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2011年05月01日 平成23年度大学入学式式辞

慶應義塾長  清家 篤



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 新入生の皆さん御入学おめでとうございます。慶應義塾大学を代表して皆さんの入学を歓迎し,お祝い致します。また新入生の御家族,関係者の皆様にも,心よりお慶び申し上げます。
 慶應義塾大学では学生を塾生,卒業生を塾員と呼び慣わしています。今日も多くの塾員がお見えです。とくに慶應では毎年の入学式に,卒業50年を迎えられた塾員を御招待しています。皆さんの後ろのスタンドを振り返って頂きたいのですが,たくさんの卒業50年の塾員の方が全国から皆さんの入学を祝うために駆けつけてくださっています。
 御紹介しますと共に,新入生の入学を共に祝うために,わざわざ全国各地から駆けつけてくだった卒業50年の塾員の皆様方の御列席に,慶應義塾を代表して御礼申し上げます。

 さて3月11日午後に発生した「東日本大震災」は未曾有の地震津波災害となり,被災地の実態を詳しく知るにつれ胸の塞がれる思いです。その犠牲になられた方々に深い哀悼の意を表します。そして全ての被災者の皆様に心からお見舞い申し上げます。
 今日この時点でも多くの方々が避難所等で不安な生活をされていることに心が痛みます。また自らの危険も顧みず救援活動にあたっている消防士,自衛隊員,警察官,行政職員,医療関係者,ボランティアなど多くの方々の献身,さらに米軍も含め国際的にも温かい救援の手が差し伸べられることに,言葉に尽くせぬ敬意と感謝の念を禁じえません。
 私ども慶應義塾としても,なしうることから実行していきます。まず震災発生直後に塾員の組織である慶應連合三田会,塾生の組織である全塾協議会と共同で義援金の募集を開始し,また慶應義塾救援医療団を被災地に派遣しました。さらに個々の教員,あるいは塾生や塾員が,様々な形で被災者の方々の救援や被災地の復興のために活動しています。
 もちろん今社会のために慶應義塾のなすべき最も重要な貢献は,しっかりと人材を育てることです。日本が現在の厳しい状態から復興し,さらに発展していくためには,何よりも優れた人材が必要だからです。本来4月1日に開催予定であった入学式は,不安定な電力と交通機関の現状,余震への対応,電力消費抑制への配慮などから,一時に多数の人の集まる行事は当面控えるべきと判断して今日に延期しました。しかしこの入学式に先駆けて,学生の安全には最大限の配慮をしながら,授業はできうるかぎり早く始めています。これは教育,とくに皆さんのような若い人達にしっかり学んでもらうことこそ慶應義塾の今日なしうる最大の貢献と考えているからです。それだけに新入生のみなさんには,私どもも大きな期待を抱いています。

 皆さんには大学で大いに学問をして頂きたいと思います。御承知のとおり,慶應義塾の創立者である福澤先生は,『学問のすゝめ』,あるいは『文明論之概略』といった著作の中で,学問の重要性を繰り返し強調しています。私も大学に入ったばかりの頃,先生方が学問をすることの大切さを説かれたことを覚えています。しかしたしかに学問は重要だろうなとは思いましたが,具体的にどう重要であるのかについては,いまひとつピンとこなかったような記憶もあります。そこで今,改めて学問を学ぶことの効用について考えてみたいと思います。
 学問の効用の第1は,学問によって事物の真の姿を知ることができるということです。皆さんは日々様々なものを見たり経験したりしますが,それは必ずしも真実を見ているわけではありません。その最も分かりやすい例は天体の動きでしょう。われわれは朝になると東から太陽が昇り夕方になると西に沈み,そして夜になれば星が季節ごとに天空を動くということを日々見て経験しているわけですが,これにはまさに平らで静止した地球の上を,太陽や星が動くという,あのプトレマイオスの天動説が,実感的にはぴったりするものです。
 しかし天空の真の姿はそうではなく,なんと地球は丸く,それが傾いた地軸を中心に自転し,太陽の周りを公転しているのが真実であるわけです。およそ日々の体験や見ているものとはまったく違うことが,実は真実である,真理であるということを,われわれ人類はコペルニクス以来の天文学という学問によって理解しているのです。自分が一番よく知っていると思える自分の身体のことも医学という学問を通じてはじめて正しく理解できますし,消費者としての自分の行動も経済学という学問を通じて理解できます。見ているものや経験したことは必ずしも真実ではないわけです。このことを,学問を通じて理解できるということが人の知性なのです。

 学問の効用の2つ目は,学問によってわれわれは何を知らないかも知ることができるということです。このたびの震災は,人の生み出した科学や技術の力が,自然の猛威の前にはいかにもろいものであるかを,われわれに改めて知らしめるものでありました。われわれはまだ多くのことを知らないということです。地震学は進歩したとはいえ,大きな地震の起きるメカニズムを完全に理解するところまではいっていませんし,放射線医学は,放射線の人体に与える影響についてある程度までは解明していますが,未知の部分も多く残されています。
 大切なことは,どこまで分かっていて,どこから分からないか,を知るということです。われわれにまだ知らない未知のものがあるということと,無知であることは全く違います。無知とは,その未知のものがあるということを知らないことです。知らないことがあるということを知っていること,これもまた人間の知性というものだと思います。そして,明らかになっている部分とは,すなわち学問によって分かっている部分であるということからすれば,どこが未知の部分であるかは,その残りの部分ということになります。つまりどこからが分からない部分かを知るのも,また学問を通じてということになるわけです。

 学問の効用の3つ目,そしておそらくこれが皆さんにとってはもっとも大切な効用かもしれませんが,それは学問をすることによって自分の頭で考える力を養うことができるということです。現在のような大きな変化の時代には,過去の延長線上でものを考えたり問題を解決したりすることは難しくなります。新しい状況を自らの頭で理解し,その理解にもとづいて問題を解決することが,これまで以上に求められるようになっています。つまり,解決すべき問題を見つけ,その問題はなぜ起きているのかの理由を考え,その考えが正しいかどうかを何らかの方法で確認し,結論を導くということです。少し難しく言えば,問題の発見,仮説の構築,その仮説の検証,そして結論の導出ということで,実はこれこそが学問の方法であります。
 先に述べたように福澤先生は学問の大切さを説きましたが,とくに強調したのは「実学」ということでした。そしてその実学とは,後に福澤先生自身がその言葉に「サイヤンス」つまり「サイエンス」とルビをふられたことからも分かるように,「科学」のことでした。その科学の基本がいま申し上げました問題の発見,仮説の構築,仮説の検証,結論の導出,ということであります。つまり福澤先生の実学の精神を身に付けるということは,すなわち学問の方法を身に付けるということなのです。

 皆さんがこれから学ばれる専攻分野は自然科学,社会科学,人文科学と様々です。どの分野であれ共通に求められるのは,つねに「なぜ」という知的好奇心を持って自分の取り組むべき問題を見つけること,そしてその問題がなぜ起きているのか,どのような理由でその現象は発生しているのかを考える論理的思考態度です。そしてその皆さん自身の考え,すなわち仮説を,誰もが納得するような客観的な方法で検証するための方法,自然科学なら実験,社会科学なら統計分析,人文科学なら文献調査といった技法をしっかり学び,そして得られた結果を正確に表現することのできる言語力を身に付けてください。
 具体的にはまず,すでに確立された学問を,幅広く学んでください。幅広くという意味でとくにお願いしたいのは,これからいわゆる文科系の学部に進まれる皆さんにはぜひ理科系の学問もしっかりと,そして理科系の学部に進まれる皆さんには文科系の学問もしっかりと学んで頂きたいということです。そのことによって,幅広い知識を得ると同時に,そうした学問を確立した人たちが,自分の頭で考えた軌跡を追体験することができます。そして先に申しましたような,実験や統計分析や文献調査といった技法を学び,また情報を受信,発信するための言語力をしっかりと身に付けてください。これが自分の頭で考える力を養う土台の部分です。
 そのうえで自ら研究をしてください。まだ誰も解答を得ていない問題を見つけ,その問題に取り組んで答えを出し,それを誰にも理解できるように正確に表現するということです。具体的には,卒業論文を書くことや卒業研究をすることになりますが,その前段階での様々なレポートをまとめるといったことも,これに含まれます。
 さらに教室の授業だけでなく,課外活動も大切です。例えば皆さんの中には体育会などで活動する運動選手となる方もいるでしょう。どうしたら試合に勝てるか,どうしたらもっと上手くなれるかという課題をかかえ,どの戦術や技が最も効果的かについて仮説を作り,それを練習などで試して検証し,その結果をもとに試合に臨んでいるわけです。まさに,自分の頭で考えて工夫をすることによって戦術や技を磨き強くなっているのだと思います。
 こうしたことは文化系,芸術系のクラブ活動でも同様です。興味のあることをどうしたらもっと深められるか,どうしたら芸術技量はもっと高められるか,常に考え続けているはずです。つまりこれから皆さんが存分にエンジョイされるであろう課外活動もまた,自分の頭で考える力を養うよい機会だということを,どうか忘れないで頂きたいと思います。
 幅広い学問的教養を身に付け,奥の深い研究をし,存分に課外活動をしてください。そしてそのことによって,自分の頭で考える能力を磨いてください。そのことが,直面する難しい問題を解決し,さらに新しい価値を生む力を,必ず皆さんに与えてくれると思います。皆さんにはその力を養う機会が開かれているのです。
 盛りだくさんのことを皆さんにお願いしているようですが,皆さんにはそれをこなす能力があります。能力と機会に恵まれた人には,その能力を伸ばす義務もあると思います。そうして伸ばした皆さんの能力を,皆さん自身の幸せにつなげると同時に,社会全体の幸福の増進のために活用してもらいたいと思っています。
 そのような意味のある能力を伸ばそうとする皆さんを,慶應義塾は精一杯応援いたします。そうした皆さんへの期待を込めて,改めて入学のお祝いを申し上げ私の式辞と致します。皆さん入学おめでとうございました。

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