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[研究最前線] グローバル化が進む世界の経済活動と「地域貿易協定」のあり方を分析(商学部教授 遠藤正寛)

2012/07/04
遠藤 正寛 商学部教授
1990年代から世界各地で、二国間やある地域内で貿易の自由化を進める「地域貿易協定」が数多く結ばれるようになり、日本でもEPA(経済連携協定)やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)などが、政治、経済の大きな話題となっています。この分野で先導的に活躍している研究者である遠藤正寛教授に、地域貿易協定に関する研究についてお聞きしました。

※職名等は掲載時のものです。

遠藤 正寛(えんどう まさひろ)

遠藤 正寛 商学部教授
1991年慶應義塾大学商学部卒業。93年同大学大学院商学研究科修士課程修了。96年同博士課程単位取得退学。96年~99年小樽商科大学商学部助教授を経て、99年慶應義塾大学商学部助教授に就任。2007年より同教授。海外歴として、2001年パリ政治学院客員教授。2003年~2005年米国イェール大学経済成長センター客員研究員。著書『地域貿易協定の経済分析』で2010年度「義塾賞」を受賞。博士(商学)。

地域貿易協定の影響を理論的、実証的に研究

遠藤 正寛 商学部教授
──いまTPPが議論の的となっています。遠藤教授の専門はまさにTPPなどの地域貿易協定ですが、この研究テーマを選んだ背景を聞かせてください。

私は、実家が小売店を営んでいたことから、商学を身近に感じて、商学部に進みました。学部生のころは産業経済分野に興味をひかれ、3年次に進学した際には国境を越えた経済の取引を扱う国際経済学のゼミに入りました。国際経済学では、国際貿易、特に貿易政策とその影響について強い関心を持ちました。
地域貿易協定については、経済学に地理的要因が加わったダイナミズムに惹かれたのですが、当時は世界的に見ても地域貿易協定が結ばれる件数は少なく、あまり注目されていない分野でした。しかしその後90年代に入って地域貿易協定が世界で増えてきたこともあり、それぞれの国はどのような理由から地域貿易協定を締結するのか、締結することによって貿易量や経済的利益はどのように変化するのか、理論と実証の両面から研究を進めることに意義を感じ、研究テーマに選んだのです。その後、大学院時代から研究者になった後も一貫して地域貿易協定に関する研究に取り組むことになりました。
──地域貿易協定がその時期に増えた理由は何だったのでしょうか。

国際貿易を対象とする国際協定としてGATT(関税と貿易に関する一般協定)があり、それが1995年にWTO(世界貿易機構)に発展しました。GATTやWTOは、関税の引き下げ、輸入数量制限の原則禁止などの国際貿易のルールづくりや、紛争処理にあたってきました。
けれども、GATTやWTOが進める包括的な多国間貿易自由化(ラウンド)は、参加国や論点が増加するに従って、なかなか合意に達せず交渉が長期化するようになりました。このため、時間のかかる多国間の貿易自由化ではなく、地理的に近い国同士で合意しやすい分野でのみ地域貿易協定が締結されるようになったのです。
また、いったんある国々の間で地域貿易協定が結ばれると、地域貿易協定の域外の国々は、域外となったことで経済的な不利益を被ることのないように、こぞってこれに参加したり新しい地域貿易協定を形成したりするようになります。「ドミノ理論」と名付けられていますが、こうしたことも増加の理由と考えられます。

──研究内容はどのようなものでしたか。

地域貿易協定を締結した場合、それによって締結国に経済的な利益が創出される面と、域外の国の経済的効果が損なわれる側面が出てきます。
経済的な利益が生まれる側面としては、関税の引き下げや撤廃に伴ってモノやサービスの価格低下が実現し、その結果新たな需要が生まれ市場が拡大します。実際、私たちの生活の局面でも、それまで高くて買うことができなかった商品を購入できるようなメリットが生まれます。また、市場が拡大し競争が生まれれば、技術革新が促されるとともに、貿易を通じた技術伝播による生産性向上なども期待できるわけです。さらに、締結した相手国に企業を設立するような直接投資など海外資本の流入は、雇用促進、賃金上昇などの効果をもたらします。
客員研究員として滞在したイェール大学にて
客員研究員として滞在したイェール大学にて
しかし、こうしたプラスの面だけでなく、地域貿易協定は二国間やある地域内に限定した貿易自由化のため、その協定に加わっていない域外の国との貿易活動を停滞させるマイナス面も同時に持っています。また、もし地域貿易協定を締結した国々が、ラウンドからよりも地域貿易協定からの方が経済的利益が大きいと判断すれば、WTOに基づく世界の貿易自由化は進まず、これも域外国の経済的利益を損ねます。
私は、地域貿易協定が締結されることによって、実際に域内の貿易量はどう変わるのか、域外の貿易量が減少するといわれているが実際はどうなのかを、EEC(ヨーロッパ経済共同体)、LAFTA(ラテンアメリカ自由貿易連合)、CMEA(経済相互援助会議:旧ソ連や東欧諸国を中心とした社会主義国圏の貿易体制、コメコン)を対象に分析しました。その結果、CMEAでは域内貿易が増加する一方域外が減少、EECは域内が増えると同時に域外の減少も比較的軽微、LAFTAは域内外いずれにも実効性が乏しかったことがわかりました。
また、ある条件のもとでは、全世界を対象とした貿易自由化よりも自由化の相手国を限定した地域貿易協定の方を好む国が存在し、そのため地域貿易協定が増加するとWTOのラウンドが停滞するということも理論的に示しました。
こうした研究を論文にまとめたところ、従来の地域貿易協定に関する研究に新しい論点が加わったと評価されたのです。

WTOと地域貿易協定を融和させ、貿易の自由化促進を

──著書『地域貿易協定の経済分析』では「義塾賞」を受賞されました。

この本は、それまでの研究をまとめて2005年に出版したものです。地域貿易協定が域内での貿易を増やす貿易創出効果と、域外の貿易を減らす貿易転換効果を簡単に推計する手法や、地域貿易協定を締結する誘因、政府のガバナンスと地域貿易協定との関係、域外国に負の影響を与えないような地域貿易協定の枠組みなどを整理してまとめ、それに私が考える地域貿易協定に対する提言を加えたものでした。特に、地域貿易協定と政府のガバナンスの質の関係については、それまであまり研究されてこなかった分野として学術的にも評価されました。あるNGOが政治行動の自由、信条の自由、経済の自由などから指数化した各国政府のガバナンスのデータをもとに、ガバナンスの質と地域貿易協定との関係を実証分析したものです。
ガバナンスの質が低い国は、特定の企業、産業、利益団体と深く結びついているため、それらが望む相手国や産業分野のみを自由化することを望みます。そのため、多くの国・多くの分野が議論の対象となるWTOでのラウンドより、特定の国・特定の分野のみの自由化で済む地域貿易協定の方を選びます。この仮説はデータからも裏づけられました。
WTO本部前にて
WTO本部前にて
──昨今、日本をめぐる地域貿易協定について関心が高まっていますが、どのような考えをお持ちですか。

私は地域貿易協定についてもろ手をあげて賛成というわけではありません。地域貿易協定は、協定を結んでいる相手国との貿易を自由にするという意味ではポジティブですが、域外の国を差別するという意味ではネガティブな効果をもたらしてしまいます。「片手に自由主義、片手に保護主義」を掲げていて、扱いづらい側面を持っています。その時々の政府によって保護主義の側面が強く出てしまうおそれはあります。
しかし、では、地域貿易協定に対して単純に反対かというとそうではありません。地域貿易協定がいまお話ししたような矛盾を抱えているとしても、基本的に私は貿易による海外との取引が増加することには賛成ですし、日本の現状に即して言えば、EPAやTPPを推進していく必要があると考えています。また、WTOの場で議論がまとまらない分野について、地域貿易協定が先駆けとなってルールを作成するという役割も評価しています。
その場合、WTOの推進する多角的自由貿易体制を妨げないようにすることが必要です。地域貿易協定のようなリージョナルな協定が、より国際的でマルチなWTOでのラウンドに負の影響を与えることは避けてほしいと思います。そのためには、地域貿易協定の条文が、WTO協定と整合性があり、国際的に見て特殊ではないものにすべきだと思います。

──これからのWTOのあり方についてはいかがですか。

WTOには、ラウンドなどを通じて貿易の自由化促進のための国際的なルールづくりを行う役割(ルールメイキング)と、パネルなどを通じた紛争処理(ルールモニタリング)の役割がありますが、私は、WTOにとってルールメイキングもルールモニタリングも車の両輪であって、そのどちらも止めてはいけないと考えています。
WTOも最近は地域貿易協定との関係を「共存から統合へ」として、FTAなどの地域貿易協定と折り合いをつけていく方向性を打ち出しています。私もWTOと地域貿易協定が良い関係を保ちながら運営されることが望ましいと思います。

グローバリゼーションと所得についても研究範囲に

遠藤 正寛 商学部教授
──この研究のおもしろさ、醍醐味はどこにあると思いますか。

学部生のときに国際経済学を勉強したきっかけは、各国間のお金、モノ、サービスの取引をみることによって、地球全体の経済活動を見渡せるということでした。そのような視野の広さ、高さに魅力を感じています。
また、地域貿易協定は保護主義と自由主義の両面を持っていますが、研究者の立場からすると、その両面を持っているがゆえに研究の奥行きが深くなるというおもしろさがあります。

──これから取り組みたいテーマについて聞かせてください。

まず地域貿易協定に関しては今後も研究を続けていきたいと思っています。多国籍企業が増え、企業の生産ネットワークが多様な形態を取っている現在、分析単位が国単位から産業単位、そして企業単位と、視点がよりミクロに、多様性をもったものになってきていますので、分析手法の開発が求められています。
もう一つは「グローバリゼーションと私たちの所得」についてです。海外との貿易取引や金融取引が活発になると、私たちの一人ひとりの生活水準にどんな影響があるのか、理論的、実証的な研究をしていきたいと思います。
また、世界の経済が、日本の一地域、例えば私も研究者として3年間暮らしていた北海道の経済に与える影響についても、国際経済学の視点から分析してみたいと考えています。
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