塾_327号_夏
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研究室を主宰して5年目を迎えます。新しい分子を生み出し続けるグループとして、「分子創成化学講座」と命名しました。新しい分子は我々のグループの宝です。薬学部 教授有機化学は、生命を構成する炭素中心の分子を扱う学問であり、生物学・医学との親和性が高いことから、薬学部には必ず有機化学系の研究室が存在します。4つの共有結合を形成できる炭素原子を基盤とすることで、構築可能な分子構造は極めて多様であり、生命体を構成するさまざまな分子部品をつくりあげています。また、有機分子を形成する化学結合は、強すぎず弱すぎない絶妙な結合エネルギー範囲にあり、秩序だった構築と分解を通じてエネルギーの授受や、成長・再生といった生命現象を可能にしています。生命を分子レベルで理解する時代となり、ライフサイエンスにおける有機化学の重要性は一層高まっています。一方、有機化学は独立した科学としても魅力的であり、自由な発想でこの世に存在しない未到分子を創出できる創造性に満ちています。安価で豊富な原子部品から、アイデア一つで無限の付加価値を生み出せる点は、他の学問にない特長です。私たちの身の回りには100年前には存在しなかった有機分子があふれ、それらが豊かな生活を支えています。興味深いのは、それらの多くが、応用目的ではなく研究者の純粋な好奇心から生まれていることです。魅力を感じる人、②その原石を磨いて価値あるものに仕上げる人、③その輝きを社会に届けることに情熱を注ぐ人がいると感じています。私は典型的な①のタイプであり、学生とともに新しい分子を設計・合成し、実在する分子として証明し、その特性を明らかにして世界に発信しています。自然界に存在していなかった特殊な構造を持つ分子が、時に予想を超える性質を示すこともあり、その発見の瞬間は何物にも代えがたい喜びです。私たちの手で創出したオリジナル分子が論文や共同研究を通じて②や③の人々へと届き、機能性分子として育っていく││そのポジティブな循環に立ち会えることが、日々の研究の大きなモチベーションとなっています。熊く谷が直な哉やいまおみき公平実希塾 SUMMER 2025NO.327    世の中には、①原石を見出すことにこ うへ い21ゼミナール・研究室紹介君 薬学研究科後期博士課程3年宝作り 私たちのラボは、「宝作り」をしていると教えられてきました。世の中にないものを自らの手で生み出せる、という醍醐味を表現したのが講座名である分子創成化学です。いかにも構造有機化学らしいキノリン 3 量体 TriQuinoline や、炭素原子を一つも含まないヘテロ六員環アミド化触媒 DATB、同数の炭素原子と窒素原子を有し蛍光を発する C4N4 等、さまざまな化合物をこのラボで創造してきました。いずれの化合物においても、その構造自体が美しいと化学を志す人たちから称されることが多く、モチベーションが上がります。その構造を源泉とする分子機能が見られることも多く、実用的な側面にもわくわくして研究を進めています。生命と創造の間にある科学

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