慶應義塾大学医学部坂口光洋記念講座(オルガノイド医学)の佐藤俊朗教授、杉本真也助教、同内科学(消化器)教室の戸ヶ崎和博助教、金井隆典教授らの研究グループは、悪性度が高く、胃粘膜の表面に現れずに広がっていく胃がんで「スキルス胃がん」の別名で呼ばれることもある、びまん性胃がんの一種「印環細胞がん」が形成される過程を患者由来のオルガノイドを用いることにより初めて明らかにしました。
胃がんの中でも特に悪性度の高いびまん性胃がんは、「印環細胞がん」と「低分化腺がん」という2種類のがん細胞で構成されている場合が多く、特定のがん細胞だけを狙い撃ちする標的治療が効かないがんとして恐れられてきました。びまん性胃がんがなぜこのように異なる種類の細胞から形成されているのか、そのメカニズムは不明でした。
今回、研究チームはびまん性胃がん患者のがん細胞をオルガノイドと呼ばれる技術で培養し、低分化腺がんがこれまで別個のがんだと考えられていた印環細胞がんへと周囲の環境に応じて変化することを実証しました。さらに研究チームは、遺伝子編集と独自の培養技術で正常な胃の細胞を印環細胞がんへと変化させることにも成功しました。
本研究は、遺伝子変異と腫瘍周囲の環境に応じてどのように印環細胞がんが形成されるのかについて初めて明らかにしたものであり、今後胃がん根治を目指した新たな治療開発の足掛かりとなることが期待されます。
この研究成果は、2020年11月16日(米国東部時間)に米科学誌『Gastroenterology』のオンライン版に掲載されました。