しながらも、同時に少しずつ変革を繰り返していくことで、宝塚の魅力をもっとも塾 AUTUMN 2025NO.328 出部へ復帰しました。来年は大劇場での芝居作品の演出を担当します。││それは栗田さんによるオリジナル作品ですか。栗田 はい。私は2021年にバウホールで宙そら組ぐみ﹃夢ゆめ千ち鳥どり﹄、翌年に大阪・東京でやはり宙組﹃カルト・ワイン﹄の脚本・演出を担当して以来、会社からオリジナル作品を期待されていると感じています。そのこと自体はうれしいのですが、実際にゼロから新しい作品を創り出すのはとてもエネルギーが必要な作業で、実は今、古代中国を舞台としたオリジナル脚本づくりで苦しんでいる最中です。宝塚歌劇で作劇する上での最重要課題は、なるべく多くの出演者たちの魅力を引き出せる脚本にすることと、お客さまが求める宝塚的要素を満たすことだと思っています。とはいうものの、やはり自分の中から湧き出るテーマが芯に一本通っていないと、1時間半以上の物語を紡ぎ出すことは難しいと感じています。オリジナル脚本に取り組むたびに強く思うのですが、演劇に限らず小説でも漫画でも、オリジナルの物語をゼロから生み出す創作者の方々には、深い敬意を覚えます。私は宝塚市にゆかりのある手塚っと世の中へアピールできるのではないかと思っています。││最後に塾生へのメッセージをお願いします。栗田 私は在学中、演劇しかやってこなかったのですが、今になって﹁もっと幅広く興味を持ち、積極的に授業を受けていれば……﹂としばしば反省しています。先ほどお話しした脚本・演出家デビュー作﹃夢千鳥﹄は竹久夢二の物語なのですが、卒論で取り上げた蕗ふき谷や虹こう児じという同時代を生きた挿絵画家について調べた経験がきっかけとなりました。とことん何かに打ち込んだ大学生活に悔いはありませんが、思いもよらないところに将来芽を出す種が隠れているのが学生時代だと思います。興味を広く持ち、自分の可能性を広げる時間にしてください。それともちろん、一人でも多くの塾生に宝塚歌劇を見ていただきたいです。豪華なセットと華麗な衣装、そして世界で類を見ない男役・娘役という存在……きっとご満足いただけると思います。東京宝塚劇場のチケットは、一番安い席だと3500円とお求めやすい価格設定となっております。ぜひ一度、劇場でご観劇いただけたらうれしいです。││本日はありがとうございました。治虫氏の大ファンなのですが、幅広い人々を楽しませる娯楽性を備えながらも、作家の強い思いやメッセージがにじむ作品の数々に、尊敬の念が尽きません。││今後、宝塚歌劇団の演出家として目指していることはありますか。栗田 近年はサブスクなど、質の高い作品を自宅にいながらにして楽しめる環境が当たり前になっています。そんな時代に宝塚歌劇団としてどのようにお客さまに満足していただける作品を生み出していくかが大きな課題で、私自身も模索中です。1年ほど前から、歌劇団員を対象に演劇ワークショップを月に数回開催させてもらっています。所属する組や学年を超え、少人数で即興演劇や脚本読解に取り組み、どうすればもっと自由に、かつ集中して演劇を楽しめるのか、試行錯誤する場です。それから、脚本をチームでつくっていくなどの試みも、いつか挑戦してみたいことの一つです。伝統を大切に11栗田さんによる脚本・演出の『夢千鳥』ポスター(2021 年、宙組)
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