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[ステンドグラス] 慶應義塾の卒業アルバム ~明治10年代の卒業写真から、現代の卒業アルバムまで~

2013/03/13 (「塾」2013年WINTER(No.277)掲載)
1892(明治25)年の卒業写真
塾員の書棚に収められ、青春時代の記憶をとどめる宝物として確かな存在感を示しているに違いない卒業アルバム。
その歴史をさかのぼると、明治期の一葉の卒業記念集合写真があった。
現在は、塾生のアルバム委員会により各キャンパスで個性的なアルバムがつくられている。


※写真提供:福澤研究センター

1892(明治25)年の卒業写真。中央にある校舎の写真の上が福澤諭吉先生、下が小幡篤次郎塾長の写真(※)

卒業記念に撮った集合写真が卒業アルバムの原型

草創期の義塾では、塾生の卒業という概念はなかった。築地鉄砲洲、芝新銭座に塾舎があった時代を経て1871(明治4)年に三田に移った当初も、読むべき書籍とその順序が定まっており、それに沿って課程を終えることはできるものの、引き続き学びながら後進を教える「半学半教」のかたちで籍を置く場合が少なくなかった。その義塾に卒業の規定ができたのは、1873(明治6)年のことである。成業免状を与えるための学則改定が行われ、その翌年から“卒業生”が誕生することとなった。
1883(明治16)年の本科卒業生。
義塾が所蔵する最古の卒業写真(※)
義塾が所蔵している最古の卒業写真は1883(明治16)年の本科卒業生のもので、福澤先生を中心とした集合写真である。1892(明治25)年からは卒業生の個人写真が、福澤先生や小幡篤次郎塾長らの個人写真を取り囲むように配されたパネル状のものが作られている。創作が施されたという点では、後者は卒業アルバムの原型といえるだろう。

今のような冊子形式で確認できる最古のものは、1904(明治37)年の大学部卒業生アルバムでA5判25ページ、巻頭に福澤先生と煉瓦講堂の写真が置かれ、各ページに卒業生2人ずつの個人写真が載っている。

その後のアルバムには、在学中の活動や体育会各部の活躍の様子を記録した写真も増えてきた。大正以降は、各科(のちに学部)ごとに塾生の編集委員が制作するようになった。有志による卒業アルバム委員会は、現在も続いている塾生による自主的な活動である。

第二次大戦後には物資不足などで制作が一時休止されたが、1950(昭和25)年頃には復活した。

キャンパス別に制作される個性的な5種類の卒業アルバム

現在の義塾の卒業アルバムはキャンパス別に5種類が制作されている。

三田の卒業アルバムは、文学部、経済学部、法学部、商学部の合同で500ページを超える大部のものである。2011年度までのアルバムでは写真がモノクロに統一されており、独特の厳粛な雰囲気を伝えていたが、2012年度からはカラー化された。塾長メッセージが録音されたCDが付いているのも大きな特徴である。
【文・経済・法・商学部】
在学中に社会で起こった出来事を巻末ページで紹介。ビジュアルも含めて学生アルバム委員が企画している
【医学部】
少人数の医学部では卒業生の集合写真を撮影。巻頭には白衣、巻末にはクラブのユニフォームなどを着用した写真を掲載している
医学部と薬学部のアルバムは共通点が多く、親密な雰囲気が伝わるスナップや、アンケートをもとにした企画ページが楽しい。個人写真は本人のコメント付きだ。

理工学部は研究室ごとの自由に編集されたページがユニークである。研究内容を伝える真面目なものもあれば、塾生の自由なアイデアが盛り込まれたページもあり、個々の研究室の個性が発揮されている。

SFCにはいわゆる卒業アルバムはない。その代わりに、キャンパスの1年間を記録したYEAR BOOK(イヤーブック)が毎年つくられていて、4年分を揃えて在学の思い出とすることも、任意の年度だけ購入することもできる。個人写真も全学年が対象で、定められた撮影期間に写真を撮れば掲載される。

塾員になって分かることだが、卒業アルバムには、かけがえのない懐かしい思い出がたくさんつまっている。近頃は写真をデータで保存することが一般的になっているが、卒業アルバムは冊子だからこそ味わえる独特の雰囲気がある。10年後、20年後、あるいは卒業から50年を経て、ふとしたきっかけでアルバムを手にとってページを開けば、早慶戦や三田祭など、大学時代の思い出が蘇るとともに、青春真っただ中だった塾生の頃の自分に出会うことができる。
【理工学部】
各研究室が1ページずつのオリジナルページを作成。それぞれの趣向が凝らされたページに研究室の個性が見てとれる
【SFC】
1~4年生までの個人写真を学年ごとに掲載。1枚の写真に1人とは限らず、同級生と複数で写ることもできる
【薬学部】
卒業生がお互いを評価し作成したランキングなど、企画性のある内容が充実。仲間たちの出来事をつづった年表などもある