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[研究最前線] 豊富な行政経験をふまえ、住民を主役にした地方自治論を生涯のテーマに(法学部教授 片山善博)

2012/01/16
片山 善博 法学部教授
大学を卒業して自治省に入り、地方自治の実際を経験し、その後鳥取県知事、総務大臣を歴任し、住民自治の姿を探り続けた片山教授。市民の自立こそが民主主義の原点であると信じ、地方自治に関する豊富な生きた経験をこれからの社会に役立てようと、実践の体系化と研究に打ち込んでいます。

※職名等は掲載当時のものです。

片山 善博(かたやま よしひろ)

片山善博 法学部教授
1951年岡山県生まれ。1974年東京大学法学部卒業。同年、自治省入省。国税庁能代税務署長、自治大臣秘書官、鳥取県総務部長、自治省固定資産税課長などを経て、1999年鳥取県知事に就任。2003年鳥取県知事再選。2007年任期満了に伴い退任、慶應義塾大学大学院法学研究科教授(有期)に就任。2008年より現職。2010年9月~2011年9月総務大臣。中央教育審議会委員、地方制度調査会副会長、行政刷新会議メンバーなどを歴任。主な著書に『市民社会と地方自治』『「自治」をつくる』『日本を診る』など多数。

行政経験を講義の中に盛り込む

──自治省から鳥取県知事に転身、知事を2期務めた後に研究者の道に進んだのはなぜでしょうか。

自治省での経験や知事としての実践で得た具体例を体系化して、今後の自治の現場や、地方自治の研究に活かしたいと考えたからです。
ちょうど私が鳥取県知事を2期で辞めるとき、慶應義塾大学から地方自治論の講座を開設するので、それを担当してほしいという話があり、私の問題意識と重なったこともあってお引き受けしました。
講義では、単なる制度や仕組みの解説ではなく、地方自治や福祉、地域振興などを推進する上での課題を、実例を盛り込みながら学生たちに考えさせることに主眼を置いています。身近な自治体の行政や政治に関心を持ち、それを通じて国の政治を見る目も養うこと、そのために大いに議論し、しっかり考えることが必要だと思うからです。

──身近な地方行政について学生に考えさせるために、どんな授業をなさっているのですか。

実践的な例を挙げることが学生たちの関心を呼び起こすようです。たとえば、名古屋市の河村市長が取り組んでいる減税問題などは格好の教材です。減税問題の背景を説明し、自治体の税率はどのような構造で決まるのか、また、議会と税の関係などを解説し、こうした材料をベースに学生に減税問題の当否について考えさせ、意見を述べてもらうわけです。あるいは、大阪市の橋下市長が提唱している大阪都構想なども、私が総務大臣の時に関わった案件なので、学生たちに教える材料には事欠きません。このような考える訓練を通じて、民主主義の土台となる賢い市民・有権者に育てていくことが教育の重要な責務だと思っています。
私のゼミでは、積極的に本を読み、政治についての普遍的な原理について考えさせるようにしています。たとえば、最近ではイギリスの作家でありジャーナリストであったジョージ・オーウェルの「動物農場」を読ませて、現代政治との対比で考えさせたりしました。最近の学生は私たちの頃に比べて本を読まなくなっていますが、こちらから動機づけてあげると、興味を持ってどんどん読むようになりますよ。

地方自治論と現実の自治体のギャップに驚く

片山善博 法学部教授
──地方自治の研究に興味を持ったきっかけは何だったのでしょう。

大学で政治学を専攻し、地方自治研究のゼミに入りました。当時の研究では、国家統治のツールとしての地方自治論が主流を占めていましたが、担当教授はアメリカの自治行政にも詳しく、地域住民の一人ひとりが自覚的に政治に参加し、住民自身の手で民主主義をつくっていく「草の根民主主義」の考えをベースにゼミを進めておられました。
その先生の指導で、地方自治体の文書管理についてフィールドワークを行いました。住民に対する情報公開の実際を調べたのですが、自治体をいくつか回ってみたところ、職員が「何を調べに来たのか」と警戒心をあらわにしながら対応してくるのです。大学の政治学で学んだ自治体の理念的なイメージと、現実との大きな違いに驚かされました。彼らには、文書や情報を住民と共有しようという意識がまるでなかったとしか思えなかったのです。情報を権力が独り占めするのではなく、住民と共有することによってはじめて住民が地方自治に参加し、影響を与えることができるようになる。そんな仕組みをつくっていくことが必要だと痛感しました。
そんなこともあって、日本に本当の地方自治、民主主義を根付かせるための制度づくりに携わり、ライフワークとして地方自治に関わろうと考えたのです。

──大学を卒業して当時の自治省に入られたのも、そうした志からだったのですか。

実は、大学を卒業したとき、研究者の道に挑むか、就職して実務の道に進むか多少悩みました。
ちょうどその頃、東京都や神奈川県、埼玉県などで革新首長が誕生し、革新自治体ができたことで、権力の執行者としてではなく、住民の自治を具現化する自治体行政という視点から地方自治を捉えようという動きが見られました。私も、住民の視点に立った、国民主権の考え方を反映できる地方自治を推進できればという思いが強くあったため、それを担うべき立場の自治省(現在の総務省)に入ったのです。
入省してから、いろいろな地方自治体で地方行政の現場を見る機会があったのですが、私が考えた理想通りの地方自治の実践を見つけるのは極めて困難でした。住民によって選ばれた首長と議会がもっと合理的に行動し、国民一人ひとりが民主主義の基軸になって行動することの必要性を痛感させられることもしばしばで、もし私が首長になったらこうするのになどと、よく考えていました。


——県知事になって、どんなことをお感じになりましたか。

地方自治には、地方自治体が地方分権や権限移譲などを通じて国からの独立性を高める「団体自治」と、地方自治体の中で住民の意思をより反映しやすくする「住民自治」の二つの側面があります。県知事になってみて実感したのは、団体自治に関してはある程度進んでいますが、住民自治はまだまだ進んでいないということでした。情報公開や住民の政治参画機会の拡大を進めていく必要がある、福祉行政や教育行政なども住民の視点からの改革が必要だなど、日々の実践を通じていろいろな課題が浮き彫りになってきます。そうした課題に対して、住民がどんな要求を持っているのかを知り、解決するために、まず、鳥取県庁の中に住民から税金、福祉、教育、県政などへの相談や苦情を一元化して、なんでも受け付ける「県民室」を設けるなどの施策を実践しました。
また、情報公開こそ地方自治の根幹であり、すべての改革に通じる万能薬ですので、たとえば、予算編成作業過程を予算要求の段階からインターネットで公開するなどの改革にも着手しました。
若いときから強い関心を抱いていた事柄について、それを政策として具体化することができた一例です。

住民が主体的に参画する地方自治のために

片山善博 法学部教授
──民主主義的な地方自治を確立する上で重要なことは何だとお考えですか。

中央官庁や地方自治に関わる人々の意識がもっと変わっていかないと本当の意味での民主主義的な地方自治は実現できません。中央官庁の官僚はいまだに明治時代以来の中央中心主義の発想を持っていて、総じて国家統治の一環としての地方自治の考え方から抜け出せないでいます。一方、地方自治体の側でも、中央官庁からの指導に従わなければならないと思っている人もまだまだいます。そうした発想のベクトルを逆転させて、「国の方針に従っておけばいい」「長いものには巻かれろ」という意識ではなく、住民を主役にして、住民の意思をできるだけ反映することができる地方自治をつくり上げていくことが必要なのです。

──研究者としてこれから取り組みたいテーマは。

これまでに得た具体的な実践例などを理論化・体系化して、まだ学問分野としては歴史の浅い「地方自治論」の研究を展開していきたいと考えています。特に現在関心を持っているのが地方議会のあり方です。日本の地方議会は一種儀式化していて、世界各国の議会と比較し、いささか異様だと思います。全国どこの地方議会でも同じ問題を抱えているのですが、例えば議決結果は議会が始まる前に決まっている。議論や討論を通じてものごとが決められるべきなのに、事前の綿密な根回しや、質問と答弁をあらかじめすり合わせしておくことなどで、結論はすでに出てしまっています。これでは議会本来の役割を捨ててしまっていると言えるでしょう。地方議会の機能をいかに回復することができるか、私のこれまでの経験をふまえた研究を続けたいと思います。
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