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[ステンドグラス] 世界で愛読される福澤先生の著作

2009/08/07 (「塾」2009年SUMMER(No.263)掲載)
「福翁自伝」 左からトルコ語訳 オランダ語訳 英語訳
福澤諭吉先生の代表的著作『学問のすゝめ』『文明論之概略』『福翁自伝』。
これらは実に多くの外国語に翻訳され、今の世にも通じる知や思想によって
日本のみならず世界の人々に感銘を与え続けている。

『福翁自伝』は10カ国語、『学問のすゝめ』は7カ国語で出版

福澤先生の著作で最も多くの翻訳本が出されているのは『福翁自伝』。英語、中国語、フランス語、ドイツ語、オランダ語、韓国語、タガログ語、ベトナム語、アラビア語、トルコ語の10カ国語に訳されている。

次に多いのは『学問のすゝめ』で、英語をはじめ中国語、フランス語、タイ語、インドネシア語、韓国語、モンゴル語の7カ国語があり、『文明論之概略』は英語、ペルシャ語、インドネシア語、中国語の翻訳本がある。

英語からの孫訳も多く内容的には玉石混交といわれているものの、『福翁自伝』がこれだけ多くの言語に訳され読まれているのは、日本の文明開化に力を注いだ人物の自伝としての評価に加え、内容の面白さが国際的に認められているからだろう。1992年に再版された米マディソン書店版の英訳本の序文で、ハーバード大学のA・クレイグ教授(当時)は、これは若き福澤諭吉のオデッセーだ、とホメロスの叙事詩にたとえている。

また、2005年に出版されたベトナム語版を翻訳したのは、ハノイ大学で日本語を学び、奈良で日本仏教史の研究をしている留学生である。「本当の福澤先生の姿を知ってほしい」と2年がかりで翻訳した。

そのほか教育論、女性論などに関する論説の英訳、『福翁百話』などの中国語訳もある。
「福翁自伝」 左からベトナム語訳 アラビア語訳 フランス語訳 中国語訳

最初の翻訳者は清岡暎一名誉教授

福澤先生の著作の翻訳を最初に手がけたのは、義塾で長く教鞭を執った故・清岡暎一法学部教授(当時)である。普通部生時代に『福翁自伝』を読み、「その面白かったこと、福澤諭吉が大好き」になり、『自伝』を英訳したらさぞ面白いだろうとアメリカ留学中に考えたという。

翻訳の文章スタイルについて、詩人としても知られている西脇順三郎文学部教授(当時)に相談したところ、古典的で優雅な英文で書かれたジョナサン・スウィフトの『ガリバー旅行記』を模範にするように助言された。福澤先生の語感と時代性を翻訳するのに骨を折り、また若き日の先生が学んだ大阪・適塾の書生たちの奔放な行動をどう訳すべきか悩むなど苦労の末、英訳『福翁自伝』は1934(昭和9)年に出版された(『三田評論』1988年12月号より)。

現在、義塾創立150年と福澤先生の生誕175年を記念して、英語版の‘ The Thought of Fukuzawa’シリーズも、“An Outline of a Theory of Civilization”(『文明論之概略』)を皮切りに慶應義塾大学出版会から刊行が始まっている。
 
21世紀の今日も古びることなく世界中の人々に読まれている福澤先生の著作を、心新たに読み返してみてはいかがだろうか。
「学問のすゝめ」 左からタイ語訳 モンゴル語訳 インドネシア語訳 韓国語訳