慶應義塾

塾長室だより No. 15 「塾生会議」の始まりを振り返る

公開日:2023.04.14

常任理事

奥田暁代

[担当]SDGs、ほか

「慶應義塾SDGs会議——2022塾生会議」。プロジェクト発足の検討は、2021年秋に始めた。この一年を振り返ってみたい。塾長が掲げた目的は、(1)慶應義塾のSDGsに塾生の声を反映させる、(2)塾生の意識改革を促す、だった。SDGs会議は、持続可能な開発に貢献するばかりでなく、会議が育成の場となることも意図したのである。この二点は重要な意義を持つ。169のターゲットのうち、4.7はSDGs達成に不可欠の知識と技能の習得を掲げている。あるべき姿を思案する活発な議論が行動を起こし貢献に結びつく。新たな仕組みの構築が求められた、と理解する。

2022年1月には、塾生の課外活動の一環として位置づけ、1、2年生が多い日吉キャンパスで開催を決めた。事務局の設置を模索する。並行して、SDGsに詳しい蟹江憲史氏(政策・メディア研究科教授)と国谷裕子氏(政策・メディア研究科特任教授)の意見を参考に、30年後SDGs達成を先導する慶應義塾という視点に立ち、50くらいの提案を2022年度中に提出、その提案を2023年度以降に実施、と具体的な目標を置いた。自然科学研究教育センター所長の経験を持つ小林宏充氏(法学部教授)が協議に加わると、2月には同センターの教育プロジェクトとして申請できた。プロジェクト概要は、SDGsについて塾生が学び理解を深める、また議論によって未来の慶應義塾を「持続可能な」形で考えた50の提言にまとめることを目指す会議を実施する、とした。2050年のあるべき姿のビジョンに加えて、SDGsの17目標を念頭に、参加塾生が卒業するまでに実現できるアクションについても提案する、とした。

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事務局を自然科学研究教育センターに置き、プロジェクト代表に就任した小林氏の下、3月中に募集要項を作成、4月初旬に広報と募集を開始、5月にメンバーを決定している。着実に準備が進んだことは、日吉キャンパスの複数部門それぞれを代表する職員管理職の協力が大きい。塾生会議は、無作為抽選で招集されたイギリスやフランスの「気候市民会議」にヒントを得たことから、公募と併せて、学部のバランスを考慮した上でアトランダムに抽出した。「気候市民会議」では専門家の助言を得ながら市民が議論を重ね提言をまとめている。その形式も踏襲して、塾生会議では専門家による講義を予定した。江守正多氏、高村ゆかり氏、三輪敦子氏、山本太郎氏、末吉竹二郎氏、伊藤公平氏 、南博氏、川廷昌弘氏の8名が登壇することになる。

6月1日のガイダンスに始まり、スーパーバイザーの蟹江氏と国谷氏によるイントロダクションに続く。自然科学に限らず様々な専門の教員10名程が毎回参加し塾生会議をサポートした。数週間に及ぶレクチャーでは環境、経済、社会に係る具体的な課題が浮き彫りになり、塾生は秋学期の議論に必要となる知識を深めることができた。専門性の高いレクチャーは、既に少なからぬ知識を持っていた塾生にとっても刺激となったが、毎回2名の講師を招聘したために、ディスカッションの時間が少なかったことが心残りである。

2022年6月1日 ガイダンス
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プロジェクトの企画段階から「塾生」を広く捉え、一貫教育校の小学生から高校生も含めた会議の可能性が検討された。この企画は、サマーキャンプの開催で実現している。8月31日、各校から選抜された児童生徒が大学生とともに、17の目標に分かれディスカッションに参加した。小学生から大学生までを一堂に集める試みは慶應義塾でこれまでなく、色々な視点から見たブレーンストーミングと様々なアイデアに、参加者は新たな刺激を受けていた。この場で出たアイデアはその後の提言作成に活かすことが期待された。サマーキャンプには各校の教諭も多く参加し、塾長、常任理事、大学教員とSDGsの取り組みについて意見交換するなど、活発な交流の場となった。

2022年8月31日 サマーキャンプ
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秋学期は、学生の提案によりSDGsの目標1から17のグループに分かれて、目標・ターゲット・アクションに関する提言作成の議論を重ねた。この過程で、慶應義塾の現状を分析するために管財部や学生部、大学生協などから情報提供を依頼するなど、塾内の関りが広まっていく。地域でのアンケート調査、他大学へのヒアリング、企業への訪問も実施された。最終報告に向け、パワーポイントによるスライドの提示方法や説明の仕方について参加教員と塾員からも助言を得た。

2023年1月11日に各グループ5分のプレゼンテーションを行い、250ページを超えるスライドと参考資料をまとめた提言が塾長に手渡された。提言は大きな目標を掲げたものから具体的なアクションまで規模も内容も多岐に渡る。部分的に紹介する。「ターゲット」は「2030年までに」あるいは「2050年までに」と明記されるなど中長期の提案である。「全国の貧困層の子どもを直接的に支援する」、「塾内のフードロスの割合を1%以内にする」、「女性教員・学生の割合を50%にする」、「ウォーターサーバーをキャンパス内施設に設置する」、「地方出身者のUターン率を40% にする」、「リサイクル率を現在の45%から70%まで引き上げる」、「慶應の森についての情報を開示する」、「キャンパス内でサステナブルシーフード利用100%を達成する」、「国際社会の平和に関わる活動を行う塾生への助成金制度を構築する」、などである。

「アクション」は、より具体的な計画を示した。「キャンパス付近 に在住の小学生へ居場所提供」、「一人暮らし食堂の実施」、「性被害を生まないようにするための授業の実施」、「SDGsワークショップの実施」、「リーダーシップセミナーの開催」、「自然エネルギー大学リーグへの加入」、「カリキュラムの柔軟な更新」、「学生・教職員の立場を越えた学内交流の促進」、「地域住民との共同イベントの実施」、「生ごみと落ち葉の堆肥化」、「各教室に薪ストーブの導入」、「国際的な大学間ネットワークの強化」などが提案された。塾長に提出された提言は常任理事会で検討を行い、3月下旬に塾生会議にフィードバックしている。

2023年1月11日 「2022塾生会議」提言
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2022塾生会議は期待に十分応えてくれた。報告書の提言数は想定していた50を超え、複数が様々な形で採用された。まず第一に、慶應義塾の『中期計画2022ー2026』に、2030年までの目標として以下三つを組み入れる。「再生可能エネルギーを導入する」、「ゴミの廃棄量を削減する」、「塾内の環境を誰にとっても安心できる安全な場所にする」、である。第二に、「交換留学協定校についてアジア・アフリカ地域から追加していく」など部分的に採用された提言は、関連部署で実現に向け検討が始まる。第三に、4月以降、キャンパスのゴミ削減や省エネルギー化など、提言を具体化する6つのプロジェクトが立ち上がる。提言を行動に移す主体になるのは塾生である。これは「慶應義塾SDGs会議——2022塾生会議」創設の意図に沿う。

さらに言えば、持続可能な開発の促進を塾生が担うことで、全塾の意識改革が進む。これも塾生会議開始の目的だった。そして、学生と教職員の連携は活動の拡がりを形作り、慶應義塾の社会貢献を推進する力となる。塾生会議立ち上げ当初から、SDGsを意識する活動の経験は卒業後に活かされることが期待されていた。専門家から得た知識、議論から得た理解、行動から得た経験は大きいと考える。塾生会議が、慶應義塾の改革を、長期的には社会構造の転換を図る手段となることを願う。SDGs達成が社会の舵取りであるならば、まさに先導者が担う役割であろう。

プロジェクトは完了していない。2023塾生会議の募集が始まったばかりである。2期生にも大いに期待している。