メインカラムの始まり
2007年01月10日 創立150年記念事業と「未来への先導」-社中一致で慶應義塾の使命を果たそう
慶應義塾長 安西 祐一郎
明けましておめでとうございます。平成19(2007)年になりました。この青空の下で初春を皆様とお祝いできますことを、心から嬉しく存じます。また、福澤諭吉先生172回目のお誕生日になりますが、こうして新春に福澤先生のお誕生日をお祝いできることは、慶應義塾にとりましてもたいへん大きな喜びと存じます。皆様とともにお祝いをいたしたいと思います。福澤ご宗家福澤範一郎様ご夫妻にもいらしていただいております。46年間一度もお休みなくいらしていただいており、素晴らしいことだと思います。心からお喜びを申し上げます。
皆様には、昨年来慶應義塾に対しまして、いろいろなご貢献をいただいてまいりました。改めてそのことに深く感謝を申し上げたいと存じます。とりわけ昨年は評議員選挙の年にあたっておりまして、昨年まで評議員を務めていただき、慶應義塾にご貢献くださってこられた方々に、とくに御礼を申し上げたいと思います。福澤武評議員会議長は、今期また議長をお務めいただくことになりました。本日は福澤議長にお話をいただくということになっております。楽しみにしている次第でございます。
年の初めにあたりまして、三つのことを申し上げておきたいと思います。一つは、慶應義塾を取り巻く国内、また国際社会の情勢です。二つ目は、学内、慶應義塾の現状とこれからの課題です。三つ目は、今年創立149年を慶應義塾は迎えるわけでありますけれども、創立150年記念事業のことについて、いくつかのことを申し上げておきたいと存じます。
まず、慶應義塾を取り巻く情勢ですが、国内においては、とくに今年は慶應義塾、また私学にとってたいへん大きな転換の年になっていきます。その理由は、第一に、昨年の暮れに「教育基本法」が改正されたことです。60年ぶりに改正された新しい教育基本法に私立学校の項目が明記されまして、私学振興が国の基本的な法律にうたわれることになりました。もう一つは、一方で2007年度、今度の4月からの政府の予算におきまして、私立学校振興助成法に基づく私学助成、国からの私学への補助金が前年度比で約1%削減されるということが実質決まっております。私立の振興をうたい、一方で私学への国の補助が削減されていく、そういう時代になりました。
たいへん矛盾するようでありますけれども、これはやはり、幕末から明治にかけて福澤先生が志をもって塾を創られた時代の、いわば混乱した矛盾する時期に相通ずるところがあると思いますし、そういう中でもってこの慶應義塾が「未来への先導者」として歩んでいくべき、そういう時期になったのだということが実感される時期、そういう年だと思います。
このこと、つまり慶應義塾が日本、また世界の「未来への先導者」として歩んでいくべき時期がきたということは、これまでいろいろなところで何度も申し上げてきたのでありますけれども、今年が国内においてはとうとうその年になったかということを感じさせる状況があるということを、皆様にお伝えしておければと思います。
国際社会においては、特にこの1 、2 年の間に大学間の競争が急速に激化してきています。このことは、教育、研究、医療の現場において、日々苦労されておられる方々になかなか実感されにくいことですし、さらに、大学、学校関係者以外の方々にはなかなかわかりにくいことでありますけれども、国際競争がきわめて激化しつつある。
そういう中で、大学の学長が国際的な場で対話を直接するということが必須の条件になってきております。1月の末には「世界経済フォーラム」、スイスでのいわゆるダボス会議が行われますが、そこで私も含めて世界の主要大学20余りの学長が、国際貢献に関する議論をすることになっています。国際社会が大学、学校にとって大きく変わりつつある、そういう状況がございます。国内でトップクラスであると認識されている慶應義塾が、国際的にもトップクラスの学塾として発展していかなければならない、いまはその黎明期に当たるわけで、ちょうどそのときに創立150年に向けての記念事業が出発をしているということは、一つの必然だというふうに思っております。
第二のこと、「慶應義塾の現状と課題」について申し上げます。義塾の教育、研究、医療、あるいは社会貢献の現場はたいへんな努力を続けておりまして、学外の方にはそのことを特に申し上げておければと思いますけれども、各学部、大学院研究科、あるいは研究所、研究センター、そして一貫教育校等の努力はたいへんなものであります。私学の財政基盤がきわめて薄いなかで、日頃から教学の発展に努力をされておられる方々に、あらためて深く感謝を申し上げたい。それによって慶應義塾は成り立っているのだということを、この新年に当たって我々はあらためて認識すべきだというふうに思います。
学内におきましては、昨年は文学研究科・図書館情報学の博士課程におきまして、昼夜開講が始まりました。あるいは、経済学部においては、英語で授業をするプログラムであるプロフェッショナル・キャリア・プログラムが始まっておりますし、また、政策・メディア研究科の修士課程でも、英語による国際コースの授業が始まっています。今年は健康マネジメント研究科の博士課程が4 月に開設され、商学研究科の会計職と研究職のコースも2007年度から開始されます。文学研究科の修士課程には、国文学専攻に日本語教育学の課程が置かれることになる。これは留学生等にとって非常に大きなメリットになると思っております。
また、法学部、法務研究科を中心としてご尽力をいただいております法曹の養成でありますが、新しい司法試験の第1 回が昨年行われました。義塾は合格者数において第3 位ということであり、たいへん立派な成績を収めている。また一方で、商学部を中心として、長年努力をされておられる公認会計士の試験、この結果も大学別の合格者数では32年にわたってトップを続けています。
研究におきましても外部との共同研究において、医学部、理工学部、あるいは湘南藤沢キャンパス等、学内でも共同のプロジェクトを立てて、さまざまなトップクラスのプロジェクトが動いています。基礎研究、また社会に貢献する研究の大切さは申し上げるまでもありませんけれども、慶應義塾は私学として本当に立派にやってるというふうに申し上げてよろしいかと思います。
湘南藤沢キャンパスではイノベーションビレッジが開業されました。あるいは、鶴岡の先端生命科学研究所は第2期6年目に入りましたし、また、稀覯書のデジタル化に関するHUMIプロジェクトというプロジェクトがございますが、これも創立10年を迎えております。
スポーツにおいても、体育会関係では、端艇部、庭球部、競走部、器械体操部ほか諸々の部が、たいへんに活躍をしている。慶應義塾のスポーツは、今年は小泉信三先生が亡くなられて41年目になるわけでありますけれども、「練習ハ不可能ヲ可能ニス」といわれたその精神をもって、体育会を始めとするスポーツ関係の塾生諸君が、たいへんに活躍をしてくれているというふうに思います。
そういう中で、学内におきましては、「総合改革プラン2002~2006」が今年の3 月で期間が終了いたします。創立150年を迎える前に慶應義塾の基礎を固めたいという目的をもって2002年の7 月にこのプランを発表したのですが、約40の改革項目を含んでおりました。40の項目がいったい5年間でできるのかと、そういう意見もあったのでありますけれども、蓋を開けてみれば多くの方々のまことに大きなご尽力によりまして、記載した改革項目のほとんどが実施に移されています。
たとえば、日吉にあります教養研究センターと外国語教育研究センター、また総合研究推進機構、研究推進センター、インキュベーションセンター、そして国際連携推進機構、いわゆるロースクール、法務研究科が創られました。デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構も創られ、こういったことは2002年7 月の総合改革プランの中にみんな書いてある、それらのことが5年の間に出発をしているということであります。
経営改革も「総合改革プラン」の中に入っているのでありますが、とくに病院経営改革につきましては、医学部、病院合わせて、とにかく単年度の収支をマイナス15億円以下にする、そういう目標を立てまして、この2年それが達成されてきている。これも現場の努力がたいへん大きいと思っています。
人事給与制度改革につきましても、それぞれの学部等でもって自由裁量のできる予算を立てまして、これも自主的な活性化にとって非常に大事なことでありますけれども、だんだんとノウハウが貯まってきている。人事給与制度につきましては、働く者が報われるような新しい制度をつくっていきたいということで、いま検討をしております。これは大学間、学校間競争のなかでどうしてもやっていかなければいけないことでございます。
さらに、財政経営システムの改革という項目もあります。これについては、外部資金の流れを管理するシステムができております。いろいろな資産管理や資金管理のシステムをつくっていかなければいけないのでありますけれども、それは端緒がついているというふうに申し上げてよろしいかと思います。
いま申し上げたように、これら学内のことはいろいろな方々の努力によって、この数年の間にたいへん大きな成果が出てきているわけでありますけれども、ほかの大学、学校も本当に大きな努力をしている。そういうなかでもって慶應義塾が未来への先導者としてこれからの道を歩んでいくためには、教学の基盤、また経営の基盤の強化は必須でございますから、総合改革については、やはりさらに充実していかなければならない部分があります。これは創立150年のこととは別個に、長期的な慶應義塾の基盤をきちんとつくっていくためには、続けていかなければならないことでございます。新年に当たってぜひそのこともご理解をたまわりたいと思います。
第一に国内外の情勢のこと、第二に学内のさまざまな状況と課題について申し上げてまいりました。三番目のこととして、創立150年記念事業の状況とこれからのことについて申し上げておきたいと思います。
創立150年、1858年に福澤先生が塾を創られてから、来年でもって150年がやってくる。日本の近代総合学塾として前人未到の歴史を刻む、そういうときがくるわけであります。そのときというのが、先程から申し上げておりますように、日本においても、世界においても、さまざまなことが大きく変わろうとしている、戦後60年を経て大きな曲がり角にきている、そういう時期に当たるわけです。創立150年記念事業の基本テーマが「未来への先導」という言葉になったのは、これは何となくつけたわけではない。未来への先導者として慶應義塾が歩めるかどうかということが、むしろ日本の進路を決める非常に大きな分岐点になっているということ、そのことを示しているわけであります。
一つには、日本とアジアの近代150年を先導してきた、そういう慶應義塾の実績をもとにして、教育、研究、医療、社会貢献、あるいは国際連携、そして経営、すべてにわたって国際社会に影響力と発言力をもつ、そういうトップリーダーになっていかなければならない。二つ目として、150年にわたる人材育成や高いレベルの学問の蓄積をもとにして、世界のどこにいても、自分でもって行動でき、自分でもって考えることのできる独立の精神、それから、世界のどこにいても、利害関係の反する人とでも協力しあっていけるような、協力関係を創っていける協力の精神。「独立と協生」の二つの精神を兼ね備えた、そういう人間を慶應義塾は何としても育んでいかなければなりません。それがこれからの時代のリーダーということになっていくと思います。
いま申し上げたことを一番の根底に置きまして、創立150年記念事業の推進が始まっているわけでありますけれども、時間の順序で基本的なことだけ申し上げておきたいと思います。
最初の事業として、昨年の2月に「未来先導基金」と呼ぶ基金を創設しました。目標額は30億円です。学生、生徒、児童を国際的環境のなかで育成できるように、また、さまざまな体験を通じてグローバルな視野を養うことができるように、そのための基金であります。
また、昨年の4 月には、日吉の下田グラウンドのところに下田学生寮が完成をいたしました。留学生約150室、体育会の学生用に98室約200人の寮が造られまして運営されております。
さらに昨年からは、国際連携の強化として、留学生の支援、あるいは塾生の海外派遣を中心にして、学生交流の強化を図っております。昨年3月にソウル、また7 月にはロンドンに拠点を開設いたしました。今年は北京に拠点を開設する予定であります。北京の清華大学、ソウルの延世大学、あるいはイギリスのケンブリッジ大学、またニューヨークの国連ビルの前にありますジャパンソサイエティ等に、グローバルスタジオと呼びますけれども、デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構のもとで、やはり拠点を置きまして、講演、あるいはさまざまなコミュニケーションがとれるようにしています。すでに昨年から始まっております。約185の大学と、約230の協定を締結しておりますが、2008年には留学生を千人、また海外派遣の学生、塾生を千人は確保したい。また、海外とは質の高い教育機関と、約200の教育機関とさまざまな交流をもっていく、そういう視野を持っております。
いま申し上げたいろいろなことは、すべて塾生のためのことであります。おそらく福澤先生が今の世に生きておられたら、まず第一に考えられることは、これからの世を担っていく塾生のために事業をやっていくというふうに考えられるに違いない。そのことをこの大きな記念事業の最初にやることができたということは、私としてはやはり非常に嬉しい、素晴らしいことだと思っております。
そして今年の11月には、信濃町キャンパスに、基礎と臨床をつなぐ、トランスレーショナルリサーチ、あるいは、臨床をベースにしたクリニカルリサーチ、そのための共用施設棟が完成することになっています。
また、来年2008年の4月には、大学院のメディアデザイン研究科(仮称)、システムデザイン・マネジメント研究科(仮称)が開設される。これは新しい分野を開く大学院です。
日吉キャンパスの陸上競技場側には、複合棟がいま工事中です。今年は建物の工事に入ります。この複合棟については、日吉キャンパスにおいて、塾生の学習環境、体験の環境を何とかして多様化していきたい。教室での学習はもちろん非常に大事ですけれども、これからの時代のリーダーシップを担っていく塾生にとって、多様な教育環境はきわめて大切である。「独立」と「協生」の力をもった若者を育んでいく、そのためには伝統的な教育環境を超える新しい大学キャンパスを創っていかなければなりません。伝統的なキャンパスを想定される方には、これもまたなかなか理解されにくいのでありますけれども、慶應義塾は未来への先導者として、少なくともキャンパスの一部に、日本のキャンパスは将来こうなっていくであろうと、そういう姿をつくり出していかなければならない、それが複合棟の目標であります。そのことをぜひこれからも理解していっていただきたいと思っております。2008年9月には、この複合棟が完成をする。多様な連携を生み出すさまざまな内容をもったその建物ができ、陸上競技場も一新されるはずです。日吉キャンパスは70年余りの伝統をもっている、その一部が新たに生まれ変わっていく、それが150年記念事業の一つの方向でございます。
2008年の11月8日には、新装なった日吉キャンパスにおいて、記念式典を開催いたします。ぜひ手帳に書き入れておいていただければと思います。1858年に福澤諭吉先生が夢と志を抱いて蘭学塾を開かれてから150年、来年の11月8日に慶應義塾社中を挙げてお祝いをしたい。日吉キャンパス全体を使ってお祝いをしたい。式典の検討はすでに始まっております。
日吉キャンパスにつきましては、とくに1 、 2 年生が学ぶ場として、新しい教養教育、学生のための多様な教養教育の場、いろいろなコミュニケーションがとれるような、そういう場をつくっていかなければなりません。そのために、銀杏並木の陸上競技場と反対側の第四校舎あたり、綱島街道沿いのところでありますけれども、そこに新しい教育棟をつくる計画がございまして、今年はその第一期分が着工される、そういう予定でございます。
すべては塾生、教育、また、時代を画す研究、そして医療、社会貢献のために、未来を先導する新しいお酒を造っていかなければならない、そのための新しい皮袋も造っていかなければなりません、それが記念事業であります。
2009年4 月には、いまの経営管理研究科、ビジネススクールを改組して、経営大学院を開設する予定でございます。これからの社会で改めて大切になるビジネスの世界のリーダーを育んでいきたいと考えております。同じ2009年の4月には、言語、文化、学術的なデジタルアーカイブ等々の教育、研究を行う国際教養系の大学院を日吉に設置したい、そういうことで計画を進めておりまして、日吉キャンパスは1 年生、2 年生が学ぶ場所として、昭和のはじめから大学予科、そして教養課程、また一般教育課程等々が置かれてきているわけでありますが、それはそれで非常に大事である、これからもその伝統を守っていきたいと思っておりますが、これからの塾生のリーダーシップ教育のためには、多様な教育の場が必要である。大学院を日吉に置くことによって、日吉に入ってきた1 年生、 2 年生が大学院生とも交わることができる、そういう場を一部つくっていきたいと考えております。
2009年には、信濃町に予防医療センターが竣工の予定です。すでに設計に入っているわけでありますが、がんとか心臓病、脳卒中、あるいは認知症等々、そういったものの予防、あるいは早期発見、また、生活習慣病と呼ばれる病気ですね、これからの時代にたいへん問題になるわけでありますけれども、その予防と早期発見等々の活動の受け皿になるものと思いまして、たいへん期待しているところです。
創立150年の中心となるのはやはり三田キャンパスでございます。三田キャンパスにつきましては、南校舎、今日皆様がここに来られて、正門から入られてピロティを上がるあの建物でありますけれども、南校舎を建て替えて新しい教育研究棟の建設をする、その計画を進めていく予定でございます。今年から一部の工事が始まるものと思いますけれども、これもまた中身が大事であります。既存学部の枠を超えた学問、教育の場として、三田の4学部、力を合わせていただいて、伝統的な学問体系を本格的、体系的に学ぶ、これからの国際社会のリーダーを本格的に育んでいく、そういう総合的な教育プログラムを創っていただきたい。ある意味では新福澤塾と申しますか、福澤先生がウェーランド経済書の講述等々でよく知られておりますように、本格的な学問をするということが大事だということ、これを幕末、明治の頃に続けてこられた。その伝統を改めて三田でもって未来のために引き継いでいただきたい。もちろんそれぞれの学部等々の教育内容は大事でありますけれども、一方でそれと並行して新福澤塾、その創設に向けて努力をしていきたいというふうに考えております。
また、ミュージアムの機能、あるいはリサーチの機能を備えた未来先導館等々、さまざまな併設すべき施設、内容、これもまた現在検討されているところでありますが、そういった中身をこめて、いま申し上げたように南校舎の建て替え、そして使い回しのために東別館の建て替え、さらに三田の伝統を活かしながら西校舎の建て替えも併せて検討がされております。長い時間がかかるかとは思いますけれども、三田はやはり創立150年のいちばん中心となるべき、また伝統を踏まえながら未来への先導者として、新しい姿をつくっていくべき、そういう場所であるというふうに考えている次第でございます。2009年の秋には、南校舎の建て替えによって新しい教育研究棟が竣工して、塾生の学習環境が充実されるものというふうに捉えております。
信濃町におきましては、予防医療センターのことは申し上げましたけれども、一方で医学部、病院の構造改革、またそれに連動いたします新病棟の建設計画を進めていく予定です。構造改革といいますのは、教室や医局の縦割りを超えた、患者さんのための医療の体制、これをきちんと整備していくということでありますし、また現在は、医学部のほうがほとんど持っております医師の人事権について、病院の人事権を確立していくということが、非常に大事な構造改革の一端だというふうに捉えています。もちろん働く人たち、学ぶ人たちが報われていくようなシステムをつくっていかなければならない。構造改革はたいへんなことでございますけれども、それを成就して、信濃町については世界でも超一流のメディカルセンターにしていきたい。それで今年から塾長をプロジェクトリーダーとした、信濃町キャンパス改革刷新プロジェクトを立ち上げることにいたしました。もちろん現場が最も大事であることを踏まえて、このプロジェクトにおいて、いま申し上げた構造改革、また、新病棟の建設、そしてそのための資金調達等々についての立案と実行を行っていきたい、そう考えております。
矢上キャンパスにつきましては、理工学部を中心として、先端的な科学技術の基礎研究が非常に大事であり、もちろん社会貢献、長期的な意味での社会連携もたいへん大事である。こういったことを重視して、先端を切り開くための基礎をつくっていかなければならない。それがこれからの大学における科学技術の役割、教育研究の役割だと思いますけれども、長期的、基幹的な研究成果を生み出す科学技術も、新しい教育研究の場、その施設、環境について検討を進めていきたいと考えています。
湘南藤沢キャンパスについて、S F C を中心として、未来を切り開く大学革新の新しい先導的環境の整備を図る、そのための検討を進めていきたい。「未来先導カリキュラム」を湘南藤沢では2007年度から導入いたします。また、学習の場としての「未来創造塾」の構築も検討されています。湘南藤沢はこれからも未来先導を、むしろそれを先導するキャンパスとして伸びていっていただきたい。そのための整備、環境、施設の整備を検討をしていきたいと考えております。
一貫教育校について、すでに伝統と実績のある既存の一貫教育校の教育の充実、また、環境施設の整備、向上、これは大切でございます。そのための検討を進めていく必要があります。新しい初等中等教育校の設置、これは記念事業の項目にうたわれておりますが、そのことについても検討をしていきたい。塾内高校からの大学入学者の、入学者全体に対する割合、これは現在20%ちょっとでございます。それを25%程度までにしていかなければいけないのではないか。いまの日本の教育の状況を見ておりますと、大学に入ってからでは遅いのではないか。そういうこともございまして、慶應義塾が初中教育のモデルを、これまで伝統的な一貫教育校の発展のもとに、考えていかなければいけないというふうに考えております。
また、日吉記念館、これは塾員の皆様の思い出の場所であるかとも思いますけれども、創立100年のときに建てたものでございます。2010年の9 月に新しい日吉記念館が完成をする、そういう日程で計画を進める、そういう予定にしておりまして、収容人員を拡大して、入学式、卒業式、あるいは塾員招待会等が一か所でもって、みんなで行なえるようにしていきたい。2008年の11月8 日に記念式典を行い、その直後から工事を開始いたしまして、2010年の9 月に新しい日吉記念館が完成する予定で検討をしていくべきと考えております。
一方で『慶應義塾150年史』、これはやはり十分な時間をとって作っていきたい、後世に残るものを作っていきたいということになりまして、検討が進められています。他方で『創立150年写真集』と『慶應義塾史事典』の編集が進められておりまして、この二つにつきましては、2008年11月の記念式典までには完成している予定です。
事業に関して、他にもいろいろのことがございますけれども、とにかく中身が大事であって、そのお酒を入れる皮袋、これについては後でついてくるものでありますけれども、その検討もどうしてもしていかざるを得ません。そういうことで今いろいろと申し上げた次第でございます。
また、財政面、これは本当に慎重に進めていかなければなりません。事業の財政は大丈夫なのか、10年計画でございますけれども、本当にそれができるのか、そういうご心配がある方もおられるかもしれない。実際には、記念事業の実施に当たりまして、経常の財政と記念事業の財政を基本的に区別いたしまして、両方の財政を健全に充実させていく、そういうことでやっております。このことは必須の条件であります。経常的にも慶應義塾の財政基盤を長期的に健全化、安定化させていかなければならない。他方で記念事業を成就させていかなければならない。この二つを両立させていくことは、簡単でないように聞こえると思いますけれども、具体的には記念事業の財政は、10年計画でもって総事業費約900億円強を予定しています。そのうち募金は250億円、残りは650億円でございますけれども、その650億円について10年間で、通常でも施設整備等に約10年で700億から1、000億を慶應義塾は使っております。そのうちから約400億円をこの記念事業の施設整備のほうへ回したい。それでも十分従来の建物等の施設整備はできていく、そういう見積もりでございます。そうすると残りは200億円強ですが、そのうち約200億円は10年間の経営改革によって生み出すことができる予定です。そのうえで、借入金については100億円程度を支出する予定です。借入金につきましては、以前からある借入金の返済がたいへん順調に進んでおりまして、記念事業のための借入れを入れてさえ、借入金の残高は現在のレベルぐらいに基本的に維持できる見込みがついております。いま申し上げましたことを足し合わせると、10年で約900億円強になります。
一方で総合改革、これは堅持していかなければならない、それによって慶應義塾の長期的な基盤を造りながら、記念事業を成就して、未来の慶應義塾の礎石を築くということであります。
慶應義塾のこれからの150年、教育、研究、医療、社会貢献、その水準は国際的レベルでなければならない。それらを磐石とするためには、創立150年記念事業は、必須のことでございます。他方で、教学基盤と経営基盤の強化を図っていくための経常財政の充実、これも必須のことであります。これら2 つを両立させていくことは、これは関係者、慶應義塾社中の一致団結があれば、必ずできると思います。そういう考え方を持って、創立150年記念事業、大きな事業でありますけれども、みんなでやれば必ずできる、そういう見通し、これは精神論だけではなく、財政のこと、いろいろなことの見通しを十分に考えたうえでのことで、それでも慎重にことを進めていかなければいけませんが、そのことをぜひ皆様にはご理解いただければというふうに思います。
創立150年記念事業につきましては以上にさせていただきますが、この機会でございますので、先般報道等でご承知のことと思いますが、共立薬科大学と合併を前提とした協議に入っております。2005年の秋に先方からの申し入れがありまして、非公式に検討を重ねてまいりました。諮問委員会から答申をいただき、その案に基づいて、昨年秋の評議員会でもって協議に入るということのご承認をいただきました。皆様には長い間、ことがことでございますのでなかなか申し上げる機会がなく、そのことはあらためてお詫びを申し上げたいと思います。
共立薬科大学は、80年近くの歴史と実績のある、経営も健全な大学であります。三田からも近い、創立者は塾員の小島昇氏であり、創立時には鎌田栄吉元塾長も顧問としておられました。義塾が築地鉄砲洲から三田に移る、その間に芝新銭座に置かれていたわけでありますが、その芝新銭座の塾のあった場所から数百メートルのところに共立薬科大学がございます。
義塾としては、国際社会、地域社会でもって、医師、看護師とともに一緒に活躍のできる高度な薬剤師の養成、また創薬等の薬学分野の先端研究、あるいは医薬だけでなく、健康、食品、環境問題等々、地域社会、国際社会に貢献すべきテーマは多々ある。教育、研究、社会貢献の3 つにわたって、薬学の分野で貢献をしていきたい。共立薬科大学との合併につきましては、この3月に合併協定の締結、そして来年の4 月に合併、また慶應義塾大学薬学部、大学院薬学研究科の創設、こういう予定で協議を進めておりますけれども、義塾に薬学の分野ができるということは、いま申し上げたような、そういう目標を持てるということでございまして、皆様のご支援、ご協力をぜひお願いしたいと思っております。
日本だけでなく、世界の大学、学校は、さきほどから縷々申し上げておりますように、非常に大きな転換期にあります。世界の主要大学はこの大きな転換期にありまして、いわば必死になって自らの大学の質を高めようと努力しております。その中で慶應義塾は、総合改革プラン5年計画を経まして、創立150年記念事業の期間に入っているわけで、事業のすべてが、教育、研究、医療、社会貢献、それを世界のトップレベルに高める非常に重要なものであります。ぜひ皆様のご協力、ご支援をあらためてお願いいたしたく存じます。
今日は、小泉信三賞高校生小論文コンテストの授賞式がございます。小泉信三賞は山下聖秀君、次席が水野花君、佳作が新井宏昌君、佐竹恵君、芹口由佳君であります。「三田評論」の1月号に出ております、彼らの論文をぜひお読みいただきたいと思いますが、素晴らしい論文であります。山下君の論文の最後のところに、福澤先生の「一身独立して一国独立す」という言葉が書いてあります。若い人たちが一身独立していく、そういう国を創っていく、そういう世界を創っていくには、われわれが大きな責任を持たなければなりません。
とりわけ、民主的な政治、また豊かな経済力、透明な市場、安全で清潔な環境、行き届いた教育、そして信頼できる技術、こういったことを全部、あるレベル以上で持っている国というのは世界を見てもほとんどない。とくにアジアではまずないと言っていいのではないか。その日本がいろいろな意味でもって、いま申し上げた良い特徴が失われるかもしれない、そういう状況が起こってきているわけであります。
そういう時代だからこそ慶應義塾が、未来への先導者として、これからのリーダーを育んでいかなければならない。何度も申し上げたことでございますけれども、創立150年記念事業の持つ意義というのは、ひとり慶應義塾のことだけでなく、日本、アジア、世界にとって、非常に大きなものであります。創立150年の福澤先生の夢と志とその歴史の重みを考えますと、慶應義塾社中が一致団結すべき、そういう時期は今をおいてないと思いますので、新年に当たりまして、創立150年記念事業のことを含めて申し上げた次第でございます。
今年は、記念の年を来年に控え、事業が本格的に始まる、150年の歴史を持つ慶應義塾の真価が問われるべき年だと思います。理念と信念と勇気が必要な、そういう時期だと思いますが、私自身もその3 つを持ってことに当たっていきたいと思っております。ぜひ皆様のご支援、ご協力、ご指導をお願いできればと存じます。
本日ご列席の皆様、慶應義塾社中の皆様、関係者の皆様、すべての方々の、今年のご多幸、ご健康、ご活躍を心からお祈り申し上げまして、新年のご挨拶とさせていただきます。
ありがとうございました。
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