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2005年04月04日 平成17年度大学入学式式辞
慶應義塾長 安西 祐一郎
本日、ここに入学式を迎えた新入生の諸君、入学おめでとう。諸君が今日から新しい歩みを始める、その門出を心からお祝いいたします。慶應義塾は、日本の近代総合学塾として最も長い歴史と輝かしい実績を誇る学塾であります。諸君がその義塾に新しい仲間として加わったことはたいへんに嬉しいことであり、諸君を心から歓迎いたします。
諸君は、希望をもってたくさんの人たちに新しく出会う。戸惑うこともあるかもしれませんけれども、心を開いて、未来に挑戦する気持ちをもって、これからの新しい道を歩んでもらいたいと思います。慶應義塾はそういう諸君を必ず支援していきます。
新入生の諸君を長い間支えてこられたご家族、保護者の皆様にも、心からお慶びを申し上げます。皆様もまた、今日から慶應義塾とともにあります。義塾は、ご家族、保護者の皆様、本当に慶應義塾を思ってくださる、また学生たちを思ってくださる皆様の期待に応えることのできる、そういう学塾であります。
本日は、諸君の入学を祝って、壇上におられる方々をはじめ、多くの評議員、教職員の方々が参列してくださっています。また、新入生諸君の後の方には、諸君に先駆けること50年あまり前に慶應義塾大学に入学され、今年卒業50年を迎えられた大先輩の皆様がご列席くださっています。
せっかくの機会ですから、ここでは諸君に、慶應義塾大学の学生、塾生として、特に心に留めておいてほしい三つのことを、お話ししておきたいと思います。
三つのうちの第一、それは「夢をもつ」ということです。
社会の状況は大きく変わっています。諸君の多くは昭和の終わり頃に生まれて平成の時代に育ったのだと思いますけれども、諸君が生まれた頃と今とでは、社会の状況がずいぶん変わっています。もちろん、明治時代、あるいは戦争の頃、そういうときとは相当に違った社会の状況が生まれてきています。
たとえば、日本の国内においては、お年寄りが増えています。世代の間のギャップが広がっている。それによっていろいろな社会の状況が変わっていきます。また、国際社会においてはアメリカを中心としたグローバル化だけでなく、ヨーロッパ連合の拡大、アジア諸国の台頭、いろいろな中で日本がどういう位置を占めていくのか。多極化する国際社会の中で、これからの日本、その進路が模索されている、そういう状況にあります。
大きな社会変化があって、新しい社会、新しい時代が生まれようとしています。ちょうどそういうときに、諸君は入学式を迎えた。このことは、諸君にとってきわめて大きな意味があります。なぜなら、諸君は新しい時代を創り出していく、未来への先導者となる。そのときに備える、将来の自分に備えるために十分に学問をして、十分に体験を積んでいく、そのための時間と場が十分にあるからです。
だからこそ、ぜひ諸君には、夢と志をもって深く広く学問を学び、感動的な体験を積み、これまでの自分とは違った新しい自分を見つけ出していってほしいと願っています。
しかも諸君は、ほかならぬ慶應義塾大学に入学したのです。慶應義塾は、1858(安政5)年、福澤諭吉先生によって創立された、今年で147年を迎える長い歴史をもっています。その歴史を通して、慶應義塾自体が、日本を新しい時代にふさわしい国へと導く先導者でありたい、という夢と志を持ち続けてきました。
幕末から明治時代にかけては、日本を欧米列強諸国と相並ぶ真に独立した国にする、という夢と志を、福澤先生と義塾の卒業生、塾員が共有し、国内外を問わずさまざまな分野に飛躍して、その後の日本の先導者となっていきました。
今から60年前には、敗戦によって疲弊した日本の新しい未来を開く、それを夢見て、多くの志ある塾員が日本を先導しました。
諸君はそうした諸先輩の後継者であります。さきほど申しましたように、日本も世界も大きな時代の変化の中にある。慶應義塾は、多くの先輩の志、努力を受け継いで、この変化の荒波を乗り越える、未来への先導者としての役割を果たしていきます。
とりわけ慶應義塾は、あと3年で、近代総合学塾としては日本でほかに例を見ない、創立150年を迎えます。近代化の過程で生まれた日本の総合学塾で、まもなく創立150年を祝う、そういう学塾はほかにはありません。慶應義塾は、創立150年を祝い、記念事業を行うことを通して、地球規模の大きな変化を乗り越える、未来への先導者としての責務を果たしていきます。これは、慶應義塾の関係者すべて、慶應義塾社中が共有する夢と志であります。
今すでに、創立150年記念事業の準備が進んでいます。今年入学式を迎えた諸君は、現役の大学生、塾生として、我々とともにこの創立150年記念事業に参画をする、そういうことになります。また一方で、さきほどからお話ししておりますように、諸君の世代は時代の変化の大きな節目に立ち会うことになる。ですから諸君は、慶應義塾全体の大きな夢を現役の学生として共有することができる、そういう素晴らしい巡り合わせになるわけです。
そのためにも、諸君の一人ひとりが、これからの大学生活でぜひ、夢をもって、志をもって、未来に備えて十分に学問をして、十分に体験を積む、その努力をしてもらいたい。慶應義塾は、諸君のそうした努力に必ず報いることのできる、そういう学校であります。
二番目は、「勇気をもつ」ということであります。
慶應義塾の学生、塾生は、未来への先導者として身につけておくにふさわしい、深く広い学問を学んでもらいたい。また、何らかの困難を乗り越えなければならない、そうでなければ得られないような体験を、大学にいる間にぜひ身につけてもらいたい。
ところが、こういう学問、そういう体験は、ただ待っていても得られるものではありません。人から、はいこれが学問ですよ、はいこれが感動の体験ですよ、と言って与えられるものではありません。それは、今日の自分が昨日の自分を越え、明日の自分が今日の自分を越えて、新しい自分を見つけていくことで、初めて得られるものです。そのためには、「勇気をもつ」ことがどうしても必要であります。
時代は急速に変わりつつある。社会の変化、時代の変化の荒波を越えて、新しい社会、新しい時代を創る。そのためには、現状を超えて夢を実現していく勇気をもたなければならない。しかし、勇気とは感情に任せることではありません。勇気とはむしろ、高まる感情を抑え、問題を冷静に把握して、ものごとを断行する、それが「勇気をもつ」ということであります。
福澤先生の書かれた「慶應義塾の目的」という文章があります。その中に、
「・・・窮行実践以て全社会の先導者たらんことを欲するものなり」
ということばがあります。これは、慶應義塾の夢であり、志そのものであると言ってもよいでしょう。義塾は、創立以来今日まで、この夢の実現を、勇気をもって断行してきました。諸君は、「勇気をもつ」ということを、150年近くにわたって続けてきた慶應義塾大学で勉学に励む、そういうことでありますから、義塾での生活を通して真の勇気をもつように努力してもらいたい。そして、それを通して、自分の殻を破り、新しい自分を発見していってほしいと心から願っております。
第三は、「責任をもつ」ということであります。
大学生になりますと、行動のしかた、あるいは対人関係、人とのつきあいかた、そういうことがずいぶんと広がっていきます。これまでよりもはるかに、自分の考え、ことば、判断、行動に自分で責任をもたなければならない。そういう機会、そういう必要が増えていきます。
どんな学問を身につけていけばいいのか、どんな体験を積めばいいのか、人はなかなか教えてはくれません。むしろ、自己責任の考えとその実践のしかたを身につけることが、大学生活の大きな目標かもしれません。責任をもつということが特に問われるのは、人との関係、たとえば友人との関係においてです。人に対して常に責任あることばで話すことができる。責任ある行動をとることができる、そういう人間は必ず人から信頼されます。これからの社会、特に多極化していく国際社会の中で、初対面の人と責任をもってコミュニケーションを図り、信頼を得ていくことは、とても大事になっていきます。
慶應義塾もまた、自らの行動に責任をもって、輝かしい伝統と実績を創ってきました。私学として、150年近くの間、日本と世界の未来を、夢をもって描き、勇気をもって、責任をもって行動してきた、そういう学塾であります。諸君は、その義塾の大学に学ぶのでありますから、ぜひ自己責任ということに注意をして、そのうえで、新しく巡り合う先生方、同窓生、また先輩の方々とも、そして義塾以外の人たちとも、信頼に足る人間関係を創り出していってもらいたいと願っています。
「夢をもつ」、「勇気をもつ」、そして「責任をもつ」。三つのことをお話ししました。これら三つの根源にあるのは、慶應義塾の建学の精神と言ってもいい、独立自尊の精神をもつ、ということであります。福澤先生とその門下生が1900(明治33)年に発表された「修身要領」という文章がある。その第二条、これは、独立自尊の精神を最も簡潔にあらわしている文章の一つですが、
「心身の獨立を全うし自から其身を尊重して人たるの品位を辱めざるもの、之を獨立自尊の人と云ふ。」(「修身要領」、『福澤諭吉全集』第21巻 354ページ)
こういうことばがあります。心身ともに人に迷惑をかけない、人を卑しめない、自分をも卑しめない、そういうことであります。この独立自尊の精神を発揮するには、さきほど申しました三つのことが大切になります。
第一に、未来への「夢をもつ」。このことによって、人に迷惑をかけることのない、心身ともに独立した、そういう人間としての自分の宇宙が創られていくのです。
第二に、感動的な体験、深く広い知識、それらに裏付けられた正しい「勇気をもつ」。そのことによって、自分を卑しめず、また人を卑しめることもない、懐の深い開かれた心が生まれていきます。
第三に、自分の考え、言葉、判断、行動に「責任をもつ」。それによって、友人、周りの人たち、あるいは新しく出会う人たち、そういった人たちと協力しあっていくことのできる信頼関係ができていきます。
今日は、諸君の後のほうに、慶應義塾に学んで、今申しました独立自尊の精神を長年にわたって体現してこられた、卒業50年を迎えた大先輩の皆様をお迎えしております。卒業50年の皆様は、1955(昭和30)年に慶應義塾大学を卒業されました。莫大な戦災を被った慶應義塾において、戦後復興の槌音をともに聞き、ともに響かせ、日本の復興と経済成長の時代、さらにはその後の時代に、日本と世界をさまざまな立場で先導してこられた、そういう方々であります。
今年は終戦からちょうど60年目を迎える年になるわけでありますが、卒業50年を経て、本日の入学式にご列席くださった卒業50年の皆様、また卒業50年の塾員すべての皆様に、あらためて長い間のさまざまな立場でのご尽力と日頃よりの慶應義塾へのご厚情に深く感謝を申し上げます。そして、ますますのご多幸、ご健康をお祈り申し上げます。
さきほどから申しております「夢をもつ」、「勇気をもつ」、そして「責任をもつ」。これら三つのことは、卒業50年の皆様をはじめ、多くの塾員の心に脈打つ、慶應義塾の精神に連なることだと思います。同時に、これら三つのこと、「夢をもつ」、「勇気をもつ」、「責任をもつ」ことは、特に、今日入学式を迎えた新入生の諸君にとって、今後の大きな宝になっていくものであります。
本日入学式を迎えた諸君、慶應義塾は諸君を待っていました。そして、諸君が「夢をもって」、「勇気をもって」、そして「責任をもって」慶應義塾大学で深く広く学問を学び、感動の体験を得て、独立自尊の精神をもった人間として成長し、未来への先導者たるべく準備をしていく、そのことを待ち望んでいます。失敗や挫折もあるかもしれないし、人知れず悩むこともあるかもしれません。しかし、それにくじけずに新たな自分を見つけていってほしい。
独立自尊の精神に基づいた、人に対する信頼、人に心を開く寛容さ、また、年齢に関わらず自由闊達に語り合う、そうした気風。それは慶應義塾の伝統であります。諸君は、肩に力を入れる必要はない、自然でいいのです。しかし、気力を充実させ、未来への「夢をもって」、正しい「勇気をもって」、そして信頼に足る、そういう「責任をもった」人間になってもらいたい。
また、ちょうど慶應義塾の創立150年、そして大きな社会と時代の変化、二つの大きな節目に出会う、多くの人たちが望んでも得られない、そういう素晴らしい巡り合わせ、それをぜひ大切にしてもらいたい。
その上で、慶應義塾大学の学生として、これからの生活を有意義に過ごしていってもらいたいと願っております。
「夢をもつ」、「勇気をもつ」、「責任をもつ」、独立自尊の精神をもつ、そういう人間になる。これからの、大きな社会や時代の変化、また慶應義塾の歴史の大きな節目、そこに一緒に参画をしていく。そういう素晴らしい巡り合わせを大切にして、これからを過ごしていってほしいと心から願っています。
すでに在籍している2万5千人余りの塾生、社会のさまざまな分野で活躍をしておられる30万人に及ぶ塾員、卒業生の方々、5千人に及ぶ教職員の方々、慶應義塾を応援してくださっているすべての方々、多くの人たちが、それこそ国内だけでなく、世界各地から諸君を応援しています。慶應義塾関係者すべての方々とともに、私は、今日諸君を慶應義塾の塾生として得たことを心から誇りに思っています。
あらためて諸君の門出を祝い、これからの健闘と幸せを祈って、式辞といたします。入学おめでとう。
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