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2009年01月10日 独立自尊150年の伝統を原点にオープンでグローバルな学塾を目指して

慶應義塾長  安西 祐一郎
 明けましておめでとうございます。また福澤諭吉先生174回目のお誕生日おめでとうございます。壇上には福澤信雄様に,福澤家を代表していらしていただいております。福澤先生のご次男が捨次郎様,そのご長男が時太郎様,そのご長男でいらっしゃいます。福澤評議員会議長は信雄様の弟さんにあたられます。福澤様,福澤家の皆様にお慶びを申し上げたいと存じます。

 昨年,慶應義塾は創立150年記念の年を迎え,多くの行事が行われました。特に11月8日には,天皇皇后両陛下をお迎えいたしまして,無事に記念式典を挙行することができました。義塾が幾多の危機を乗り越えて150年の歴史を刻むことができたのは,社中の一致協力,また,義塾を応援してくださる多くの方々のご尽力の賜です。新年にあたってあらためて深く感謝を申し上げたいと存じます。

 先ほどのワグネル男声合唱団の「日本の誇」もそうでありますが,特に幼稚舎生が歌った「福澤諭吉ここに在り」に,戦争があろうと勉強を続け,江戸の町が暗闇になっても学問を続けていこうとした義塾の志が述べられています。学問へのこの志は,150年の間途絶えることなく,いまもって発展し続けているわけであります。昨年来,金融危機に端を発して経済の情勢が大きく変化している中で,私は今こそ,その志がいちばん大切にされるべき時代ではないかと思います。

 今日は,学内の近況等も交えて,創立150年記念事業のこと,そして特に,昨年記念の年を迎えた慶應義塾がこれからどのようにして未来を先導していけばいいのか,そのことにつきまして,二,三考えていることを申し上げておきたいと思います。

 教育,研究,医療,国際貢献等々の持続的発展は,義塾にとって根幹であり,最も大事なことであります。昨年も学部,大学院,研究所,研究センター,一貫教育校,大学病院等々,たいへん大きな発展を遂げました。いくつかの例をかいつまんでご紹介いたします。

 たとえば三田の大学院研究科は,ジョイント・ディグリープログラムの導入を進めています。経済学研究科と法学研究科はプログラムを始めており,文学研究科と経済学研究科のプログラムも開始が決まっています。法,理工,政策・メディア等の研究科も行っていますが,経済学部・経済学研究科一貫5年制の修士号早期取得制度が始まりました。他大学との単位互換等もいろいろな形で始まっており,文,経,商,社会学研究科等によるチェアシップ講座も開かれます。

 法学部はニューヨーク学院卒業生希望者の9月入学を始めており,今年から帰国生にも広げることになっています。また今年から法学研究科修士課程に公共政策,ジャーナリズムの二つの専修コースが開設の予定です。法学部は,創立150年記念事業として全12巻に及ぶ研究書を出版しました。

 法務研究科については,ご存じのように新しい司法試験が始まっており,現場の方々の努力で新司法試験の合格者を多く出し,たいへん高い合格率を誇っています。昔は弁護士等々になる卒業生は多くありませんでしたが,今は若い人たちが法曹の場で多く活躍するようになっています。

 商学研究科は,先行して改組された修士課程に対応し,博士課程を商学専攻に一本化することになっております。公認会計士試験は34年間全国の大学で1位を続けています。

 医学部については,医学研究科の博士課程を5専攻から2専攻に改組,博士課程学生への奨学金等の充実,また多くのプロジェクトが始まっています。今年から医学部の1学年の定員を100名から110名にすることになっています。医学部・病院の改革については,義塾評議員の何人かの方々の献身的なご貢献も得て,制度改革等も含め,現場の非常な努力によって進み始めておりまして,将来の信濃町が世界に冠たる医学部・病院となるように,慶應義塾全体として応援をしていくべきと考えております。皆様にもぜひご協力を賜りたく存じます。

 理工学部,理工学研究科では,教員の相互交流が他の大学とすでに始まっていますが,これは義塾に今までなかったことだと思います。他大学との大学院生の交流,企業との共同による人材育成や多くのプロジェクトも始まっています。

 湘南藤沢キャンパス(SFC)については,SFCの発展に,また教育研究にきわめて大きなご貢献をされた小島朋之前総合政策学部長が,昨年3月に残念ながら逝去されました。そうした中で,政策・メディア研究科に新しいコースが開設され,同研究科や環境情報学部においてITを専攻するベトナムからの留学生の受け入れ等も進み始めております。また,女性研究者の支援について,看護医療学部,大学院健康マネジメント研究科等が中心になって活動を進めており,義塾全体でも近々男女共同参画室を創設することになっています。これから女性研究者の支援はとても大事なことになっていくと考えております。

 昨年4月,共立薬科大学との合併によりまして,薬学部,大学院薬学研究科が発足いたしました。この合併は,多くの方々の努力によって,今後全国の大学合併の模範となり得るほどにきわめて順調に進みました。共立薬科大学に在籍していた進学予定の学生は4月からすべて義塾の塾生となり,4月に入学した薬学部1年生は日吉で,2年生以降は芝共立キャンパスで学んでいます。共立薬科大学の理事長であり優れた科学者であった橋本嘉幸先生が,4月に義塾の常任理事に就任された直後に亡くなられました。橋本先生のリードがあったからこそこの合併が成り立ったことを,ここにご報告しておきたいと存じます。芝共立キャンパスは,福澤先生が築地鉄砲洲から塾を移した芝新銭座の場所にほど近く,歴史の縁を感じます。

 薬学部,医学部,看護医療学部,理工学部,政策・メディア研究科,また人文・社会科学系の学部等々を擁する義塾は,たとえば,創薬をテーマに薬学,医学,SFC等の共同プロジェクトも開始していますが,今後健康,生命,社会の問題に,こうした分野が共同して研究をしていくことを,大いに期待しております。

 経営管理研究科,昨年の4月に発足した大学院システムデザイン・マネジメント研究科,大学院メディアデザイン研究科の三つの大学院は,日吉に新しくできました協生館に入っております。経営管理研究科は今年から新しいカリキュラムを進めることになっており,英語による授業も拡大することになっています。フランスのESSECとダブルディグリー制度も始まります。新しい二つの研究科につきましても,社会人や留学生がたくさんおり,メディアデザイン研究科は昨年の夏にシンガポール国立大学と共同で,シンガポールに研究センターを立ち上げたところです。

 通信教育課程は,昨年開設60周年,またラジオ放送授業開始50周年にあたりました。通信教育課程には約9,300人あまりの塾生が学んでおりまして,これから社会人向けの教育が大事になっていく中で,伝統ある義塾の通信教育は,特にe-ラーニング等の方法も導入して発展していく計画を立てております。

 昨年はまた,たいへん学識の高い,また世界の大きな課題に挑戦している8名の方々に,学部からの推薦によって名誉博士号を授与させていただきました。

 大学教育改革の支援プログラム,あるいは,グローバルCOEのプログラムといった競争的資金による教育・研究についても,義塾は多くの教職員,関係者の努力によって,たいへん順調に,むしろ日本をリードする形で進めています。グローバルCOEは現在7つが並行して走っております。共同利用・共同研究拠点による大学の枠を超えた研究活動や学部,研究科を超えた大規模な共同研究も活発に行われています。EUに関する研究プロジェクトも一橋大学と共同で始まっております。他にも多々ありますけれども,他大学との連携も含めて,今後義塾がリードしていく局面がたいへん多くなっていくものと思っております。

 国際連携については,昨年には環太平洋大学協会の学長会議,日仏学長会議,日韓ミレニアムフォーラム等々を三田で主宰いたしました。海外拠点は,ニューヨーク,ロンドン,北京,ソウル,上海,シンガポール,さらにケンブリッジ,スタンフォード,コロンビア大学等のスタジオを加えるとすでに12ヵ所を数えております。義塾のグローバル化に備えて,質の高い拠点を厳選して置いていくことが肝心で,海外の主要大学やUNESCOとの連携等も含めて,着実に手を打っているところです。優れた留学生を受け入れるために,英語をはじめとした外国語による教育プログラムも大切になってきており,以前からの商学研究科,理工学研究科,政策・メディア研究科に加えて,昨年からシステムデザイン・マネジメント研究科,メディアデザイン研究科でも英語によるプログラムが行われています。ダブルディグリー制度もすでに5つを数え,昨年からは特別短期留学生制度を創設しています。

 国内の地域連携につきましては,昨年,慶應大阪リバーサイドキャンパスを開設いたしました。福澤先生生誕地の碑があります堂島川沿い玉江橋の北詰から100メートルほどのところです。福澤研究センター等のご支援を得て,福澤先生のさまざまな業績や考え方等々を,関西の方々にあらためて知っていただくということも含め,活発な活動が始まっています。4月からはメディアデザイン研究科博士課程の開講を予定しています。

 また,明治の初め,大阪には大阪慶應義塾がありましたが,これまでその地を記念する碑がありませんでした。この度,塾員小寺良和君の暖かいご支援を得まして碑の建立が決まり,明日の朝,大阪慶應義塾跡記念碑の除幕式が行われることになっております。大阪は福澤先生の原点でありまして,本日174回目のお誕生日にあたり,大阪の拠点を義塾の一つの源として大切にしていきたいと考えています。生誕地の碑は大阪慶應倶楽部がボランティアで今まで管理してくださってこられましたが,これからは義塾も一緒になって,関西においても福澤精神の涵養に努めていきたいと考えております。大阪だけでなく他の地域についても,すでに多くの地域と連携を進めておりますが,新しく立ち上げた社会・地域連携室等の活動も含め,着実な進展を図っていく所存です。

 いろいろなことを申し上げてきましたが,義塾にとって大事なのは塾生であり,塾生の支援はとても大事なことです。昨年バリアフリー委員会が発足しましたが,障害をもつ塾生への支援を充実していくべきと考えています。また,若い人たちのメンタルケアが大事な時代になっており,メンタルケアの支援については数年前に強化したところですが,さらに充実が必要と考えております。

 そういう中で,昨年来,残念ながら大麻の所持,売買によって,何人かの塾生が逮捕される事件が起こりました。義塾にとってたいへん残念なことであります。これは犯罪行為であり,厳正な対応をきちんとしていくことは当然と思います。義塾は教育の場でもありますから,場合によっては更生への道を応援するということも当然であります。私自身もいくつかのキャンパスで塾生に直接話をいたしましたが,予防することも大切であり,正しい知識と行動規範をもつことが大事でありますから,薬物問題等対策委員会,また危機管理委員会を設置して,講習等々も含めて塾生に正しい知識をもってもらうよう,いろいろに活動をしているところです。

 グローバル時代になり,お金だけではなく麻薬も日本に流れ込んでくるようになる。そうすると無防備な学生が一番ターゲットになりやすい。もちろん「独立自尊」の学塾ですから本人の問題という側面もありますけれども,それでも今の時代には,大学,学校の問題として,義塾として真剣に対応していかなければなりません。ぜひ皆様のご協力もお願いできればと思っております。

 スポーツのことを多少申し上げます。まず,塾高の野球部が春・夏続けて甲子園に出場いたしまして,夏は88年ぶりに8強に進出しました。それだけでなく秋には,全国の高校の強豪が集まる明治神宮野球大会で優勝し,義塾創立150年,また塾高創立60周年に花を添えました。今度は春の選抜に出るだろうと思います。

 体育会はラクロス部を加えて40部になりました。「文武両道」を目指すこと,練習に本当に打ち込んで正々堂々と勝つべく努力をしてもらいたいことは私が体育会の集まりでは必ず申していることです。体育会各部のたいへんな努力によって,今それぞれの部が浮上しつつあります。昨年はバスケットボール部,航空部,また自動車部等々が全国優勝いたしました。個人についても,弓術部,水泳部,競走部,ボクシング部等々,たいへん頑張って,全国レベル,あるいは世界のレベルで活躍をしております。

 また150年記念の行事として,昨年ブラジル移民100年も重なってブラジル遠征をした野球部,日吉の記念式典の空を二度にわたって編隊飛行した航空部, 2回目になるチャレンジャーレベルの国際トーナメントを主催した庭球部,中津から三田まで1200キロを走破した自転車競技倶楽部,1500キロを歩き通したワンダーフォーゲル部,應援指導部の努力でもって10年ぶりに復活した慶應ラリー,あるいは秋の大運動会,春の桜スポーツフェスタも体育会各部が応援してくれました。その他多くの学生団体も記念行事に貢献しました。体育会,他の各部,たくさんの塾生の皆さんが創立150年記念事業の行事等に貢献してくれています。塾生の活動が盛んになっていくことは,とりもなおさず義塾自体が活性化されていくことであります。ぜひここでご報告申し上げておきたいと思います。福澤先生の歩いた道を自転車で走破するというアイデアは,自転車に打ち込んでいた,常任理事として,また教育者研究者として際だった業績を挙げながら3月に急逝された吉田和夫常任理事によるものであったことも,付け加えておきたいと思います。

 スポーツ関係の施設についても,体育会各部等のご尽力もあって,日吉スポーツ棟,室内プール,そして陸上競技場が完成しました。野球部,柔道部,ヨット部等の合宿所も完成しました。蝮谷には体育館ができる計画であり,高校の体育授業やハンドボール部,器械体操部等の活動場所になる予定です。

 学内のことをまとめて申し上げました。言い残したこともたくさんあります。学内の教職員,塾生諸君が,それぞれの立場でもってたいへんな努力をしてきた一年であり,塾員の皆様,義塾を応援してくださっている方々もまた多くの貢献をされ,義塾社中の絆が独立自尊150年の伝統を原点としてあらためて確認された一年であったと思います。

 一年前,私はこの場で,「世界が劇的に変動し,国内でも諸々の問題が噴出している時に,義塾が創立150年を迎えたことは偶然とは思えない」ということを申しました。そのことが現実になり,特に記念式典を迎えた直前のあたりから世界的な金融情勢の変化が加速して,今世界経済の劇的な変動,また雇用をはじめとする国内問題の大きな変化が,急速に起こってきています。しかし,さきほどの幼稚舎生の歌にありましたように,何が起ころうと慶應義塾は学問を続けていかなければいけません。これが最も大切なことであり,だからこそ,さきほどから私は,昨年来の学内での教育研究の大きな蓄積のことを申し上げてきたわけであります。

 他方で時代背景は相当に動いております。経済情勢の変化は大学にも波及しており,大学によっては投機的な運用で大きな実損を出しているところもあると聞いております。義塾の場合には,運用を確実にすることを心掛けており,持っている資産は優良なものであります。景気の停滞はある程度の年月続くかと思いますが,景気が戻れば現在保有している資産はむしろその価値が有効に働いていくと考えております。義塾としては,優良資産の保有を持続し,将来の景気回復を待つという方針を一貫することで,義塾の活動には影響がないものと考えております。もしご心配の向きがありましたら,ご安心いただければと思います。もちろん,世の中全般の資産の目減りは大学へも影響を及ぼしていますけれども,これは社会の活性化,経済の活性化にともなって,また動いていくものと考えています。

 歴史を振り返ってみますと,慶應義塾150年の歴史の半分,折り返しの75年の頃は,いったいどういう時代状況だったのでしょうか。創立75年の記念式典は,1932(昭和7 )年5月9日に三田で行われました。1930年にいわゆる昭和恐慌が起こり,1931年には満州事変,その次の年の1932年に慶應義塾は創立75年の記念の年を迎えたわけであります。その頃もたいへんな時代でした。昭和7年の前後から,時代はいわば暗雲が暗く立ち込めていく時代になっていくわけです。

 そのとき慶應義塾は何をしたのでしょうか。記念式典の後,1934(昭和9)年に日吉キャンパスが開かれました。林毅陸塾長のもとで,教育研究への志から退くことなく,日吉キャンパスにおける大学予科教育の抜本的な充実が計画され,実行されました。そこで学んだ方々が,独立自尊の精神をもって,戦中,戦後,また今までを通じ,先導者として近代民主主義社会の建設に貢献してこられ,その努力が150年の歴史を通じた国内外の社会への貢献に結実します。私たちは,昭和恐慌以降の時代に義塾の先輩が敢然と取った教育研究への前向きの姿勢を忘れてはなりません。世の中の風がどう吹こうとあわてず騒がず,次の時代を担う未来への先導者を輩出していくべきことは,今の時代にまったく同じだと思います。

 創立150年の半分にあたる創立75年の式典が行われたのは三田であったと申し上げました。したがって,今皆様のおられるこの三田キャンパスは,それからまた75年の齢を重ねたことになります。戦争による被害のこと,あるいはその前の三田を覚えておられる大先輩の方も多いことと思います。また,戦争直後の創立90年記念式典も三田で行われました。その三田キャンパスについては,今から2年後の2011年春に南校舎が建て替わる予定です。建て替え時の代替と将来の研究スペースとして,今年3月には南別館が竣工します。南校舎は創立100年のときに建った建物で,すでに50年を経過しております。耐震という意味でも建て替えていくべき時期にきているわけであります。それから,今皆様がおられる西校舎も創立100年のときに建った建物です。これについても老朽化が進んでおり,建て替えをしていかなければなりません。そうなると,新研究棟をどうするかも課題になってきます。

 三田キャンパスのことを考える一方で,先ほどから申し上げておりますとおり,創立150年を期して義塾は,独立自尊150年の原点を共有できたものと思います。世界の誰に言わせても,世界のどこから見ても,世界に誇ることのできる,そういう原点が確立していてこそ,国籍や文化,生活等多様な背景を持つ人々に開かれ,地球規模の視野で思索と実践のできるオープンでグローバルな学塾として義塾が発展していくことができます。その原点は,今キャンパスのことを申し上げてきた三田にあります。三田には重要文化財である旧図書館があります。南校舎,西校舎,新研究棟の今後のことを考えますと,旧図書館をどうしていけばいいのかは,どうしても突き当たるところです。また,義塾に,世界に誇る福澤精神の原点を,誰の目にもわかるようにすることのできるミュージアムが必要なのではないかという意見があります。これから時間はかかると思いますが,旧図書館やミュージアムをどうしていけばいいのかといったことも,考えていかなければいけない時期になったように思います。

 他のキャンパスについて申し上げましょう。日吉キャンパスは,昨年協生館が陸上競技場側に建ち,講堂を兼ねたホール,陸上競技場,プール等も整備されました。銀杏並木の反対側の第四校舎の綱島街道沿いには,第四校舎独立館と呼ぶ新しい教育棟が建ちつつあります。今年の3月に竣工いたしまして,今度の1年生から使えるようになります。中には留学生も含めた国際交流スペースやメンタルケア等のための学生相談のスペースも設けられる予定です。また,日吉の記念館につきましては今年解体を始めまして,2011年の初め頃までには授業や部活動や式典等のできる1万人規模の新しい建物が完成することになります。日吉のキャンパスは,創立150年を期して,塾生の多様な研鑽の場になっていくと思っています。

 信濃町キャンパスは,昨年臨床研究棟が完成し,クリニカルリサーチセンターが発足,また病院に正式に経営企画室を設置しました。それに続き,2011年の春から稼働予定の予防医療センター(仮称)と二つ目の臨床研究棟を今年着工いたします。それとともに新しい病院棟を建設していかなければなりません。その計画はすでに具体化されつつあり,記念事業の最後の年である2015年度までには新しい病院棟ができているようにしたいと考えています。ただし,医学部・病院自体の改革なくして,施設の建設はありえません。世界に冠たる医学部・病院というのは中身の問題でありまして,内容や組織が改革されていくということ,新しい病院棟の建設,そして資金の調達は,三位一体です。信濃町の現場の方々を中心にしてたいへんな努力が払われており,基本的な方向は定まりつつあります。これについては医学部の同窓会であります三四会のご支援もたいへん大きいことも,申し上げておきたいと思います。医学部は, 8年後の2017年に迎える創立100年までに世界に冠たる医学部・病院を確立することを目指している,と申し上げておいてもよろしいのではないかと思います。

 矢上キャンパスについては,2014年の理工学部創立75周年を目指してテクノロジーセンター(仮称)の計画と校舎の建て替えの計画を進めています。これもやはり中身が大事であり,理工系の教育・研究の改革について,理工学部が活発な議論を進めています。

 湘南藤沢キャンパスは,2011年を目標に,教員も住み込む学生寮を持つレジデンシャル教育を中心とした未来創造塾の創設を計画しています。SFCは来年創立20周年を迎えますが,義塾に今までなかった,日本人と留学生が一緒に住みながら教員と切磋琢磨できる国際教育の場が生まれることを期待しています。

 芝共立キャンパスも,共立薬科大学以来約80年の歴史を経て,内容も含め,今後さらに発展をとげていくものと期待しています。

 一貫教育校については,昨年塾高と志木高が創立60周年を迎えました。より良い学習環境の整備と安全性の確保に向けて,特に中等部,女子高,湘南藤沢中・高について,教室,体育館等々を新たに充実していく計画があります。また,記念事業の一環として,横浜に新しい小中一貫校を2011年4月に開設する計画が進んでおります。

 創立150年記念の年には,とりわけさまざまな行事が行われ,皆様も参加されたことと思います。初めに式典のことを申し上げましたが,昨年は特に多くのことがあって,社中一致協力を確認する機会にもなったかと思います。4月にはディズニー・シーで社中が一堂に会するイベントを開催,2万人を超える塾員,塾生が集まりました。5月の「生誕120年記念 小泉信三展」には天皇皇后両陛下がご来臨くださいました。10月には新しい陸上競技場に4,000人が集まり大運動会が開かれました。11月には『慶應義塾史事典』『写真集 慶應義塾150年』が刊行され,慶應義塾創立150年記念切手も発売になりました。全国で14回開催した記念講演会「学問のすゝめ21」の延べ来場者数は約1万5,000人にのぼりました。式典前日には記念の薪能や国際シンポジウムが開催され,式典翌日の慶應連合三田会大会は,これは連合三田会によるものですが,2万2,500人もの参加者が集まり盛大に行われました。10月には「福澤先生墓前祭」を善福寺で行いました。12月には三田で「役員・教職員物故者慰霊祭」を行ったところです。

 1858年の義塾創立の年は,5ヵ国との修好通商条約締結の年でもありますから,英国大使館,フランス大使館,オランダ大使館等々と協力して,さまざまな行事も行われました。たとえば,当時のフライ大使はじめ英国大使館のご尽力で4人のノーベル賞学者の講演会が共催で開催されました。特に,今日(1月10日)から3月8日まで,東京上野の東京国立博物館におきまして「未来をひらく福澤諭吉展─異端と先導─」が開催されております。ぜひお立ち寄りいただければと思います。順次,福岡,大阪と巡回されることになっています。4月には,「福澤諭吉記念文明塾」と呼ぶ教育・研究プログラムが三田で本格開講されます。自我作古,半学半教の精神を大事にして,塾生,社会人一緒に総合的に学問を学ぶ場にしていきたいということで,150年記念事業の一環として始まるものです。また,5月には「環境・安全・健康への取り組み2008」を刊行しました。6月には,塾員2人目の宇宙飛行士である星出彰彦君が,福澤先生の「独立自尊」の書をもって宇宙に飛びました。「独立自尊」が宇宙空間に行ったこともご報告申し上げておきたいと思います。

 創立150年記念事業は2005年10月から10年の計画で開始され,現在3年余りを経たところですが,時代の荒波にもかかわらず,社中各位,教職員,塾生各位のご尽力によって,計画は順調に進捗しております。募金につきましては,福澤武委員長,また小林陽太郎,田中順一郎両副委員長等をはじめとする募金委員会の皆様のリードのもとに,たいへん多くの方々のご貢献ご支援をもちまして,すでに目標額を超えるお申し込みをいただいております。今後とも,たとえば未来先導基金の充実等を図り,塾生の活動支援等に意を尽くしていきたいと考えております。これからも2010年の9月まで募金活動は継続されます。この場をお借りして,皆様のご支援に深く感謝を申し上げたいと存じます。

 最後に,今申し上げたことも含めまして,慶應義塾がこれからどうしていくべきなのか,これからどういう大学,学校として歩んでいくべきなのかについて,申し上げておきたいと思います。創立150年を期して,義塾はどんな方向に向かうべきなのでしょうか。独立自尊150年の伝統をこれからも貫くことは申すまでもありません。そのうえで,一つは,これからの時代には,生活の背景が違う,文化や伝統の背景も違う,国籍も違う,場合によっては年齢も違う,そういう多様な人たちが一緒になって学び,独立自尊の精神を養うことのできる学塾を目指していきたい。義塾で学ぶ意欲と力がある誰もが,義塾の原点のもとに切磋琢磨することのできる,オープンな学校にしていかなければならないと思います。

 生活環境の違いという意味では,すでに1,600人規模の家賃補助を昨年から始めており,また今年から800人規模で経済困窮学生のための奨学金を新設することになっています。留学生についても,国際奨学金等いろいろな形で支援をしていきます。留学生対応も含めた寮の充実も急速に進めており,今後さらに強化していく予定です。また,国籍やことばが異なっても日本の塾生と同様に学習支援や生活支援が受けられるようにすることを目指して,学事センター,学生総合センター,国際センター関係の事務部門をまとめ, 4月から塾生の学習,生活支援,留学生支援にかかわる事務部門が統一されていくことになるかと思います。国内外に開かれた学塾として,意欲と力のある人たち誰に対しても義塾の精神が伝わり,切磋琢磨できる場を目指すべきだと考えております。

 もう一つは,グローバルということであります。地球的な視野をもって思索をし実践することができる,そういう意味でのグローバルな学塾にしていかなければならない。そのためには,質の高い留学生にもっとたくさん来てもらいたいと思いますし,塾生にも国際体験の機会をもっとたくさん持ってもらいたいと考えています。

 今申し上げたようなオープンでグローバルな学塾にしていくためには,式典で共有されたように世界に誇ることのできる独立自尊150年の伝統を原点として,世界の水準で教育・研究・医療等々の質の向上を図っていかなければなりません。そのためには研究者の育成もきわめて大切であり,若手研究者の育成,ポスドク・院生の支援を強化することになっています。財政基盤の安定を前提として,世界に誇れる独立自尊の原点のもとにオープンでグローバルな学塾を目指すことが,義塾のこれからの道であります。

 多くのことを申し上げてまいりました。毎年のことでありますけれども,今日後ほど,ここで小泉信三賞全国高校生小論文コンテストの表彰が行なわれます。小泉信三賞は横関崇志君,次席は田上寧奈君,佳作が河野恵巳君,関口佐紀君,田中愛莉君であります。彼らの文章は『三田評論』1月号に掲載されています。ぜひお読みいただきたい。若い人の文章力がなくなっているのではないかと思うことがあるのですけれども,彼らの文章を読みますと,そんなことはないということがよくわかります。若い人のことばの力を知るためにも,ぜひ読んでいただきたい。また,ことばの力をもった人たちがもっと増えていくように,私たちもさらに考えていかなければいけないように思います。

 慶應義塾は,今世界同時に起こっている不況の嵐のなかでこそ,「未来への先導者」として,理念と信念と勇気をもって歩んでいかなければなりません。「一身独立して一国独立す」,そう言われた福澤先生の志を,これからの時代にこそ実現していきたい。そして,福澤先生の原点をこれからも貫き,世界の水準で教育・研究・医療等の質の向上に努力を続けて,オープンでグローバルな学塾を目指していかなければいけない。それがこれからの義塾の取るべき道だと考えております。これからの難しい時代にこそ,150年にわたって揺らぐことのなかった独立自尊の精神が,私たちに元気と勇気を与えてくれると信じております。

 今日ご列席の皆様,義塾社中の皆様,また義塾を応援してくださっている多くの皆様,すべての方々のご多幸,ご健康,ご活躍を心から祈念申し上げまして,年頭のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。

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