執筆者プロフィール

佐藤 拓磨
法学部 法律学科教授(刑法)
佐藤 拓磨
法学部 法律学科教授(刑法)
社会の秩序を維持するためには、罪を犯した者に対して適切な処罰を加えることが必要です。他方で、どのような行為が犯罪として処罰されるのかがわからなければ、市民は常に処罰の恐怖におびえなければならず、安心して生活することができません。そのため、刑法には、あらかじめ法律に犯罪として定められた行為でなければ処罰することができないというルールがあります。しかし、時代は激しく変化しますので、どうしても、法律を作った時には想定できなかった事象が起こります。以前に、話題となった例として、元交際相手の自動車にGPSを密かに取り付けてその動向を探る行為がストーカー規制法上の「住居等の付近において見張り」に当たるかが問題となった事件がありました。GPS機器を誰でも容易に入手できるようになったことから、このような事件が生じたのです。
こうした、立法当時には想定していなかった事件が発生した場合、条文の文言、条文の趣旨、立法経緯などを考慮しながら、その行為を処罰するのが合理的といえるかどうかを判断する必要が生じます。法律の解釈・適用は六法や判例集が手元にあれば簡単にできると思われるかもしれませんが、実はそうではありません。ときにはその判断をめぐって複数の立場が対立し、激しい議論の応酬がなされます。
時代の変化に対応するためには、当然、適宜・適切な法改正や立法も必要です。最近、大きな注目を集めているのが、性犯罪に関する刑法の規定の改正です。性犯罪については、被害者の心理や被害の実態に関する研究が進んだことなどにより、社会の受け止め方が大きく変化しました。そのため、世界各国で規定の見直しが行われています。日本でも2017年と2023年に大きな改正が行われましたが、それでもまだ不十分だという意見もあります。このように、隣接学問分野の研究成果、社会の価値観の変化、諸外国の動向などに目を配りつつ、あるべき法制度の姿を考えるのも法律家の重要な役割といえるのです。