慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科学教室の小川郁教授、藤岡正人専任講師らは、生理学教室(岡野栄之教授)との共同研究で行ったiPS細胞を用いた研究の知見をもとに、Pendred症候群の難聴・めまいに対する低用量シロリムス療法の医師主導治験を行います。
Pendred症候群は進行性の難聴やめまい、甲状腺腫を引き起こす遺伝性の病気で、確立した治療法のない希少難治性疾患のひとつです。この症状を正確に再現できる遺伝子改変マウスは作成できないため、研究グループは非臨床試験において患者さん由来のiPS細胞を用いて、生体外で疾患病態を再現することによって創薬研究を行ってきました。そして、今回初めて、疾患動物モデルを用いることなくiPS創薬から得られた知見にもとづいた治験を行うことを予定しています。
治療薬は市販の既存薬の中からスクリーニングし、他疾患で安全性の確立したものを選んでいます。体内での内耳への作用は正常動物を用いて確認し、低用量での治療効果はiPS細胞モデルを用いて調べました。この創薬アプローチは、疾患を再現する動物モデルが確立していない他の疾患にも応用できる可能性があり、将来的な難病治療法の開発に役に立つものと期待されます。
今回の治験では患者さんに検査機器やタブレット端末を貸出し、難聴やめまいなどの症状や体調の変化を患者さんの自宅で毎日モニターします。検査結果を自宅からリモートアクセスで治験データセンターへ送ることで、膨大な治験データを管理・分析することができます。
iPS細胞技術とIoT(Internet of Things)を臨床現場に活かし、安全性を担保しながら効率のよい創薬を進めることで、今後も治療法のない難治性疾患の患者さんに一刻も早く新しい治療薬を届けることを目指します。
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