塾_327号_夏
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数学とCGまつ塾 SUMMER 2025NO.327    環境情報学部 准教授 巴は山や竜た来き大学教員になって今年︵2025年︶で10年が経った。片端から公募に出すことを強いられたポスドク生活から解放され、これまでと違う新しい何かを始めてみよう、と思い立って10年前に足を踏み入れたのがCG︵コンピュータグラフィックス︶の世界だった。私がそれまでに研究していた数学から見ると、CGは近くにあるようでいて異国でもある。CGでは視覚情報をどのように計算でつくり上げるか、ということが根本的なテーマとしてあり、その基礎は数学からできている。一方、数学とCGはその目指すべき方向性は異なる。数学は高度な抽象化によって人間的な範疇を超えた世界を深く掘り下げるが、CGではあくまで人が見える世界に興味がある。学術面でも、著者名表記の順序から論文の査読の仕組み、学会費や研究費の予算規模など、数学とは文化の違いを感じることが多い。異なる文化の国を行き来するのはさまざまな困難が伴うが、そこから得られるものも大きい。数学をやっているだけでは実現することがなかったであろうさまざまなプロジェクトに参加する機会に恵まれた。抽象性の高い理論的な数学分野は、その魅力を予備知識なしに直観的に伝えるのが難しいが、CGを経由することでアートやデザインなどの領域に数学を持っていくことができる。近年の計算機の処理能力の向上は、数学とCGの世界の往来を飛躍的に活性化させた。ところで、昨年着任した湘南藤沢キャンパスでは、学問領域を越境することが理念にある。私は﹁CGと数学﹂という講義を新たに担当し、立ち上げたばかりの研究室でも数学とCGを軸とした他分野への応用を目指している。生成AIの進化によってあらゆる画像や映像が魔法のように生成できるいま、人が時間をかけて数学を学びCGでそれを実装するのは、もはや時代遅れで非効率に見えるかもしれない。だがここで任天堂を育て上げた哲学である﹁枯れた技術の水平思考﹂を思い出そう。成熟した学問である数学をもう一度見つめ直して再解釈することによって、新しい創造性が生まれるのではないだろうか。談話室教員によるエッセイコーナー25CG の絵画への応用 ( 画家・山本雄基との協作 ) 数学と CG 技術を応用した織物 ( 株式会社細尾との協働/西陣織)

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