慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程(当時)の村上玲、同大学再生医療リサーチセンター長の岡野栄之教授、同大学殿町先端研究教育連携スクエアの渡部博貴特任講師らを中心とする研究グループは、ヒトiPS細胞由来のアストロサイトを用いて、アルツハイマー病に関わる遺伝子が発症や進行を抑える作用メカニズムを解明しました。
アルツハイマー病に関わる遺伝子のひとつであるアポリポタンパク質E(APOE)遺伝子のクライストチャーチ型は、アルツハイマー病の発症や進行を抑える可能性があるとして、2019年に報告されました。しかしAPOE遺伝子のクライストチャーチ型が、どのようにして疾患の発症や進行を抑えるかは明らかになっていませんでした。本研究グループは、ゲノム編集技術を用いてAPOE遺伝子クライストチャーチ型を持つiPS細胞由来アストロサイトを作り、家族性アルツハイマー病患者由来の神経細胞への効果を調べたところ、アルツハイマー病で特徴的なタウタンパク質の神経細胞間の拡がりがAPOE遺伝子クライストチャーチ型を持つアストロサイトによって抑えられることを発見しました。
今回の研究成果はAPOE遺伝子クライストチャーチ型を持つアストロサイトがアルツハイマー病への抑制効果を証明することに成功したものであり、病態脳内でみられるタウタンパク質から成る神経病理の拡がりを抑えるという新たな視点を基にした創薬開発につながる可能性をもっています。
本研究成果は北米神経科学学会(SfN)公式ジャーナルである Journal of Neuroscience オンライン版で2024年4月22日(米国東部時間)に公開されました。