【研究成果のポイント】
- 高性能蛍光マグネシウムセンサーを開発。
- 生細胞イメージングにより細胞分裂の際のマグネシウムイオンの濃度上昇を観測することに成功。
- ATPに結合していたマグネシウムイオンがATPの消費により放出されることでその濃度が上昇。
- マグネシウムイオンが分裂期の細胞内での染色体凝縮に関わっていることを初めて証明。
- 染色体形成の異常が引き起こす疾病の解明への貢献に期待。
◆概要
細胞が分裂する際、ヒトでは全長2メートルにもおよぶゲノムDNAからコンパクトに凝縮した「染色体」と呼ばれるDNAの束が作られ、2つの細胞に正確に分配されていきます。半世紀以上前、細胞に大量に存在するマグネシウムイオン(Mg2+)がゲノムDNA凝縮の鍵となりうることが提唱されたことがありましたが、当時は細胞内Mg2+濃度を測定する手段が無かったため証明されぬまま忘れられていました。
国立遺伝学研究所の前島一博 教授、大阪大学の永井健治 教授、慶應義塾大学の岡浩太郎 教授、京都大学の今村博臣 准教授らの共同研究グループは、蛍光タンパク質技術を駆使してMg2+濃度の変化を高感度で感知できる蛍光センサー MARIO を開発し、生細胞内のMg2+濃度を蛍光イメージングにより可視化することに成功しました。そして細胞分裂の際にMg2+濃度が一過的に上昇することを示すとともに、負の電気を帯びているDNA同士の反発を弱め、染色体の凝縮を促進していることを明らかにしました。本研究によって、実際にMg2+が細胞のなかで染色体の凝縮にかかわっていることが初めて証明されました。
染色体の形成の失敗はゲノムDNAの損傷を引き起こし、細胞に「死」や「がん化」などのさまざまな異常、さらには疾病をもたらすと考えられています。また細胞のなかに多量に存在するMg2+は多くのタンパク質の働きを助けており、欠乏するとさまざまな細胞異常が現れることが知られています。今回の蛍光センサー開発と生物学的知見の発見は、このような細胞の異常が起こるしくみの解明につながると期待されます。
本研究成果は、2018年1月19日(金)(日本時間)に「Current Biology」に掲載されます。
プレスリリース全文は、以下をご覧下さい。