慶應義塾

魔法少女に恋して

公開日:2026.02.25

登場者プロフィール

  • 石井 研士(いしい けんじ)

    國學院大學神道文化学部名誉教授

    専門は宗教学・宗教社会学。研究テーマは「現代社会と宗教」。著書に『魔法少女はなぜ変身するのか ポップカルチャーのなかの宗教』がある。

    石井 研士(いしい けんじ)

    國學院大學神道文化学部名誉教授

    専門は宗教学・宗教社会学。研究テーマは「現代社会と宗教」。著書に『魔法少女はなぜ変身するのか ポップカルチャーのなかの宗教』がある。

  • 鷲尾 天(わしお たかし)

    その他 : 東映アニメーション執行役員法学部 卒業

    1989年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1998年東映動画(当時)に入社。『プリキュア』シリーズにプロデューサー、企画などで長年携わっている。

    鷲尾 天(わしお たかし)

    その他 : 東映アニメーション執行役員法学部 卒業

    1989年慶應義塾大学法学部法律学科卒業。1998年東映動画(当時)に入社。『プリキュア』シリーズにプロデューサー、企画などで長年携わっている。

  • 杉山 怜美(すぎやま さとみ)

    その他 : 明星大学人文学部人間社会学科助教社会学研究科 卒業

    博士(社会学)。2025年慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。専門は社会学、文化社会学等。著書に『アニメと場所の社会学:文化産業における共通文化の可能性』(共著)他。

    杉山 怜美(すぎやま さとみ)

    その他 : 明星大学人文学部人間社会学科助教社会学研究科 卒業

    博士(社会学)。2025年慶應義塾大学大学院社会学研究科後期博士課程単位取得退学。専門は社会学、文化社会学等。著書に『アニメと場所の社会学:文化産業における共通文化の可能性』(共著)他。

魔法少女との出会い

石井

鷲尾さんは長年、『プリキュア』シリーズ(2004年~)に携わっておられますが、昔から魔法少女が出てくるアニメはお好きだったのですか?

鷲尾

子どもの時に見ていたのは『魔法使いサリー』(1966年)や『ひみつのアッコちゃん』(1969年)といった作品ですね。ただ、当時はあくまでアニメーションの1つとして見ていて、魔法少女ものとしては見ていなかったんです。そもそも「魔法少女」という括りも、東映に入社してから知りました。

でもこうした作品との出会いが、今の仕事に就くきっかけになったのは間違いないです。慶應を卒業してから、別の仕事をしていたのですが、やはり子どもの頃に見ていたような作品を自分でも作りたい! という思いもあって、東映動画(当時)に転職し、今に至ります。

石井

私は子どもの頃は漫画にもあまり触れてこなかったのですが、唯一見ていたのが『鉄腕アトム』でした。そんな人間が『魔法少女はなぜ変身するのか ポップカルチャーのなかの宗教』(春秋社、2022年)という本を書くことになったのだから、不思議なものです。

杉山

魔法少女の研究をされるきっかけは、何かあったのですか。

石井

私は戦後の宗教の変動を研究しているのですが、その一環としてメディアと宗教をテーマにしようと思ったのです。

そうして見た時に、今の若者たちの間でメディア、特に漫画やアニメといったポップカルチャーの影響力というものは非常に大きい。「布教活動」といった宗教用語を漫画やアニメから学んでいる若者もいるくらいです。

そうした影響力の大きさを知るため、若者の間で人気の高い魔法少女ものを題材にしようと思ったことが、きっかけですね。

杉山

私は今、アニメのファンの研究などをしていますが、元々小さい頃からアニメが好きでした。父親が『宇宙戦艦ヤマト』や『機動戦士ガンダム』が好きだったこともあって、幼少期からアニメを見ていました。

ただ、魔法少女に最初に触れたのは映像作品ではなく、歌でした。幼い頃、車の中で色々なアニメソングが収録されたカセットをよく聞いていて、その中に『サリー』や『アッコちゃん』の主題歌があったんです。

石井

作品よりも先に歌だったと。

杉山

はい。作品で最初に見た記憶があるのは『夢のクレヨン王国』(1997年)です。なぜか家にキャラクターが描かれた虫かごがあって。何で虫かごだったのかよくわからないですが(笑)。後は『おジャ魔女どれみ』(1999年)やリメイク版の『アッコちゃん』、それからNHKで放映していた『コレクター・ユイ』(1999年)といった作品も見ていました。

『プリキュア』は残念ながら世代ではなかったのですが、今回あらためて拝見して、小学生の頃に見ていたら絶対好きになっていただろうな、と思いました。

鷲尾

ありがとうございます。

日本における「魔法少女」

杉山

私は今、自分の研究の中で、『スレイヤーズ』という作品のファンにインタビューしています。この作品は、魔法を使う女の子が主人公の小説(ライトノベル)が原作で、アニメやゲームなど、様々な媒体で展開しています。

『スレイヤーズ』のように魔法が登場したり、魔法を使うキャラクターが出てきたりする作品というのは数多くあると思いますが、あらためて魔法少女、といった時、その境界はどこにあるとお考えですか?

鷲尾

難しいですね。おそらく明確な定義といったものはないのではないかと思います。

ただ、いわゆる初期の魔法少女もの、『サリー』や『アッコちゃん』は、主人公が日常の中に隠れた存在、という扱いだった。そんな女の子たちが魔法を使って秘密裡に活躍するのを、低年齢の女の子たちが好んで見ていた。そんな時代が長らく続いていたのではないかと思うんです。

石井

確かに、そうしたフォーマットの作品は多かったですね。

鷲尾

それを壊したのが『美少女戦士セーラームーン』(1992年)だと思います。いわゆる、「変身して戦う」魔法少女ものですね。当時、魔法少女ものとしては異例の存在で、おそらく対象も従来の幼稚園~小学校低学年よりもっと上の年齢層を想定していたと思います。

でもそこに小さな女の子たちも飛びついた。そこから業界的には拡散の時代が始まったんです。いわゆる昔ながらの魔法少女ものから、『スレイヤーズ』や『セーラームーン』といった、戦う女の子たち、といったように。多様な魔法少女が活躍する時代になった。

杉山

魔法少女の幅が広がったのですね。

鷲尾

そうですね。今ではむしろ、昔ながらの杖を使って魔法を使うようなものは、大人向けのファンタジーの方で主流になっているのではないかと思います。

カウンターとしての『プリキュア』

杉山

様々な魔法少女がいる中で、『プリキュア』は低年齢の女の子向けというスタイルをずっと守り続けていますよね。今では子どもに限らず、幅広い世代の人々に愛されるコンテンツになっているかと思います。

今、私が教えている学生たちは、小さい頃から『プリキュア』がある世代なので、『プリキュア』のことは当たり前にわかるし、『プリキュア』を題材にレポートを書いたことがある学生もいるくらいです。

石井

新作が発表された時の盛り上がりもすごいですよね。影響力の大きさをひしひしと感じます。

鷲尾

ただ、これを作った最初のきっかけは、魔法少女ものというジャンルに対してのカウンターになる作品にしたい、という思いからだったんです。

先ほど言った、陰ながら内助の功的な形で人知れず世の中を救う、というお話がずっと繰り返されていたのですが、どうせやるのだったら、男の子のヒーローものと同じでいいのではないか、そんな思いから始めたんですね。初代の『ふたりはプリキュア』では、主人公たちは変身のためのアイテムは持っているのですが、それが携帯電話なんです。

杉山

当時の女の子たちが憧れる、最先端のメディアを変身アイテムにしたわけですね。

鷲尾

ええ。当時、玩具開発担当者に話を聞くと、彼らも現状に対して疑問を抱えていたらしい。それで杖などではなく、携帯電話を変身アイテムにして、それにカードをつけることにしたのです。

当時、玩具業界では女の子に液晶玩具ははやらないし、カード集めもしないと言われていたんです。それに対して、カードのバーコードを読み取らせて液晶が動く玩具にしましょう、という提案があって、やってみようということで始まったんです。

石井

当時からすると、かなり大胆な試みですよね。

鷲尾

大人たちには「そんなものがうけるはずない」と言われていたのですが、なぜか、子どもたちが受け入れてくれたんです。

もちろん今は色々と変わってきています。キャラクターは色々なアイテムを持っていますし、変身する時もにこやかに変身する。今やメイクもしていますからね。お子さんがメイクをするという概念も当時はなかったのですが、そういう新しい要素をどんどん取り入れている。

ただそれでも子ども向けであるということをずっと守り続けて作っていくことだけは、今後も変わらないと思います。

最終回に向けての葛藤

杉山

魔法少女もの、というジャンルで欠かせないキーワードが「変身」なのではないかと思います。例えば『スレイヤーズ』の主人公は魔法を使いますが、変身はしない。そのため、厳密には魔法少女ものには分類されないのではないかと。

石井

変身は1つ、重要なキーワードかもしれませんね。というのも基本、魔法少女は変身しないと魔法が使えない。だから本来、変身能力を失うということは物語上、大きな意味があると思います。

例えば『アッコちゃん』の場合、最後に魔法を捨てるんですよね。

鷲尾

ああ、そうでしたね。

石井

魔法を捨てて元の人間に戻るというのがテーマで、意外とそれがきちんと描かれているのが見ていて面白かったんですよ。最近の作品では、必ずしもそういった点が描かれていないような気がします。

鷲尾

難しいですね。毎年、『プリキュア』でもそれを悩むんですよ。最終回をどうするか。

杉山

魔法を授けてくれた、かわいらしいマスコットキャラクターたちと別れるのか否か。

鷲尾

そうなんです。別れると変身できないという前提のお話なので、最後に別れて、悲しく終わっていいのか。子どもたちの夢がいったん途切れるというふうにしていいのかと、毎年そこは悩みます。

『アッコちゃん』も当時、衝撃だったのではないですかね。魔法を返すというのは。

杉山

ハッピーエンドで終わりたいけれど、魔法を持ったままでいいのか、というのは難しい問題ですね。今まで担当された中ではどちらを選択されたのですか。

鷲尾

どちらもありました。お別れで終わったものや、何年後の世界という風に時間が経過して、大人になって終わったシリーズもあります。色々なやり方に挑戦していますね。

正直、終わらせ方については正解がないと思うんです。当時、見ていた子どもたちが大人になったところで聞いてみて、ようやくどのように受け取られていたかがわかるのかなと。

世代を超えて愛される作品に

鷲尾

劇場版が公開されると、我々も休日に映画館に見に行くんですよ。お客さんの反応を見るために。

『プリキュアオールスターズ』といって、歴代のプリキュアが勢揃いする作品だと顕著なのは、小学生ぐらいのお子さんを連れた、親子連れのお客さんが増えるんです。

ある時、『オールスターズ』の映画を見ながら、ふと隣を見ると、色々なキャラクターが出てくるシーンで、お子さんが「昔見ていたのが出ている!」と言っているその横でお母さんが泣いているんですよ。

石井

お子さんではなくお母さんが。

鷲尾

ええ。きっと、昔のキャラクターが出てきたのを見て、当時お子さんとそのキャラクターが主役の作品を見ていたことを思い出したのだと思います。

子どもが大きく成長して、今こうして昔のキャラクターを一緒に見ていることを感慨深く思ってくれているのだと思います。あのような光景を見ると、長く続けることの意味やありがたさを実感できます。

杉山

私はライフコースとファンのつながりを研究していますが、当然のことながら、進学や就職、結婚などのライフステージの変化に応じて、ファンとしての経験もまた変化しています。

その女性は『プリキュア』のファンではないかもしれませんが、子育てや色々な苦労をされた経験と作品の経験を一緒に記憶されていたのでしょうね。

石井

通年で放映している『プリキュア』シリーズだからこそ、親御さんも余計印象に残っているのかもしれませんね。特に2000年以降、1年単位で放映している作品は減る一方ですから。

杉山

だいたい子ども向け以外は放映期間が短くなっていますよね。

鷲尾

そうなってしまいましたね。アニメ業界全体でも、1年間通して50話やるアニメーションは本当に減りました。『ドラえもん』、『名探偵コナン』、『クレヨンしんちゃん』、『サザエさん』など、歴史の長い作品ばかりです。

杉山

少子化の影響もあるかと思いますが、子ども向けのアニメが減少している中、『プリキュア』のようにしっかり続いて、見せられる作品があるのは大事なのではないかと思います。

石井

本当にそうですね。

鷲尾

業界全体や社内でも、新しい子ども向け作品の企画は通りづらくなっています。おっしゃるとおり少子化で、ビジネスが成立しないからです。儲けなければいけないとなった時に、新規に子ども向け作品を始めて、そこできちんと採算がとれるのかというのはなかなか難しくて。

そうした状況の中、幸いにして『プリキュア』シリーズはテレビ局、代理店、スポンサーの皆さんがずっと支えてくれているので、何とかやっていけている状態です。

杉山

そういう意味では子どもだけではなく、大人のファンもいるというのは強みですね。

鷲尾

そうですね。東映アニメーションでいうと『ワンピース』と『ドラゴンボール』という2作品が会社の収益のかなり大きな部分を占めています。実は私は『ワンピース』の立ち上げの時に関わっていたのですが、立ち上げから10年ぐらいは、ビジネス的に非常に厳しかったんです。

石井

そうなんですか。

鷲尾

10年目ぐらいに映画で大ヒットを記録して、同時にテレビシリーズも大きな盛り上がりがきた。そこからゲームアプリや商品展開などが軌道に乗って、今に至ります。

杉山

やはり、ファンが育つにはそれだけの時間が必要ということですね。

ただ、それだけ続けられたのは原作の連載が続いていたからこそでしょうし、続けていくこと自体も非常に大変だと思います。なかなか全ての作品でまねできることではないですね。

鷲尾

難しいですよね。そういう意味ではオリジナル、つまり原作のないお話で20年以上続けられているというのは非常に稀有な例だし、幸せなことではあるかと思います。

大人が見る魔法少女とは

石井

『プリキュア』が子ども向けの魔法少女であるのに対し、いわゆる大人向けの魔法少女の作品も数多く作られていますよね。バラエティ豊かで人気が高い作品もありますが、こうした作品たちの中に、何か共通項はあるのでしょうか。

杉山

全ての作品に該当するわけではありませんが、「魔法を得たことの代償」という点について、描かれていることが多いように思います。子ども向けだと、その点はそこまでフォーカスされない気がしますね。

例えば『魔法少女まどか☆マギカ』(2011年)では、魔法少女になることの良さ以上に、ネガティブな側面に焦点が当てられていました。物語のリアリティを考えた時、いきなり無力だった人間が強くなることの理由付けとして、ダーティな要素を結び付けるやり方は、今では広く受け入れられているように思います。

石井

魔法の力を得たことに苦悩する描写が入ることで、物語の深みが増すのかもしれませんね。

あと、西洋の魔女のイメージがあるのかもしれません。ヨーロッパでは長らく、魔女が魔法を使えるのは悪魔と契約して特別な力を得たからだ、という概念がありました。そういったイメージが反映されているのかもしれない。

鷲尾

そうですね。それでいうと、実は最近、色々な作品に魔法男子もたくさんいるんです。

ただ魔法男子は、大人向けの作品でも、その力を手に入れたことについて、あまり苦悩しないんですよね。魔法の力を使って頂点に上ることばかり考える。だけど魔法少女は、おっしゃるとおり、ものすごく苦悩するんですよ。そこは大きな差かなと思います。やっぱり男の子のほうが単純なのかな(笑)。

子どもに向けた作品を作るために

鷲尾

『プリキュア』は途中、大変なこともありました。2016年に『魔法つかいプリキュア!』という作品を放映したのですが、実はシリーズが始まった頃、プリキュアは魔法を使っているのではないと私はインタビューで言い切っているんですよ。それなのに「魔法つかい」でいいのかと。

石井

ファンからは、矛盾しているように感じられたのでしょうね。

鷲尾

でも、周囲の色々な関係者から、ぜひ魔法つかいでやってほしいと言われたので、何とかやりましょうと。図書館に行き、中世の魔女の概念を学術書を読んで学んだんです。

するとその中に、中世の時代の為政者にとって都合の悪い、いわゆる民衆の尊敬を得られる職種の人たちを、魔女と称して排除した歴史があったという記述があって。

杉山

なるほど。

鷲尾

それだ、と思って。魔法を使えるということで排除された世界と、人間の世界が分かれて存在している中で、この別々の世界にいる2人が偶然手をつないだら、そこに奇跡が起きる。それがプリキュアです、という言い方をすればいいのではないかと。そうして『魔法つかいプリキュア!』というお話がスタートしたんです。

石井

中世の魔女の概念を作品に取り入れたわけですね。

鷲尾

アニメーションを作る時、アニメーションを参考にしてはいけないと思っているんです。そうではなく、別のところから概念を取り入れるため、様々なアプローチをする。今は現場のプロデューサーが毎年苦労して考えています。

杉山

友情や絆のような『プリキュア』のコアをどこに見るかという点については、これまで何度も問い直されながら構築されてきているのだと思います。

でもそうして製作者の方々が格闘して出てきたアイデアが毎年すごく面白い。二番煎じにならないよう、苦労されているのではないかと、強く感じます。

鷲尾

2024年に放映していた『わんだふるぷりきゅあ!』は、ペットの犬と猫が変身するのですが、あの発想の元になったのは「元犬」という落語なんです。

神社の境内に住んでいる野良犬が人間になりたいと思っていて、人間がお百度参りするのを見て、自分がやってみて、人間になりたいと祈ったらなってしまった。

つまり動物が人間になって、プリキュアになる。自分を飼ってくれている飼い主との絆を、自分の中で一番表現したい方法がそれだったという形をとったわけです。

杉山

その結果、初めて動物が変身するプリキュアが生まれたわけですね。おそらくファンの方々も「今年はどんなプリキュアなんだろう?」という期待があるのだろうと思います。

多様化するファン

石井

魔法少女ではありませんが、アニメ『鬼滅の刃』は映画も大ヒットするなど、とても人気がありますよね。やはり女性のファンは多いのでしょうか。

杉山

多いと思います。分類としては少年漫画なので、一応のメインターゲットは男の子だと思うのですが、女性のファンで、『鬼滅の刃』の二次創作漫画を描いている方はすごく多いです。

石井

今はそうした男女の区分はもはやないに等しい、ということですかね。少年漫画だからといって女性が読まないわけではない。

鷲尾

今はないですね。『鬼滅の刃』は、明らかに昔の王道の少年漫画の成長ストーリーです。修行して、どんどん技術が高まっていく中で、仲間が集まり、最後にラスボスを倒す。

そのフォーマットの作品で、女性のファンが付くという流れが最初にできたのが、『聖闘士星矢(せいんとせいや)』(1986年)ではないかと思っています。あれをアニメーション化する時に、キャラクターデザイナーを荒木伸吾さんという、ものすごくきれいな絵を描くことに長けていた方がやられたんです。それが放映されたら、女性のファンがものすごく付いた。

5人の男の子が主人公なのですが、対戦する相手も、どんどんイケメンになっていく。それがものすごくうけて、男の子向けに作ったであろう商品を女の子が買っていくということが起きたんです。

そこから男の子たちのグループが切磋琢磨して成長していくという男の子向けの漫画・アニメーションを、女の子、もしくは少し上の女性が受け入れる文化ができた。それが進化して今に至るのではないかと。

その流れの中に『鬼滅の刃』がある。実は『ワンピース』もそうなんですよ。女性のファンがとても多い。

杉山

男同士の絆を楽しんでいる女性は本当にたくさんいますし、おそらく男性も男性なりに楽しんでいるのではないかと思います。という意味では、『プリキュア』のようにストレートに女の子に向けた作品というのはむしろ貴重なのではないかと。

鷲尾

その点でいうと、今、魔法少女ものというジャンルが小さい女の子たちにちゃんと受け入れられているのか、少しだけ危惧しています。

今は比較的、大人の男性のファンがこのジャンルを愛でている傾向が強い。ありがたいことではあるのですが、その状況の中で、魔法少女もののアニメが大人の趣味に限定されてしまうと、この先、子どもたちに向けた魔法少女ものが出てこなくなってしまうのではないかと。

石井

それは強く感じますね。一方で、若い人たちが実際の宗教ではなく、メディア、それこそアニメーションなどの媒体に宗教性を見出しているという現象も起こっています。

杉山

本来なら宗教こそが信仰の対象だったのに、そちらではなく、フィクションにいってしまうわけですね。

厳しい時代を生き残るために

石井

新しい、子ども向けの魔法少女ものが出てこないそうですが、『プリキュア』シリーズでさえ、視聴率は相当減っているのでしょう。

鷲尾

残念ながらその通りです。単純に視聴率の数字だけでいうと、『おジャ魔女どれみ』の頃は世帯で13~14%を取っていたんです。それが『プリキュア』になって、10%ギリギリ取るか取らないか。今は世帯の数字でいうと、2から3%の間ぐらいです。そのため、今テレビ局は視聴率を指標にできなくなってしまっています。

杉山

そうすると、今は何を一番指標にされているのですか。

鷲尾

関連商品を含めたビジネスですね。つまり、きちんと計画数値なりの商品展開ができているかということが、大きな指標になっています。

かつて、『サザエさん』は視聴率を25%~30%取っていましたが、今はたぶん10%いっていない。その中で判断しなければいけないので、放送局は今、非常に難しい判断を迫られていると思います。アニメに限らず、スポンサーのお金を集めることに対しても厳しい評価をされる時代なのではないでしょうか。

杉山

人々の共通経験になるようなものが本当に今、少なくなっている実感があります。それこそ宗教も、神社仏閣を回るのが好きな人はいると思いますが、もう個人の趣味のような形になっている。宗教的なものに関心を持つ一部の人々という、限られたパイの取り合いのような、厳しい状況になってしまう。

しかも、他の宗教的な施設や団体にとどまらず、宗教ではない、別の何かと取り合っている。だからこそ、非常に難しいのかなと思います。

石井

日本だけでなく、世界的にそうだと思います。キリスト教でさえ、だいぶ弱くなってきていますからね。

海外における魔法少女

杉山

日本のテレビの視聴率が2000年代以降減っている一方、産業的に日本のアニメはずっと上り調子と言われています。海外での人気も高いようですが、『プリキュア』はいかがでしょうか。

鷲尾

どちらかというと、海外で人気が高いのは大人向けのアニメの話ですね。海外で、いわゆる子ども向けに作って子どもに受け入れられた魔法少女アニメは相当少ないです。

杉山

『セーラームーン』の人気はかなり高いと思いますが。

鷲尾

本当にあれくらいですね。アメリカは『セーラームーン』をものすごく受け入れたし、ヨーロッパ、特にフランスでの人気も高い。それ以外は『プリキュア』も含めて、ほぼ厳しい状況です。

女性が主人公ですべての物事を解決するという物語が、西洋文化のコンサバティブなところに受け入れられないところがあるようです。なぜ男性が出てこないのかとか、最後は男性が解決すべきではないのかと、昔は海外のファンからそういうコメントをもらったこともありました。

杉山

ジェンダー・ギャップ指数を考えると、むしろ意外な反応ですね。

鷲尾

もちろん今は、そうではなくなっているはずで、エンターテインメントの世界でも、意図的に女性を主体にお話を進めるというのは増えてきています。しかし、それでも子どもに対してのエンターテインメントは、親世代が自分の価値観ではねつける傾向がまだありますね。

その結果、欧米では子どものエンターテインメントで何が起きているかというと、全部、動物が主人公になるんです そうした問題を意識しなくていいので。

杉山

日本だとあまりその傾向はないですね。

石井

『どうぶつの森』というゲームは若い人たちに人気がありますが、あれも動物が主役というわけではないですしね。

鷲尾

やはり、ファンの方々の志向性が変わってきているのは強く感じます。『どうぶつの森』にしても、本来、子どもが楽しむものだったはずなのに、熱狂しているのは大人という現象が起きている。

子どもの世界ではやっているものは、昔からそうですが、大人はすごくキャッチしづらい。今は国内だけではなく、海外から入ってきているアニメーションも見られる時代です。『パウ・パトロール』という6匹の仔犬が主役のアニメや、YouTubeで配信されている『イタリアン・ブレイン・ロット』という作品も大人気です。子どもたちの間で何がブームになるのか、こればっかりは本当にわからない。

杉山

アニメの企画は放映する何年も前から動いていると思うので、子どもの世界をリサーチし、それで何がヒットするのかを読んで世に出す、ということは不可能に近いことのように思います。

鷲尾

子どものインタビューは何度かやっているんですよ。でも、小学生ぐらいの男の子たちのグループインタビューは、まあ5分もたないです。インタビューはそっちのけでお菓子ばかり食べてしまう(笑)。

女の子はおとなしいのですが、今度は親御さんが横について、これ好きだよね、という問いかけに対し「うん」と頷くだけになってしまって。マーケティングという概念が一番はまらない人たちなんです。だけど明確に志向性がある。

杉山

はまった時の爆発力はすごいですよね。過去の事例を思い返しても、『プリキュア』もそうですし、『妖怪ウォッチ』などもそうだったと思います。

鷲尾

そうです。何かがブームになると、それ一択になるんですよ。だからみんなそこを狙うのですが、なかなかはまらない。

杉山

その中でも比較的、魔法少女ものが続いているのは、きっとそのフォーマットが当たりやすいという経験則があるから、ということでしょうか?

鷲尾

それはあると思います。特に自我が芽生え始めた子どもにとって、自己認識とのギャップがあるじゃないですか。小さい子どもなのに、大人と一緒に生活していると自分も大人のつもりになる。それがたぶん、変身願望につながるんだと思います。

大人と同じ格好をする。もしくは自分が見ている憧れの大人と自分を同化するという作業。そこに変身願望がはまった時に、子どもたちが喜んで熱狂してくれることにつながると思っています。

石井

憧れとして見ていた大人に、自分たちもなれるということですね。

鷲尾

今、偶然アイドルというテーマでプリキュアをやっていますが、これを先にやったのは『アイカツ!』(2012年)という番組なんです。

これはいわゆるショッピングセンターなどにある筐体に、カードを差して遊ぶカードゲームと連動して始まった番組なんです。筐体にカードを差すと、画面の中にいる女の子が変身する仕組みになっています。

これが子どもたちに見事にはまった。華やかな衣装が描かれたカードを使って、好きなキャラクターをコーディネートしてゲーム上で遊べる。着せ替え人形と、変身願望を合わせたような形になっている。

杉山

ある種の伝統がある中で、あらためてプリキュアをアイドルにする、というのは思い切った決断だったと思います。でも、最新作の1話を見ると、しっかり肉弾戦をしていて、あ、やっぱり『プリキュア』なんだと思いました。

魔法少女のこれから

石井

先ほど、海外で魔法少女ものは受け入れられにくいというお話がありましたが、魔法少女ものの作品というのは、海外にはないのでしょうか。

鷲尾

ありますね。『パワーパフガールズ』という、アメリカで作られた作品がありますが、これは人気が高いです。

杉山

日本でもリメイクされていましたね。

鷲尾

ただ、製作者いわく、あれは日本の魔法少女ものをモチーフにして作ったと言っているそうです。

杉山

お互いに参照し合っているので、どちらが先というのも、もはやわからなくなっているかもしれませんね。『サリー』も、アメリカのTVドラマである『奥様は魔女』がヒントとなったと言われていますね。

鷲尾

もっと古くからは、ディズニーですよね。あそこから派生して日本風にアレンジしていったものが、魔法少女ものの原点になったのではないかと思います。

今、ヨーロッパでは『Winx Club』というイタリアで作られた番組が長く続いていて、今や第8シーズンまで続いているんです。それから『ミラキュラス レディバグ&シャノワール』。これはフランスで作られた作品ですが、実はパイロットフィルムは東映が作ったんです。

杉山

3DCGのアニメーションですよね。

鷲尾

この作品の製作者ともミーティングをしたことがあるのですが、彼らも日本のアニメーションの大ファンで、なんと『ハートキャッチプリキュア!』を見て、自分たちもこういう作品を作りたい! と思ったことがきっかけだったそうです。

もはやワールドワイドで混合してしまっているので、どれが原点なのかということは、もうわからなくなってきてしまっている。

石井

今挙げられた作品というのは、ヨーロッパでは人気なのですか。

鷲尾

人気は高いです。特に『レディバグ』はヨーロッパでものすごく受け入れられて、アメリカでも輸入されました。

石井

日本でも見られているのですか。

鷲尾

ファンは多いようですが、どちらかというと少し上の年齢層の人たちが見ているようです。日本は大人と子どもの境目が曖昧で、大人になっても見ている人が多い。

杉山

以前に読んだ特撮変身ヒーローに関する論考で、今では「大人」は「子どもの遊び」を断念するべきだという文化が継承されなくなっているという指摘があったことを思い出しました。

鷲尾

今の大人は、アニメーションを見て育った世代でしょうからね。そうなると、その中に自分が見てもいいというものがあった場合は続けて見るでしょうし、子どもに対しても、別に分け隔てなく見ることを許容すると思います。

ただ海外でもそれに近しいことがもう起こり始めています。アニメーションのイベントがあると大人が普通に参加しているし、コスプレもしている。世界共通の傾向が強まってきているのではないかと思います。

石井

そう思いますね。

杉山

その点、逆に『プリキュア』の普及がまだ難しい、ということのほうが不思議ですよね。

鷲尾

そうですね。もしかしたら、日本の日常が物語のベースにあることが、理由としてあるかもしれません。

あれだけ知名度の高い『ドラえもん』でさえ、アジアより向こうにはなかなか浸透しないというのも、それが理由かもしれないですね。

石井

作中の設定が、純日本の生活環境だから。

鷲尾

そのあたりを突破できれば、受け入れてもらえる可能性はあると思います。

(2025年12月10日、三田キャンパスにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。