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[研究最前線] 地震発生リスクと生活の質(経済学部教授 瀬古美喜 ほか)

2008/10/01
瀬古 美喜 経済学部教授 
直井 道生 商学部特別研究講師
隅田 和人 金沢星稜大学 経済学部准教授
ここに紹介する瀬古、直井、隅田による共同研究は、都市経済学の視点から、地震国日本において、地震発生リスクが地域の人の生活の質とどのように関係し、地域間格差を生みだしているかを理論化したユニークな研究です。現在的な問題意識と理論的な分析手法が評価され、2007年度ヨーロッパ不動産学会賞を受賞しました。

※職名等は掲載当時のものです。

瀬古 美喜(せこ みき)

瀬古 美喜 経済学部教授
経済学部教授
慶應義塾大学経済学部1972年卒業、78年同大学大学院経済学研究科博士課程修了、82年マサチューセッツ工科大学経済学研究科博士課程修了。98年慶應義塾大学経済学部教授。アジア不動産学会元会長、現理事。都市経済学、計量経済学などを研究領域とし、現在、「経済構造変化と不動産市場に関するマクロ経済分析」などを研究中。

直井 道生(なおい みちお)

直井 道生 商学部 特別研究講師
商学部 特別研究講師
慶應義塾大学経済学部2001年卒業、06年同大学経済学研究科博士課程単位取得。大学院では瀬古教授の指導を受け、応用ミクロ経済学、都市経済学を専門とする。06年から現職。都市、地域、住宅市場の研究に力を注いでいる。

隅田 和人(すみた かずと)

隅田 和人 金沢星稜大学経済学部准教授
金沢星稜大学経済学部准教授
慶應義塾大学総合政策学部1997年卒業、02年同大学経済学研究科博士課程単位取得。大学院では計量経済学を専攻しながら、瀬古教授の指導を受ける。02年金沢星稜大学に。現在「住宅価格変動の計量経済分析」「金沢市住宅価格のヘドニック分析」などを研究中。

地震発生リスクが一般家計や企業の地域選択の重要な要素に

地震発生リスクの表
——この共同研究を始めたきっかけについてお聞かせください。

2003年に慶應義塾大学大学院の経済学研究科と商学研究科が、文部科学省の「21世紀COEプログラム」※1の一環として、都道府県各地域の世帯の家族構成、収入と支出、仕事、住宅の規模や形態などについてパネル調査を行い、「慶應義塾家計パネル調査(KHPS)」にまとめていました。隅田と瀬古は、そのころ、各世帯の住宅購入の意思決定プロセスを研究していましたが、そこに直井が加わり、地域間で地震リスクに相違があるが、地震リスクが住宅購入の意思決定にどう関係しているのかを、KHPSを活用して共同研究することになりました。

——共同研究の具体的な内容はどのようなものですか。

日本の各地域には、風土、気候、気温、降雨量、犯罪発生率など地域ごとにさまざまに異なる特性があります。経済学では、こうした地域固有財を「アメニティ」と呼んでいます。アメニティには、空気が澄んでいる、気候が温暖である、インフラが整備されているなどの「正のアメニティ」と、犯罪発生率が高い、地震発生のリスクが高いなどの「負のアメニティ」があります。これらのアメニティの多寡は、家賃やその地域の企業・事業所などの賃金に反映されると経済学では考え、この家賃や賃金の格差からその地域のアメニティの金額を逆算することで、その地域で生活している人の「生活の質」を表わしていると見なすわけです。これを「生活質指数(Quality of Life Index)」といいます。
共同研究では、負のアメニティの中に地震発生リスクという、従来の研究では顧みられていなかった要素を組み込みました。地震発生リスクは、その地域の家賃を低く抑えると同時に、企業が労働力を確保するための賃金を高めることが予想されます※2。 
各地域(都道府県)の生活質指数と地震リスク評価額を算出し、生活質指数順に並べたのが次のグラフです。一般的に東京、大阪、神奈川など生産性が高く、人口の集積度が高い地域は、生活質指数が高い値を示しています。しかし、愛知県や静岡県は、温暖な気候風土や人口集積度が高いにもかかわらず、その値が低くなっています。これは東海地震などの地震発生リスクが高いことによるものと解釈できます。地震発生リスクが一般家計や企業の地域選択に重要な要因となっていることを示しているといえるでしょう※3。

学問領域を広げ、現実のダイナミズムを研究に取り入れる

マカオで開かれたアジア不動産学会の会合のあとのひととき
共同研究の良さは、自分の発想とはまったく違った視点を共同研究者から得られ、刺激を受けることができることだという。現在、隅田は金沢で研究活動を行っており、実際に顔を合わせられるのは、2~3か月に一度くらい。以前、慶應義塾で一緒に学んだことから、電話やメールのやりとりで、研究の方向性や役割分担を相談し、研究を進めていく。
(マカオで開かれたアジア不動産学会の会合のあとのひととき)
——この共同研究を今後どのように展開していくのでしょう。

地震発生リスクと生活質指数による地域間格差について、もう少しきめ細かく検証していくことがひとつ。また、地震保険の問題にも取り組んでいきたいと考えています。地震保険は、市場メカニズムを通じて地震リスクを分散させるための仕組みですが、我が国では保険料率の区分がきめ細かく設定されていないことなどから、加入率は2005年でわずか20%です。どんな方策をとれば加入率が上がるのかなど、人々の生活の質を高めるための研究につなげていきたいですね。

——都市経済学の魅力についてお話しください。

経済学は、一般的で抽象的な議論からスタートし、経済理論を構築することが主要なミッションですが、都市経済学は数学的な理論モデルをバックボーンとしながらも、現実の都市空間で起きているさまざまな事象を研究対象とします。私たちも、各都市ごとの賃金や住宅価格、交通などのインフラ、アメニティなどのデータを分析し、住宅価格の変動はなぜ起きるか、変動の幅をどうすれば小さくできるかなどを研究しています。現実のダイナミズムを研究に取り込んでいける点が大きな魅力です。最近の都市経済学は、その学問領域を広げる傾向にあり、研究者にとってより幅広い可能性が広がっているといえますね。

※1 
わが国の大学が、世界トップレベルの大学に伍して教育及び研究活動を行っていくために、2002年より文部科学省により進められているプロジェクト。

※2 
気候や風土、環境、地震発生リスクなど、アメニティは、本来、市場で取引される「財」ではないため、その価値を評価するために、都市経済学的な理論モデルであるヘドニック評価法を用いた。地震発生リスクが高い地域は人が集まらず、空家が発生するため家賃が低下し、企業・事業所では賃金を高く支払って労働力を確保すると見なして評価額を算出する。

※3 
都市経済学の理論的な分析においては、家計は、地域環境を表わすアメニティ、賃金、住宅価格の組み合わせで居住する地域を選択すると考える。即ち、よりよい地域アニメティ、より高い賃金、より低い住宅価格地域に惹きつけられてその地域に居住し、これによって空間的な均衡が成立すると考えられている(格差補償説)。
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