このたび、慶應義塾大学医学部眼科学教室(坪田一男教授)、光生物学研究室(主任研究員:栗原俊英特任講師)の鳥居秀成特任助教らは、ヒヨコを用いた動物実験とヒトの臨床研究を通じて、360-400 nmの光(以下、バイオレット光)が近視進行(眼軸長伸長)を抑制することを世界で初めて発見しました。
近視が発症・進行する原因は不明であり、現在世界の近視人口は増加し続け、世界の近視人口は2050年には約50億人になるという予測が報告されています。これまでに屋外環境が近視進行を抑制することが複数の疫学研究や動物実験から指摘されていましたが、屋外環境の何が近視進行抑制に効いているのか、またそのメカニズムはわかっていませんでした。
本グループは、屋外環境に豊富にあるバイオレット光に着目し、実験近視モデルとして確立しているヒヨコを用いて研究を進めました。その結果、バイオレット光を浴びたヒヨコの近視進行が抑制され、バイオレット光を浴びたヒヨコの目で近視進行を抑制する遺伝子として知られているEarly growth response 1 (EGR1 [ZENK, zif268])が上昇していることがわかり、バイオレット光が近視進行を抑制するメカニズムとしてEGR1が関与している可能性を明らかにしました。また、臨床研究からもバイオレット光を透過するコンタクトレンズを装用している人の方が、バイオレット光を透過しないコンタクトレンズや眼鏡を装用している人よりも眼軸長伸長が抑制されていること、眼鏡を装用していると近視が進行することが示唆されました。さらに現在私達が日常的に使用しているLEDや蛍光灯などの照明にはバイオレット光はほとんど含まれておらず、眼鏡やガラスなどの材質もバイオレット光をほとんど通さないことがわかりました。即ち現代社会においてはバイオレット光が欠如しており、これが近視の世界的な増大と関係している可能性があります。
本研究成果は近視発症・進行メカニズムの解明と新規治療開発を通して、今後の近視人口増加に歯止めをかける一助になる可能性があるものと期待されます。
本研究成果は2017年2月号(※)の「EBioMedicine」に掲載されます。(12月16日にプレ掲載されましたので、いつでも報道していただけます)
※2017年1月20日追記 プレスリリース配信時は1月号に掲載予定でしたが、2月号に変更となりました。
プレスリリース全文は、以下をご覧下さい。