国立大学法人筑波大学 医学医療系 家田真樹教授(循環器内科)、慶應義塾大学医学部 貞廣威太郎助教(循環器内科)、国立研究開発法人産業技術総合研究所創薬分子プロファイリング研究センター 五島直樹研究チーム長らの研究グループは、Tbx6という遺伝子を導入するだけで、線維芽細胞やマウス・ヒトの多能性幹細胞から心臓中胚葉細胞を直接誘導できることを発見しました。
これまで、多能性幹細胞から心筋細胞を誘導するためには、複数の液性因子を使用して、まず心臓の幹細胞である心臓中胚葉細胞を誘導し、その後に心筋を誘導する方法が一般的でした。しかし、これまでの方法には、1)誘導の工程が煩雑、2)誘導効率が不安定、3)液性因子が高価であるという課題がありました。家田教授らは、新しい心臓再生法として心臓に存在する心筋以外の心臓線維芽細胞に心筋誘導遺伝子を導入し、マウス生体内で直接心筋細胞を作製できることなどを報告してきましたが、心筋以外の血管細胞などを作製できない、作製した心筋細胞は増殖できないなど課題がありました。
本研究では、線維芽細胞から心臓中胚葉細胞を直接誘導する遺伝子Tbx6を発見しました。また、Tbx6をマウスES細胞・ヒトiPS細胞といった多能性幹細胞に導入することにより、液性因子を使用せずに効率よく増殖可能な心臓中胚葉細胞を作製し、さらにこれを心筋細胞や血管細胞を誘導することに成功しました。この仕組みとして、Tbx6が心臓発生に重要なMesp1・BMP4遺伝子の発現を一過的に上昇させて心筋誘導することを明らかにしました。さらにTbx6の発現期間を調整することで、同じく中胚葉から分化する骨格筋や軟骨細胞も誘導が可能であることを見出し、Tbx6が心臓だけでなく多能性幹細胞からの中胚葉分化全体を制御する重要な因子であることを発見しました。
本研究により、Tbx6導入による、液性因子を使用しない新しい心筋・血管細胞作製法が開発されました。本研究成果は、心筋梗塞や拡張型心筋症をはじめとする様々な心臓疾患に対する再生医療への応用だけでなく、薬剤開発にも資する、簡便・短期間・安価な心筋作製技術への発展に寄与することが期待されます。
※本研究の成果は、2018年8月9日(日本時間8月10日午前0時)付「Cell Stem Cell」で公開されました。
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