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2006年04月03日 平成18年度大学入学式式辞
慶應義塾長 安西 祐一郎
本日,ここに入学式を迎えた新入生の諸君,入学おめでとう。諸君の門出を心からお祝いいたします。慶應義塾は,まもなく創立150年を迎える,近代総合学塾として日本で最も古い歴史と実績を誇る学塾であります。諸君は,その慶應義塾に入学します。
これから勉学に努め,先生方の薫陶を受け,新しい友人をつくり,さまざまな活動に励む日々を送ることになります。失敗や挫折もあるかもしれません。悩むこともずいぶんあるかもしれません。しかし,諸君が志と勇気を持って事に当たっていくかぎり,慶應義塾は必ず諸君を応援していきます。
ご家族,保護者の皆様にも,心からお慶びを申し上げます。皆様もまた,今日から慶應義塾とともにあります。義塾は,皆様が本当に慶應義塾を思ってくださるかぎり,また学生のことを思ってくださるかぎり,その期待に応えることのできる学塾であります。
新入生諸君の後方には,卒業50年を迎えられた大先輩の方々が列席くださっておられます。また,壇上におられる方々,多くの評議員,教職員,関係者の皆様がご参列くださっています。本日,ご列席のすべての皆様とともに,そしてすべての塾員,塾生とともに,諸君を義塾のキャンパスに迎えたことを心から慶びたいと思います。
せっかくの機会ですから,ここでは諸君に,慶應義塾の塾生として心に留めておいてほしい三つのことをお話ししておきます。
第一は,「想像力を磨いてほしい」ということです。
これからの日本に影響を与える要因は多々あります。たとえば,国内においては人口の減少,国際社会においてはグローバル化。こうした新しい時代は,日本がこれまで経験したことのない時代であります。
では,誰一人経験したことのない時代を将来にわたって導いていく者は誰か。それは,この慶應義塾に入学した諸君にほかなりません。諸君には,義塾のキャンパスにおいて,そのための心の準備をしてもらいたい。それには,自分の経験していないことを心に描く,想像する,その想像力を日頃から磨くことが大事であります。
慶應義塾は福澤諭吉先生によって幕末に創設された学塾でありますが,幕末から明治の時代と平成の現在とでは似ている面が多々あると言われます。しかし,私たちは幕末に生きているわけではない。だから,幕末から明治にかけての頃というのは想像するよりほかにありません。また,現在といっても,世界中で起こっている多くのできごとなど,身の回り以外のことは想像するよりほかにありません。
福澤先生の時代と現代と,どこが似ていてどこが違うのか。この問いに答えようとすることは,入学した諸君それぞれの宿題にしておきますけれども,いずれにしても諸君それぞれに,時間と空間を超えた想像力を養ってもらいたい。
それにはまず,多くの書物を読むことであります。また,多くの人々と積極的に出会うことであります。そして多くの体験を積むことであります。スポーツでも,芸術でも,あるいは旅行でも,地域社会の活動でも,多くの活動が諸君を待っています。書物や人々や体験からの感動が,「想像力を磨く」最も大きなエネルギーになります。
義塾のキャンパスには,150年にわたる先人の努力によって築かれた歴史と実績が満ちています。諸君がこれから学び,生活をする慶應義塾は,諸君が思う存分に「想像力を磨く」ことのできる素晴らしい場であります。
「想像力を磨く」ということを申しましたが,第二は「実行力を磨いてほしい」ということです。
想像する力は大切ですけれども,それとともに,実際に行なう力,「実行力を磨く」ことがきわめて重要です。
大学に入ると,今日ここに集まっているように,たくさんの知らない人たちに急に出会うことになる。今までとは違って,自主的な行動をとらなければならないことがたくさん出てきます。そういう中で,もしかしたら挫折を感じることもあるかもしれない。ほかの学生と比べて自分が劣っているのではないか,あるいは逆に,ほかの学生がつまらなく見える,そういったことがあるかもしれません。
しかし,心配は無用です。慶應義塾の大きな特徴は,妙なこだわりを持たない,こだわりのない自由闊達な精神に満ちているということであります。自分へのこだわり,他人へのこだわりを持たない,そういう学生の多い環境は,義塾の長い伝統によるものです。
諸君は,その義塾のキャンパスで学ぶことになります。諸君はきっと,他人に自分からはたらきかける実行力を磨いていくことができる。これからどんな勉強をするにしても,自分に閉じ籠らず,身体を動かし,言葉に出して,他人にはたらきかけてみる,他人に協力してみる,その実行力を磨いていくことがとても大事であります。
諸君には,入学を祝って,創立者であります福澤諭吉先生の『福翁自伝』が贈られております。その『福翁自伝』をぜひ早く読んでもらいたい。すでに読んだ人も,もう一度ぜひ読み返してもらいたい。諸君はそこに,「想像力を磨く」こと,そして今申しました「実行力を磨く」ことの意味と意義を,十分に見いだすことができるはずです。
第三は,「慶應義塾の精神を磨いてほしい」ということです。
慶應義塾は,日本だけでなく,国際的にもきわめて特別な位置を占める学塾であります。慶應義塾が創立された1858年(安政5年)は,明治維新の10年前,幕府の大老井伊直弼による安政の大獄が始まったちょうどその年です。暗殺と処刑が相次いだ,そういう時期に,慶應義塾は日本で最も早く近代総合学塾としての出発をしたのです。
この1858年(安政5年)の創立から数えると,2年後の2008年に,義塾は創立150年を迎えます。150年という歴史を刻む近代の学塾は,日本だけでなく,アジア全域を見渡してもほとんどない。慶應義塾は,日本とアジアの近代化を先導してきたトップリーダーであると申しても過言ではありません。
しかも,官立の大学と一線を画し,民の立場で勇気を持って社会を先導してきた学塾として,関係者は義塾に大きな誇りと深い愛情を持ち続けています。
その義塾を貫く精神,これを一言でいえば「独立自尊」の精神であります。「独立自尊」の精神とは何か。それは,自分を卑しめない,また,人を卑しめることがない,人としての品位を辱めない,人を妬まないこと,人に威張らないこと,そういうすがすがしさに満ちた精神であります。また,独立して生きていく心と,広く心を開いて人に協力していく心,そうした心を堅持した,常識に満ちた精神であります。
義塾の先人は,「独立自尊」の精神を自らの血肉として,さまざまな場で活躍をし,民主導の社会を日本につくる努力を続けてきました。
とりわけ今日,一階後方にご列席くださっている卒業50年の皆様は,慶應義塾で研鑽を積まれ,義塾の精神を長年にわたって実践されてこられた方々であります。新入生諸君より50年余りも前に義塾に入学をし,卒業された昭和31年(1956年)というのは,義塾がまだ戦争の被害から立ち上がろうとしていた,ちょうどその頃であります。卒業の後,戦後の復興と経済成長の時代,またその後の時代に,社会の先導者として活躍をしてこられた卒業50年の皆様に,この場をお借りしてあらためて長い間のご尽力と慶應義塾へのご厚情に深く感謝申し上げたいと思います。
こうした先人の努力のもとに,平成の時代に入り,今になって日本は,「独立自尊」の精神を基盤として,民主導で公をつくることのできる,そういう国になろうとしています。福澤先生が150年前に描いた夢が,今になって現実のものになろうとしています。諸君は,ほかならぬその慶應義塾に学ぶのであります。
これからの時代に義塾が担う大きな役割を考えれば,諸君にはぜひとも,さきほど三番目に申しました「慶應義塾の精神」を自らのものとして磨いていってもらいたい。義塾の大学生として,「気品の泉源智徳の模範」となり,さすがに塾生であると言われるような立ち居振る舞いを励行してほしい。学問に励み,多くの体験を積み,多くの人々に出会って,人を妬まない,人に威張らない,そういう人になってもらいたい。言い換えれば,「慶應義塾の精神」を自ら磨いて,自家薬籠中のものとしていってほしい。そういう気持ちでいっぱいであります。
「想像力を磨く」,「実行力を磨く」,そして三番目に「慶應義塾の精神を磨く」,この三つのことを申しました。今の日本において,これからの国のあり方と,それを担う教育のあり方が問われています。こうした時代に,今申しました「想像力を磨く」こと,「実行力を磨く」こと,そして「慶應義塾の精神を磨く」こと,この三つは,諸君だけではなく,実は慶應義塾を超えて多くの人々が共有して然るべきことであります。それを諸君に先導してもらいたい。
折から創立150年を迎えるに当たって,「未来への先導」という基本テーマ,「独立と協生」という基本コンセプトのもとに,創立150年の記念事業が始まっています。この事業は10年にわたる大きな計画でありますけれども,今日入学式を迎えている新入生の諸君は,創立150年目の2008年に,現役の塾生として記念の年を迎えることになります。それもありまして,今年入学をした諸君には,特に「想像力を磨く」,「実行力を磨く」,「慶應義塾の精神を磨く」という三つのことを要請しておきたい。諸君がこれらのことに努め,成長して,「未来への先導者」たるべく準備をしていく。そのことを心から期待しております。慶應義塾は諸君一人ひとりを応援し続けていきます。
本日ご列席くださっている皆様,義塾で学んでいる先輩の塾生たち,あるいは世界各地で活躍している30万人の塾員の皆様,また教職員の方々,慶應義塾を応援してくださっている多くの方々が,国内だけでなく世界各地から期待を込めて諸君を見つめています。私は,義塾社中すべての方々とともに,今日諸君を慶應義塾の塾生として得たことを心から誇りに思っております。
あらためて諸君の新しい出発をお祝いし,諸君のこれからの健闘を祈って,式辞といたします。入学おめでとう。
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