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[半学半教] 脳のことを考える脳を考える(医学部教授 柚崎 通介)

2010/02/22 「塾」2010年WINTER(No.265)掲載
※職名等は掲載当時のものです。

私たちは記憶がどのようにして形成・維持され、そして失われるのかを明らかにすることを目指しています。

柚崎 通介(ゆざき みちすけ)医学部教授

研究会の皆さん
「こころ」とは何か、どのようにして生み出されるのか?—こんな根源的な問いに答えるために、私は研究の道に迷い込みました。このような漠然とした非常に複雑な問題を自然科学的に解決していくためには、解決可能な小さな問題に分割することが必要です。小さな単位で解決した知見を最終的に再び統合するというアプローチです。

「こころ」とは自己意識であり、自己意識を支えるためには記憶が必須です。そこで私たちは記憶の形成機構の解明を第一目標としています。記憶は神経細胞と神経細胞をつなぐ構造であるシナプスに蓄積されると考えられます。神経細胞はシナプス前部から、神経伝達物質であるグルタミン酸を放出し、シナプス後部に存在するAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA受容体)を介して次の神経細胞に興奮を伝達します。シナプス後部に存在するAMPA受容体の数が増加するとシナプス伝達効率は亢進し、逆に減少すると伝達効率は低下します。シナプス後部に存在するAMPA受容体の数がこのように一定時間変化することが、短中期の記憶の実体と考えられています。例えば、皆さんが試験前に一夜漬けをして詰め込み勉強をすると、シナプス後部においてAMPA受容体が増加しているわけです。詰め込み勉強による神経活動の変化が、どのようにしてAMPA受容体の輸送機構を制御するのか、その分子機構の解明を私たちは目指しています。

一方、もっと長期間持続する記憶の形成には、AMPA受容体の数の変化ではなく、新しい遺伝子発現とシナプス形態の変化が必要であると考えられています。例えば幼い頃に習得した外国語や絶対音感などの記憶は、新しい配線をもった回路として永続します。あるいは、心的外傷後ストレス症候群(PTSD)や慢性疼痛では、望ましくない記憶が持続してしまいます。このような神経活動の変化にともなう回路の変化を引き起こす分子機構の解明が2つめの大きな目標です。

私たちの研究の成果は、「こころ」を支える記憶の基礎過程の理解を深めるのみではなく、認知症・PTSD・慢性疼痛などの病的状態とその治療法の解明につながることが期待されます。また、幹細胞を用いた再生医学において、新しく形成された神経細胞のシナプス形成過程を制御し、既存の神経回路に正しく組み入れさせるために必須の知見を与えることができると考えています。

教員のプロフィール

1985年自治医科大学医学部卒業。大阪府立総合医療センター・吹田保健所勤務を経て、1993年自治医科大学大学院博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、Human Frontier Science Program 海外研究員を経て、1995年米国セントジュード小児研究病院発達神経生物学部門助教授、2002年同准教授。2003年4月より現職。
http://web.sc.itc.keio.ac.jp/physiol/yuzaki/index.htm

垣根を越えて

安東 一樹(あんどう かずき)
医学部3年
神経生理学を一言で表すならば、「脳を作るパーツの分析」とでもいえるでしょうが、実際の作業は極めて地道で先の見えにくいものです。しかしながら、学生数よりスタッフ数が多いという恵まれた環境の中で研究が行えるのは、当研究室ならではの特色といえるでしょう。電気生理学、分子生物学、形態学などの専門家が結集したこの研究室ではチーム体制で研究を進めており、学生も日々指導を受けつつ、その一翼を担う形で研究に参加しています。

医学部では学年を問わず自主的に研究室に所属する学生がとても多く、現在4人の学生が自主研究生として机を並べています。私はいまシナプス関連分子同士の新しい関係を探る実験をしていますが、実験結果をデータベースと照らし合わせ、その意味を考えるときはほんとうにわくわくするものです。
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