このたび慶應義塾大学医学部小児科学教室の高橋孝雄教授、三橋隆行専任講師、藤村公乃助教、電子顕微鏡研究室の芝田晋介専任講師らの研究チームは、抗てんかん薬として広く使用されるバルプロ酸への胎内曝露によって、胎児の大脳皮質の構造に異常をきたす仕組みを解明しました。
てんかんは最も頻度が高い慢性疾患の一つで、約100人に一人が発症します。抗てんかん薬を長期間内服する場合、女性患者では胎児に与える薬物の影響を十分に考慮する必要があります。実際、中等量以上のバルプロ酸を妊娠中に服用すると、生まれた子どもに知能低下や自閉症などの高次脳機能障害を認めるリスクが増加することが報告されています。
本研究では妊娠全期間にわたり母マウスがバルプロ酸を内服すると、胎仔の神経幹細胞が増加し、仔マウスで大脳皮質が不均一に厚くなる点を明らかにしました。さらに、この異常には、神経幹細胞の秩序ある細胞分裂がバルプロ酸により、かく乱されたことが関係していることを証明しました。
本来、大脳皮質の正常発生プログラムは遺伝子配列により規定されていますが、本研究では特定の薬物曝露といった子宮内環境の異常が発生を障害する新たな知見を示しました。本成果は、脳の発生異常、さらには子どもの脳機能障害を引き起こす現象について、臨床面での貢献だけでなく、創薬に関連した科学領域への波及効果も含め大きな社会的意義があると考えています。
本研究結果は2016年10月19日(米国東部時間)に北米神経科学会誌「The Journal of Neuroscience」の表紙を飾り掲載されます。
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