慶應義塾大学医学部内科学教室(循環器)の庄司聡共同研究員と香坂俊専任講師らの研究グループは、急性心筋梗塞後に必須とされる抗血小板薬の投与法に関するネットワークメタ解析の研究結果を発表し、抗血小板薬は同じ薬剤を同量で継続投与するのではなく、段階的に減薬(De-Escalation法)することが最適であることを明らかにしました。
急性心筋梗塞後には、血栓再閉塞予防のため、抗血小板薬としてアスピリンと P2Y12阻害薬の2剤併用投与を約1年間行うことが推奨されています。P2Y12阻害薬には、最も早期に承認されたクロピドグレル(プラビックス®)の他に、より強力な抗血小板作用を示すチカグレロル(ブリリンタ®)やプラスグレル(エフィエント®)が新規承認され、現在は合計3剤が存在します。このうちより強力な抗血小板作用を有するとされるチカグレロルとプラスグレルが世界的には推奨されていますが、これらの長期間投与は出血リスク増加につながるという研究も多数報告されています。
そのような中で、「急性心筋梗塞後1ヶ月間は新規承認のP2Y12阻害薬(チカグレロルまたはプラスグレル)、1ヶ月経過した時点でクロピドグレルか低用量プラスグレルに変更する」という、De-Escalation法が有効との報告がなされるようになりました(※アスピリンは1年間継続投与)。しかし、個々の研究規模が小さく、確固たる結論が得られていなかったため、本研究グループは、De-Escalation法を含む5つの抗血小板薬2剤併用投与法の有効性と安全性について、ネットワークメタ解析という手法を用いて統合的解析を行いました。
その結果、漫然と抗血小板薬2剤併用投与を続けるのではなく、急性心筋梗塞後1ヶ月過ぎたところで控えめな抗血小板薬2剤併用投与に変更するというDe-Escalation法が効果の上でも安全性の上でも最も有用であることが示されました。この知見は出血リスクが高い日本人では特に重要な知見と考えられます。
薬の種類や用量をダイナミックに変化させることの有用性が最近さまざまな領域で明らかとなっていますが、本研究のように「減薬」がトータルで患者のためになっているという、いわゆるLess is More(より少ない方が結果的には良い)を体現する結果が得られることは非常に珍しいこととされています。
この成果は、2021年7月15日(東部米国時間)に国際学術雑誌の『Journal of the American College of Cardiology』電子版に掲載されました。