ヘッダーの始まり
2022/06/27
ウクライナ危機が続く一方で、世界は一気にポストコロナに向けて動き始め、米国、欧州、豪州、インド、ASEAN各国などとの同志国間における情報交換が加速しています。塾長としても、このタイミングで一気に世界との対面交流が始まりました。すでに5月中旬の英国・オランダ出張、6月初めのフランス出張を終え、7月の初めにはシンガポールへ出張します。塾長としての交流ゆえの気づきも多くありました。今回の塾長室だよりでは、2回の海外出張の成果と所感、そして残りの1回の出張の目的を紹介します。
1.オランダ・英国出張報告(5月中旬)
塾長として初めての海外出張が、オランダ(ライデン)と英国(ロンドン)ということで、期せずして1862年の福澤諭吉先生の欧州訪問の一部と重なりました。何か不思議な縁を感じました。蘭学者としてスタートした福澤先生にとって、オランダ最古のライデン大学訪問は高等教育機関の在り方を考えるうえで特に印象的だったのではないかと思います(中等部教諭の大澤輝嘉さんが三田評論で紹介しています)。英国ではKing’s College Londonにおいて福澤先生が訪ねたSomerset Houseに隣接する建物で交流に関する議論を深めることができました。
今回のライデン滞在で私が感じたことのベスト3は以下のとおりです。
i) 大学の存在意義について
国内では、失われた30年、コロナ禍、ウクライナ危機等の影響もあって、経済、科学技術、教育、安全保障といった様々な問題に関する閉塞感が漂いがちです。特に大学では、研究力、グローバル人材育成、起業家教育などにおける世界からの遅れが指摘されがちで、慶應義塾も研究教育体制の強化に努めています。
今回交流した欧州トップ大学の学長・副学長や帯同した職員も同じような危機感を抱いている一方、例えば創立450周年を3年後に控えたライデン大学では、これまでのオランダの発展を自分たちの研究と教育が支えてきたという自負と、大学に対するオランダ議員・欧州議会議員・欧州研究機構(ERC)や市民の皆さんの信頼と尊敬を肌感覚で感じることができました。他のすべての欧州大学長も同じスタンスでした。要は市民が大学の存在意義を高く評価し、教育に対する高い見識と学問の自由に基づく大学の自治権を尊重し、そのための予算を政府や自治体が確保する安心感があるということです。国やEUとして急を要する医療・テクノロジー等に関する研究分野に関しては、その制度設計に対して個別大学が意見することに加え、LERUといった団体でまとまって政治家や官僚に説明と説得を重ねていくという道筋が確立されています。
慶應義塾としても、我が国と世界の発展に対するこれまでの私たちの寄与に胸を張りながらも、これからも若者たちの尊厳が保たれ、平和で幸せな社会が継続・発展できるよう、教育・研究制度の向上に取り組む気持ちを新たにしました。大切なことは独立自尊。鼻先のニンジンに惑わされることなく、数百年単位でのグローバル社会の継続的な発展に寄与していきたいと思います。
ii) 学問の独立と追究について
欧州の大学には常に警護が必要な教員が複数いるそうです。正義感に基づく学問の追究が、現代社会の闇にも果敢にメスを入れることになり、その波及効果が大きいほど教員の身に危険が及ぶということです。文字通り、命がけの学問の追究です。このような覚悟をもって学術の発展を担う教員の安全確保には、慶應義塾も含めて世界の大学コミュニティ全体で取り組むことを誓いました。
iii) 多様性について
Diversity, Inclusion, Equityといった議論においてはどうしてもジェンダー、人種、出自といった分類に基づく多様化に議論がシフトしがちです。しかしライデンにおいては、分類に基づく多様化はもちろんのこと、オランダの人々を中心とした集まりにおいても、多様な意見を認め、発言や議論を促すことを推し進めています。日本では「空気を読む」とか「同調圧力」というものがあり、私たち教員もややもすると、いわゆる「優等生」を優遇する傾向がありますが、ライデンでは”messy stuff wins”という標語が掲げられ、“let go of control, build on trust,” “allow spontaneous, original ideas to win from fixed formats – every step along the way !” “don’t let the rational get in the way of the intuitive,” ‘foster and stimulate “real” bottom-up ownership’といった独立自尊が強調されていたのが印象的でした。多事争論の基本は異端を認めること、自らの先進的な異端性を誇ることだと再認識しました。協生社会とは、同調社会、空気を読む世界ではありません。ライデン市はEuropean City of Scienceにも選出され、市内では毎日のように市民の好奇心と発案に基づく科学イベントが開催されています。世界を救うのは市民の好奇心と知性と行動力であり、その中心に大学が存在するすばらしさを実感しました。
英国訪問は、実質二日間で、University of CambridgeのDowning College、King’s College London、在英国日本大使館、日本学術振興会ロンドンオフィス、英国オリンピック・パラリンピック委員会を訪問し、さらにはロンドン三田会の皆さんとの会食の機会を得ました。福澤先生がKing’s Collegeを訪問した様子は元幼稚舎長の加藤三明さんが三田評論に記しているとおりです。
2.フランス出張報告(6月中旬)
2019年にフランスで先進国G7サミットが開催され、開催国マクロン大統領の呼びかけでU7+ Alliance of World UniversitiesというG7国を中心としたトップ大学が集まる連合(University7+)が結成されました。G7サミットに学術界の意見も反映させようという、マクロン大統領の画期的な呼びかけでした。今年のG7首脳サミットはコロナ禍やウクライナ危機により対面での実施がなかなか決まりませんでしたが、6月末にドイツ・Schloss Elmau(シュロス・エルマウ)で開催されることになりました。そこで急遽U7+学長サミットが、集まれる人でなんとか対面でということで、フランスのコートダジュール(ニースとカンヌ)で開催されました。U7+には世界50校超の大学が加盟していますが、私も含めて15名ほどの学長が現地に集まり、その他の方々がオンラインで参加しました。ご存じのとおり、来年(2023年)のG7サミットは広島で開催されます。よって来年のU7+学長会議も日本での開催ということで、めでたく慶應義塾がホスト校として認められました。世界中から学長・副学長・スタッフが三田に集まります!急遽開催決定ということで今回の会議の参加者は少なかったのですが、赤い階段の上で撮ったのが今回の集合写真です。あのカンヌ映画祭が実施される会場でU7+会議が開催され、スターがのぼるレッドカーペット階段に並んで記念写真を撮りました。もう一つの写真はニース会場での写真です。一歩外に足を踏み出すと!ということでニースの青い海岸の写真も示します。
U7+のホームページにはG7サミットに提出した提言や、大学として気候変動対策に取り組む決意声明、ウクライナ戦争に関する声明などが掲示されています。これら提言や声明の作成には慶應義塾も積極的に携わってきました。慶應義塾からは国際担当常任理事、土屋大洋さんとグローバル本部の担当職員がU7+大学連合事務局や学長サミット準備委員会メンバー大学関係者との多数のzoom meetingを実施、準備作業に携わってきました。すべての声明に慶應義塾が主体的に携わってきたということは、U7+の声明は慶應義塾の声明でもあるということです。来年の三田におけるU7+学長サミットに向けても多くの共同作業が続きますが、これこそが国境を超えた学術交流と学生往来の基礎になると信じて進みたいと思います。
3.シンガポール出張の目的(7月初旬)
シンガポール出張の目的はAssociation of Pacific Rim Universities(APRU: 環太平洋大学連合)の学長会議に出席することです。60の研究大学がメンバーで、今年の学長会議のテーマは“Reconnecting in a Sustainable World”であり、様々な学長が“Responses to Crisis in a Diverse Region, “ “Sustainability and Climate Change,” “Preventing the Next Pandemic,” “Reconnecting: The New Urgency for Collaboration”に関して各大学の立場から発表を行います。私は国境を超えた大学間協調に関しての講演に加えて、最終日の会議のsummary(まとめ)の発表を任されています。
慶應義塾から一人でも多くの学生が世界に飛び出し、また、一人でも多くの学者や学生が世界から慶應義塾に興味を持っていただけるよう努力いたします。
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