ししん塾 AUTUMN 2025NO.328サブスク全盛の時代、宝塚の魅力を発信していくために美学美術史学専攻に進み、内藤正人先生のもとで日本美術について学びました。││就職活動はどのように行ったのですか。栗田 大学3年で就職活動を始めた際、将来何をしたらいいのかわからずモヤモヤした気持ちでいました。それでも業種にはこだわらず50社ぐらいの企業を受けましたが、エントリーシートを書こうとした段階で﹁自分は演劇か、ドラマか、映画の世界でしか頑張ることができない﹂ことに気付いてしまいまして……。そんな調子でしたから、なかなか内定をもらえない日々が続きました。最終面接まで唯一残ったテレビ局から不採用通知が届いたときは﹁自分は社会から必要とされていないのか?﹂とすっかり落ち込んで、一晩泣き明かしました。翌日の朝、なんとか気持ちを切り替えてパソコンで就職情報サイトを検索していたら、なんと私の原点だった宝塚歌劇団が演出助手を募集しているではありませんか! かも書類提出締め切りは翌日……悩む暇もなく一気呵成にエントリーシートを書いて提出しました。書類審査をパスした次は、宝塚大劇場での上演を想定したオリジナルミュージカル脚本という課題が与えられました。最後に面接試験に進み、採用が決まりました。入団試験では演劇への思いや脚本を書く能力だけではなく、人間力やコミュニケーション能力なども問われていたように思います。││宝塚歌劇団には演出助手として入団したのですね。栗田 はい。演出助手は、演出家の意図をくみ取りながら稽古を円滑に進めていく役割を担うとともに、演出家の仕事をそばで見ながら学んでいく修業期間でもあります。入団して3年ほど経つと、宝ゃくょう塚と東京でそれぞれ1日だけ上演される新人公演の演出を任されます。そして8年目くらいになると若手スターが主演するバウホール公演で脚本・演出家デビューすることになります。さらに数年後には、トップスターが主演する大劇場での本公演を任されるようになるというのが、当劇団演出部の一般的なキャリアの流れになっています。││栗田さんは9年目の2023年に月組﹃万ば華か鏡き百ひ景げき色﹄で大劇場デビューされました。栗田 宝塚歌劇の本公演は一幕が芝居、二幕がショーという2本立て構成が基本となっており、﹃万華鏡百景色﹄はショー作品です。ショー作品は歌と踊りが中心で、ストーリーがないことが多いのですが、この作品は幕末から現代までの東京を舞台に、そこで生きる人々の人生を万華鏡になぞらえたストーリー仕立てのショーでした。稽古場に入る前の準備段階からひたすら楽しく、上演後にはお客さまからの手応えも感じることができ、最高の大劇場デビューになりました。その直後から1年半の産休・育休期間に入りまして、今年演10
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