センチュリー文化財団から寄贈された弘法大師像の修復が完了し、2024年3月28日に慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)に戻ってきました。この作品は、「互御影(たがいのみえい)」と称される八幡神像と一対をなす弘法大師像で、肘木(ひじき)のついた牀座(しょうざ)に坐す図様が多いなか、「互御影」は、牀座に肘木がないことが特徴になっており、大変貴重なものです。鎌倉時代の嘉禎四年(1238年)に制作され、左下には「嘉禎四年 戊戌正月十八日 僧 厳海」という銘記があります。この厳海は、東寺長者 (とうじちょうじゃ:東寺の長官で真言宗の最高位としての権威を兼ね備える)となった真言宗僧厳(1173~1251)ではないかと考えられています。
修復作業は、2022年から2023年にかけての2年間にわたり東京文化財研究所内で行われました。今回の修復は、掛け軸を一度解体し、新たに絹を補填したところは、補われる絹(補絹)を鎌倉時代の絹に沿うよう劣化させ、補填した箇所が分かりかつ、鑑賞を損なわない程度に補彩しました。黒い肌裏紙*(はだうらがみ)を取り除き新しくし、長年の保存でおれぐせがあった箇所は、裏面に2mmくらいの幅の紙を補いました。また、表装裂*(ひょうそうぎれ)も新調し、「茜」 (あかね)や「阿仙」(あせん)を使った草木染でオレンジがかったものを選びました。
さらに今回の補修で、肌裏紙を取り去ったところ、本紙の裏面から、牀座の一部に金箔が施されていることもわかりました。金箔は表面からの観察では分からず、およそ200年に一度の修復の機会だからこそ判明した貴重な発見です。裏面に施される金箔や裏彩色は、過去の修復で肌裏紙を取り除く際に、損なわれてしまう可能性があり、金箔が残っていたことは幸いでした。今後の公開が期待されます。
この修復事業は、公益財団法人出光美術館、公益財団法人朝日新聞文化財団、公益財団法人住友財団から助成を受けて実施されました。