢献、国際社会でのプレゼンスなどが期待される産業だと思います。漠然とそのような期待を感じている人も多いのではないでしょうか。

神武

そうですね。1つ付け加えれば慶應の卒業生の宇宙飛行士、星出彰彦さんは、2020年に日本人2人目の国際宇宙ステーションの船長になることが決まっています。

今、多くの国民が、オリンピック・パラリンピックに向けて前向きな気持ちになっていますが、その次のことを考えると、まさに宇宙というのは皆が共感してチャレンジしやすい領域なのではないかという気がします。

2020年、地上で日本代表がオリンピックで頑張っているときに、日本代表の1人である星出さんが宇宙で頑張っている。選手だけが頑張ってもアスリートは勝てるわけではなく、そのためにコーチやファンがいて、家族や友達がいる。宇宙ステーションの場合も宇宙飛行士だけでなく、フライトディレクターやエンジニア、家族、友達がいて上手くいっている。そこがあまり知られていないので、このタイミングでスポーツと共に宇宙開発が知られ、国民の生活に浸透していけばと思っています。

これから人工衛星によって得られた様々なデータをいろいろな形で誰もが使える時代になっていきます。今までは他人事だったことが自分事に変わることで、プレイヤーが爆発的に増えますので、そこから生まれたアイデアやチームを、国や企業や大学が後押しする仕組みやムーブメントをつくっていくことが未来につながると思います。

河井

具体的な国民の夢と希望ということで言えば、やはり月面に日本人宇宙飛行士を送るというのが、私は一番分かりやすいことだと思いますね。もちろんお金はかかりますが。

私は宇宙に行く最初の国会議員になりたいと、20数年間ずっと言っているのです。だんだん年取って難しくなってきていますけれどね(笑)。

青木

是非実現なさってください。

地球温暖化に伴い災害も多発していますが、宇宙からのデータ・情報を用いての災害軽減や環境保護など地球全体の問題を解決していくことに、これまでも日本は貢献してきました。今後も官民の力を結集し、地球全体の広い意味での安全保障に貢献するために日本の宇宙開発利用がますます発展することを願ってやみません。今日は長時間どうも有り難うございました。

(2019年1月24日収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。