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[ステンドグラス] 慶應義塾大学名誉博士の称号 ~これまでに外国人75名、日本人5名に授与~

2012/08/27 (「塾」2012年SUMMER(No.275)掲載)
ストレプトマイシンを発見したワックスマン博士から国民総幸福量を普及させたブータン国王ジグミ・ケサル陛下まで、慶應義塾大学名誉博士の称号は、これまでに国内外の80名に授与されている。

ブータン国王やU2のボノ氏にも授与

清家塾長からブータン国王ジグミ・ケサル陛下に名誉学位記が手渡される
慶應義塾大学名誉博士の称号は、義塾内外、国内外を問わず、学問・文化の向上に功績があったと義塾が認めた者に授与される称号で、いわゆる課程博士や論文博士といった博士の学位とは授与要件や性格の異なる、義塾が独自に定めたものである。

昨年11月17日、ブータン国王ジグミ・ケサル・ナムギャル・ワンチュク陛下に、慶應義塾大学名誉博士の称号が授与されたことは記憶に新しい。「国民総幸福量」という概念を普及させ、持続可能な成長と発展に、学術的にも大きな貢献をしたことを評価しての授与だった。学位は、「Doctor of Economics, honoris causa」で、「honoris causa」はラテン語で「名誉のために」を表す言葉である。
三田演説館へ向かうU2のボノ氏
三田演説館へ向かうU2のボノ氏
また2008年5月には、ロックバンド「U2」のリードボーカルのボノとして知られるポール・デービッド・ヒューソン氏にも名誉博士の称号が授与されている。アフリカの貧困とエイズ問題に取り組む社会活動を評価しての授与である。国の重要文化財である三田演説館での厳かな授与式の後、西校舎ホールに移動し行われた記念講演会では、会場を埋め尽くした塾生たちに「日本の若者に新しいエネルギーを感じる。そのエネルギーをアフリカ支援にも向けてほしい」と語りかけたことが印象的だった。

当初の目的は外国人研究者の招聘だった

第一号S.A.ワックスマン博士の名誉博士記
名誉博士の称号の始まりは、1950(昭和25)年に、「外国人に対する称号授与に関する規程」が定められたことにある。戦中戦後の研究の立ち遅れを回復するために優秀な外国人研究者を招聘し、義塾に外国の先端の学問を迎え入れることが目的だった。記念すべき第一号は、結核の特効薬ストレプトマイシンを発見したS・A・ワックスマン博士(※1953[昭和28]年)であった。

戦後を脱し、経済成長が軌道に乗った1964(昭和39)年には、日本人も対象とする「慶應義塾大学名誉博士規程」が制定され、「外国人に対する称号授与に関する規程」は廃止された。

日本人は5名に授与

新たな規程による最初の授与となったのが、『福澤諭吉全集』の編纂など、福澤研究の業績を評価された富田正文君(※1964[昭和39]年)である。現行の塾歌の作詞者として富田君を知る塾生も多いだろう。続く2名は、「電力の鬼」と称される実業家の松永安左エ門君と義塾の経済学部長、塾長代理を務め文部大臣や日本芸術院院長なども歴任した高橋誠一郎君である。両君への授与は、1968(昭和43)年5月15日に日吉記念館で行われた慶應義塾命名100年の記念式典で行われた。4人目は、松下電器産業(現パナソニック)創業者の松下幸之助氏(※1971[昭和46]年)で、授与式は理工学部の松下記念図書館の竣工式と同日に行われた。5人目は、多年にわたり日本医師会会長を務めた武見太郎君(※1983[昭和58]年)で、日本の医学界の発展、義塾創立125年記念事業での病院の新棟建設などに貢献した。
1968 年に名誉博士を贈られた松永安左エ門君(左)と高橋誠一郎君(右)。授与当時、塾員最長老の松永君(93 歳)は車椅子で式典に出席し「うれしくてうれしくて天にも昇るよう」と謝辞を述べた
小泉信三元塾長監修のもとで富田正文君、土橋俊一君が編纂した『福澤諭吉全集』(全21巻)

名誉博士の称号授与は義塾の誇り

三田演説館での授与式後、図書館バルコニーから塾生に演説するP.J. ネルーインド首相
名誉博士は、教授会の推薦に基づき大学評議会の議を経て学長が授与すると定められていたのを、1995(平成7)年からは、学部教授会のみならず、大学院研究科委員会、常任理事会も候補を推薦できるようになった。

授与した人数は年によって異なるが、平均して年1名未満であったのが、1990(平成2)年から昨年までの22年間では47名に授与しており、平均で年2名を超えている。

これまでに名誉博士の称号を贈った80名は、教育者、研究者、政治家、実業家、社会活動家など、さまざまな分野で活躍する国際色豊かな方々で、社会的にも高い評価を受けている。これら一人一人に義塾の名を付した名誉博士の称号を贈ることができたのは、義塾の誇りであるといえるだろう。


※( )内は授与年

主な授与者 (敬称略。肩書は授与時。年号は授与年)

●ネルー(インド首相、1957[昭和32]年)
●アデナウアー(西ドイツ首相、1960[昭和35]年)
●ライシャワー(前駐日米国大使、1967[昭和42]年)
●サハロフ(物理学者・ノーベル平和賞受賞者、1989[平成元]年)
●トフラー(社会未来学者、1990[平成2]年)
●ドロール(EC委員会委員長、1993[平成5]年)
●シラク(フランス大統領、1996[平成8]年)
●マハティール(マレーシア前首相、2004[平成16]年)
※授与者一覧 http://www.keio.ac.jp/ja/about_keio/data/honor/index.html