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[特集]慶應義塾の建築(3)

 
2014/03/24  慶應義塾

1875(明治8)年に開館した三田演説館をはじめ、義塾のキャンパスには歴史的価値の高い建築が多数あります。関東大震災、第二次世界大戦時の空襲に耐えて永らえている建築もあれば、21世紀にふさわしい意匠と機能を持つ新しい校舎もあります。
数ある義塾の建築の中から、曾禰達蔵と中條精一郎の曾禰中條建築事務所、谷口吉郎と谷口吉生の親子、そして槇文彦の設計による作品に注目して、明治から現在まで、義塾の歴史を彩る建築群を訪ねてみました。

(「塾」2014年WINTER(No.281)掲載、特集『慶應義塾の建築』より)

慶應義塾の建築(1)(2014/03/13掲載)
慶應義塾の建築(2)(2014/03/20掲載)

槇文彦(まき ふみひこ)による建築

日吉図書館
▲日吉図書館
図書館新館(三田)・日吉図書館
続いて紹介するのは、槇文彦(特選塾員)による建築です。義塾では2つの図書館を手がけています。

三田の図書館新館は1981(昭和56)年に竣工。地上7階地下3階5層建て、収蔵能力は115万冊に達します。その外観には、旧館の八角塔をイメージした意匠が取り入れられるなど、義塾の重要建築に対する敬意を感じ取ることができます。
日吉図書館
▲日吉図書館
もうひとつは日吉図書館で、1985(昭和60)年に竣工。地上4階地下1階建てで、設計時の収蔵能力は41万2000冊です。竣工後に「図書館の中でのさまざまな空間体験が、ある種の旅を想起させる」(『新建築』60巻6号/1985年)と語った槇は、その印象をデザインに反映させています。玄関スロープを桟橋、吹き抜けと階段まわりを甲板に見立てるなど、船のイメージが盛り込まれました。そこには、塾生を乗せて”知の大海“をゆく船と、図書館を重ね合わせる意図があったのかもしれません。 

そのほか、湘南藤沢キャンパス(SFC)の開設にも携わり、個々の校舎の設計にとどまらない、キャンパス全体のグランドデザインを手がけました。

”場の記憶“をアーカイヴ化する「慶應義塾の建築」プロジェクト

アート・センター教授 渡部葉子

「慶應義塾の建築」プロジェクトは、一貫教育校を含む塾内建築について、記録資料を作成・保存し、その記憶をアーカイヴ化することを目指すプロジェクトです。創立150年を迎えて、新規建築事業に伴う既存建築の解体が始まったことを契機に、アート・センターが所管するノグチ・ルーム・アーカイヴのブランチとして立ち上げられました。

建築資料の蓄積やアーカイヴ化は建築家ベースで行われることが専らですが、本プロジェクトでは、学校という場の記憶をアーカイヴ化するという観点から「ユーザーマインドの建築アーカイヴ」を標榜しています。すなわち建築を設計した側よりも、むしろ建築を使用し、そこを生活の場とする側の視点を含んだ記録化を試みようとするものです。活動内容としては、調査、撮影等をはじめとした資料作成・蓄積を行い、さらに展覧会、シンポジウム、見学会、ワークショップ、報告書出版などによる発信と情報の共有化を図っています。

近年の機能性建築

締めくくりに、最近の建築に取り入れられている最新技術をいくつか紹介しましょう。学び舎である義塾の建築に求められるのは、第一に「安全」、そして「環境」「省エネ」です。

南校舎(三田)
▲南校舎(三田)
免震構造
三田の南校舎など、全塾のうち7棟で採用。新築に際しては、建物の用途や周辺建築との干渉状況などにより採否を判断します。免震構造でない校舎でも、もちろん耐震基準を満たしています。

コージェネレーション
ガス発電の熱を、空調や給湯に利用する省エネルギーシステム。災害時に停電しても、ガスさえ供給されていれば発電が可能です。日吉の協生館、信濃町の総合医科学研究棟、SFCのA(アルファ)館などで導入されています。

太陽光発電
イニシャルコストや発電量を考えると経済性は必ずしも高くありませんが、環境負荷軽減という点で社会的に意義の大きい設備です。幼稚舎や横浜初等部、日吉の来往舎などに設置されています。
アトリウム
ガラスなどの光を通す素材で覆われた大きな空間のこと。日吉の独立館や来往舎では、広い共用部(廊下・階段など)を吹き抜けの半屋内空間にして、太陽光、通風などの自然の力を利用しながら明るさや快適さを保ち、照明や空調のコストを抑える工夫がされています。

廃材の建材再利用
一部ではありますが、廃材の再利用にも取り組んでいます。独立館では解体工事で生じたコンクリート瓦礫(がれき)の一部をブロック化し、建材として再利用している他、来往舎では基礎工事で掘り返した土砂を床のコンクリート素材として活用するなど、産業廃棄物の削減に努めています。 

建てられた時代や設計者により特徴の異なる各キャンパスの建築ですが、たとえば日吉の建築群が、白とアースカラーで統一されていたりするなど、時代を超えて義塾らしさが引き継がれています。
独立館(日吉)アトリウム
▲独立館(日吉)アトリウム
独立館 外構
▲独立館 外構
来往舎(日吉)土砂を再利用した床
▲来往舎(日吉)土砂を再利用した床

建築の世界を志し、理工学部で幅広く学ぶ

理工学部 システムデザイン工学科4年 掛 史佳(かけ ふみか)君

さまざまな学びが可能な義塾において、建築を専攻することももちろん可能です。
ここでは、理工学部で研究に取り組む塾生に話を聞きました。


理工学部 システムデザイン工学科4年 掛 史佳君
▲理工学部 システムデザイン工学科4年 掛 史佳君
研究室でのテーマは、生命化建築
慶應義塾大学には、建築学科はありません。しかし、理工学部システムデザイン工学科(SD)では、建築を志す塾生が多数学んでいます。必要な単位を取得し、卒業後に所定の実務経験を積むと一級建築士試験の受験資格が得られます。

掛史佳君は、SDの4年生。三田彰(みた あきら)教授の研究室に所属し、修士課程への進学が決まっています。
「研究室では、生命化建築の研究をしています。建築の生命化って何?と思われるでしょうが、生き物が環境の変化に適応してより快適さを目指すように、建築も環境に適応して快適さや安全を進化させようという研究です。その一環として、いま取り組んでいるのがセンサーエージェントロボットの開発。ペットのように居住者について回り、さまざまな情報を取得し、暑ければ信号を送ってエアコンの温度を調節し、暗ければ照明をつけるなど、ロボットを介在させることで、環境に対応する快適な空間をつくろうとしているのです。目下、そのロボットにどんなセンサー機能をつければいいのかを研究室のメンバーとともに研究しています」

入学後、いろいろな学びが建築を選ぶきっかけに
理工学部では、1年次は5つの学門、2年次以降は11ある学科のいずれかに籍をおいて学びます。学門で幅広い分野の授業を受けながら、2年への進級の前に、より細かな専門に分かれる学科を決めます(進学可能な学科は、学門により異なる)。
「大学で何を学びたいのか決まっていなかった私にとって、1年間さまざまな分野の基礎的な知識を学びながら、学科を選べるのは助かりました。また、SDは学びの間口が広く、2年になってからも制御や環境などいろいろな授業を受け、3年になるときに自分に向いているのは建築分野だと思い定めました。1~2年の頃に、いろいろなことをかじった経験は貴重です。視野が広くなり、将来もし建築の世界で働くようになったときにも、問題を別の角度から見ることができるなど、きっと役に立つと思います」

建築を学ぶには大きく分けて、構造、意匠(デザイン)、設備の3つの系統があり、それぞれに専門の授業があります。
「構造の授業では地震時の建物の揺れを計算し、意匠では戸建住宅や集合住宅の模型を作りました。設備では、有名な建物を例にとって、設備の流行廃りの変遷をたどった授業が印象に残っています。今は空間を気持ちよく感じさせる照明とか、より快適な空間をつくるための設備に興味があります」

義塾の建物では、三田キャンパスの東館がお気に入り。
「大学然とした佇まいが印象的です。理工学部は三田で授業がないと知ったときは、ちょっとがっかりしました(笑)」