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[研究最前線] 企業と資本主義の変化を比較制度分析の視点でとらえる(商学部教授 谷口和弘)

2010/07/15
谷口 和弘 商学部教授
企業は資本主義の歴史において進化を遂げてきました。谷口和弘教授は、そうした時間的な流れを展望しつつ、企業とそれに関連する制度の進化やイノベーションを国際的・歴史的に比較し、制度経済学や戦略経営論の構築につとめるとともに、会社の認知と行動を変えていくための方法論を模索しています。

※職名等は掲載当時のものです。

谷口 和弘(たにぐち かずひろ)

谷口 和弘 商学部教授
1992年慶應義塾大学経済学部卒業。1994年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程修了。1996~1999年日本学術振興会特別研究員。1999年慶應義塾大学大学院商学研究科博士課程修了。2000年10月スタンフォード大学(アメリカ)文部省科学研究費補助金特定領域研究。1999年~現在 南開大学(中国)訪問研究員。2003年慶應義塾大学商学部助教授。2009年慶應義塾大学商学部教授。VCASIフェロー。資本主義における企業の理論化と現実的な企業活動の分析を通じて、会社の経済学、組織論、戦略論まで幅広く研究。『企業の境界と組織アーキテクチャ:企業制度論序説』で平成19年度義塾賞を受賞。著書に『組織の実学:個人と企業の共進化』など多数。

比較制度分析にもとづく企業制度論の展開

──現在の研究テーマとの出会いを教えてください。

経済学部では清水雅彦先生のゼミで計量経済学を専攻していたのですが、現実的な企業の問題にも関心をもっていました。主に経済学は市場の原理を解明することに重きをおき、個々の企業活動の分析は対象としません。そこで大学院では商学研究科に進み、植竹晃久先生の指導の下、企業の経営、組織、戦略など、現実の企業経営をミクロ的に分析する研究に没頭しました。経済史や経営史の流れをとらえ、そのなかで企業がどのような企業形態をとり、どのような組織や戦略を構築し、時代の変遷に適応してきたかを探りたいと考えたのです。
そこで出会ったのが、比較制度分析を提唱するスタンフォード大学の青木昌彦先生でした。

──企業制度論とは、簡単にいうとどのような学問ですか?

かつての経済学では、企業の目的は利潤最大化にあり、その内側はブラックボックスとして考察の対象とはみなされませんでした。しかし、現実の経済を動かす企業が、社会の環境変化のなかでどのように行動するかを分析することは非常に重要です。そこで、企業の戦略、組織構造、ガバナンス・システム、企業間の取引関係といった企業制度を分析対象とした企業制度論が、経済や経営を研究するうえでも重要な位置を占めるようになったのです。大学院では、ゲーム理論にもとづいて制度の多様性や進化を分析する比較制度分析の手法を学びました。ここで身につけたものが、その後の私の研究の基礎となっています。
変化の激しい現代社会にあって、企業がどのように企業制度を配置していくかは社会にとって非常に重要な問題です。たとえば、世界はグローバル化の時代であるといわれ、アングロ・アメリカ型の株主至上主義の企業運営が是とする風潮も一方にはあります。しかし、企業は、株主以外にもさまざまなステイクホルダー(利害関係者)から成り立っていて、その運営を任された経営者は、ステイクホルダーがもっている知識を集結して経営の質を高めていかねばならず、その際、ガバナンスが重要なのです。永続的な組織である会社は、時代にふさわしい企業制度を構築し、価値を創造していく過程で、個人とともに進化(共進化)することが可能である、と私は考えています。

知識・経験の集合、「ケイパビリティ」の活用が重要

大学院時代の指導教授、恩師たちと三田にて:(右より)植竹晃久名誉教授、マーク・フルーエン特別招聘教授、渡部直樹常任理事
大学院時代の指導教授、恩師たちと三田にて:(右より)植竹晃久名誉教授、マーク・フルーエン特別招聘教授、渡部直樹常任理事
──企業は歴史のなかでどのように変化したのでしょうか?

企業はそれぞれの時代や環境のなかでダイナミックに変化します。アダム・スミスが『国富論』を書いた時代には、「みえざる手」によって資源配分が行われ、需要と供給のバランスがうまく実現すると考えられていました。しかし資本主義が発展し、アメリカのフォードが登場した時代には、なにからなにまで自社でやらなければならなかった。設備投資が活発になり、株式会社が設立され、大規模な市場が確立されれば、企業は経営者の戦略的意思決定を中心に新商品を開発し利潤を上げようとする。「みえざる手」にかわって経営者による「みえる手」が登場したのです。そして厚みのある市場が発展した現代では、自社だけですべてをつくりだすのではなく、市場から必要なものを調達することができるようになりました。つまり、「消えゆく手」の時代をむかえたのです。
新商品を開発して利潤をあげるために、企業は資源を有効な価値に転換する知識、経験を蓄積しなければなりません。これらを「ケイパビリティ」と呼びます。企業とは、経営者の権限をベースに機能するケイパビリティの集合体ということもできます。
市場にさまざまな業態の企業と多様な技術が集まっている現代では、ケイパビリティは、市場で手に入れるか、他の企業と協力してつくりだすか、自社で開発するかなど、選択の幅が広がっています。ここで大切なのは、グローバル経済のなかでその選択を適切に実行していくことでしょう。

──企業が市場で生き残っていく、成長するためにはなにが必要ですか。

市場は、同質化をもたらすメカニズムだと考えられるため、企業が利潤をえるには差別化した商品開発を行い、同質化の力にさからわなければなりません。つまり、他企業がもたない特異なケイパビリティをもつ必要があります。そのためには、経営者が企業をどのような組織にするか、人材をどのように育成するかなどの組織デザインが重要なポイントになると思います。
企業の戦略を知るためには、企業の経営者にインタビューをして、本だけでは分からない生の声を集める必要があり、実際に多くの経営者に会って話を聞いてきました。経営者は制約の下で最適な生産量を決めているのではなく、実際には市場をコントロールし、利潤を上げようと様々な戦略を打ち出しています。たとえば、ある自動車メーカーがなぜ環境技術に取り組んでいるのか、経営者は社員とどのようにして接し、どのような組織文化がつくられているのかなどの問題が浮かび上がってくるので、経営者へのインタビューは面白く、実に教えられることが多いのです。実際、非常に魅力的な企業の経営者の方々に会うことができました。

──理論の世界と現実の世界とを往復しているということですね。

そうです。しかし、現実の世界が変化している以上、理論家が扱う問題は多岐にわたり、次から次へと生じてくるため、理論の構築と現実の変化の間にタイムラグが発生するのはやむをえないといえます。経営者は数十年先を見ながら企業経営している場合もあり、現実はつねに理論よりも先に行っているといえるかもしれません。それでも、現実の世界との接点がなければ、解明しなければならない制度的な問題を理解することはできないわけで、こうした理論と現実の相互作用こそ、福澤諭吉先生の唱えられた「実学の精神」ではないか、と考えています。

日本におけるクラスター戦略と地域開発

比較制度分析の創始者、青木昌彦スタンフォード大学名誉教授と六本木にて
比較制度分析の創始者、青木昌彦スタンフォード大学名誉教授と六本木にて
──いま、注目されているテーマは?

企業や産業を分析する場合、ある時間を区切って空間的な比較をする手法、つまり比較制度分析でいう共時的比較があります。たとえば、シリコンバレーのように、特定の地域にベンチャー・キャピタル、起業家、大学などが集まって新しい産業が起こるケースがありますが、この集まりのことを「クラスター」と呼んでいます。中国でも、たとえば天津経済技術開発区で外資導入のためのクラスターがつくられてきました。アメリカのシリコンバレーの場合は、個人の自発的な起業家精神や民間企業の活力が中心になったクラスターですが、中国では政府の主導・政策的努力によるものです。近年では、中国とアメリカのクラスターのあいだで頭脳還流の流れができています。それが経済の原動力にもなっています。
日本でも、民間の活力を活用しながら特色のあるクラスターがつくられればと思います。そのためには、起業家が企業を起こせるような環境づくり、そして魅力的な地域開発が必要になると思います。政府が上から資源配分を考えるのではなく、地域自体も政府や特定の企業への依存から脱却していくことが求められていると思います。

──研究成果を現実の企業経営や社会システムに応用することは可能でしょうか。

企業制度論は、なぜ企業が存在し、経営者がさまざまな制度をいかに配置しているか、といった現実的な問題に取り組むものです。それらを実証的に解明することでえられる理論の世界の知識は、現実の世界で経営の質を高めるために活用できるのではないかと思います。

──これからの研究テーマについてお聞かせください。

資本主義の進化、会社の認知のあり方など、いろいろな研究テーマに取り組みたいと思っています。とくに、グローバルなオープン・イノベーションの時代にふさわしい企業経営を分析するための手法や理論を研究し、新しい理解がえられるようつとめたいと考えています。
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