トーナメントには勝ち方があります。特に優勝を目指す場合には、序盤の試合をいかに余裕もって勝てるかがポイントです。初戦から全精力を使ってしまっては勝ち進むにつれて息切れしてしまいます。余裕というのは、そもそも自分が大好きなゲームを勝負として楽しめることであり、どんなピンチでも、慌てることなく冷静に対処して、普段通りの実力が発揮できることです。優勝を目指すのであれば、常に心のどこかで、この相手には負けることはないと信じ切れる気持ちの余裕をもつことです。自分が若い頃に様々なレベルのテニストーナメントに出場したときを思い起こすと、良い成績を残したときには、スコア的に競った試合に見えたとしても、序盤の試合を気持ち的に余裕をもって勝ったので、勝ち上がってから戦う本当に厳しい相手に対して力が発揮できました。
さて、今年の夏の甲子園。慶應義塾高等学校(塾高)野球部が躍進しています。全国レベルの強豪が揃う神奈川県大会を制しての出場ですから、当然、甲子園でも優勝できるチームです。自分の母校ということもあり、卒業生の一人としての気持ちの高まりは大変なものです。そして塾長としての一番の期待は優勝するチームらしい、どこかで余裕を感じさせる清々しい戦い方を初戦から示して欲しいということでした。今回のチームは見事にその期待に応えるどころか、想像以上の清々しさを見せてくれています。
「塾長は毎試合応援に行きますか?」といろいろな方から質問されると、「決勝とそれまでの試合の一つを応援に行きます。」と答えてきました。今回の塾高のチームほどトーナメントに強いチームはちょっと考えられないので、本当に優勝すると最初から思っているからです。三回戦の広陵高等学校戦を甲子園に応援に行った時、「優勝するのだから勝つのは当たり前。問題は、わずかでもよいので、常に余裕を持ち続けながら勝てるかが勝負だと」と塾高同窓会長の永野毅さんに伝えたところ、「公平さん、塾長のそのコメントは公にはできないねぇ」と笑ってくださいました。相手の広陵も優勝候補で素晴らしいチームだからこそ、私たち応援席は、選手と同じ気持ちで、勝利を信じて、戦わなければと思いました。トーナメントなので負けたらおしまいと弱気になると、その瞬間に勝利は逃げて行きます。実際に、塾高野球部は森林監督と選手が一丸となって、勝負をエンジョイして、どんなにピンチでも(例えば九回裏で相手ランナーが2塁にいた時も)、いつもどおりのピッチングと守備を披露してくれました。このように強さと清々しさを有するチームこそが義塾の誇りであります。
さて、明後日がいよいよ決勝戦です。決勝が当初予定どおり22日(火)に開催されることを想定して予定を空けていたのですが、台風で試合日程が一日延びてしまいました。それでも万難を排して甲子園決勝には駆けつけたいところなのですが、23日(水)は半年以上前から分刻みのスケジュールを調整してきた国外出張です。相手は春の選抜の初戦で、タイブレークまでもつれ込みながら敗れた仙台育英学園高等学校です。決勝こそは後先を考えない総力戦となるのですが、甲子園での借りを甲子園で返すときがきました。慶應義塾高等学校の戦い方が本当に楽しみです。高等学校長の阿久澤さんを筆頭に塾高全員が一丸となり、塾高應援指導部・吹奏楽部と慶應義塾女子高等学校バトン部と社中の応援のもとで優勝することを信じています。